ウマ娘と温泉旅行しっとり風味   作:キャロパン

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温泉はどこ…?ここ…?

この世界線の皐月賞はメジロライアン勝利です。

活動報告にリクエスト欄を作りました。リクエストなど、お気軽に投稿お願いします。


アイネスフウジン

――才能も、家柄も、自由もないウマ娘。それがあたしの自己評価。

だからトレーナーにスカウトされた時、あたしはその幸運を信じることができなかった。

あたし、選抜レースで4着だったから。

 

「あたしなの?ライアンちゃんでも、マックイーンちゃんでもなくて?」

「君がいいんだ!君ならダービーをとれる!」

 

後から知った。

あたしのトレーナーは、担当したウマ娘が実績を残せなくて引退寸前だったってこと。

 

「君の武器はスタートとスタミナだ!だからその2つを重点的に鍛えるぞ!」

「はーい、なの♪」

 

トレーナーとの練習は、とーっても楽しかった。練習するほど力がついているのがわかったから。

レッグカールや走り込み、休憩時間にタフネスバー。その後はスーパーの特売やアルバイト。

とにかく走ってとにかく鍛えて。

 

ジュニア級で順調に勝ちを積み重ね、奇跡的に出場できた皐月賞。

クラシック級で最初のG1レースは、スタート直後に他のウマ娘と衝突した瞬間に終わった。

結果、ライアンちゃんからクビ差の2着。

こんな結末、お互いに納得いってないでしょ?だから、ダービーで決着をつけよう?

 

「ダービー!ダービー!」

 

そこから、あたしはもっとハードにトレーニングするようになった。

体を作るために、更にご飯を食べるようになった。

元々得意だったスタートも、今なら誰にも負けないと自信をもって言える。

気付いたらカップ麺しか食べないトレーナーのため、

休日はトレーナー寮にタッパーを持っていって、一緒にご飯を食べる。

 

レースの1週間前、ダービー出走者に対するインタビュー。記者陣の前でトレーナーは宣言した。

 

「アイネスフウジンを一番人気にしてください!」

「ダービーを一番人気で勝つのが夢です!自信はあります!」

 

涙が出そうだった。

たまたま幸運で学園に入れただけ。皐月賞で期待に応えられなかった。

なのに、あたしをここまで信じてくれるなんて。

――今だから分かる。この瞬間にあたしは恋に落ちたの。

 

血が出そうだった。その水分を汗に変えた。

周囲の冷ややかな反応なんて知らない。この人にダービーを捧げる。

できることを、もっと全力で。

 

ダービー当日。控室でトレーナーとお話の時間。

 

「3番人気なのは残念だったが…。よかったな!家族のみんなも来てくれたぞ!」

「ほんと!?かっこいいところ、見せなきゃなの!」

 

本当は知ってる。トレーナーが昨日の晩におんぼろのボックスカーで連れてきてくれたの。

 

最後に作戦の打ち合わせを行い、勝負服を着て外に出る。

パドックでは勝負服でゆったりと周回。うん、脚は快調♪

 

12番のゲートに入る。ぐるりと客席を見渡すと、みんながぎゅうぎゅうと狭そうに立っていた。

今日は19万人もいるらしい。

オグリさんたちの人気って凄いなあ、ってそんなこと考えてる場合じゃない。

すっと深呼吸。周囲の雑音が消える。まずは皐月賞の落とし物を拾わなきゃ。

 

――パンッ!っと音が鳴った瞬間。あたしの脚は1歩目を踏み出していた。

 

あの後、トレーナーと必死になって鍛えたところ(スタート)。まずはここで差をつける!

 

『さあゲートが開いた。っと、アイネスフウジンが好スタートを切っている』

 

1歩、2歩、3歩と先行し、2番手の子と10バ身近くの差をつけることに成功した。

 

――本番は、ここから。

 

『1000Mの通過タイムは――59.8!?無茶です!スタミナが持ちませんよ!?』

 

あたしたちが見出した勝機は、スタミナに物を言わせたハイペースな消耗戦。

勝利の方法はたった1つ。自分のやり方で走り切るだけ!

