タイガとの数年ぶりの再会の後、俺のチームはみごと決勝まで駒を進めることができた。同じように、誠凛も決勝戦まで問題なく進めたようだ。
ついに決勝戦開始の時刻となり、コートに即席チームの仲間とともに整列する。
整列している間は、少しの緊張と、タイガと戦えることへの興奮が胸に詰まっていた。
その後、敦が試合に乱入してきたりとすったもんだあったが、何とか試合開始の笛が鳴って試合が始まる。
(さてと、まずは)
まず俺にボールが渡ってきたため、そのままタイガの方へとドリブルをして行き、フェイクでタイガの体勢を崩した後にシュートを打つ。シュートは綺麗な楕円を描いてリングに入った。
少しの間、観客と選手が静まり返る。
「う、うおおおおぉ!」
そして、すぐに歓声が鳴り響き、相手の選手は慌ててリスタートをしていた。
まずは一点先取だ。このまま俺が点を取って敦がゴールを守れば勝つことは容易いだろう。流石にそこまで単純に行くとは思っていないが。
相手の選手は……タイガと黒子君と無冠の5将の木吉さんと……残りの二人は1年生か? いや、でも隣の黒髪の子はどこかで見たことがあるな。どこでかは思い出せないが。
そこで一旦意識を試合に集中させる。しかし、黒子君へとボールが渡り、黒子君から木吉さんへと高速のパスが繰り出される。そのままアリウープのような形で木吉さんがダンクを決めた。
(流石に無冠の5将の名は伊達ではないか……)
試合が再開すると、またタイガへとボールが渡るが……その目の前には敦がいる。間違いなく止められるだろう。タイガも強くはなっているみたいだが、敦を破るほどの実力はないと見た。
──しかし、その時肌に水滴がポツンと当たった。その後すぐに雨粒が増え、あっという間に大雨になってしまった。
会場には中止のアナウンスが鳴り響く。これは間違いなく中止か……仕方ないか。
そのことに納得いかないタイガが不満を伝えてくるが、落ち着いて諭すと何とか黙ったようだ。
「だけど、せっかくの再会なのにこれじゃ味気ないな」
一つぐらい技を見せてから行くか、そう思ってミラージュシュートをタイガの目の前で打とうとする。反射的にタイガは軽く飛んでブロックする。ただのシュートだから簡単に止められると思っているようだ。
だが、ミラージュシュートは止められない。
ミラージュシュートは最高到達点に達する前に一度ボールを真上に投げ、もう一度キャッチしてからシュートすることによってボールが手をすり抜けたように見えるシュートだ。
ただ反射的に飛んでブロックしただけではブロックするのは到底無理だ。
──その時、横から全力で飛びこんできた黒髪の彼が、俺のボールを手で弾かなければだが
「なっ……」
止めたのか、ミラージュシュートを? 初見でか?
ミラージュシュートは実質ボールを2回投げるため、ボールをリリースしてからのシュートは高さが低くなる。その高さならジャンプ力や身長に自信がなくともブロックすることができる。
けれど、この技を彼に見せるのは初めてのはずで、どんな技すらかも分からないはずだ。一度見るだけでトリックを見抜き、その上シュートを止める方法を思いついて、即座に実行することなんて出来るのか?
恐らく……一回目のボールを真上に投げる動作で即座にミラージュシュートのトリックを見抜き、同時に対策を思いつく。
そして通用するのか、本当に止められるのかを試すために即座に実行したということか……?
「いきなりどうしたんだ金崎? 急に飛び出してきてよ」
「ああ、悪い火神。ちょっと気になることがあったんだ」
やはり、か。……今後もうミラージュシュートを誠凛相手に使えるかは微妙な所だな。
「あ、悪い辰也。もう一回打つか?」
「いや、雨もひどくなってきたし今日はお暇するよ。じゃあ、また会おう」
そう言って小走りで敦の方へと向かう。すぐに雨宿りをしたとはいえ多少敦も濡れており、そのせいか若干ぐったりしている。
「大丈夫か? 敦」
「もう最悪……お菓子も濡れちゃったし」
自分が濡れたことよりバッグに入っていたお菓子を優先する相変わらずな様子に思わず苦笑する。せっかくなので敦に気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば彼……黒髪の子はどういう人か知っていないかい? 敦」
「ええー、知らない。……でもそういえば、赤ちんの昔の知りあいだって聞いた。金崎一っていうひと」
最初は渋っていたが、敦が欲しがっていた新作うまい棒を見せると快く答えてくれた。敦と同じチームだった、赤司君の知り合いか……。
情報はそれだけか……まあ、調べたら何かしら出てくるかもしれないな。帰ったら調べてみるか。
「まあいいか、帰るぞ敦」
「はーい」
ミラージュシュートを初見で見破る洞察力、すぐさま対策を考えて走り出す行動力と判断力。あの黒髪の彼は、間違いなくこの先強敵となるだろう。
今回はそれを知ることが出来ただけよしとするか。
けれど、兄弟に向けて打ったミラージュシュートを、知らない人に止められた時は思わず心の中で「誰だよお前」と思ってしまったことは不可抗力だろう。
祝・お気に入り数8000突破!
まあそこまで区切りの良い数字ではないんですが、この機会を逃すと中々お祝いするタイミングもないので。
ついでに評価も付けてくれてええんやで? (2回目)