ワイがバスケで全国優勝したるわww   作:暇です

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金崎一の覚醒と代償

 第2Q終了後のインターバルの最中、部屋の中を重く、暗い雰囲気が包んでいた。

 

 花宮達によるラフプレーが原因だ。

 誠凛はチームプレーを基軸に戦っている事もあり、全員が仲間思いの選手ばかりである。仮にそうではなくとも、仲間を傷つけられていい気持ちになる選手などいないだろう。

 

 その上木吉はインサイドに一人で立っているが故に、集中攻撃を喰らってしまっている。身体はあざだらけだ。木吉も表面上は耐えると言っているものの、痩せ我慢をしているのは明らかだ。

 

 そんな中、火神もまた仲間思いな選手のため相手のラフプレーに対して苛立っていた。ついさっき、向ける場所がない怒りを物に向けて先輩に怒られたばかりだった。

 

 そんな時、火神は周りがイライラしている中で、金崎だけが黙って座っていることにふと気づく。

 確かに金崎は負の感情を普段表に出さない。しかし、こういう時ぐらいは怒ってもいいのではないだろうか。

 

 話しかけようと金崎に近づき、顔を覗き込む。

 

「っ!?」

 

 その瞬間、火神が感じたのは恐怖。

 

 本来、火神は恐怖とは無縁の人間である。まあ、幽霊などは苦手みたいだが、それは別として今はただのインターバル中だ。そんな中、相手の顔を見ただけで恐怖を感じることなどない。だが、金崎には火神をもそうさせてしまう何かがあった。

 

(第2Q終了直前に花宮と何か話していたが、それのせいか?)

 

 何か花宮が金崎に対して逆鱗に触れるようなことを言ってしまったのかもしれない。そう火神は思ったが、ここまで怒らせるような「何か」の正体が気になっていた。

 

(金崎がここまで怒るなんて……いったい何を言われたんだか)

 

 その疑問は解けることはない。そもそも金崎に直接聞く以外答えなど分かりようがないのだ。そんな事ができる雰囲気ではないし、ならばいくら考えたところで無駄だ。

 

 火神は一旦そこで思考を打ち切り、試合開始まで集中力を高めることにした。

 

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 試合が始まった直後、金崎が第3Qで初めてボールを持った。その瞬間、コートにいる多くの選手が違和感を覚えた。

 

 観客席から見ると何も変わった様子は見られない。だが、コートにいる選手はいずれも曲がりなりにも決勝リーグまで勝ち進んで来た歴戦の猛者達。根拠はないが誰もが「何か」を感じ取った。

 

 そして、金崎がボールを投げた。金崎の得意技である片手シュートを放ったのだ。ここまではいつも通り、ボールは花宮の顔スレスレを通り抜けてリングに入る。

 

 霧崎第一の選手は少し動揺するも、あくまで想定の範囲内だ。すぐに気を取り直して攻め直す。しかしすぐさま黒子がスティール、ボールは誠凛へと渡った。

 

 ──そしてまたもや、ボールは金崎の手に渡る。金崎が立っていた場所はまるで黒子がスティールをするのを予知していたような絶妙な位置だった。

 

 当然パスは金崎へと渡る。金崎はまた、花宮の顔スレスレにボールを投げた。

 

 ここの辺りから霧崎第一の選手は違和感に気づき始める。ほとんどのボールが金崎へと渡り、そのどれもが花宮の方へと投げられそのままシュートが決まる。

 

 仮に花宮がリングに入れることができないような位置にいても、股の下を通してバウンドさせるシュート、もしくはパスで得点につなげてくる。

 また、秀徳戦で見せたリングを利用したパスなども使っていた。金崎はまるで今までの集大成かのようなプレイを見せ続ける。

 

 今までの勿体ぶったプレイは何だったのかと思えるほどスーパープレイを乱発し、霧崎第一を圧倒していた。

 

 だか、そのスーパープレイと流れによる影響を加味したとしても、ありえないと言っていいほどのスピードで点差が開いて行く。

 

 そのまま一切反撃の余地を与えず、手を緩めないまま試合を終えた。

 

