我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!   作:悪魔さん

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やっと更新できました。
こっちは『鬼は鬼殺隊のスネをかじる』よりも早く原作に沿ってると思ってください。


第二話 親分を探して三千里

 一子にとって、伊之助は絶対的な存在だ。

 恩人であると同時に主人である彼に忠節を誓い、彼のために生きて力を振るう。

 山の王を名乗る少年と、その忠臣たる鬼。そんな二人の身に、ある()()()が起こった。それは何かというと――

 

「親分!! どこですかーーーーーーーーっ!?」

 

 夜空に一子の叫び声が木霊する。

 そう、ある大事件とは主人・伊之助の失踪である。

 伊之助は自らの縄張りを持ち、そこを拠点に動く。時には縄張りの拡大をするし、縄張りを荒らす生物の排除にも動く。ゆえに二人は縄張りから出ることは決してない。

 にもかかわらず、伊之助は縄張りの中のどこにもいない。王たる者がいない山に取り残された一子は、それはそれは頭を抱えていた。

 

 実は伊之助と一子……この二人には、ある致命的な欠陥を抱えていた。

 それは、語学である。

 伊之助は山で育った野生児ゆえ、識字率が九割以上ある世の中でありながら字の読み書きができない。一子も人間の頃は字の読み書き程度はできたが、それも鬼化に加えて樹海での遭難も相まって抹消された。

 そういうわけで、事実上連絡手段が完全に途切れているのである。

「うーん、どうしよぉ……」

 縄張り内は伊之助親分の力によって秩序が保たれている……と一子は考えている。

 その秩序が不在となれば、色々な面で問題が多発する。一子が代理で統治しようにも、伊之助の身に万が一のことがあってはならない。

 捜索の旅か、帰りを待ち続けるか。……一子は迷わなかった。

「親分っ! 今探しに行きます!」

 一子は敬慕する伊之助を見つける旅に出ることを決意した。

 この人知れず起こった小さな事件が、人と鬼の千年に及ぶ戦いの均衡を崩すきっかけとなるなど、一子はおろか行方不明となった伊之助すら知る由も無い。

 

 

           *

 

 

 鬼殺隊。

 それは、古より人を護るために鬼に立ち向かう剣士達の集い。文明開化のご時世ではおとぎ話の認識だが、人を喰らう鬼を滅する組織として夜の闇の中戦い続けている。

 その鬼殺隊の中で最も位の高い九人の剣士――鬼殺隊の最高戦力「柱」の一人である〝炎柱〟(れん)(ごく)杏寿郎(きょうじゅろう)は、任務である鬼の討伐を終えていたところだった。

「これで鬼は皆倒せたな!」

 カチン、と日輪刀を納刀する。

 こうしている間にも、鬼の被害は増える。次の任務に行かねばならない。

 心を滾らせ、本部の命令を待っていた、その時だった。

「あ、人だ! おーい!!」

「っ!?」

 女性の声が聞こえて振り向いたが、その姿を見て杏寿郎は抜刀し構えた。

 大人の男ですら見上げる程の長身。後ろで縛った、黒い稲妻の模様が浮かぶ金の長髪。ツギハギの袴姿。背負った身の丈程ある長大な棍棒。そして……頭の二本の角と縦長で細い瞳孔、鋭い犬歯。

 鬼殺隊が(たお)すべき敵――鬼だったのだ。

(女の鬼……しかし妙だな)

 杏寿郎は違和感の正体に気づく。

 鬼でありながら、不俱戴天の宿敵である鬼殺隊に対する敵意がまるで無いのだ。

「ちょうどよかった、親分を探していたんだ……」

(親分? もしや、鬼舞辻無惨か!?)

 杏寿郎は、ふと考えた。

 罪無き人々に牙を剥く鬼である以上、容赦せず斬らねばならないが、柱ですら遭遇したことのない鬼舞辻無惨の情報を持っているなら、聞き出さねばならない。

 鬼舞辻無惨の討伐こそ、鬼殺隊の悲願であるのだから。

「……人を探しているのか?」

「そうそう! 俺は嘴平一子、俺の親分を探してるんだ。猪の頭を被った、勇猛な御方だ」

「その親分は、鬼舞辻無惨という名か?」

「鬼舞辻無惨? 誰だそれは。俺の親分は嘴平伊之助ただ一人だ!」

 その言葉に、杏寿郎は言葉を失った。

 人喰い鬼が蔓延る時世では、人間が鬼を連れること、あるいは鬼が人間に忠節を誓うなど、本来ならありえないことだ。ましてや鬼達にとって鬼舞辻無惨は始祖であると共に首魁であるので、絶対的な存在のはずだ。彼に逆らう鬼など決していないはずなのだ。

