ワイがバスケで全国優勝したるわww   作:暇です

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花宮真の奮闘

 花宮真は生まれながらの悪童であった。人を騙し、利用して、その内面は人には決して見せない。花宮は生まれながらにしてそれが異様なほど上手かった。

 

 小学生の花宮は先生の機嫌を取り、なおかつクラスメイトから妬まれるかのようなことはなく、むしろ慕われるように振る舞っていた。

 小学生にしてはやってる事が腹黒く、異常ではあるが今の花宮からすれば可愛い物である。

 

 ふと、休み時間の最中花宮は窓の外を見た。爽やかな風が吹き抜け、無邪気な笑い声が聞こえて来る。さらに桜が咲き誇るこの景色を見ていたら誰でも頬が綻んでしまう物だ。

 花宮に関しては誰も教室にいないことを良いことに顔を顰め、舌打ちをしていたが。

 

「ん……?」

 

 そんな時、ある一人の子供が花宮の目に止まった。正直言って他の有象無象と一見大して変わらない。

 なのに何故か、見ていると無性に腹が立つ。自分の神経を掻き回されるように、感情が波打つ。

 常人だったならばその対象を見続け、その感情をさらに増幅させていた所だが花宮はそんな事はしない。

 すぐさま窓からの景色を見るのやめ、視線を手に持っている本に移した。考えても無駄な事は忘れるに限る、合理的な考えだ。

 

 そこでもう、無性に自分の腹を立たせる存在とはお別れ、そのはずだった。

 

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「くそっ……」

 

 思わずそんな声が口から出る。湧き出て来る怒りを何とか押さえつけようと抗うが、怒りは止まる事なく無限に湧き続ける。

 

 ボリボリと頭を掻きむしる。別に、頭が痒いというわけではない。頭を掻きむしるという行動は、自分の思うように事が運ばないときにもする物である。

 

 ならば今花宮が苦しんでいるものの正体は何か? それは、先日偶然目にし、さほど気にしていなかった少年の存在である。

 

 一時は花宮はその存在を忘れていた。ふとした時に彼の──あの憎たらしい笑顔を思い出してしまうのだ。

 

 思い出してしまったが最後、そこから押し寄せるのは怒りの奔流。初めて目にした時に感じた怒りよりもさらに強くなっている。もちろん怒りを忘れるため、彼の存在を忘れるための努力はした。

 しかし、どれも碌な効果を示すことはなかった。どうしても頭にあの笑顔がこびりついて離れないのだ。

 

 学校でその少年を見かけるたびに、さらに強い不快感を感じてしまう。そんな状況を解決するために、花宮は一つの策を講じた。

 

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 花宮はその少年のことを虐め始めた。学年が別とはいえ、花宮からしたら虐める手段などいくらでもある。少年のクラスメイトを利用したり、花宮自らが悪い噂を流したり、出来るだけ心を抉れるようにやれることは全部やった。

 

 何故花宮はそんなことをしたのか。理由は簡単で、笑顔を見て腹が立つのなら彼から笑顔を無くしてしまえばいいのだ。徐々にその笑顔が曇り、苦痛に歪んでいく様を見ればこの苛立ちが治ると思ったからである。悪童、ここに極まりと言った感じだが花宮にとってはそれが当たり前のことであった。

 

 しかし、花宮の目論見は外れる。椅子を隠そうが、上履きを盗もうが動揺することすらなく、むしろ嬉しそうな表情をして家に帰っていく。

 どんな噂を流し、どれだけ裏で陰口を言われようとも一切に気にしている様子もない。先生まで利用してクラスの笑い物にしようが、全く意味をなさなかった。

 

 次第に、イジメは暴力的なものに発展していく。これで流石に彼でも参るだろうと花宮も思っていた。

 

 しかし、とにかく暴力的なイジメは彼に防がれる。上から物を落として怪我をさせようとしても、何回やろうが見事に避けられた。

 集団でリンチをしようと、帰り道待ち構えているとその時に限って別の道から帰る。直接休み時間中に殴りかからせると、向かっていった人の顔面にバスケットボールを直撃させられた。