 

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 霧崎第一戦を終えて、皆が喜びに包まれたまま帰宅をした。だが一人、ロッカー室へと小走りで向かう者がいた。

 

「ハァ、ついてないわね」

 

 軽く息を切らしながら、ない胸を揺らし急いでロッカー室へと一直線に向かう。忘れた物をしたことに帰宅途中で気づき、急いで帰ってきたのだ。

 

 まあとは言っても、今日は宿敵とも言える霧崎第一に勝ったのだ。この程度の不幸などなんて事はない。

 

 少し不安なのは……今日の金崎君のプレイ。試合終了後は祝勝ムードだったのと、問いただしてみてもやはり偶然としか返ってこなかったので一旦保留にしていた。しかし、今日の神がかり的なプレイの裏に何かあるような気がしてならない。インターバル中の様子もおかしかったし……心配ね。

 

 そう気分を持ち直すと、まもなくロッカー室の前までたどり着く。そして、ロッカー室に入ろうとした瞬間──

 

 血で服を赤く染めた金崎君を目にしてしまった。

 

 反射的に壁で身を隠す。どうやら、金崎君は自分の状況で頭が一杯だったようで気づかれた様子はない。

 それから、頭の中にありとあらゆる思考が駆け回る。

 

 今回の試合のせい? 病気? あのプレイのデメリットなのか? 隠していたのか?

 動き出した思考は止まる事なく回り続ける。

 息が荒くなり、一年前──鉄平との痛い思い出がフラッシュバックしてしまう。

 

「ちっ……無理しすぎたか」

 

 そんな声が耳に刺さる。無理しすぎた……その言葉の意味は今回の霧崎第一戦でのプレイの事を指しているのだろう。

 その声は存外辛そうなものではなく、少しの安堵を覚えるがそれ以上に心配の念が強くなる。

 

 あのスーパープレイにはデメリットがある。その事実は予想はしていたものの、実際に目にすると気が遠くなってしまう。

 怪我や故障ではないのは確かだ。だが、バスケでスーパープレイをする代わりに精神的ダメージを負うなんて聞いたこともない。

 

 金崎君はそれを知っていたからこそ、今まで乱用は避けていたはずだ。ならば、今回の試合で使ったのは何故か?

 

 花宮君と金崎君の間で何があったのかは分からないけど、彼の逆鱗に触れるような事があったのだろう。何か、譲れない物が。

 

 そこまで思考がまとまったところで、私がどう行動するべきなのか考える。今、ロッカー室の中へ入り金崎君に話しかけるべきか。一旦はそのまま帰って、よく考えてから行動を起こすべきなのか。

 

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 そして、私は金崎君に話しかける事なく帰路についた。色々と理由はあるが、とりあえず私の頭の中を整理したかったのだ。

 それにあの証拠現場を押さえたところで、金崎君はトマトジュースですよなどと言って、しらを切るだろう。逆に隠すために病院に行かなくなったりして、逆効果の可能性もある。

 

 これが最適解なのかは分からないが、今の私の混乱した頭ではこの答えが精一杯だ。

 

 それならば、先に他のチームメイトやお父さんに相談してからどうするのか決めるべきだと思ったからだ。

 

 でも、一つだけ既に決めている事がある。普通に試合をしていれば金崎君が限界を超えてプレイをする事はない。では、どのような時に金崎君は無理をしてプレイをするのか。

 今回の場合はかなり特殊だろう、花宮君と前から関係があったみたいだし、あそこまでのラフプレーをするようなチームはほとんどない。

 

 では他には? ……恐らく金崎君の性格から考えると試合に負けそうな時、勝つのが絶望的な時だろう。状況が絶望的であればあるほど、金崎君はそれに応じて無理をする。

 

 となると、金崎君を出場させるのは少し控えたほうがいいかもしれないわね。でも金崎君抜きでは厳しい場面もあるだろうし、その場合は……

 

「ハァ……」

 

 想像以上に厳しい現実に、気づくと私はため息をついていた。




地の文のクオリティが上がりません

次回は花宮視点です

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