ワイがバスケで全国優勝したるわww   作:暇です

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WC決勝

「赤司が言っていたことは、このことだったのか……」

 

 緑間はひとり呟く。

 

 この発言は、たった今金崎が赤司を止めたことによるものだ。ゾーンに入った火神すら止めた赤司を、金崎が破ったことにより会場は喧騒に包まれていた。

 

 試合中、赤司に対して金崎の能力について自分の見解を述べたときに返ってきた言葉。

 

──五感の強化? いや、金崎の力はそんな生易しいものではないよ

 

 確かに、金崎の能力が五感の強化だとすると、赤司を破ったことを説明できない。いくら五感が強化されたところでエンペラーアイは破れるようなものではないのだから。

 

 それだけではなく、金崎の一つ一つのプレイのレベルが格段に上がっている点も気になる。

 

──ゾーンに入っているわけでもない、なのにどうしてだ……?

 

 緑間の頭の中をありとあらゆる情報が駆け回るが、答えが出ることはなかった。

 

 

$$$$$

 

 第4Qとなり、試合の終わりが近づいてきた頃。赤司の能力によって他の選手達が擬似ゾーンに入り、誠凛は苦戦を強いられていた。

 

 残り時間はわずかなのにも関わらず、点差が開いている。そのうえ誠凛の選手の体力も限界が近い。

 

 火神もこの八方塞がりな現状を打開しようとするが、点差が縮まることはない。万事休すかと思われたその時──

 

 

「がんばれ誠凛!! 諦めるな!」

 

「がんばれ黒子!」

 

 観客席から響いてくる大きな声。

 

 声援を送ったのは、中学時代にキセキによって心を折られるという悲劇に見舞われた、黒子の親友である荻原だった。

 

 そんな彼の言葉に続いて、今まで誠凛と戦ってきた戦友たちから応援の言葉が投げかけられる。

 

 そんな中ーー

 

「イッチーー!!」

 

「勝てよ! 洛山に!」

 

「ここまで来たんだから頑張れ!」

 

「あと彼女が欲しい!」

 

「金が足りねー!」

 

「童貞の何が悪いんだ!」

 

 ある観客席の集団から声援(?)が送られてきた。

 

 選手たちは大半がその出来事に戸惑っている。そんな中で金崎だけは静かにクツクツと笑っていた。

 

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「ははっ、そういうことかよ」

 

 洛山戦の真っ最中、突然青峰が額を手で押さえ笑いだした。その手から、一筋の涙が落ちる。

 

 コートでは、火神を中心としてチーム全体で高速連携を取り、洛山を圧倒している。

 その形こそが本来あるべき姿、真のゾーンだった。

 

 しかし、その扉は青峰には開けられなかった。当然だ、そのキーとなる人物を青峰は自分から捨ててしまったのだから。

「大ちゃん……?」

 

 目を丸くして、戸惑いながら青峰を見る桃井。

 

──扉の前に立っていたのは門番なんかじゃなかった

 

──お前だったのか、テツ

 

 真のゾーンの扉が開かれ、その先には──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑いながら皆親指を立てている真っ黒な集団。

 

 満員電車さながらに、扉の中にぎちぎちに密集していた。微かに奥のほうに誠凛の選手らしき人が見えたが、すぐに隠れてしまう。

 

「だから誰だよてめーら!」

 

 

 

$$$$$

 

 試合時間は残り数秒。泣いても笑ってもあと数秒で勝負に決着がつく。

 

「これで終わりだ!」

 

 最後の力を振り絞って赤司はエンペラーアイを発動する。

 

 金崎の目の前に立ちはだかる赤司。これが勝負の勝敗を決めることになるだろう。延長戦に突入した場合は誠凛の負けが確定する。

 

 しかし、金崎は直前に一度ならず二度も赤司に敗れていた。そして、金崎も自分が赤司に勝てるはずがないというのは薄々わかっていた。

 

(あー……こりゃ無理だな)

 

 自分の実力というものを受け入れている金崎は、あっさりと敗北を受け入れ、諦めた。

 

(……でもなぁ、アイツらわざわざ応援にまで来てんだよな)

 

 しかし、金崎の頭に浮かんだ、ついさっき起きた出来事。自分のためにわざわざ計画を立て、現地まで足を運んだ。そして、恐らく勇気を振り絞って叫んだ応援……の言葉。

 

(黒子も俺にパスをしたって事は、……そんだけ信頼されてんのか)

 

 いつもなら、金崎はそこであきらめて勝負を投げ出していたはずだ。けれども、金崎は勝負をあきらめなかった。曲がりなりにも、金崎は最後まで戦うことを選んだのだ。

 

 脳裏に今まで過ごしてきた赤司、誠凛のみんなとの記憶がよぎる。

 

 そこで、金崎はある一つの事実に気づいた。

 

 

 それは、赤司と関わっていた間に、自分は一度も右から抜こうとしたことがないというものだ。

 もともと、金崎は右へのドリブルが苦手だった。その上、小学生の時はそこを直さずとも、十分活躍できたため、結果的に苦手を克服しようともしなかったのだ

 

 さらに言うならば、金崎はこの試合で一度も右から抜いたことがない。

 そして……今この瞬間でさえも。

 

 故に金崎は右へと手を動かし抜こうとする、なんていうことはなかった。

 

 刹那の間に、そんな思考を回すことは金崎には到底無理だったのだ。

 

──それでも、それでも金崎は半ば反射的に、細い細い糸を手繰るように、右を選択したのだ。

 

 あまりにも明確に脳にこびりついたイメージ、それと同時に限界を超えてエンペラーアイを使った赤司の疲労。

 様々な要因が重なり、金崎はエンペラーアイに左から自分を抜こうとする幻影を作り出した。

 

 すぐさま火神に向けてボールを放つ。

 

 ボールがリングを潜り抜ける音。その音が、確かに金崎の耳に届いた。




ゾーンの音に関しては扉くんがついにリタイアしました。そして真の扉くんもスレ民によってこじ開けられました。
最後のは一応金崎の実力みたいなもんです。
まあ、最後ぐらいちょっとだけ格好つけさせてもいいんじゃないでしょうか。

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