ウマ娘と温泉旅行しっとり風味   作:キャロパン

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サブタイトルをつけてみました。

ウマ娘界隈の小説ではよくある展開ですが、お付き合い頂けますと幸いです。




ポンコツ少女は己の夢を見るか-1

――20XX/3/24 ワシントンD.C. ネーションズ・パーク

 

桜祭りが開催されるなど、日本と関係の深いアメリカの首都。

その南部、アナコスティア川沿いに建築された野球場。

 

熱狂的な応援が有名なワシントン・ネーションズの本拠地だが、

現在はとても緊迫した空気が流れている。

 

それもそのはず、行われているのはオリンピックの決勝。

アメリカと日本の精鋭達が全てを賭け、この試合に臨んでいる。

 

試合のスコアは3-4。日本が1点差で負けながら最終回になった。

そして、日本側は最後にして最大のチャンスを迎えている。

 

――9回裏、2アウト。ランナー2塁。3ボール1ストライク。

この打者さえ抑えることができればアメリカは勝利する場面。

 

マウンドに立っているのは、ミスター100マイルことマイルズバーグ。

アメリカの歴代最高エースと名高い彼は、7回からリリーフで登板。

最高球速は105マイル(169km/h)を記録した。

打席に立っているのは、若き天才ことユタカ。

この試合の3点は、全て彼のホームランから叩き出されている。

彼が4本目のホームランを打てなければ、日本に勝ち目はない。

 

マイルズバーグが振りかぶる。

その右腕から放たれたのは、152km/hのシンカー。

ユタカのバットは動かない。だが、ボール半分がベースを通過している。

だから――

 

「アアアァイイイッ!」

 

ルールに則り、俺はストライクをコールする。

これで2ストライクとなり、ユタカは後がなくなった。

 

ストライクか微妙な所であり、日本に不利な判定。

それが不服な一部の観客からヤジやブーイングが飛んでくる。

 

『あんなんボールだろうが!』

『目ん玉ついとるんかワレェ!』

 

――審判を無礼るなよ

 

声が聞こえた方を睨むと、罵声は収まった。

 

最大のクライマックスを迎えた緊張感。

世界の頂点が見えた高揚感。

寸前の微妙な判定への不満。

球場は、異様な空気に包まれている。

 

そんな空気を気にしない観客もいる。

例えば、バックネットのすぐ裏側で声を上げながら日本を応援している、

タテジマのユニフォームを着た芦毛のウマ娘の子だ。

好きなバッターが追い込まれてちょっとべそをかいているが、

メガホンを振り回しながらユタカを必死に応援している。

 

「かっ飛ばせー!ユ・タ・カ!」

 

守備に就いているアメリカ代表達も特に気にしていない。

マウンド上のマイルズバーグは右腕の袖で止まらない汗を拭い、

不敵な笑顔を浮かべてキャッチャーのサインに頷いた。

対応するようにユタカの両腕が持ち上がり、バットの先を揺らし始めた。

 

数秒後、マイルズバーグがゆったりと振りかぶる。

走者の事など気にしない、全力のワインドアップ。

鞭のようにしなる右腕から放られるのはインハイへのストレート。

 

その瞬間、スコアボードの球速欄に107マイル(172.2km/h)が記録された。

 

ユタカのバットが弧を描く。

そこに来るのが分かっていたのか、右腕を押し込んでのフルスイング。

 

正直、当たった時の音がどんなのだったかは覚えていない。

バットが振られたことに気づいた瞬間、ボールが遠くに消えていた。

 

ボールはライト側に大きな弾道を描いて飛んでいき、

――数秒後、ホームランスタンドに叩き込まれた。

 

バットを置き、笑顔でダイアモンドを回り始めたユタカ。

流石に右腕が痺れたのだろうか、右手をプラプラと揺らしている。

 

『――きゃあああああああっ!』

 

呆然としていた観客たちも正気に戻り、思い思いの声を上げる。

その最中、日本ファンの歓声とアメリカファンの悲鳴に紛れ、

ホームランボールが頭にぶつかって倒れるおじさんが見えた。

救護チームが担架を持ってきたが大丈夫か?

隣のピンク色の髪の子が置いて行かれたぞ?

 

 

30分後、判定の検証などを済ませて職員用の出口から球場を出る。

すると、先ほどのピンク色の子が泣きながら出口を回っていた。

 

「どうしたんだい?」

 

「パパ、あたまにボールがあたって、どっかにつれていかれちゃった……」

 

球場で搬送されたあのおじさんの娘さんだった。

職員に確認すると、病状は特に問題ないらしい。

娘を連れてきて欲しいとのことで、救護室まで案内することになった。

 

「お名前を教えてくれるかな?」

 

「んっ……アグネスでじたぅ……あぅ、またいえなかった……」

 

名前をちゃんと言えずにしょんぼりしてしまった。

うーん、この子はまだLが発音できないんだな。

だったらこう呼んだほうがいいかな?

