我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!   作:悪魔さん

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ヒノカミ血風譚やって、猗窩座と累を使ったら恐ろしく強かった。(笑)


第八話 一子対風柱

 柱合裁判から、一週間が経過した。

 一子は汗だくになりながら己を鍛え続けていた。

「息を止めて動くのが……こんなにも大変とは……」

「でも一子さんは凄いよ。〝呼吸〟ができるようになってる」

 ヘトヘトの一子に声を掛ける炭治郎は、伊之助は恵まれてるなと呟いた。

 那田蜘蛛山の任務以来、一子は自身の未熟さを痛感し、親分の顔に泥を塗ってしまったと己を恥じた。一子にとって伊之助は実の親に近い存在で、彼を傷つけることは決して許さない。ゆえに自分が判断を間違えたことで伊之助が危険な目に遭えば、かなり引きずる性格でもある。

 そこで一子は、己を一から鍛え直すとして「獣の呼吸」を習うことを決意した。……のだが、伊之助は育手を介さずに独学で習得したために説明不能。そこで炭治郎に声を掛けたところ快諾し、現在に至るのだ。

「お前や親分が羨ましい。これほど過酷な鍛錬を意にも介さないとは……血鬼術に頼る戦い方を改めねばな……」

「いや、一子さんの方が過酷だと思うぞ? 息止めをしたまま鱗滝さんの基礎鍛錬を休みなしで続けてるなんて」

 炭治郎は思わず本音を漏らす。

 鬼というほぼ不死身の生物であるということもあるが、一子の突貫鍛錬は凄まじい。息を止めたまま走り込みや素振り、筋力強化の訓練を徹底し、短期間で習得できるよう自身を追い込んでいる。

 全ては伊之助のため――その想いだけで突き進む彼女の姿に、炭治郎は不思議と惹かれていった。どこか似ている気がしたから。

「……一子さん」

「何だ」

「ありがとう」

 突然礼を述べた炭治郎に、一子はきょとんとした表情を浮かべた。

「あの時、俺も禰豆子も助けてくれて嬉しかった。一子さんだって厳しい立場だったのに……」

「俺は親分の子分であり、同時にお前らの姉貴分だ。一家である以上、下の者を庇うのは当然のことだ。礼を言われるほどじゃない」

 一子はそう言って天を仰ぐ。

 その時だった。

「おい鬼ィ、ツラ貸せや」

 一子に恫喝的な一言を投げかける、見るからに凶暴そうな強面。

 風柱の不死川実弥だ。

「あなたは……」

「俺は嘴平一子という名前がある。価値のある方で呼んでほしいものだ。――で、何の用だ」

「お館様の命だァ。てめェの腕っ節を確かめに来たぞォ」

 実弥曰く。

 お館様こと産屋敷耀哉は、那田蜘蛛山にて無双状態だった一子の技量を確かめるよう柱たちに要請したという。柱の一刀でも傷一つつかぬ肉体と雷撃を操る血鬼術を駆使する鬼女は、昨今の鬼殺隊の人材不足・隊士の質の低下を補う上では掟破りだが貴重な戦力と見なしているらしい。

 そこで名を上げたのが、実弥だった。杏寿郎ですら傷一つ付けられなかったという衝撃の事実に対する興味もあるが、何より伊之助第一の彼女の姿勢が気に食わなかった。鬼殺隊の主君に対する礼節は弁えようとせず、むしろ伊之助と同等かそれ以下と見なしているのが我慢ならず、礼儀というものを実力行使で教えようと考えていた。

 かくいう一子も、実弥との戦いをお預けされた身である。どんな意図があろうと、実弥との手合わせは願ったり叶ったりであり、歓迎すべきことであった。

「力比べは受けて立つ。俺と親分はそれが生き甲斐だ。それに……先日の続きはしたかった」

「――ハハ、そうかい」

 不敵に微笑む一子に、実弥は獰猛な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 蝶屋敷から少し離れ、風柱の屋敷に案内された一子は、実弥との戦闘に臨んだ。

 鬼殺隊で最も隊士たちから怖れられる風柱と、伊之助に忠誠を誓う武人気質の鬼女。

 互いに得物を構え、睨み合う。

「頸が(かて)ェんだろ? 殺す気で行くぞォ」

「こっちも加減はできない。死ぬなよ」

()()()()? ご心配ありがとなァ!!」

 若干怒り気味に叫ぶと、実弥は凄まじい勢いで一子に突進した。

 一子は両手で棍棒を振り抜き、迎え撃った。

 

 ドォン!!

 

 空気をビリビリと震わせ、日輪刀と棍棒が激突して鍔迫り合いになる。

 両者の顔には、楽しそうな笑みが浮き出ている。

「成程なァ、そこらの隊士と比べりゃあ腕は立つじゃねェ……かァ!!」

「うっ!」

 鍔迫り合いを制したのは、実弥。一子の体勢を崩し、そのまま左から殴りつけた。

 頬を穿かれて意表を突かれた一子は大きく体勢を崩し、その隙に実弥は型を繰り出した。

「〝弐ノ型 (そう)(そう)科戸風(しなとかぜ) 〟!!」

 縦方向に四つの斬撃を同時に打ち下ろす。

 それを見た一子は、棍棒に雷を纏わせて豪快に振るった。

「〝万雷太鼓〟!」

 

 ガァン! 

