我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!   作:悪魔さん

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あっという間の最終回です。


最終話 終戦、そして

「行冥、義勇、しのぶ、杏寿郎、実弥、天元、蜜璃、小芭内、無一郎……みんな、今まで本当にありがとう」

 全てが終わり、耀哉は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。

 無惨が滅んだことで、産屋敷家の呪いは解け、耀哉は元の健康な体を取り戻したのだ。

「――鬼殺隊は今日で解散する」

「長きに渡り、身命を賭して世の為人の為に戦っていただき、尽くしていただいたこと……産屋敷家一族一同、心より感謝申し上げます」

「顔を上げてくださいませ!」

「礼など必要ございません! 鬼殺隊が鬼殺隊で在れたのは、産屋敷家の尽力が第一です!」

 頭を下げる産屋敷家に、柱達はアワアワする。

 耀哉は「そう言ってもらえると私も救われる」と笑った。

 

 今回の無限城決戦では、鬼殺隊は多くの隊士が四肢の欠損や失明、後遺症を残した。

 しのぶは童磨との戦いでの無理がたたって肺機能が低下し、甘露寺は左耳を抉られて二度と治らない。

 義勇と無一郎は左腕を、杏寿郎は左目が潰れ、宇髄はそのどちらも失った。行冥に至っては左足を失い、現在義足となっている。

 健全なのは、実弥と小芭内だけ。奇しくも、竈門兄妹や嘴平一家に不信感や反感を抱いていた者だ。

 

 それでも、誰一人として死者が出なかったのは奇跡だ。

 それも一子と狛治、獪岳の身を呈した猛攻があってこそ。そして命懸けで無惨に薬を投与した珠世だ。

 

「珠世さんがいなければ、無惨の弱体化はできず、多くの剣士(こども)たちが命を落としていただろう。――本当にありがとう、珠世さん」

「構いません……これでようやく、夫と子のところへ逝けますから……」

 静かに微笑みながら涙を流す珠世。

 耀哉はそれを一瞥すると、穏やかな表情を浮かべたまま、今度は柱達と距離を置く二人――珠世の手で鬼から人間に戻った狛治と獪岳に言葉を投げかけた。

「――狛治、獪岳。君たちは、これから多くの苦難が待ってるだろう。人を食らった時間がある以上、地獄へと堕ちて罪を償うはずだ。だからこそ、生きている内に殺してしまった分の命を……それ以上の人々を救うんだ」

「ああ。当然だ」

「……はい」

「……ところでだけど、炭治郎たちは?」

 あの子たちが一番の功労者だと思うけどね、と耀哉は語る。

 

 炭治郎と禰豆子がいなければ、鬼舞辻無惨に届くことはなかった。

 伊之助と一子――嘴平一家がいなければ、このような終わり方ではなかった。

 たらればではなく、これは断定できることだ。

 

 だからこそ、柱達も立派な功労者だが、あの若き隊士達にこそ直接礼を言いたかった。

 彼ら彼女らがこの大正の世に現れなければ、おそらく鬼舞辻の勝利で終わっていただろうから。

「お館様、炭治郎君達は蝶屋敷で療養中です」

「……無理もない」

「冨岡の言う通りだな……血鬼術の影響や激しい戦闘で蓄積した痛手は、いくら竈門少年達も堪える」

「胡蝶んトコは派手に野戦病院と化してるからな……ウチの嫁も手伝ってるが、隠の負傷も痛いぜ」

 柱たちの言葉に、耀哉は「私も直接行きたいところだよ」と困った表情を浮かべた。

 終戦後の戦後処理は、市街の瓦礫撤去や復興は産屋敷家が全て負担したが、決戦で負った怪我に関しては人数の多さから通常の医療機関では手に負えないため、蝶屋敷で全員看ている。

 五体満足のものや軽傷の者は看護婦たちの手伝いをしているが、中傷及び重傷者は付きっ切りで看病しなければならない者も多い。全員が現役の柱に匹敵する身体能力の持ち主ではないし、生命力や回復力、気力も人によって異なる。元柱やその関係者も総出で看て、どうにか運営が成り立っている。

 しのぶとしても珠世としても、早く蝶屋敷に行って医者としての仕事に専念したい。

「お館様、僕たちでも看病くらいはできます」

「そ、そうです! 私たちの怪我なんか気にしないで!」

「南無……隊士たちへの労いも、柱の責務だ……」

 無一郎と甘露寺、行冥の言葉に、耀哉は決心したのかゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、一旦柱合会議は中断だ。皆で蝶屋敷へ行こう」

『御意!!』

 耀哉の言葉に、柱達は笑顔で応じた。

 

