誠凛高校にある家庭科室が、緊迫した空気に包まれていた。基本的にそこはいつもみんなが笑顔で使っている場所なのだが、今日だけは例外だ。
教室の中にはバスケ部の1年と2年全員、それにカントクがいる。夏の合宿で、カントクが料理を作るという大問題に直面した誠凛バスケ部は急遽、名目上の試食会を開き、カントクの料理の下手さを解消しようとしていた。
しかし目の前にあるカレーは正直言って人が食べるものでは無かった。切られてすらいない丸ごとの野菜が入っていて、明らかにおかしい色をしたルーが米にかかっている。
さっきのトントンという音は何だったのか問い質したくなるほどに、絶望的なカレーだった。
怪我をしながらも必死に料理の練習をしたカントクのことを気遣い、日向がまずリタイア、続いて木吉も既に限界そうだ。
黒子や火神、ほかの2年を見ても食べられそうな人材はいない。もはや絶体絶命……その時だった。
覚悟を決めた顔をした金崎が立ち上がり、迷いなくあのカントク特製暗黒カレーの方へと向かっていく。
「バッ、やめろ金崎! 行くな!」
IH顔負けの真剣さで火神が慌てて止めようとするがもう遅い。金崎が迷いなくカレーを大量に皿によそい、食べ始めたのだ。
「あら、おかわり? じゃんじゃん食べて!」
カントクの言葉に従うように、金崎が食べるスピードは上がっていく。金崎はこちらに背を向けて食べているので、表情は分からない。しかし、様子を心配して覗き込んだ黒子が慌てて顔を背けたことから、どんな顔をしているのかは容易に想像できる。
その様子を皆は勇者を見るような目で、黙って見つめていた。
火神にも引けを取らない食べっぷりで寸胴のカレーを食べ尽くした金崎は、コトンと皿を置いてゆっくりと息を吐く。
そして掠れた声で
「ご……ち、そう…さ。ま」
途切れ途切れの声でそう呟き、倒れた。
「金崎ぃ!?」
慌てて火神達が駆け寄ろうとする。だが、それよりも早く金崎の体が倒れた状態のままビクンと痙攣したように高く跳ねたかと思うと、そのまま体をうまく回転させて立ち上がる。
そして、ゆっくりとこちらを向く。
「お、おい金崎。大丈夫か?」
「アア、ダイジョウブサ」
どう考えても大丈夫じゃない。明らかに目が死んでいるし、口調も変わってロボットみたいな喋り方をしている。
「アンカハゼッタイデス。アンカハ、ゼッタイ、ゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイゼッタイ……」
「金崎いぃぃぃ!?」
やばい、これは流石にやばい。部員全員の心境が一致した瞬間だった。
そのまま金崎は教室の外へと足を向け、そのまま歩き去って行った。それを止めるものは誰もいない。当然だ、いるわけがない。せめてもの供養として、金崎が歩いて行った方向に全員が手を合わせた。
「あら? トイレにでも行ったのかしら」
元凶である張本人は、未だ事態を正確に把握できていなかったようだが。
それから、火神の教育により何とかカントクの料理の殺傷性は解消された。翌日には金崎も普通に部活に来て、異常も特に見られなかった。
しかし金崎はその時のことを一切覚えておらず、あの後どこに行ったのかも全く分からないらしい。
そんな事もありそれから1ヶ月間は、金崎の事をみんなで気遣う日々が続いたと言う。
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「征ちゃーん。お客さんよ」
「僕にかい? 誰だろうか」
'このssが洛山戦ぐらいまで続いたら)続く