 

(全部受け止めて相殺しやがった……!!)

 同時に襲い掛かった四つの斬撃を、横一文字に棍棒を振って相殺。

 一子の基礎戦闘力は、自身が今まで会った鬼の中でも一二を争うほどの技量と知り、思わず舌打ちする。

「ハァァッ!」

 今度は一子が仕掛ける。

 両手持ちで棍棒を振るい、力任せの連撃を繰り出す。大振りかつ単純だが、振った際に生じる風圧で体勢を崩しやすく、一瞬でも躱すのが遅れたら持ってかれてしまいそうだ。

 だが実弥は、柱の中でも変則的な戦闘局面への対応力がかなり高い。卓越した柔軟性と軽快な身のこなしでギリギリで躱し、強烈な斬撃を見舞った。

「〝肆ノ型 昇上砂塵嵐(しょうじょうさじんらん)〟!」

 

 ガガガガガッ!

 

「うぅっ!!」

 舞い上がる砂塵のように、無数の斬撃が一子を襲う。

 それによって身にまとっていた着物は瞬く間にズタズタになり、長年愛用していたツギハギの袴もボロボロ。体に引っかかってるだけの布切れ同然と化しており、ふんどしも見えている。

「この感覚……! お前、まさか親分と同じ〝獣の呼吸〟を……!?」

「〝獣の呼吸〟……? 何だそりゃあ、聞いたことねェぞォ」

 動揺する一子に、実弥は首を傾げる。

 これは当人たちは知らないが、獣の呼吸は風の呼吸に近い性質の呼吸であり、ある意味で近縁なのだ。完全なる我流であるだけでなく、並外れた戦闘本能・二刀流の素質・柔軟な関節といった条件を満たさぬ限り、編み出した伊之助以外の者には会得は困難であるが、荒々しい点では共通している。

 そして一子は、伊之助とよく手合わせをする。その身に何十と何百と受けた一太刀と、実弥の一太刀が酷似していることに驚くのも無理はない。

「……親分と同等となれば、気を抜く暇もない」

 一子が纏う空気が、一瞬で変わる。

 肌を突き刺すようなそれに、実弥は身構えた。

「行くぞ――〝鳴神〟!」

 棍棒を振るって雷撃を放つ。

 実弥は紙一重で躱し、頸を狙って斬りかかるが、一子はすかさず棍棒を地面に突き刺した。

「〝雷棍棒・電界〟!!」

 

 バリバリィッ!!

 

「ぐあっ!?」

 雷撃を周囲に走らせ、全方位攻撃が発動。

 近づきすぎた実弥は直撃を受けてしまい、身体が痙攣してしまう。

 どうにか距離を取って反撃を仕掛けようと日輪刀を構えたが、一子は棍棒を捨てて右手で実弥の胸倉を掴み上げ、左手に雷撃を溜めて顔面に掌底を振り下ろした。

「〝(かん)〟!! 〝(だち)〟!!」

 

 ドカァン!!

 

 まさに落雷。

 凄まじい轟音を響かせ、屋敷を震わせる。

 雷鳴が鎮まると、眼下にはプスプスと少しこんがりとなった実弥が白目を剥いていた。

(……これが風を司る鬼狩り……何て強さと頑強さだ、敵に回したくないな)

 ふと気づけば、右足に激痛が走った。

 何事かと見れば、そこにはぐっさりと貫通した日輪刀が。〝神立〟を浴びる寸前に一矢報いらんと突いたようだ。

「ぐうぅっ……!」

 突き刺さった日輪刀を抜くと、傷は止血され塞がっていくが、完治には至らない。

 一子は通常の鬼よりも頑丈かつ強靭な肉体と皮膚ではあるが、それと引き換えなのか一度負った傷の回復速度は雑魚鬼よりも遅い。戦闘力は脅威的だが、回復速度は人間以上雑魚鬼未満といったところだ。

 また、一子の頸の硬度は柱の一撃すら普通に耐えるが、それ以外は柔いと言えば柔い。日光を克服した強力な個体と言えど、完全な無敵ではないのだ。もっとも、頸以外でも柱に匹敵する技量でなければ傷一つ付けられないが。

「参った……こんな無様な姿、親分に見せられない……」

 局部がどうにか隠れてる、随分とボロボロな出で立ち。

 どうしようか迷った時、ゆっくりと実弥が起き上がった。

「…………俺は……気絶していたのかァ……」

「……まあ、十秒ぐらいだな……」

 頭から血を流し、見るからに満身創痍な実弥。

 しかし柱として鍛え抜いているからか、十分戦える様子だ。

「……どうしても、俺の頸を狙うか」

「ハァ、ハァ……お館様に「殺すな」言われてんだァ……ここらで()()だァ」

 手拭いを取り出し、顔を拭く実弥は一子の実力を推測する。

 一子の実力は、少なくとも十二鬼月の下弦以上。血鬼術である雷撃は応用性が高く、棍棒を使った格闘も大振りで単純だが威力が申し分ない。しかも知り合いの隊士から全集中の呼吸を学習中であり、習得すれば隊士数百、いや柱数人分の戦力となり得る。

 弱点としては、血鬼術の雷撃は鬼も人も関係なく感電させる点だ。これが一対一(サシ)ならばともかく、総力戦や乱闘になれば無差別攻撃の嵐となり、下手をすれば技の一発で敵も味方も戦線がガタガタになる。ある意味で災害だ。

(助太刀すると雷撃で巻き添え。助太刀されると敵ごと感電…………最悪じゃねェか!!)

