桐皇と誠凛との試合が終わってから間もない頃、緑間と金崎は偶然出会った。金崎は自販機で飲み物を買いに、緑間はそのまま帰ろうとしていた。
「……奇遇だな、金崎」
「ああ、奇遇だな」
緑間の言葉に対し、金崎は手を上げて軽い口調で返す。緑間は妙に神妙な顔をしており、いつも通り手にはラッキーアイテムのイヤホンが握られていた。
とは言っても、緑間はそこまで愛想が良い方ではない。軽い挨拶で会話は終わって帰るのだろうと金崎が思っていると、予想外なことに緑間が話し始めた。
「お前の今日の試合で、アンカーアイの正体が分かった」
「……?」
真剣な表情でそう告げる緑間に対して、金崎はキョトンとした表情。そんな事を気にもせず、緑間は言葉を続ける。
「まず、俺はアイとついているからこそ、眼という器官に意識が行き過ぎていた。けれども、今回の試合でそれが間違いだったという事に気がついた」
「…………?」
金崎は依然として要領を得ないような顔で、頭をかいている。そんな金崎の様子を分かっていないのか、更に緑間は言葉を続けた。
「今回の試合でお前は青峰相手に目を閉じ、その上で止めてみせた。つまり、お前のアンカーアイの能力は眼による物ではないという事だ」
「………………?」
「視覚が無くなった時、頼りとなるのは聴覚と触覚だ。生まれつき盲目の人は聴覚のみで周りの状況を正確に把握するという」
「いやちょ「つまりお前の能力は五感の強化だ。それによって、人並外れた反射神経を生み出し、正確無比な予測をしているのだろう?」
「何言っ「目を閉じた理由は能力による負荷の軽減だ。能力によって視覚、聴覚、触覚の3つが強化されると、脳の処理速度が追いつかないほどの情報が流れ込むだろう。そんな事になれば自然と体のどこかに不調をきたす。そこで、主に8割の情報を得ていると言われる視覚を閉じる事によって、多少効果が落ちるものの体の負荷を軽減することが出来るはずだ」
「話聞け「そもそも、アンカーアイの能力が限定されたものならば、今までお前が成し遂げていたことを説明するには無理がある。だからこそ、根本的な能力の底上げ、五感の強化という結論に辿り着いた。ここまで俺が話したことに間違いはないか?」
「……おっ、そうだな」
「『アンカー』というネーミングに関してはお前のことだ、深くは考えずに勝利を繋ぎ止める者というニュアンスでつけたのだろう」
「おっ、そうだな」
「これでお前の正体は暴いた。次戦う事になるとしたら、決勝戦しかない。それまで負けるなよ」
「おっ、そうだな」
「フッ……」
「おっ、そうだな」
そう言って、緑間は金崎に背を向けて去っていく。緑間の表情は何かをやり遂げたように、清々しさに溢れていた。対照的に金崎は困惑した顔で、何だあいつとでも言うような視線を緑間に送っていた。