「帰るぞ、高尾」
あまりにも単純な事にすら気づかない火神にお灸を据えた後、茂みに隠れていた高尾を呼んで、連れて帰ろうとする。
「あれっ、バレてた?」
バレているとは思っていなかったらしく、高尾は驚いた顔をする。まったく……バレているに決まっているだろう。
そして何故かそこには金崎一もいた。火神の様子を見ていたのだろう。すると、金崎は立ち上がり俺に向かって──
「ちょっと勝負しようぜ、1on1」
勝負を持ちかけてきたのだ。何ヶ月前かにシュート勝負をしたこともあったが、今回はそれとは違って単純な1on1らしい。
もちろんそんな勝負を受ける義理は……と言いたい所だが、あいにくとリベンジする良い機会だ。それに、金崎の手の内はまだ未知数なこともある。その手の内を見透かすためにも断る理由は特にないだろう。
「いいだろう、今度こそお前の正体を見破ってやる」
「正体って……俺は人間だけど?」
「そういうことじゃないのだよ」
茶番はさておき、早速勝負を始める。金崎がオフェンス、俺がディフェンスだ。今の所金崎のディフェンスの能力は高くないことが分かっているので、このような形になった。
(まあ……いつディフェンスも成長するか分からんが)
金崎がボールを持ってこちらを真剣に見つめる。少しでも油断した瞬間、シュートを打たれるか、アンクルブレイクで抜かれる可能性が高い。シュートならば防げなくはないが、今の所アンクルブレイクを破る方法は見つかっていない。
とは言っても、シュート一つとっても手数は多くどれで来るのか予想はできない。
その時、金崎の体がボールを片手で投げるような体勢に移った。すぐさま、シュートを防ぐために手を伸ばす。フェイクの可能性を視野に入れながら、どのルートのシュートを打ってくるのか予想する。しかし、金崎が打ってきたシュートはそのどれでも無かった。
(下!?)
金崎が投げたボールは下へと向かい、俺の股下をくぐり抜けた。言い表すことのできない悪寒を感じながら後ろを振り向く。
パスッ
俺の心情とは裏腹に間の抜けた音が聞こえた。ボールがリングから落ちてきてトン、トンと音をたてながら跳ねる。
驚きを隠せないまま金崎の方を見ると、何か落胆したような顔をしてこちらを見つめている金崎が視界に映った。
「ぁぁ……失敗したな」
小声でそう金崎が呟いた。失敗……? どういう事だ。誰がどう見ても今のシュートは成功だ。相手の意表をつき、半ば力技に見えるが驚異的なボールコントロール能力で新技のシュート(と思われるもの)を決めた。
嫌な予想が俺の頭によぎる。つまり……あのシュートには更に上があるのか?
(まったく、なんという馬鹿げた成長速度だ)
目を瞑って一つため息をつく。
……しかし、成長しているのはヤツだけではない。俺はさらに多くのシュートを打てるようになっており、秀徳全体のレベルも上がっている。
「そう簡単に勝てると思うなよ」
宣戦布告として決意を込めた声で言う。だが、金崎だけではなく黒子と火神も格段に強くなる事だろう、激戦は免れなさそうだ。覚悟を固めて、目を開けた時には──
もうすでに金崎はどこにもいなかった。
「おい……金崎はどこだ」
「『俺眠いから帰る』って携帯いじりながら寮に帰ってったぞ。真ちゃんが、『そう簡単に勝てると思うなよ……ライバル』なんてかっこいいセリフ言ってる間に」
色々と言いたいことがあったがなんとか怒りを抑え込み、次戦う時には二つの意味でぶちのめす事を決めた。