ウマ娘と温泉旅行しっとり風味   作:キャロパン

5 / 9
気分転換の短編です!なるべく甘くなるように頑張りました!

活動報告にリクエスト欄を作りました。リクエストなど、お気軽に投稿お願いします。


閑話 エクリプス

URAファイナルズを制したサイレンススズカ。

福引で当てた温泉旅券を使い、有名な温泉地の旅館に来ていた。

 

ちょっと湯あたりしてしまった俺は、スズカに膝枕をしてもらっていた。

ちょっと疲れが出たのか、とても眠い。

 

右手で頭を撫で、尻尾をおでこに当ててくるスズカ。

鼻に尻尾が当たってくすぐったい。

 

「トレーナーさん……その。来年は、海外に行きたいです。」

「んー……。ならヨーロッパで調整していかないとな」

 

団扇を仰ぐ左手を止め、首をかしげながら聞いてきた。

 

「どうしてヨーロッパなんですか?」

 

うとうとしてたのもあり、つい本音を漏らしてしまった。

 

「ターフを走ってる姿が一番似合ってるから……かな」

 

「あら……そんな事を言われるのでしたら、カッコいいところをお見せしませんとね♪」

 

眠い。さっきなんて言ったかすら覚束ない。

 

首を曲げ、ぼんやりした眼で空を見上げる。

星空の中央に浮かんでいる三日月が、口角を吊り上げて嗤っているように見えた。

 

「あら、寝ちゃいましたか。……ふふっ、イタズラしちゃおうかしら?」

 

 

 

 

宝塚記念までを勝利し、フランスに乗り込んだ俺達。

ステップレースのフォワ賞をハナ差で勝ち、順調に現地での調整を進めてきた。

 

10月の第1日曜日、パリロンシャンレース場。

ブローニュの森に位置するこのレース場は、世界で最も美しく、また最も過酷だと言われている。

その理由は、『重い』と形容する他ない芝と10メートルの高低差があるコース設計だ。

とにかくパワーが求められるこのコースは、スピード重視でトレーニングを行う日本のウマ娘達と

致命的なレベルで相性が悪い。

坂を下った後は、フォルスストレートと呼ばれる250メートルの直線と最終直線の533メートルを差されることなく走り切らなければならない。

 

だが、現地で坂路トレーニングを積んできた彼女には関係ない。

ブロワイエの挨拶に対し、形ばかりの丁寧な挨拶を返している。

 

1枠1番。指定席に陣取った彼女は、酷く輝いて見えた。

そして各バが一斉にスタートした瞬間、それは発生した。

 

――まず、光が翳った。

次に、黒いシミが少しずつ太陽に広がる。数秒後には完全に太陽を覆い隠した。

それに伴い、緑のターフが灰色に、ウマ娘たちは真っ黒に揺れる物体Xになった。

 

数秒後、パリは陰に沈んだ。

 

スズカがどこにいるか確認したい。

だが、残念なことに俺の目では500メートル以上先の暗闇を見通すことが出来ない。

肉眼でレースを追うのを諦め、イヤホンを耳に差してラジオでの実況に切り替える。

 

変更してすぐ、興奮している実況の声が聞こえてきた。

 

『どうした!?皆既日食(エクリプス)が発生するなんて聞いてないぞ!?

 はあ、本来なら月と太陽の軌道が重なる予定ではなかった?……じゃあ目の前を見てみろよ!?

 気象庁はこの現象をどう説明するんだ!?月が勝手に移動したんですとイイワケするのか!?』

 

キレてから10秒後。

スタッフから宥められたようで、肩で息をしながら実況を再開した。

 

『……失礼しました、実況を再開いたします。

 先頭を走っているのはブロワイエ、後続と3バ身の差をつけています。2番手は……』

 

現在の状況整理が行われる中、1人だけ名前を呼ばれていないウマ娘がいる。

 

『――サイレンススズカがいません!故障したのか!?』

 

いや、あの子が2番手以降を走るなんて事は無い。つまり――

 

『違います!1人ポツンと前にいる!その差は――30バ身以上!』

 

衝撃の差に思わず実況が叫んだ瞬間。

 

――リング型で復活した太陽が、全てを照らすように発光した

 

 

何も、見えない。

 

――幸い、失明はしなかったようだ。

しばらくして、目が開けるようになり、少しずつ光が戻ってくる最中。

まだ全部が見えるわけではないが、それでも分かりやすく動くものがある。

 

他のウマ娘たちが坂を下り終えたばかり。

しかし、フォルスストレートを駆け抜けて最後の直線に入ってきたウマ娘がいる。

世界一過酷なレース場の逃げ戦法なのに、最後の直線で加速しているウマ娘がいる。

朝焼けみたいに空が赤く染まる中、笑顔で芝を駆け抜けていくウマ娘がいる。

 