 退学をさせようとも試みたが、権力者でも裏にいるのかうんともすんとも言わない。

 

 いつまで経ってもその笑顔は変わらず、むしろ前より笑ってる時間が長くなったぐらいだった。その辺りから、彼の笑顔を不気味に感じるようになった。

 

 小学生とはいえ、花宮も多少は外的要因により精神を病み、やがて壊れていく姿を見てきた事はある。だからこそ、花宮の目には少年があまりにも異常に映ったのだ。

 

 次第に花宮はその少年──金崎一の情報を集め始めた。あくまで小学生なので、そこまで緻密な情報は集められなかったが、それでも十分すぎるほどの量が集まった。

 

 より、イジメの方法は金崎の弱点、心の隙を突くようなものに変わっていくがやはり効果が出た様子はない。

 

 花宮はそのうち嫌気が差していき、気付くとイジメをやめていた。それでも金崎の笑顔が癪に触り、不快なのはいつまで経っても変わらないまま。

 

 それを何とか我慢して耐えているうちに、卒業の時が来た。自分が実質敗北したという事実に憤りながらも、時が戻ったりするはずもなくそのまま卒業することとなった。

 

 

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 そして今、俺は憎き金崎一と向かい合っている。バスケスクールに通っているという事は知っていたが、中学では一切活躍したという話は出て来なかった。まさか、誠凛にいるとはなぁ……

 

 金崎は背も伸び、体も多少ごつくなっており、顔は……たいして変わらねぇか。

 

 個人的な感情にしても、誠凛を負かせるためにもまずは金崎に精神攻撃を仕掛ける。事前の情報では金崎が誠凛のプレイのキーパーソンになっている事がわかった。金崎を何とかして動揺させれば、そこから誠凛を崩す事は容易いだろう。

 

「久しぶりだな、金崎一。小学校の時は俺が面倒を見てやったよなぁ? もちろん覚えてるだろ。あぁ……そういや、あの時はお前の椅子が無くなったり、クラスの笑い物にされたりして大変だったな」

 

 イジメの過去を抉るように言葉を繋げる。ほとんどの人物はこれで怒り狂って冷静さを失うか、辛い過去を思い出して十分に実力を発揮できなくなるだろう。

 

 だが、金崎はまるでそのことを懐かしむように薄く微笑むだけだ。一切傷ついたり、怒ったりはしない。確かに金崎に対してこういう方法は効果が薄いことは知っていた。それにしても、ここまで効果がないのか……

 

(ちっ、面倒だな)

 

 また別の方向から精神攻撃を仕掛ける。やはり、バスケの選手というのは自分に対しての攻撃より、仲間に対しての方が過剰に反応する奴が多い。

 

「先輩が苦しそうにしてんなぁ? 可哀想に。あれじゃいつまで待つか分からねぇな。お前のその醜い面が歪むのをみるのが楽しみだぜ……ッ!」 

 

 俺がその言葉を言い切るよりも早く、怒り……いや殺気と言える代物の威圧感が俺を包んだ。金崎を見ると、鬼のような形相で俺を睨んでいる。……怒らせることには成功したようだな。これで動揺して冷静さを失ってくれれば良いんだが。

 

 その発言の効果を花宮は第3Qで知ることとなる。

 

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「あんた、この試合負けるぞ」

 

「はぁ? ふはっ。去年出来たばっかで、お前らに手も足も出なかった奴らに? 舐められたもんだな」

 

 花宮は偶然、トイレで青峰と遭遇していた。いきなりそんなことを言われた物だから花宮は怪訝な声を出す。

 

 俺が負けるか……どういう根拠でそれを言っているんだか。第3Qからは蜘蛛が完成する。もう誠凛は何も出来ねぇよ。

 

「別になめてるとかなめてないとかそーゆー話じゃねぇ。理由なんざねーよ」

 

「……」

 

「ただアンタはテツを怒らせた、そんだけだ。それと……アイツ、金崎の雰囲気が俺とやった時と似てた。多分あの時より酷えよ、ああなった時のアイツは一筋縄じゃいかねぇぞ」