 ならば、目の前の鬼女の言葉が全て噓なのかというと、そうと断定できなかった。あまりにも真っ直ぐな瞳で射抜かれ、柄にもなく気圧されたからだ。

「……ハズレか。じゃあ失礼!」

「待て」

 低い声と共に、一子の首筋に刃が添えられる。

 鬼殺隊は、人を護るために鬼を滅するのが使命。目の前の鬼女を放置するわけにはいかない。人を喰っていたのならば斬るし、喰っていなくても罪を重ねないように介錯する。

 それが、柱としてせめてもの情けだ。

「……俺は親分を探さなきゃならない。刀をどかせ」

「それはできん!」

 気迫を込めて一喝。

 しかし一子は動じず、一瞬で距離を取って棍棒を手で持つ。

「……先を急いでいるんだ、退け」

「断る!! 君がこれ以上罪を重ねない内に、俺が斬る!!」

 刀を構えると同時に、鍛えた肺に大量の酸素を送り込む。

 ――「全集中の呼吸」。

 鬼殺隊士達が必須として習得する特殊な呼吸法であり、瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法。この呼吸法によって繰り出す剣技は、鬼の頸を容易く斬り落とす。杏寿郎の呼吸法は「炎の呼吸」……脚を止めての強力な斬撃が多い、〝水の呼吸〟と並んで最も歴史の古い呼吸法である。

(気配が変わった……)

 その闘気に、息を呑む一子。

 今まで会った人間とは比較にならない、圧倒的な「強さ」を感じ取り、一筋の汗を流した。

 

「〝炎の呼吸 壱ノ型 不知火(しらぬい)〟!!」

 

 ガギィン!!

 

 力強く踏み込み、炎を発するような勢いで間合いを詰めて刀を振るう。

 それは一子の頸に届き、刃が――

「!? よもや……! 何という〝硬さ〟……!!」

 通らなかった。

 岩塊よりも硬い鬼の頸をも斬り落とす、「全集中の呼吸」で強化した身体で斬撃を放ったにもかかわらず、一寸たりとも食い込んでいない。当たっているのに、刃がそれ以上進まないのだ。

 さらに力を込めても、やはり通らない。一子の頸は、恐ろしいまでに頑丈であったのだ。それこそ、上弦の鬼に匹敵するほどの。

「……さすがに怒ったぞ」

(っ! 来る!!)

 一子が低い声で呟くと、バリバリと激しく音を立て、棍棒から稲妻が迸る。

 それを目にし、緊張が走った。

 

 ――〝血鬼術(けっきじゅつ)〟。

 それは、鬼が発現する異能の力。人間が鬼に対して決定的に不利とされる最大の要因であり、鬼殺隊の非常に高い殉職率の原因の一つである。この異能によって命を散らした鬼狩りの剣士は数知れず、鬼殺隊最高位の柱ですら血鬼術によって敗れている例も多い。

「是が非でも、どいてもらうぞ」

 一子は棍棒を豪快に振るった。

 

「〝(なる)(かみ)〟!!!」

 

 バリィッ!!

 

「ぐうっ!?」

 棍棒を介して一筋の雷撃が放たれ、杏寿郎の胴を貫いた。

 その強烈な一撃に、全身が痺れて動けなくなり、焼けるような痛みを覚えた。

 雷の放電を被ると、高電圧と大電流が体内または皮膚表面を流れ、心肺停止や火傷、鼓膜が破れるなどの被害が出る。特に心肺停止に陥れば、一発で即死となる。

 杏寿郎の場合、一子自身が殺す気で放っていない分、通常の落雷よりも低い威力であった。それでも軽度の火傷と神経痛、知覚異常をもたらしており、一瞬で形勢が逆転した。

(不覚……!!)

 勝敗は、目に見えていた。

 杏寿郎の生殺与奪の権は一子が握ってしまい、いつでも殺し喰らえる状況になってしまった。日の出までは時間があり、どうしようもできない。

 ――まだ死ぬわけにはいかない。ここは俺の死に場所じゃない!!