 あの猪、こんな奴とよく今まで付き合ってきたな――実弥は遠い目をしてそうボヤいた。

「……それよりも、てめェ服どうにかしねェか!」

「仕方ないだろう、俺はこれ一着だ」

「ハァ!? お前、それ一着しかねェのか!?」

「物には愛着があるだろう」

 何とここで、一子の着物が一着分しかないことが発覚。

 それをよりにもよって斬り刻んだ実弥は、頭を抱えた。女物の着物など屋敷に置いてるわけがない。

 いや、彼女は伊之助の口調がうつってる上に男勝りな雰囲気なので、男物でも大丈夫なのだろうが……何せ人間ならともかく相手は鬼。自分の衣服を鬼にやるのは、鬼殺隊でも随一の鬼への憎しみを向ける実弥にとっては我慢ならないことだった。

(クソがっ! 何で俺が服なんか用意しなきゃならねェんだァ!)

「おい、不死川」

「ハッ!」

 そこへ、まさかの義勇来訪。

 もっとも来てほしくない男がやってきてしまった。

「…………」

「むっ! あの時の半々羽織」

「……好きなのか?」

「んなわけあるかァァァァァァァァ!!!」

 恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にし、義勇の顔面に拳を減り込ませる実弥であった……。

 

 

           *

 

 

「……悪かったァ」

「……いい」

 非常に気まずい雰囲気に実弥は顔を背けつつも、義勇に詫びる。

 義勇曰く、自分は先程の雷鳴で実弥に何かあったのではと思い、身を案じて駆けつけたという。しかもその時は蝶屋敷の付近にいたという。

 つまり、一子の〝神立〟は蝶屋敷まで聞こえるほどの轟音だったということだ。当然、蝶屋敷には主君の伊之助や仲間の炭治郎らがいるので……。

「……で、俺様に言うことは?」

「……すみませんでした」

 一子は伊之助に凄まれて縮こまっていた。

 異性の人外とはいえ、体格は伊之助よりも二回りは大きい鬼女が、ほぼ裸同然で上半身裸の少年に怒られる様子。傍にいる炭治郎は、ちょっと目の毒な気がしたのか目を瞑っている。ただし善逸は局部をガン見しているが。

(え? 一子さんって、着痩せする方だったの? 何あの豊満な身体? 伊之助アレ見て邪な気持ち湧かないの!?)

 善逸の目線から見ると、一子ははっきり言って美人だ。

 武人気質や口調の荒さ、頭の角を抜きにして見ると、大和撫子という言葉がよく似合う。胸は大きく腰は引き締まり、尻はどう見ても安産型。その上身の丈ほどある棍棒を苦も無く振り回し、腕っ節は一級品の姉御肌。

 抱きたいし護られたい――それが善逸の一子に対する邪な想いだった。

「フザけんじゃねェよコラ! 俺様より先にイイ思いしてんじゃねェぞ!!」

「す、すみません! 本当にすみません!」

 鼻息を荒くして睨みつける伊之助に、一子は戦々恐々。

 会話だけ聞けば、何かいやらしく聞こえるのは気のせいだろうか。

「罰として同じ布団で寝るの禁止だ!! 覚悟しとけ!!」

「そ、そんなぁ……どうか慈悲を!!」

「んなモン知るか!!!」

 プンスカ怒る伊之助に、一子はしがみついて許しを乞う。

 が、それを聞いて怒り狂う男が一人。

「……伊之助」

「ああ!?」

「おォォまァァえェェェ……!!」

 地を這うような声で、善逸は血走った目で伊之助を睨んだ。

「フザけんなゴラーーーッ!!!」

「んがっ!?」

「親分!?」

「伊之助!? 善逸、何てことを――」

 するんだ、と炭治郎が叱ろうとした途端。

 一子の〝鳴神〟と同じくらいの速さで善逸は伊之助に飛びかかり、物凄い速さで振り回した。

「お前(どう)(きん)してたのかよ!! こんな綺麗でとんでもなく強い美人に!! 毎日毎日親分親分と慕われながら添い寝だぁ!? 現実は非情だぜコンチクショーがぁぁぁぁ!!!」

「何言ってんだてめェ!! 放せやゴラァァァ!!」

「タンポポ、誰に向かって口利いてんだァァ!!」

 強烈な嫉妬をぶつける善逸に、一子は頭突きを見舞ったのだった。




【大正コソコソ噂話】
一子と伊之助は同じ布団で一緒に寝る際は、二人共丸まって眠ります。
山の中で冬眠する際の癖です。
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