「金崎……」
ゴールへと向かう金崎の前に紫原は立ちはだかった。
ヘルプに行ける選手はおらず、完全に紫原と金崎の1on1の状況。紫原と金崎がこの前まいう棒を賭けて戦った時と同じ状況だった。
金崎のはるか後ろで、黒子がパスを金崎に向けて繰り出そうとしている。必然、ここで金崎にパスすることは明白だろう。
紫原にとっても無意識に、先の1戦で負けたときに感じた悔しさがフラッシュバックする。紫原の中に、負けたくないという思いが生じた。
そこで、紫原は初めての感覚を体験する。何か扉のような物をこじ開けたような感覚。
全ての神経が金崎に集中され、一挙一動を見逃さないように注視する。
紫原のゾーンは通常のゾーンとは異なっている。ただ、金崎の本気を破るためだけに生まれたゾーンだった。
今の紫原ならば、股抜きシュートですら防げたことだろう。しかし、ここで金崎は更なる進化を見せた。
ギギギギゴガギギギ! ギガッゴガッギギギ! ドドドドドドド! ギガッゴゴゴゴゴゴ! ドスン! ドドドドドドド!
(はっ……!?)
そんな音が紫原の頭に響く。しかし、すぐに気を取り直して金崎の動きに集中する。とは言え多少集中は削がれ、完全なゾーンとは呼べない。95%と言うところが妥当だろう。
そんな紫原に更なる追い討ちがかかった。
「ゴボッ! お前らちょいやめ、ゴボゴボッ、何するん、ゴボッゴボゴフッボゴボゴ、苦しッ……ボゴボゴボゴボゴボゴボゴ、誰か助け、ガフッ」
まるで実際に誰かが喋っているのではないかと思えるリアルさに、紫原はフリーズしてしまう。
金崎はそのまま黒子から放たれた
紫原も反応はできた。しかし、通常の股抜きシュートより遥かに加速された状態で放たれたシュートに触れる事はできず、紫原の手は空を切った。
鼓膜が破れるような轟音とともに、ボールはバウンドしてゴールへと向かった。
紫原は慌てて後ろを見るが、時すでに遅し。ボールはリングを潜り抜けて、地面へと緩やかに落下した後だった。
一方その頃……
「110番か? それとも、119か? いや、溺れてるって事は海の何かにかけた方がいいのか?」
「どしたの大ちゃん……?」
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「なぁ、金崎お前ゾーンに入る時いつもどうやってる?」
ゾーンにばっか頼ってちゃダメだ。まずは俺なりに出来ることをやらねぇと。
そう思って、金崎にゾーンに入る時のことについて聞いてみる。金崎も必死に勝とうとして、無意識にゾーンに入っているんだろう。初めから頼るなんておかしい話だ。
「ゾーンか。いつも無意識だからな」
やっぱりそうか、ゾーンに入ろうとしてちゃ悪循環だよな。まずは出来ることからやっていかない……
「でも、扉にテープとか貼ってあったらまずは剥がしたらいいんじゃないか? 後は、黒い奴らの手を借りるとか。でも、あいつら水の中に引き摺り込んだりしてくるから気をつけろよ」
……?
「でもあんまり何度も破ると、扉が可哀想になってくるから困るんだよな。だんだん修理のレベルも上がってくるし」
…………?
「まあ、お前もいずれ扉のとこで反復横跳びしてゾーンに入ったり出たり出来るようになると思うぜ。頑張れよ」
そう言って、金崎はゴールの方へと戻っていった。
……まあ、聞かなかったことにするか。
一応イッチはカッコつけてるつもり。つもりなだけ。