我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!   作:悪魔さん

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ようやっと更新です。
本作の嘴平一家が柱合裁判にかけられたら、こうなります。(笑)


第六話 那田蜘蛛山征圧後

 父蜘蛛との死闘で重傷を負った伊之助。

 そんな敬慕する親分を、一子は子分として看病に徹していた。

「親分、気休めですが……」

「おう……」

 一子は携帯している瓢箪を、伊之助に差し出した。

 伊之助は猪の皮を外し、素直に瓢箪に口をつけグビグビと飲み干した。体中の痛みが和らぎ呼吸が楽になった感覚を覚え、ぎこちなく笑うと再び猪の皮を被って項垂れた。

「……親分?」

「……」

 伊之助は何も声を発さないが、長く苦楽を共にする一子はその()()()を理解した。

 人間と鬼という、本来なら絶対に相容れない存在であるはずの両者の、奇跡とも言える絆。しかしその間にある力の差は歴然であり、上下関係を重んじてるがゆえに立場上は伊之助が上なだけ……ゆえに親分は子分を護れるくらい強くなくてはならないのが、伊之助の信条であり価値観だ。

 だが、先程の戦いで伊之助は力の差を感じてしまった。父蜘蛛に危うく殺されかけ、一子が秒殺し、それを見届けるしかなかった自分に物凄く落ち込んでるのだ。

「……一子」

「……はい」

「……俺、お前より弱い……」

「……そうですね」

 下手な慰めは、正論以上に心を抉る。

 だから一子は、包み隠さず正直に返事した。

「……やっぱりか……」

「でも俺は、親分に惚れてます。親分が好きで、親分がカッコよくて、親分みたいな存在になりたいんです」

 一子は伊之助の前で片膝を突き、固く誓う。

「いっぱい戦って、強くなりましょう。山の王を目指して。そのためにこの一子が必要なら、喜んで力を貸し――」

「グガーーー……」

 何と伊之助は爆睡。

 余程の疲労が溜まってたのだろう。一子はクスリと苦笑いし、背負って移動しようと手を伸ばした、その時だった。

「っ!」

 

 ガギィン!

 

 一子は咄嗟に棍棒で不意打ちを防いだ。

 視線の先には、蝶の髪飾りで後ろ髪をまとめ、蝶の羽を模した柄の羽織を着用した女剣士が微笑んでいた。

 鬼殺隊最高位の剣士――〝蟲柱〟こと胡蝶しのぶだ。

「フン!」

「おっと」

 棍棒を豪快に振り払い、弾き飛ばす。

 しのぶは蝶のように軽い身のこなしで着地すると、一子は鋭く睨みつけて一言。

「――なぜ手負いの親分を狙った? 理解に苦しむ」

「…………えっと、何か誤解してませんか?」

 敵意剥き出しの一子の言葉に、しのぶは困惑した。

 というのも、しのぶが狙ったのは鬼である一子であって、伊之助は対象外だ。しかし一子にとっては直線上に伊之助がいる上、親分を狙って剣を振るったと思い込んでいるのだ。

「……あのですね、私は鬼殺隊士なので、あなたを殺しに来たんですよ?」

「苦しい言い訳だな、鬼狩り。頭を()るのが手っ取り早いからじゃないのか? 大方、俺の隙を突いて親分を殺し、その後に俺を嬲り殺しにするつもりだったろうが、そうはさせないぞ!」

「いや、だからですね、私は鬼のあなたが標的なんですけど……」

「わかりやすい虚言は結構。親分には指一本触れさせない!」

 全く会話が成立していない。しかも、この鬼は自分が猪の皮を被った少年を殺しに来たと思い込んでおり、少年を「親分」と呼んで護る動作をしている。

 しのぶは、今まで出会ったことの無い鬼との遭遇に、内心では迷っていた。

 ふと、ここでお館様――産屋敷耀哉の言葉を思い出した。

 

 ――那田蜘蛛山に着いたら、嘴平一子という袴姿の鬼の女性がいるはずだ。彼女を必ず連れて来てほしい。彼女は鬼殺隊に必要だ。

 

「……あの、一つ伺ってもよろしいですか」

「何だ」

「あなたは嘴平一子さんですか?」

「っ! いかにも、俺は嘴平伊之助親分が子分・嘴平一子だが……お前とは初対面のはず。なぜ俺の名を知っている? 親分や炭治郎たちにしか言ってないぞ」

 警戒心を強め、棍棒を構える一子。

 見ず知らずの人間、ましてや炭治郎と同じ詰襟の服を着た初対面の女剣士が一方的に知っているのは、かなり不自然に感じているようだ。

「俺は弟分の炭治郎たちの助太刀に行かねばならない。山を下りろ」

「そういうわけにも行きません。この山に入った隊士達の生存確認に応急処置、鬼の残党狩りが残ってるので」

「……嘘は言ってないようだな」

 一子は棍棒の先をゆっくり降ろす。

 それと同時に、けたたましい鴉の声が木霊した。

「伝令!! 伝令!!」

「!」

「烏が喋った……!?」

「炭治郎、禰豆子、伊之助、一子ノ四名ヲ拘束!! 本部ヘ連レ帰ルベシ!!」

 旋回しながら山中を飛び回る鴉。

 一子はその言葉から、応援が駆けつけ炭治郎達も無事と察する。

「……一子さん。そちらの少年が……」

「伊之助親分だ。さっきから言ってるが――」

「抵抗しないでくれるのなら、一緒に来ていただいてもよろしいですか? 彼、傷が深いと先程言ってましたね。私は医学にも精通してます、一緒に来てくださるのなら治療しますよ」