 己を奮い立たせ、痺れて動けない体に鞭を打つ。

 すると、一子はとんでもないことを言い放った。

「……日の出まで時間がある。俺が去れば、鬼たちが寄ってくるかもしれない。お前の仲間が来るまで、護ってやる」

「!?」

 唐突に言い放った一言に、杏寿郎は絶句した。

 鬼は人の天敵であり、鬼殺隊が滅ぼすべき災厄である。鬼は人を害する存在であるのは、当たり前すぎて疑問に思ったこともない。

 この鬼は何者なのかと思っていると、ふと思い出した。

 

 ――俺の親分は嘴平伊之助ただ一人だ!

 

(あの鬼も嘴平を名乗っていた……まさか身内なのか?)

 思えば、彼女の姓と親分と呼ばれる者の姓が一致していた。

 鬼でありながら人間に近い感性を持っているのは、その嘴平伊之助なる人物の影響だろう。彼女はその伊之助を探している。

 斬るべき鬼か、それとも…………柱になって初めて、杏寿郎は迷いが生じたのだった。

 

 

 しばらくして、他の隊士たちが駆けつけ、それと共に鬼女・嘴平一子は姿を消した。

 ケガは体を貫いた雷撃による軽度の火傷で済んでおり、痺れも無くなり何の支障もなく動けるようになった。

(あの鬼は、結局何者か掴めなかったな……)

 雷を操る血鬼術。

 異常なまでに硬い頸。

 そして、人間との奇妙な関係。

 今までの人喰い鬼とは明らかに一線を画した、特殊な存在であるのは言うまでもない。

(ひとまず、お館様に報告せねばなるまい……)

 あの鬼は、何か違うのではないか。

 そんな疑問を残したまま、炎柱は鬼殺隊の主である(うぶ)()(しき)耀(かが)()に書状を送った。

 

 

           *

 

 

 それから数日が経ち、一子は藤の花が咲き誇る山に辿り着いた。

 鬼にとって藤の花は毒であり、その香りを嫌い近づくことすらもできない。強い鬼だと毒に対する耐性が付くが、やはり苦手意識を持つ。

 その一方で、一子は藤の花を嫌うことは一切ない。鬼の体質ゆえか、近づくと目や鼻がいたくなることこそあるが、近づいても身体機能に支障はないのである。

「……人と鬼の気配がする」

 キッと山を見つめる一子。

 どうやらこの山では、人間と鬼が戦っているらしい。もしかすれば、伊之助親分の情報を聞き出すことができるかもしれない。もしかすれば、伊之助親分も――

「待っててください、親分!!」

 一子は藤が咲き誇る藤襲山(ふじかさねやま)へと突撃した。

 そこが藤を嫌う鬼が閉じ込められた、鬼殺隊の入隊試験の会場であると知らずに。

 

 

「ア“ーーーーー!! 誰か助けてえェェェェェェ!!」

 山中に轟く、汚い高音。

 少年、(あが)(つま)(ぜん)(いつ)は逃げ回っていた。

 鬼殺隊において隊士を育てる「(そだ)()」の一人である(くわ)(しま)()()(ろう)に拾われ、最終選別に行くのを嫌がったところをボコボコにされ、渋々参加したのだが……彼は底抜けに小心で臆病だった。

 ゆえに鬼と遭遇してからこうして逃げ回っている。日輪刀を腰に差しているのにもかかわらず。

「おいガキィ!! 大人しく喰われろォ!!」

「おい、俺が喰うに決まってんだろうが!!」

「どっちも嫌に決まってんでしょーが!! ほっといてよお願いだからァァ!!」

 太った鬼と痩せ細った鬼に追われ、泣きわめきながら逃げる善逸。

 しかし、どこからか雷鳴が聞こえ、それに気づいて思わず足を止めた。

「え……? 何で雷……?」

 その直後だった。

「〝(ばん)(らい)(だい)()〟!!」

 

 ガン!!

 