 

「チッ……」

 

 青峰の言葉に神経を逆撫でされ、足早にそこを去っていく。花宮はそういった言葉は言われ慣れており、もはや何も感じない。しかし、そこに金崎が絡んだ途端感情が揺さぶられる。

 

 その事実にさらに憤りながらも、花宮はその怒りを原動力として試合に臨んだ。

 

 しかし……

 

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 目の前にいる、金崎一という人間は花宮にとって非常に癪に障る人間である。正直言って元々良い印象など一つも抱いていなかったが、今や花宮は金崎のことが悪魔に近しいものに見えていた。良くも悪くも印象的な笑顔は消え去り、表情、雰囲気からも怒り狂っていることがひしひしと伝わってくる。

 

 本来それは、花宮が望んでいたこと。小学生の数年間、叶えるために色々と策を講じた長年の願い。それを達成したのにも関わらず、花宮は達成感など微塵も感じず、心は泥に包まれたかのように闇に落ちていた。

 

(くそっ、何で蜘蛛が通じねぇ……!)

 

 ここで花宮が言う蜘蛛とは、あの8本足のスパイダーのことではなく霧崎第一特有の戦術の名である。

 仕組みは単純で、PGの動きや思考を読んでパスをスティールするだけだ。その戦術は花宮の脅威的な頭脳と花宮の読みに唯一ついて行ける瀬戸のIQ160の頭脳により生まれる。

 

 金崎のパスは大抵は正確で常に最適解を選んでいるような代物だった。だからこそ読みやすく、頭に血が上ってる今ではさらに攻撃が単純になっている……筈だった。

 

 第3Qの金崎のプレイはデタラメだった。前提として、基本的に全てのパス、シュートが花宮の体スレスレを通る。

 それならば余計に読みやすいのでは? と思うだろう。しかし、そこに黒子のパス、フェイク、リングを利用したパス、バウンドさせて入れるシュートなど多彩な技が加わり、何よりボールの速度が尋常ではなかった。

 

 立ち位置、パス、タイミング全てが読めない。前半で分析した──いや、刷り込まれたとも言える金崎のプレイは見る影もなかった。

 

(チクショウ……、クソが!)

 

 試合は既に第4Qの終盤、点差と時間から逆転が無理なことが見て取れる。

 

 残り時間が減るにつれて、花宮の怒りは燃え広がるように増幅していく。もはや、自分の意思でその怒りを抑える事は不可能となっていた。

 

 花宮はそこである行動に出る。

 

 黒子に向けてのラフプレーだ。今までと同じように見えるだろう、しかし実際は全く異なる。花宮はどんなラフプレーも審判に指摘されないように、バレないように行っていた。それは花宮にとって絶対のルール、だった。

 

 今回の黒子に向けたラフプレーは黒子を再起不能にするために全力を懸けた物。審判には高確率でバレるが、黒子に避けられることもなくまず間違いなく黒子は選手生命を絶たれるだろう。

 黒子を狙ったのは、金崎に一番ダメージが行くと思ったからだ。

 

 もはや、花宮の理性が止めようとした時には花宮自身にも止められない所まで来ていた。

 

(後悔しやがれ、金崎一!)

 

 花宮の手が黒子へと向けられ、黒子の選手生命が絶たれるその瞬間──

 

 パチン!

 

 そんな音とともに、花宮の手がボールによって弾かれた。その事を花宮が認識するまでの数秒の間に、ボールが黒子へと渡って金崎へとボールがリターンする。

 

 花宮が我に帰った時には既にボールは金崎へと渡り、こちらへシュートを打とうとしていた。

 

「ふざけんなよ……てめーみたいな奴が俺の、俺たちの邪魔をするんじゃねーよ!」

 

 そのまま、霧崎第一は決勝リーグ最終戦をダブルスコアで敗退した。




ここまで長くなるとは思わなかった……
ようやく桐皇戦に入れそうです。でもそれを書き終わってもまだ16巻、後半分ってことは完結はラストゲーム含めて80、90話ぐらいか……?

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