 その後、蝶屋敷に来た産屋敷家一同に隊士たちは混乱状態になり、柱の介抱になぜか戦々恐々となったり、義勇が薬を間違えそうになったり、余計に騒がしくなったのは言うまでもない。

 

 

           *

 

 

 一週間後。

 傷が完治した者が続々と蝶屋敷を出る中、炭治郎達は珠世と愈史郎から一子に関する話を聞いていた。

『人間に戻る薬を打たなくていい!?』

「はい、彼女はこのまま人のように死ねますから」

「珠世様の診断結果だ、間違いない」

 珠世は一子を診ていた際に発覚した事実の説明をした。

 一子は帯電体質や異常なまでの頑丈な肉体、人間とほぼ同じ食性や陽光克服といった、無惨やその配下である鬼と一線を画す体を持つが、同時に本来の人喰い鬼にあるはずのものがない性質が一つあった。

 それは、日光や藤の毒、日輪刀で頸を斬られるの三つの条件以外では絶対に死なない不死性。一子は頸を刎ねられれば死ぬし、何なら肉体も老化するという事実が発覚したのだ。

「つまりこのままでも、寿命で死ぬ。少なくともお前達よりは長生きだろうが」

「鬼のまま、人と同じ()()()()()()()ってことですか?」

「ええ……よかったですね」

 珠世は優しく微笑んだ。

 人間として生き、老いて死ぬことは、永久の時を生きる鬼にはないもの。彼女は鬼でありながら、人としての権利を持っている。

 それを知った伊之助は、一子にとんでもない命令を下した。

「おい、一子!」

「親分?」

「親分として命令だ、その角を斬り落とせ!」

「何言ってんの突然!?」

 伊之助の頓珍漢とも言える命令に、善逸は非難。

 竈門兄妹も、どういうつもりなのかと焦った顔で質すと――

「もう御陀仏無惨はいねェんだ、だからその角も役目を終えたってことだ!」

「……成程、嘴平一子を自分と同じ人間として生きるためか」

(お、思ったよりしっかりとした理由だった……)

 命令は命令だ! という返事を予想してたからか、驚きを隠せない一同。

 伊之助は地頭はいいのだ。

「ようし、そうと決まりゃあ斬り落とすぞ! おい、日輪刀寄越せ!」

「はーっ!? そんな危ないことできるか!!」

「善逸さんの言う通りよ! もしうっかり頭を斬っちゃったら……」

「こいつはそんな柔な頭じゃねェ!!」

 ギャーギャーと騒ぐ伊之助達。

 そこへ愈史郎が「やかましい!!」と一喝。伊之助達を黙らせると、医療用のメスを取り出して一子の残された角に切れ込みを入れた。

「……これでいいだろう」

「恩に着る、愈史郎。――ふんぬっ!!」

 

 バキィッ!

 

 一子は躊躇うことなく角を折る。

 それは、戦いの日々への決別だった。

「親分……やはり真の強さは腕っ節じゃなく、絆の強さですね」

「あ?」

「この鬼殺隊に入って、色々学べました」

 一子は、鬼殺隊での戦いの日々を思い返した。

 敵味方問わず、歴戦の強者たちと渡り合い、時には圧倒された日々。その戦いの日々で、一子は絶対的優勢の鬼がなぜ負けたのかを考えてきた。

 人にあって鬼にないものが、鬼が負けた原因だ――一子はそう考えてきた。そうしていく内に、ある答えが出た。

 

 それは、自分と他者の繋がりだ。

 利害の一致であれ義理人情であれ、人間は他人と繋がって手を組んで目的を達成することがある。その根拠が絆であれ腐れ縁であれ、人間は腕っ節や地頭だけでなく他者との縁で物事を解決できる。

 それに対し、鬼は同族嫌悪が常であり、首魁であった鬼舞辻無惨も有能な配下をロクに信用していなかった。能力ある者にすら不信感を持ち、心を許さなかったからこそ、無惨は敗けたのではないか。

 明らかに実力は鬼が上で、どんなに油断や慢心があっても、人間がいかに束になっても敵わない力の差があった。それでも鬼は人間に負けた。

 ともすれば、そもそもの時点で勝ち負けが決まったとしか思えず、鬼である一子が勝利できた理由としては一番納得がいった。伊之助は腕っ節を重視する傾向だが。

「……親分、今までありがとうございました」

 一子は折った角を差し出し、頭を垂れて平伏した。

 突然の行動に、思わず固まる伊之助。

「烏滸がましいこと甚だしいかと思いますが……もうしばらくの間、親分に尽くさせてもよろしいでしょうか」

「……」

「俺にはもう行き場がありません。人としての生に踏み出しても、生きていける自信がないのです」

 それは、一子の本音だった。

 鬼舞辻無惨を討ち滅ぼしたところで、一子は伊之助のために生きてきた。同時に伊之助には人並みの幸せを噛み締めてほしいと願っており、伊之助が踏み切れるよういつかは別れようと考えてもいた。

