ワイがバスケで全国優勝したるわww   作:暇です

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カントクでも桃井でもシリアスになっちゃうんで
あと個人的にモブ視点が好きだからです


モブAの観戦

 熱気に包まれ、人がごった返す会場で俺は一番手前の席に座りながらコートを見下ろしていた。もうすでに選手が整列していて、そろそろ始まることが見て取れる。

 ほんの僅かだが、心臓の鼓動が速くなっているのがわかる、初めて生でスポーツの試合を見る事に興奮しているのだろう。

 

「なあ、この桐皇学園ってとこと誠凛ってとこはどんな学校なんだ?」

 

 隣に座り、目を煌めかせてコートを凝視している友人に俺は少し上擦った声で尋ねた。

 

「え? 知らんけど」

 

「え? 知らんの?」

 

「うん」

 

 さも当然かのようにそう言う友人に少し驚きながらも、そういやこういう奴だったなと思い直す。

 でもそれじゃあ何で自分から誘ったんだか……バスケにそこまでの興味があるわけでもないだろうに。まあこいつは思いつきで行動する節があるから聞いても意味はないだろう。

 

「まあ、俺でも桐皇学園に青峰大輝って言うすごい奴がいることぐらいは知ってるけど」

 

「へー、そうなんだ」

 

「お前それも知らないの!?」

 

 俺が言える事ではないのだが、せめて少しぐらい事前に調べたりはしないのか。急に近くで高校バスケの試合やってるからと連れて来られたはいいが、試合の内容とかわかるのだろうか。俺はバスケそんな詳しくないし。まあ細かい部分を除けば、何が起こってるのかぐらいはわかるだろう。

 

「でも、予選とは言え決勝リーグっていう名前からするにレベルは高いんじゃねーの?」

 

「まあそれは確かに……って、もう試合が始まるぞ」

 

 もう審判がボールを持ち、ジャンプボールの体勢に入っている。あのボールが投げられた瞬間試合が始まるのだ。数少ない俺のバスケ知識の一つだ。

 

 笛の合図と共にボールが投げられて試合が始まる。

 

 

「おお、始まったぞ! なんか凄えな!」

 

「落ち着け落ち着け」

 

 そう言っている俺だが、実際に試合が始まると興奮が高まって来る。

 

「まずは桐皇ボールか?」

 

 ここからでは顔などはよく見えないが、黒髪の男がボールを持ってドリブルをしている。そして、茶髪の男へとパスをし……

 

「おお……!」

 

「あんな遠くから入れられるのか!? 凄えなやっぱ!」

 

 見事3Pを決めて来た。決勝リーグともなると3Pなんて簡単に入れてくるのか、俺が学校の授業でやった時は一切入らなかったのに。練習でもそれなのだから、試合でやっている選手の凄さが伝わってくる。

 しかもなんて言うか……パスされてからシュートするまでが早いような気がする。

 

 その後も試合は着々と進み、現在は桐皇がリードしているようだ。

 

「何か、全体的にレベルが高くね?」

 

「凄えなあ……ここまでヤバいとは思わなかったわ」

 

「お前はヤバいと凄いしか語彙がないのか」

 

 まあ同感ではあるが。特に目につくのは、赤い髪の男だ。あのジャンプ力ほんとに高校生か?

 

「ん? あんな奴いたっけ」

 

「何言ってんだお前、人が急に現れるわけないだろ」

 

「そういう事を言ってるんじゃねぇ」

 

 よく考えると居るには居たな。思い返せばちょくちょくパスの中継役になってたのは覚えてる。あの無駄に影が薄い青髪の子よりはマシだけど、アイツも影薄いな。

 

 その黒髪の男がパスをもらい、すぐさま片手でボールを投げようとする。

 

「あっ、そのまま投げんの?」

 

 と思ったら、フェイクだったようで味方にパスをしていた。バスケには片手で投げるシュートとかがあるのか? あんまり見たことはないが。

 というかフェイクめちゃくちゃ上手いな、完全に投げたと思ったわ。全員あのレベルなのだろうか……

 

「そういや青峰大輝がいねーな」

 

「そうなん?」

 

「ああ」

 

 エースなのに出さないのか? 何かあったんだろうか。

 そんな事を思っていると、交代して引っ込んでいた赤髪の男の肩に手をかける男がいた。客から歓声が湧き上がる。まさか……あいつが青峰なのか? そのまんま私服でユニフォームに着替えてすらいなかった。

どう考えても遅刻したという風にしか見えない。

 

「あんな奴がエースで大丈夫なのか?」

 

 

 

 

 しかし、そこから先は圧巻の一言だった。ひたすら青峰が無双し、点差がドンドンと開いていく。影の薄い子のパスも余裕で止め、誠凛は追い込まれる一方だ。

 

 ただでさえタイマンで負けていたのに、赤髪の男が交代してさらにボコボコにされている。もう勝負は決まったと帰る人もちらほら見えてきた。

 そういや青峰も片手でシュートしまくってたし、両手と片手の割合は半々ぐらいなのか?

 

 そんな時、影の薄い青髪の子がパスの構えを取った。しかし、あのパスは青峰に幾度となく止められてるのを見ている。今更やっても無駄だろうに……

 しかし、予想外な事にそのパスは止められることはなかった。ものすごい勢いで飛んでいくパスは、妙に存在感が薄い黒髪の男へと飛んでいった。

 

 その男はパスを取り、そのままシュートを決める。……何か他の人と比べて凄い変なフォームだったが。

 

「つーかあのパスあんな勢いあったのか。よく取れるよなぁ……」

 

 そしてまた、同じようなシチュエーションで青髪の子がパスを打つ。しかし今度は青峰が手を伸ばして止めようとする。

 

 ──しかし、そのパスは青峰の手を吹き飛ばし、黒髪の男の方へと向かう。

 

「えっ……威力やば。人殺せるんじゃね?」

 

 そしてそのパスを黒髪の男が取ると思いきや、パスの軌道を変え(?)そのままゴールにぶち込んでいた。

 

「はい?」

 

「マジ?」

 

 あんなこと出来んの? バスケってドリブル、シュート、パス、ダンクぐらいしか技がないと思っていたが、あんな技あるの?

 あんな目立たない奴が……そもそも軌道を変えるつってもかなりの力がいるだろ、バスケやってる奴は全員ゴリラなのか。

 

「ん……って事はここに居る全員があのレベルのこと出来たりするのか?」

 

「え……バスケ部こっわ!」

 

 

 

「レフェリータイム!」

 

 その声と共に、コートを見るとパスをもらった男が手を押さえている。そのまま、交代して別の人がコートに出て来た。

 

「えっ? 怪我したん?」

 

「まぁ……どう考えてもそうじゃね?」

 

「いやお前……あれで怪我したって事は怪我をするようなパスだと分かっていながら投げて、怪我覚悟で取ったって事じゃないのか? イカれてないか……」

 

「い、いや事故って可能性もあるだろ」

 

「ま、まあ確かに……」

 

 しかし、その後の会話が弾まない。もしかしたら……と言う思考が頭をよぎるのだ。もし、その推測が本当だったとしたらスポーツエンジョイ勢の俺にはついていけない。

 

「帰るか……」

 

「そうだな……」

 

 その日は何も喋らず家に帰った。

 




祝・日間ランキング1位

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