 

「――デジたんって呼んでもいいかな?」

 

「いいよ!でじたn……デジたん……あたしもいえる!」

 

喜んだデジタルは、目を輝かせながら救護室に着くまで色々と話してくれた。

好きな物だったり、家族や友達との思い出だったり。

 

「デジたんね、ウマむすめちゃんたちがだいすき!

 みんながなかよくはしってるのがすごいの!」

 

「ダートもいいけどしばもみてみたいな、ってパパにいったら

 つれてきてもらったの!」

 

特に出身地について興味を示してくれた。

自分のよく知らない国というのは子供にとって興味深いものらしい。

 

「おにいさんはどこからきたの?デジたんはケンタッキー!」

 

「お兄さんはね、日本っていう国から来たのさ」

 

「あー!たいせんあいてのくにだー!

 ねえねえどうやってきたの?はしって?」

 

「それはね、お空を飛んできたんだよ」

 

「うわあ、カッコいい!」

 

目をキラキラと輝かせたデジタルは、ポーチをごそごそと漁る。

しばらくして、サインペンと白球を取り出してきた。

もしかして俺を忍者と勘違いしてないか?

 

「おそらをとべるのってかっこいいからこのボールにサインして!

 マイルズバーグじゃなくてもにんじゃのおにいさんならいいよ!」

 

まあ子供の夢は壊すまい。

白球に、アルファベットでShiraiとサインする。

そういえばこっちは名乗ってなかったな。

 

「おにいさんはシライっていうんだね!よろしく!」

 

互いに名前を知ってすぐ、救護室に辿り着いた。

入口の職員から連絡が入っているらしく、顔パスで通してもらえた。

 

ドアを開け、ベッドを確認する。

 

そこには、担架で運ばれたあのおじさんが起きていた。

デジタルの目に涙が溜まる。

 

「ほら、行ってきてあげなさい」

 

「う゛ん゛!」

 

デジタルが手を広げてベッドに走り、ぴょんっと跳ねて抱き着く。

おじさんはふくよかな腹で受け止めた。

 

「よ゛か゛っ゛た゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!」

 

泣きつくデジタルを撫でながら、おじさんはこちらを向く。

 

「ありがとう、審判の君」

 

「いえ、迷子の子供を案内しただけです。」

 

当然のことをしただけだ。

 

「それでもだ。私にとって今日のヒーローは君だよ、日本人。」

 

真面目な顔でおじさんの言葉は続けられる。

 

「審判の件で複雑な気持ちだろうが、自分を誇ると良い。

 君は正しいことをしているのだから」

 

あの判定の件に関する慰めだろう。いえ、批評は慣れていますから。

そう言うつもりだったが、おじさんに抱きしめられた。

 

「これでも親だからね。泣きそうな子供は放っておけないだろう?

 ホームランボールは取り損ねたが、大事なものは取りこぼさないよ」

 

HAHAHAと豪快に笑うおじさん。これからはファーザーと呼ぼう。

 

「そうだ。お礼には軽いかもしれないが、今年のダービーに招待するよ。

 家の近くだが、毎年とっても盛り上がるんだ!」

 

「あ、ありがとうございます。都合が合えばぜひ寄らせて頂きますね」

 

最後にブンブンと腕をシェイクされ、アグネス家を出る。

外に出ても、見えなくなるまで玄関から手を振ってくれた。

 

プロ野球は4月から10月まで試合が入っている。

もう一家に会うことは無いだろうなあ、と漠然と思っていた。

 

だが、帰国してすぐの報告の場で。

上司からの衝撃的な一言と共に数か月の休暇を取らされる羽目になった。

 

「シライ君、色々と疲れただろう?ちょっと休むといい」

 

――7月から2軍戦に復帰してもらう。

 

そう告げられた俺は何も言い返すことができなかった。

アメリカ戦の判定がそんなに不服だったか。

 

そこからどうやって家に帰ってきたかは覚えていない。

スーツを脱ぎ、ベッドに体を放り投げる。

その日の行動は、アグネス家にダービーを見に行くという電話だけだった。

 

しばらくは、テレビ中継をぼんやりと眺めるだけだった。

 

 

――20XX/5/17 ケンタッキー州 アメリカ合衆国

 

飛行機に乗り、無事ケンタッキーに着く。

1ヶ月と少ししか経ってないせいで何も感慨がない。

 

「やあシライ、元気かい?」

「あー!シライだー!ひさしぶりー!」

 

あの時よりやつれていた筈なのに、一家は何も聞かずに歓迎してくれた。

その日の晩、ミント味のカクテルを片手にフライドチキンを貪りつくした。

デジタルはたんぽぽジュース。文句を言っても駄目だ。

 

翌朝、元気なデジタルとニヒルな笑みを浮かべたファーザーに迎えられた。

 

「おはよう、ナイススマイルだ」

「おはよー!!!!!」

 

サンドイッチを2つ摘まみ、BNW製の車に揺られてレース場に向かう。

が、頭が痛い。二日酔いと荒い運転はクソだ……。

 

「着いたー!」

 

車を降りると駆けだすデジタル。

賑やかな方から離れ、静かな方へ向かうファーザー。

ちょっと調べたが入口はそっちじゃ――

 