 だが、それでも伊之助の傍に居たい。一子は伊之助が好きになり過ぎた。

「……どうか、どうかもう暫く、親分の子分で居させてほしいのです……!!」

 一子は全ての感情を押さえ込んだような声で、平伏したまま語った。

 その言葉を聞いた伊之助は、被っていた猪頭を取った。

「馬鹿野郎!!」

「!?」

「俺様はお前の親分なんだっつったろうが!! 子分の頼みを聞くのも親分の仕事だゴラァ!!」

 涙をボロボロと流しながら叱る伊之助。

 それに釣られて、一子も涙をボロボロと流した。

「だがな!! 俺様より先にくたばったりしたら絶対許さねェ!! そん時ゃ絶縁だぞ!!」

「うっ……ううぅ……!!」

「お前は俺の……っ!! 俺の〝家族〟だろうがっ!!」

「親分っ!!!」

 ついに泣き崩れる一子。

 伊之助もなぜか一緒に泣き崩れ、それに釣られて炭治郎や珠世も涙を流した。

 泣いてないのは、善逸だけだ。

「……え? 何これ。俺だけ血も涙もない奴に思われかねないんだけど」

「お前も泣け、お前も!! 空気を読め!!」

「何で泣いてるの!? 一番程遠そうなんだけど!!」

「失望されたくないからだ、馬鹿者!!」

 愈史郎は空気を読み、珠世に「そんな非情な子なの……?」と失望されたくないからだそうだ。

 善逸は何とも言い難い空気に押され、声を上げて泣いたふりをした。

 ただ、ちょっぴり気色悪かったので、一同は涙を引っ込めてしまった。

 

 

           *

 

 

 月日は流れ、雲取山。

 炭治郎の生家で暮らすことになった嘴平一家は、家の近くに石を置いた。

 石には汚い字で「かーちゃんのはか」とひらがなで書いてある。伊之助の母、嘴平琴葉のための手作りの墓だ。遺体も遺品も何もないため、これしか弔う方法がなかった。

「……親分、全て終わりましたね」

「だな!」

 鬼殺隊解散後も、やはり猪頭は欠かせないのか、被ったまま鼻息を荒げる伊之助。

 一子は柔和な笑みで墓を見据え、手を合わせて合掌した。

「……親分、そろそろ凱旋しましょうか。御隠居のお家に」

「ああ、ジジイとバカんところか!」

 伊之助と一子も、まだやり残したことはある。

 が、まだ先は長い。時間をかけてゆっくりするのも手だ。

「おーい、伊之助ー!」

「一子さーん!」

「二人とも、早く来いよぉ!」

 遠くで、炭治郎たちの声が聞こえる。

 今日は全員でお出かけする日。久しぶりに温泉へ向かうのだ。

「親分」

「ああ、わかってるよ! じゃあな、母ちゃん!!」

「……母上、ここで失礼します」

 手作りの墓に背を向け、炭治郎達の元へ向かう二人。

 この時、二人は気づいていない。

 

 ――いってらっしゃい。

 

 涙を流し、笑みを浮かべて二人を見送る人影がいたことを。

 

 

 

 我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子! 完




これにて本シリーズは完結となります。
色々描写が足らない部分もあるかと思いますが、そこら辺はご想像にお任せします。

この最終話の最後の方の人影は、琴葉さんです。
無限列車編で煉獄さんの最期に瑠火さんがフッと出てきた感じです。二人は琴葉の影に気づいてません。
このあとどうなったかは、原作通りの展開です。

こっちのシリーズは、実は短編的な感じでやろうとしたんですけど、書いてる内に「どうせなら最後まで書かないと」っていう使命感に燃えちゃいまして、原作最終話の辺りまでやって本編完結に至りました。
小説を複数抱えてるとキツいですなぁ。(笑)

もう片方のシリーズ「鬼は鬼殺隊のスネをかじる」は、じっくりこってりやります。もう最終章近いんですけど、あっちは番外編作っても面白そうなので、もうちょっと続くかな?


掲載開始が2021年05月16日なので、およそ二年程ですか。
お気に入りは700件以上。
話を進めるうちにテキトー感が出始めた感じになったかもしれませんが、本作を最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
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