「うぎゃああああああっ!!」

「「!?」」

 目にも留まらぬ速さで何かが接近し、善逸の背後に迫った瘦せ細った鬼を棍棒で殴りつけた。それと同時に周囲に稲妻が迸り、善逸と太った鬼は思わず目を覆った。

 そして稲妻が鎮まると、痩せ細った鬼は黒焦げになって倒れていた。棍棒で殴られた衝撃に加え、纏っていた雷撃で感電したのだ。

「え……お、鬼っ!? しかもすっごく美人!?」

「な、て、てめェ!! 同類なのに何しやがる!!」

 善逸の前に立つのは、棍棒を構えた鬼女。

 先程の攻撃も、彼女の仕業だろう。

「我が名、嘴平一子!! 弱味噌と言えど、丸腰の相手を甚振るなど言語道断!! 成敗してくれる!!」

「……え? 弱味噌って俺のこと? 助けてくれたの嬉しくて仕方ないんだけど、何か泣きたくなるんだけど」

 弱者ならばともかく、弱味噌はどっちかと言うと悪口に聞こえる。というか、悪口である。

 残念な美人なのかと、善逸は内心思った。

「何だか知らねェが、邪魔するんじゃねェ!!」

「……潔く退けば見逃すことも考えたが、止むを得ないな」

 問答無用で襲い来る太った鬼。

 丸太のように大きな腕で殴りかかるが、一子は飛び上がって回避し、〝(ばん)(らい)(だい)()〟を脳天に振り降ろした。

 

 ドゴォン!

 

「ボゲェェ!?」

 衝撃と雷撃が全身を襲い、地面が陥没する勢いで叩きつけられる。

 その光景は、まさしく落雷。感電と火傷、強打を同時に食らった鬼は同じように黒焦げとなって倒れた。

 あまりの強さに、善逸はぽかんとその光景を見ていた。

「…………」

「おい人間、大丈夫か?」

「へっ!? あ、うん……ありがと……」

 善逸は感謝を述べつつ、一子の〝音〟を聞いた。

 我妻善逸という人間は、並外れた鋭い聴覚を持つ。 周囲の状況を正確にいち早く察知するだけでなく、鬼が発する独特の音を聞き分けることができ、さらに相手から聴こえてくる音で人柄や心理状態すら読み解ける。

 一子の場合、鬼特有の音に加えて雷鳴を聴き取ることができ、優しい音も入り込んでる、不思議な音だった。そして何より驚いたのが――

(何だこれ……初めて聞く……まるで、誰かを称えているような、歌みたいな……)

 そう、聞き続けると一曲の歌のように聞こえるのだ。

 それは荒々しくも澄んでおり、野性的っぽいところも感じ取れる。

 とにかく、嘴平一子という鬼は、規格外だった。

「人間、一つ聞きたい」

「な、何ですか?」

「伊之助親分を見なかったか? 猪の頭を被った、勇猛な御方だ」

「何言ってんの? それ人間じゃなくない?」

 刹那、一子の鉄拳制裁が善逸に下された。

 加減こそしてはいたものの、あまりの衝撃に善逸は悶絶した。

「失礼な!! 俺の命の恩人だぞ!! ()()()()と一緒にするな!!」

「ご、ごめんなしゃい…………!」

 一子は「次はないぞ」と言いつつ、踵を返した。

「ここにはいないのか……仕方ないな。次に行こう」

「え“ーーーーーーーーっ!? もう行っちゃうのォ!? 側に居てよ、護ってよォォォ!!」

「俺に命令していいのは嘴平伊之助ただ一人だ」

 腰にしがみ付いて泣き喚く善逸をバッサリ切り捨てる。

 一子にとっての一番は伊之助であり、いかなる状況でもそれは変わらない。変わるとすれば、伊之助が命令した時ぐらいだ。

「俺はもう行く。親分が戦ってるというのに、こんなところで道草を食う道理はない」

「俺にとってはここ死線なんですけどね!!」

「それを超えられるかはお前次第だ。死地でこそ強者は輝くんだ、運が良ければまた会える。その時は……()()()()()()()()()()、何でも付き合ってやるさ」

 その言葉に、善逸は目を見開いた。

「え? いいの? やっていいの!? え、えぇ!?」

「二言はない。俺は約束は守る」

 そう言い切った一子に、善逸は言葉を失った。

 ――これって、あれ? 抱いてもいいってヤツ?

 下心が浮き彫りになった、嫌らしい笑みを溢す善逸に、一子は「何だその顔」と冷たくツッコむ。

「……じゃあ、俺は行く。失敬」

 一子は電光石火の速さで、その場を走り去った。

 親分の名を叫びながら。

「……アレ? 俺って鬼に告白してたの?」

 我に返り、自分がとんでもないことをしていたと気づいた。

 しかし迫る新たな鬼の気配に、善逸はそれどころではなくなり、再び逃げ回るのだった。




【嘴平コソコソ噂話】
一子は雷撃を操る血鬼術の使い手ゆえ、敵の血鬼術による電撃や落雷などの自然現象による雷撃を無効化するという特異体質になっている。
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