なんか知らんけどマネージャーになってしまった件(仮) 作:わさび醤油
道端に人が落ちていた。
何を言っているかわからないと思うが、もちろん俺もわからない。
見た目は俺と同年代、10代のようだ。頭にはなにやら本格的っぽいヘルメット、少年の横数メートル先にはよく学校に置いてあるのとは違うカゴのないチャリ。
スポーツには微塵も詳しくないが、トライアスロンとか競輪とか自転車を使う競技があるのは知っている。この少年もそんな感じで自転車で速さを競う系(あるいは演技のようなものの完成度を競う系)のスポーツの練習をやっていたのだろうか。
「いたた……」
うお、生きてたんか。
倒れて少ししてから起き上がったって、それ脳震盪とか大丈夫か? いや大丈夫じゃない(反語)。派手に転んだらしいのは自転車の位置からもわかる。
……しかたない、声をかけてやるか。普段はこんなキャラじゃねえんだけど。
「おい、あんた。大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫ですいった!!!!!!」
「ダメじゃねえか」
少年は立ち上がろうとして右足を押さえて蹲った。おいおい、まさか骨折か?
「ちょっと見せてみろ」
「ご、ごめんなさい……」
足首のあたりが少し赤く膨らんでいる。骨折ではないが、捻挫してしまったようだ。
「病院行くぞ」
「あの、僕本当に大丈夫なので!先に行っちゃったみんなに追いつかなくちゃいけないんです」
「やめとけ、これほっとくとこれから一生──」
「一生……?」
少年が喉を鳴らす。スポーツ少年には見えないが、自転車に今後乗れるかが気になるのだろう。
「──一歩踏み出すごとにグキグキグキグキ捻りまくることになるぞ」
「……病院、行きます」
「おう」
俺はそう頷いて携帯電話を取り出した。父を呼ぶためである。
なんと、俺の父親は整形外科を営んでいるのだ。今使わないでいつ使う?
あと、人智を超えた非力な俺ではこいつを抱えるどころか動かせもしない。捻挫した人間に歩かせて変な癖をつけさせてしまったら整形外科医の息子として恥ずかしいからな。
人間諦めが肝心、餅は餅屋。どちらも好きな言葉である。
「うん、軽い捻挫だね。でもちょっと位置戻して正しくアイシングしてサポーターつけてればすぐ治るよ」
よかったね、と人好きのする柔らかい笑顔で父親が言った。めいっぱい上げていた少年の肩がすとーんと落ちる。よかったな。
「じゃあな。サポーターもやるし気をつけろよ」
「お大事にー」
「はい!ありがとうございました!!」
このとき、俺は気づかなかった。
少年の着ているユニフォームに、俺の通う高校である総北高校の名が印刷されていたことに。
そして、これから厄介なことに巻き込まれてしまうことに。
「あの人、すっごく綺麗だったなあ……。アニメから出てきたみたいだ」