 曇りのない眼差しで、しのぶは一子に交渉。

 一子は目を細めると、伊之助を一瞥してから悔しそうにしのぶと向き合った。

「……今はお前の言葉に賭ける他ないな……」

 子分(いちこ)の最優先事項は、主君である親分(いのすけ)。ならば、親分の身の安全が絶対。

 そう判断し、伊之助の耳元で謝罪の言葉をささやき、投降を決意した。

「……親分を治療することに二言はないな? 騙し討ちだったらさすがに許さないぞ」

「お館様の御命令ですからね」

 刀を納めるしのぶに、一子は半信半疑ながらも従う。

 そうこうしている間に、「下弦の伍討伐」と鴉が騒ぎ、続々と背に「隠」の字の描かれた黒子装束達が集い、戦後処理を始める。

 

 こうして那田蜘蛛山での戦いは幕を下ろしたのだが……。

 

 

           *

 

 

 鬼殺隊本部にて。

 炭治郎・禰豆子の竈門兄妹と伊之助・一子の嘴平一家は、隊律違反者として裁判に掛けられた者の審議を問う「柱合裁判」に出頭されるハメになったのだが……。

「おのれ、謀ったな女狐!! 来い!! ズタズタにして嫁に行かせなくしてやる!!」

「あのメス、騙しやがって!! そういうのをヒキョーモノっつーんだよ!! 乳もぎ取るぞゴラァ!!」

「い、伊之助! 止さないか! 一子さんも女性なんだから……!」

「うーんと……その件に関しては申し訳ありませんね……」

 両腕を後ろに縛られた嘴平一家が、白い玉砂利が敷き詰められた地面で怒号と罵声を飛ばし、先に到着していた炭治郎は縛られた状態で必死に宥め、しのぶはどう弁明しようか頭を抱えていた。

 というのも、一子たちは応急処置だけの状態で本部に連行されたのだ。しのぶ自身はしっかり治療した上でいいのではと意見したが、周りがそれを許さず、せめてもと止血などをした。が、一子としては約束を破られたも同然であり、しのぶの騙し討ちと決めつけてしまっているため、こうして話が拗れてしまったのだ。

「しかし、日光を克服した鬼が君とは思わなかったぞ!!」

「お前は……あの時の鬼狩りか! ――そうか、繋がったぞ……!」

 かつて顔を合わせた炎柱・煉獄杏寿郎の姿を、一子は睨む。

 しかし杏寿郎は、意にも介さず快活に宣言する。

「竈門少年同様、鬼を庇うなど明らかな隊律違反ゆえ、鬼もろとも斬首する――と言いたいところだが! 俺は君に借りがある! この場では手出し無用とする!」

「? 一子、あのギョロギョロ目玉と何かあったのか」

「些細なことです、気にするほどじゃありませんよ親分」

「……そうか、そこの猪頭少年が君の主君か」

 伊之助を見やる杏寿郎に、一子は「猪頭少年じゃない」とムッとした表情で訂正を求めた。

「やはり君たちには、明確な主従関係があるのだな」

「無論。俺は伊之助親分の子分……それが覆ることはありえない」

「くだらない妄言を吐き散らすな」

 そこへ待ったをかけたのは、松の木に寝そべる縞模様の羽織の男。

 蛇柱(へびばしら)()(ぐろ)()()(ない)である。

「そもそも身内なら庇って当たり前。しかも苗字が同じだろう。言うこと全て信用できない、俺は信用しない」

「信用できないなら、妄言かどうか試してみればいいだろう。逃げも隠れもしないからかドンと来い」

「……調子に乗るなよ」

 鋭い殺気と飛ばす伊黒に、一子は臆せず睨み返し言葉を紡ぐ。

「そもそも俺と親分が行動を共にして以来、縄張りに踏み入れたドジな鬼狩りこそいたが、刺客は一人として来なかった。それは俺と親分をお前らの総大将が知ってるからじゃないのか? 弟分の件もそうだ。お前達たちの親分が余程の無能なら例外だがな」