その異次元の逃げ足を持ち、緑色の勝負服で走るのは言うまでもなくサイレンススズカだ。

 

闇を切り裂き、光へ向けて加速する。

 

数秒後、いつものようにゴール板を先頭で通過した。

 

そして、5秒が経過した。

――しかし、誰もゴールしない。

 

それもそのはずだ。

掲示板に表示されたタイムは……2分18秒50。

このレースのレコードタイムは2分23秒61。その記録を5秒以上も更新したことになる。

後から検証した雑誌によると、2着との着差は38バ身らしい。

 

「――――――――――」

 

予想外の圧勝。しかも、それを成し遂げたのは東洋からやってきた刺客。

誰がこの展開を予想できたのだろうか。

 

観客たちは誰も声を上げることが出来ない。

実況もタイムを読み上げた後に絶句している。

2着以降にゴールしたウマ娘も、掲示板を見て無言になる。

誇り高き1名を除いた全員がゴール板を見て絶望し、その場に崩れ落ちた。

 

レース後のインタビュー。

アメリカのクラシック三冠を制してフランスに遠征してきたウマ娘は、一言だけ吐き捨てた。

 

「Eclipse now here. The rest nowhere.

(このレースに参加していたのはエクリプスだけだ。他には誰もいなかった。)」

 

2着の前年度覇者、ブロワイエは微笑んだ。

 

「Très romantique.L'histoire du filé UmaMusume a avancé.

(とても素敵じゃないか。ウマ娘の歴史が未来に進んだんだ。)」

 

この日、1人のウマ娘によって、レースの時計が5秒進められた。

世界の頂点たる凱旋門賞における最速のタイムと最大の着差。

このパーフェクトゲームが達成された日について、フランスでは畏敬を込めて『沈黙の日曜日』と呼ばれるようになった。

そして、レースの時に発生した現象とその着差を称え、達成者自身はこう呼ばれるようになった。

 

 

エクリプス

 

 

 

 

世界を手中に収めた翌日の朝6時。日も出ていないが、控えめにドアがノックされた。

 

「スズカか。どうした?」

「すいません、トレーナーさん。」

 

何と言うかちょっと悩んでいるようだ。

左回りで数分ほど回りながら小考し、言葉を続ける。

 

「……空気も気持ちいいですし、ちょっと散歩しませんか?」

「いいぞ。7時にロビーで集合な」

 

ジャージに着替えて向かう先はブローニュの森。

冷たい空気と柔らかな風景を楽しみながら散歩をしていると、森の外れにある草原まで来た。

 

横で手を繋ぎ、ゆっくりと歩くスズカ。

出てきた言葉は、感謝の言葉だった。

 

「トレーナーさん。私の専属になってくれて、本当にありがとうございます。」

 

言葉の後にクルリと旋回し、こっちを向いた。

 

「あのレース、最初は怖かったんですよ?

 急に暗くなりますし、後ろから足音が聞こえてくるから止まれないですし。

 ……だから、必死にコースを走ったんです。」

 

彼女が向けてきた感情は、純真無垢な笑顔。

 

「でも、最後の直線に入ったら、見えたんです。

 光が溢れてくる中で、緑色に光るターフと静かに佇んでいるトレーナーが。

 ――ああ、これが、私の見たかった景色なんだって。最後、本当に嬉しかったんです。」

 

笑顔が歪み、口が弧を描く。その顔は、温泉で見たあの月と酷似していて。

 

「――だから、この悦びはもう誰にも譲れません。

 あなたには、私が走れなくなるまで、これからも私の専属トレーナーでいて欲しいんです。

 世界一のウマ娘になれば、世界中の誰も私たちを引き離そうとしなくなるでしょう?」

 

走ることしか頭に無かった少女が、全てを手に入れるための告白。

 

「昨日、世界一のウマ娘になりましたよね?――だから、これからも……私だけを見てください」

 

そう言うと、しなやかな体を押し当てた。

 

「大丈夫。私を信じて、体の力を抜いてください。ね?」

 

少しずつ膝から力が抜けていき、――ついに、立っていることすらできなくなった。

膝からガクンと落ちる中、頭をスズカに支えられる。

――ああ、逃れられない。

 

暁の中、沈みゆく三日月と出ずる太陽だけが、草原に倒れる2人を見守っていた。




感想と評価ありがとうございます!遅筆ですが少しずつでも返していきます!
感想・ここすきなど頂ければとても嬉しいです!

よし!プリティーなレースが書けたな!

追記)次はスーパークリークを書きます

ヒロイン候補

  • テイエムオペラオー
  • スーパークリーク
  • メジロパーマー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。