「大丈夫、コネがあるからね。3人までなら関係者席に入れるんだ」

 

恐れ入りました。

 

「オー、ミスター!今年もお元気そうで何よりです!」

 

「ははは、お互い様さ」

 

職員の対応からして明らかに偉い御方ですよね。

まあ気にしないけど。

 

指定された席に座り、メイクデビューなど前哨戦を観戦する。

デジタルは1戦ごとに大興奮していた。

ウマ娘というのは走るのが好きなんだろうなあ。

 

「すっごーーーーーーい!みんな笑顔でキラキラしてわぷっ」

 

フライドチキンとハンバーガーをコーラで流し込み、

デジタルの口についたオニオンソースを拭く。

 

眠くなってきた頃、遂にメインレースのケンタッキー・ダービーが始まる。

ぼんやりと入場者を眺めていると、

 

「んー……11のウマむすめちゃんがするっとかつかも」

 

デジタルが予想したのは、7番人気のウマ娘。

俺?よくわからないから1番人気のウマ娘を予想したよ。

ファーザーは18番人気のウマ娘だった。

たまに人気薄の子が勝つからレースというのは面白いらしい。

 

ゲートが開き、各ウマ娘が一斉に飛び出した。

みんながガシガシと先手を取り合っている。

 

そして全員が第4コーナーを曲がり終えた瞬間、

走っているみんなの輝きに目を奪われた。

 

全力で上下される磨き抜かれた脚。

ゴールだけを見ながら食いしばる顔。

汗と泥で汚れてもなお輝く勝負服。

 

――俺もこんな子たちを育ててみたいなあ。

 

そんな事を思ってたら、ポロリと感想が漏れてしまった。

 

「――尊い……」

 

「てぇてぇ!」

 

デジタルがひょっこりと顔を出してきた。

真似してみたのはいいが、舌足らずで発音が出来ていない。

 

「むっふー!ちゃんといえるもん!」

 

それでも渾身のドヤ顔を決めた子供に指摘はできないよなあ。

とりあえず頭を撫でておく。

 

ちなみにレースで優勝したのは11番の子だった。

内側に陣取り、するりと好位から抜け出しての勝利だった。

デジタルは尻尾をブンブン回してご機嫌だった。

俺の予想した子は2着、ファーザーの予想した子は18着だった。

 

帰りの飛行機、パサパサの機内食を食べながらレースを思い出す。

アグネス家には本当にいい物を見せてもらった。

将来の事、ちょっと考えなおしてみてもいいかもしれない。

 

 

 

 

――――20XX/4/1 東京 トレセン学園

 

8年後、香港の国際試合を最後に審判を辞めた。

予備校で1から学び、トレーナーへの転職試験に成功したからだ。

 

アグネス家とはたまに連絡を取っている。

デジタルはトレセン学園への入学が決まった。

 

「ヒョオオ!憧れのウマ娘ちゃんたちと頑張ります!」

 

順調にウマ娘オタクの道を歩んでいるようだ。

アメリカでも頑張ってほしい。G1とかに出れたら応援に行くからな。

 

そして4月。

芝の整備も完了し、いよいよ新入生を迎える季節がやってきた。

俺の初めての担当バは誰になるのか、今から楽しみが抑えきれない。

 

桜並木をゆったりと歩いていると、ピンク髪のウマ娘が目に入った。

周りのウマ娘を見てあわあわとしてる。初々しいなあ。

 

「ふえぇ……ウマ娘ちゃんがみんな尊いよぉ……」

 

……デジタルか!最近の写真が無いせいで分からなかった!

そういうことならこっちもサプライズしないとなあ?

 

見つからないように通勤路を迂回し、裏門から入ることにした。

……誰にも遇わないな。ここまで来たら大丈夫だろう。

 

入学式は体育館で行われる。

万が一にも鉢合わせないように、後からこっそりと入った。

よし、教職員の山にうまく紛れ込めたぞ。

 

パイプ椅子に座りながら出番を待つ。

理事長の長い話も終わり、ついに職員紹介の時間が来た。

後ろの椅子から立ち上がり、背を伸ばして壇上に立つ。

深呼吸を入れ、トレードマークの大声で自己紹介した。

 

「えー、トレーナーのシライです!若輩者ですがよろしくお願いします!

 新人ですが、皆さんの生活をサポートしていきます!」

 

よろしくお願いします!と、シンプルなお礼で挨拶を締める。

 

――無難なつもりだったが、驚いた顔をしたウマ娘が2人いる。

1人はお嬢様然とした芦毛のウマ娘、もう1人はデジタル。

 

無意識なのだろう、口をあんぐりと開けている。

思わず壇上で笑ってしまった。

 

数時間後、無事に理事長から怒られた。

 




感想と評価ありがとうございます!遅筆ですが少しずつでも返していきます!
感想・ここすきなど頂ければとても嬉しいです!

ウマ娘の小説で野球の大会をメインに描写する作者がいるらしい

後は少しずつほのぼのしていきます

今話の続きみたい?

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