 

『大ケヤキを超え各ウマ娘たちが第4コーナーに突入します!

 アイネスフウジンの脚はまだ衰えない!後続とは依然として5バ身以上の差が開いている!』

 

残り525メートル。さあ勝負だよ、ライアンちゃん。

 

『メジロライアンは現在4番手!前に出る脚は残っているのか!?』

 

少しずつ後ろの足音が近づいてきている。

でも、まだ……!

 

『2番手を交わした!前にいるのはアイネスフウジンのみ!残りは1ハロンです!』

 

まだ……!

 

『ついにアイネスフウジンの脚が鈍った!メジロライアンが外から襲い掛かる!

 先頭まで残り2バ身!これはギリギリ届きそうだ!』

 

あぁ、奇跡まであと50メートルなのに。風塵(フウジン)みたいなあたしでも、ここまでこれたのに。

心が動けと叫んでいるのに。――もう、脚が動かない。

 

 

――そのとき、うっすらと声が聞こえてきた。

 

 

妹たちが。お母さんが。トレーナーが。叫んでいる。

 

「「「「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!」」」」

 

勝負の明暗を分けたのは、一陣のそよ風。

背中は押してくれなかったけれど、運んできた声が最後のエネルギーをくれた。

 

「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

 

何も聞こえてこなくなった。後ろからの足音も、観客の声援も。

 

『アイネスフウジンが最後に伸びる!アイネスフウジン!

 ――アイネスフウジンが逃げきった!メジロライアンはクビ差の2番手まで!』

 

ゴールラインを通過した時、勝てたのか分からなかった。

分かったのは、最後の声が聞こえてきた方を見た時。

涙を流しながら微笑んでるお母さん。抱き合って喜んでる妹たち。男泣きしてるトレーナー。

――ちょっとして、今まで聞いたこともない大歓声。

 

『アイネスフウジン辛うじて逃げ切った!タイムは2分25秒3!ダービーレコードです!』

 

『わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

 

大歓声の中、腕を振りながら歩く。本当は声を出すのも辛いけど、それでもすっごい嬉しいから!

 

「みんな、応援ありがとうなのー!」

 

『ア・イ・ネ・ス!ア・イ・ネ・ス!』

 

全力でガッツポーズ。お腹に力を入れる。まだ、崩れちゃダメ。

 

 

数分後、歓声も収まりかけた頃にライアンちゃんが来てくれた。

 

「おめでとう、アイネス。いい勝負だったよ」

 

悔しさからくる涙をこらえる最高の親友(ライバル)

ああ、この子は大丈夫だ。この悔しさをバネに頑張ってくれる。

 

最後の気力もないけど、タフネスバーとにんじんジュースの力でウイニングライブを乗り切った。

しばらくは立てないの~……。

 

 

 

 

12月の末、あたしは療養所でリハビリに取り組んでいた。

リモートPCでの勉強かリハビリしかできなくて、一人だと外出どころか連絡も取れない。

未だに脚は思うように動かない。

けど、トレーナーと二人きりの時間がとれるしそれはそれで悪くない。

 

そして、今日は温泉での歩行訓練。ということで、学校の水着に着替えてトレーナーを待つ。

数分後、全身タイツの競泳水着でやってきたトレーナーに脚を触診される。

やっぱり真剣な顔はかっこいいの。ゴーグル越しだけど。

 

「調子はどうだ?」

「うーん……。ぜーんぜん、変わらないの」

「そうか。今の俺は君だけのトレーナーだからな。無理せずに少しずつ取り戻していこう」

 

なんて言ってくれてるけど、いつまでもここに入るのも辛いし、そろそろ引退かなあ。

普通のバイトはできるし、勉強を頑張ってトレーナー科への転入もいいかも、なんて考えてる。

でも、今は二人の温泉を楽しもう。

 

「あー♪温泉気持ちいいのー♪」

「お肌がすべすべになるもんな!その気持ちはよくわかるぜ」

 

トレーナーはテキトーにそれっぽく返事する前に今の服装を見るべきだと思うの。

 

 

訓練を終え、こっちに来てからマイブームになった温泉饅頭を一口。

うん、やっぱりあたしはこし餡派なの。パクパクなの!

