薄々予想していた展開に直面した黄瀬は一つ息をついて、顔を上げる。黄瀬の目線の先には悠々と腰を落として立っている金崎がいた。
ここで金崎を倒さなければ勝ちはない。そんな揺るぎない事実を前に黄瀬は自分が金崎を本当に倒せるのかと逡巡してしまう。
(いや……違う、勝つんだ!)
しかし、そんな迷いを振り切って改めて闘志を奮い立たせる。極限まで研ぎ澄まされた二つの目で、しっかりと金崎を見据えた。
勝負は唐突に始まった。一瞬の隙が金崎にできたと黄瀬が見るや即座に右へのドライブを仕掛ける。金崎もそれに応じてなんとか食らいつくと、黄瀬はチームメイトの方へとボールを向けてパスをしようとする。
しかし、それはフェイク。一歩下がり、ボールを片手に持ったまま金崎のようなフォームでシュートを打とうとする。
完全に決まったと黄瀬が安堵したその時──
(どうして……跳んでいる?)
金崎はパスのフェイクに引っかかり、体勢が崩れていた。タイミング的にも、黄瀬がシュートを打とうとする前から跳ぼうとしなければ間に合わないはず。
なのにも関わらず、跳んでいる。脳が現実を否定したがっていた。既にボールは黄瀬の手を離れかかっている。体勢もいいとは言えないため、今更シュートをやめるわけにはいかない。
(まだだ・・・!)
とっさに手を動かして、ボールを横にはじく。そのボールが向かう先には笠松がいた。
笠松は震える体を押さえつけて、構える。息をのむ間もなく、シュートが放たれた。一瞬の静寂の後、リングをボールが潜り抜ける心地いい音が会場に響いた。
「「「「うおおおーーー!!」」」」
会場が興奮に包まれ、海常のチームメイトが諸手を上げて喜んでいる最中。
「言ったはずだぜ…計画通りだってよ!」
火神が全速力で走りだし、それに伴ってボールが火神に向けて投げられた。
「なっ!?」
誠凛の意表を突いたカウンターが始まったのだ。慌てて海常も追いかけるが、動き出しが遅れたため、間に合わない。
その中で、黄瀬のみが驚異的な身体能力で火神の前に立ちふさがった。ゾーンに入っているだけではなく、パーフェクトコピーを併用している黄瀬に対して火神は勝算が低いと判断し、咄嗟に金崎にボールを回した。
またもや向かい合う黄瀬と金崎。前の攻防と同じ状況となった。違うのは、今度は金崎が黄瀬を破らなければ負けが確定してしまうという点だ。
黄瀬は最後の力を振り絞ってエンペラーアイを発動する。もうとっくに限界を超えていたため、黄瀬の体に大きな負荷がかかり、一瞬めまいを覚えるが気力で持ち直す。
黄瀬の手は正確に金崎のボールへと向かうはずだった。しかし、黄瀬の手は宙を切った。
(……な!?)
驚きのあまり目を見開く黄瀬。
何故なら、金崎が実際にとった行動はエンペラーアイで見えた未来とかけ離れたものであったからだ。
黄瀬のエンペラーアイはあくまで模造品である。しかし、模造品というにはあまりにも完成度が高かった。
本物さながらのエンペラーアイが未来を予測し損ねた原因は、黄瀬の集中が無意識のうちに乱されてしまったせいだろう。
(え…)
思いもしなかった出来事にあっけにとられたことも相まって黄瀬は自分の真横を通り抜けていく金崎を止めることはできなかった。
黄瀬が振り向いたときに目に入ってきたのは、金崎から放たれたボールを掴み、火神がアリウープを決めている光景だった。それと同時に、ブザーが試合終了を告げ、会場の中で反響した。
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「何この音!? うるさいんだけど」
「落ち着けよ紫原、おまえもすぐ慣れるって」
黄瀬は多分エンペラーアイ使ってなかったら勝ってたかも……?