1回戦の新協学園高校との試合。試合の展開は……まあまずまずと言ったところだ。たしかにお父さんの高さは驚異的だ。
しかし、火神くんの相手に自由に動かせない戦い方や、黒子君との連携によって勝負はうまく運べている。火神君も戦いの中で急成長してきてるし……金崎君のサポートも相まってさらに威力を増している。
「今回は金崎君はパスに徹してるみたいね……」
あの驚異的なボールコントロールによるシュートは見せていない。お父さんに止められてしまうからか? いや、何となく腑に落ちない
そこであることに気がついた。金崎君の影……存在感が薄いことに。
あくまで、普通の人より多少薄いだけだ。それでも、金崎君の自由度が上がっており、黒子君との連携もしやすくなっている。
「おかしいわね……?」
金崎君はもともとそこまで影の薄い人ではない。チームに貢献するために裏方に徹することもあるが、影が薄いと言うわけではない。
むしろ、あんなシュートをするのだから目立つ方だろう。訳がわからない。
「そういえば、金崎君は黒子君とほぼ同じスタイルを取っているのよね……そうか!」
金崎君はほとんどボールに触れていない。別に影が薄くなくとも、ボールという注目の対象に触れていなければ、自然と他の光に目がいく。
仲間を生かすプレイをすればさらに周りの光が強く輝く。その上で、ミスディレクションを使えば……! 多少影を薄くすることぐらい可能であるはずだ。
そうすると、金崎君がシュートを打ちまくったりしないことも納得できる。いくら何でも、ずっと活躍していればミスディレクションどうこうで影を薄くするのは無理だろう。
その試合で使えないどころか、次の試合でも使えなくなるだろう。単発でも、1回するごとにその試合中は存在感が増してしまう。乱発は明らかにデメリットが大きい。
別にスーパープレイをしても、入る点数は同じなのだ。
だが、ここぞという場面で流れを持っていったり、逆転をするのにはとても有効だ。
……切り札として使うべきなのだろう。
「いや、おかしいわね」
あのレベルの技術があるなら、黒子君のスタイルを取らずに、そのまま正面から勝負した方がいいのでは?
となるとそもそもの話、あのプレイは乱発できないのだろう。何かしら条件があるとか……体に負荷がかかるとか。
それを教えてくれれば良いのだけど。
ガンッ!
コートに響いた音とともに、意識が引き戻される。コートを見ると、金崎君が顔面を押さえていた。
「えっ、ちょ……」
幸いなこと、怪我はしてないみたいだ。すぐに通常の状態に戻り、試合はすぐ再開した。
「ねぇ……いま金崎君は何してたの?」
「えっと……お父さんのブロックの前で真上にボールを投げて、そのボールが顔面にあたってました」
「何してるの!?」
アホじゃない、何でそんなことをしたの? 普通に考えたら、ただのミスとかだろう。でもしたのはあの金崎君だ。
なにか、胸騒ぎがする……
その予感は、すぐに当たることとなる。
お父さんと金崎君のタイマン。滅多にボールを取らない彼が、ボールを取った。間違いなく、何かしでかすだろう。
金崎君がいきなりシュートを打つ。よく見せている片手のシュートとは違い、正しいフォームに沿った──とは言っても独特なフォームだ。
もちろんお父さんはブロックをする。この状況で決められるわけがない、しかし……
金崎君が打ったのは、ほぼ真上。やや、前よりは角度がついているか?
もちろんお父さんのブロックは届かない。しかし金崎君のシュートは綺麗な高弾道を描いて、リングに入る。
「なっ……!」
誰もが驚いた顔をする。当然だ、彼はさっきまであんなシュートは出来なかった、つまり学習したのだ。この短時間で、お父さんを倒すために。
「えげつないわね……」