火照った体を冷ますため、首の近くでうちわを扇ぐ。

うなじの辺にたまった熱がすぅ~っと抜けていって気持ちいいの。

 

「今日もお疲れ。……あと、今日だけは家族の所に帰らないか?外出届、許可もらってきたぞ」

「ほんと!?」

 

 

そんなこんなで久しぶりの実家。

たま~にトレーナーから聞いてたけど、何事も無くて本当に良かったの。

 

半年ぶりに食べる、人参ともやしの炒め物。妹たちが作ったらしく、ちょっと塩の味が濃い。

和気あいあいと近況を報告しつつ、たまにシーンとなる時間。

……ダービーから顔を合わせてないからちょっとだけ気まずいの。

 

20分近く経ち、3回目の空白。

ついにお母さんが「うん。誤魔化してもしょうがないし、はっきり言うね」と、本題に入る。

 

数秒後にその口から出てきたのは、労いの一言。

「フーちゃん。ダービー、よく頑張ったね。無理と思ったら、休んでもいいのよ?」

 

その言葉に、あたしは競技者として怒りを覚えた。

 

――あたしはまだ終わってない!

 

妹たちから、激励の一言。

「「お姉ちゃん、あたし達もトレセン学園で頑張るから!まだ引退しないでね!」」」

 

その言葉に、あたしは姉として誇りを感じた。

 

――あたしはまだ頑張れる!

 

トレーナーから、アツい一言。

「大丈夫。君はまだ、終わったウマ娘なんかじゃない」

 

その言葉に、あたしはパートナーとして興奮を覚えた。

 

――あたしは、もう一度あのレース場に立つ!

 

そして、――トレーナーのスマホに、ライアンちゃんから動画が来た。

『アイネス、調子はどう?いや、お久というべきだったかな、う~ん。まあいいや。

 とにかく、あたしたちは1勝1敗だからね。復帰、待ってるよ!』

 

その言葉に、あたしはライバルとして衝動的に吠えた。

 

――勝つ!

 

それにしても、ライアンちゃんはレースに関係ないところだと相変わらずなの。

でも、あの動画のおかげで、ほんの少しだけ脚に力が戻ってきたの。

だから――あと1年。もうちょっとだけ、全力で頑張ろう。

 

トレーナー。あたしを復活させるための最後の賭け、あなたの勝ちだよ♪

でも、ちょっとえげつない博打を打ちすぎじゃない?来年とかに心臓発作で倒れない?大丈夫?

 

「トレーナーさん。あたし、春から復帰したいの」

「春から!?……リハビリがめちゃくちゃ苦しくなるぞ!?それでもやるんだな?」

「うん、いい加減にライアンちゃんとの決着をつけるの!

 ――それに、もう1回みんなに見せたいの。あたしのかっこいいト・コ・ロ♪」

 

みんなのとびっきりの笑顔。うん、やっぱりこの顔が一番なの!

 

 

 

1年後。東京レース場にて、暴風のようにレースの先頭を駆ける風神(フウジン)がいた。

 

『因縁のダービーと同じような展開となりました!

 メジロライアンからハナ差で逃げ切った、優駿たちの初代王者はアイネスフウジンです!』

 

 

 

 




感想と評価ありがとうございます!遅筆ですが少しずつでも返していきます!
感想・ここすきなど頂ければとても嬉しいです!

おそらく湿度が一番低い話……かも?

温泉いる?

  • もっと
  • 今ぐらいで
  • 少なく
  • いらない(鋼の意思(いらない))
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