「口を慎め、嘴平一子」

「俺に命令していいのは親分だけだ、ギョロギョロ目玉」

 低く冷たい声で一喝する杏寿郎だが、一子は一蹴。

 そのまま立ち上がると、拘束具を引き千切り、胸元に手を突っ込んだ。

「親分に害を与えよう者なら、誰だろうと容赦しない!」

 メキメキと鈍く嫌な音を立て、肉体から棍棒を生成。

 その先端を杏寿郎に突きつけ、闘気を剥き出しにする。

「鬼殺隊は俺たちの敵か? それとも味方か?」

「――中々派手に掻き乱してくれるじゃねェか……見所のある女だな」

 並大抵の鬼にとっては恐怖の象徴に近い柱を前に、堂々と立ち振る舞う一子。

 そんな彼女の度胸に、派手な出で立ちの音柱(おとばしら)()(ずい)(てん)(げん)は感心した。

 そんな中、思いもよらない声が上がった。

「おい、一子! ちょっと来い!」

「親分!?」

 何と主君・伊之助だった。

 一子はすかさず振り向き、一瞬で伊之助の前に移動する。

「は、速い……!」

「親分、どうなさいましたか……?」

「どうもこうもじゃねェ!!」

 ふしゅううううう、と猪の皮の鼻先から息を漏らし、怒鳴りつける。

 伊之助の怒りの矛先が自分に向いていると察し、一子は慌てながら正座した。先程までの挑発的な面も見えた態度と全く違い、同僚達と距離を置いてみていた義勇は思わず「別人……」と呟いた。

「……信じられん……まさか、本当に鬼を御しているとは……」 

 伊之助と一子の主従関係が事実と知り、鬼殺隊最強の実力者である岩柱(いわばしら)()()(じま)行冥(ぎょうめい)も、数珠を鳴らしながら動揺の声を漏らす。

 それほどまでに、伊之助と一子の関係は常識外れだったのだ。鬼が人に従うなど、鬼殺隊の歴史上初の事態だ。

「いいか、一子! よく聞け!」

「はいっ!」

 その間にも、伊之助の説教が始まる。

 場の空気が完全に嘴平一家に持ってかれ、一同は伊之助の言動に注目するが……。

「アイツら全員ぶっ倒すのは俺だ!! 俺が一番だからだ!! 親分の顔を立てるのが子分であるお前だろうが!! 俺よりしゃしゃり出るんじゃねェ!!」

「す、すみませんでしたっ!!」

『……』

 伊之助の一喝に、一子は土下座した。

 二人の主従関係の片鱗を垣間見たのだが、思ってたのと全然違うことに全員困惑した。

「……言ってることおかしいよね」

 腰に届くほどの髪を伸ばした小柄な少年、霞柱(かすみばしら)(とき)(とう)()(いち)(ろう)は、どこかズレている伊之助の言い分に冷たくツッコむ。

(女性の鬼と鬼殺隊の男の子の主従関係……キュンキュンするわ!)

 恋柱(こいばしら)(かん)()()(みつ)()は、そんな嘴平一家にときめいている。

「おいおい、何だか面白いことになってんなァ」

 そこへ鬼への憎悪が一際強い風柱(かぜばしら)不死川(しなずがわ)(さね)()が、禰豆子が入った箱を片手に現れた。

 それと共に、一子が声を上げた。

「むっ! なぜ鬼がここに!? 俺と禰豆子だけじゃないのか!?」

「誰が醜い鬼だァ!!」

「人相の悪い奴らは全員が鬼だったぞ! どこに間違いがある!」

「てめェの言い分そのものが間違いなんだよォ!!」

 何とあろうことか、人相で一子は実弥を鬼と勘違い。

 いきなり嫌悪する鬼に勘違いされ、実弥は禰豆子が入った箱を投げ捨てゴキゴキと骨を鳴らした。

「よォし、まずはてめェからだクソアマ鬼!!」

「親分の命令は絶対なのに……すみません」

「ちっ、仕方ねェ。今回だけだぞ!」

 伊之助の許可を確認した一子は、闘気を高めた。

「手加減はする。殺意も恨みもない相手を殺しにかかるのは、筋が通らない」

「手加減だァ? 随分と優しいんだなァ……!!」

 ビキッと青筋を立てて、鬼の形相で刀に手をかける実弥。

 一子もまた、棍棒を片手で回しながら向き合う。

 このままでは鬼殺隊本部が戦場になる――そう判断した義勇は、二人に向かって咄嗟に叫んだ。

「やめろ!! もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!!」

「黙ってろ半々羽織!! 親分が許可してくれた一対一(サシ)の勝負にケチつけんな!!」

「えっ」

 何と反論したのが、一子。

 誰がどう考えても間違ってないのに逆ギレされた義勇は固まってしまい、実弥だけでなく他の柱達も同情の眼差しで義勇を見つめた。

 さすが伊之助の子分。やっぱズレている。

「――水を差されて悪かった。続けよう」

「……いや、また今度にするぜェ……」

 律儀に頭を下げてから再び棍棒を構える一子だが、目に見えて落ち込んでいる義勇を憐れんだのか、実弥は戦意を放棄。

 何とも言えない空気に包まれ、どうすればいいかわからなくなった時。

「お館様のお成りです!」

 少女の声が響き渡った。




【大正コソコソ噂話】
一子は伊之助第一主義なので、鬼舞辻無惨も鬼殺隊もどうでもいい話と考えてます。

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