その街はごった煮の様相を呈している   作:オラクルMk-II

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唐突に始まる読者参加型企画です。ただの作者の自己満足だゾ()


怪異バスター兼コンビニ店員〜その1

 

 

 

『夜中ってなんだかしんみりした雰囲気ですよね〜。と、言うわけで! 今夜は激しい曲をかけたいとおもいま〜す』

 

『そりゃ夜なんだから、しんみりって言うか、静かにもなりますよー。馬鹿なんですか?』

 

『うわぁーお、相変わらずアザミさん毒舌ですね〜……と。えぇ、まずはラジオネーム、「やはり今夜は肉まんだ」さんより――――』

 

 アップテンポの明るい曲に乗った、ラジオパーソナリティの会話が店内に響く。スピーカーからの音に、つまらなさそうに耳を傾けながら、レジカウンターに頬杖をつく女がいる。

 

 デッサン用の石膏像か何かを思わせる異常に白い肌と、同じく色素の抜けきっている頭髪をセミロングに整えた、薄ぼんやりと光る薄紫色の瞳が特徴的な彼女の名前は深尾 空木(ふかお うつぎ)という。明らかに人間離れした容姿だが、それもそのはず、この女は理由があって日本に来て生活している悪魔だった。

 

 深夜のコンビニの店内。それも、立地が田舎となれば、暇を極めていた。店番を任されていた彼女は、勤務中にも関わらず大あくびをかましていた。

 

 暇だ。暇すぎる、何か仕事無かったっけ?? 彼女は眉間にシワを寄せながら店内を見渡し、思考を巡らせたが、それも思い返してみて無駄に終わる。

 

 商品棚の整理なんて数分前に済ませたし、売れ筋の品もそれとなく調べて多めに発注をかけている。床掃除にトイレ掃除だってもう済ませたし、かといって対応するような客がそもそも来ない。うわぁ、詰んでるじゃないのさ。全く意味も何もないが、空木はおでん鍋の蓋を開けて閉じてを2回ほど繰り返して、また頬杖をついてぼうっとする動作に戻る。

 

 本当は駄目だけれど――あまりにも無駄に時間を使うのが嫌に思えた彼女は、私物のノートパソコンを取り出す。さて、この場で副業でも進めてしまおうか。そんなように思っていたその時だった。

 

 ドォン!! と店の自動ドアの方から大きな音が聞こえてきて、びくりと体を震わせる。なんだ?と音の聞こえてきた場所に目をやると。開いたドアをくぐって1人、店内に入ってくる女性が居た。

 

 女性……と言うには、少し語弊があるか。入ってきたのは、空木から見ると女子高生か中学生ぐらいの女の子だった。先程の音は、この子が勢い良くドアにぶつかった音だったらしい。今しがた走ってきたのだろうか、彼女はぜえぜえと息を切らしている。

 

「……? いらっしゃいませ〜」

 

「はぁ、はぁ……はぁ…………!!」

 

 どうかしたのかな? 親切心でその女の子に近づこうとした。が、その子は空木が声をかけるよりも先に行動を起こす。

 

「あの〜」

 

「お願いします! 助けてくださいぃ! ぅう、怪物! 怪物に追いかけられたんです……!!」

 

「! ん〜、ちょっと落ち着こうか」

 

 色んな意味での「お客さん」来たな。仕事の時間だ――。優しくその子の背中を撫でてあげながら、空木はスタッフの控え室まで女の子を連れて行った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 軽く錯乱状態にあった彼女を落ち着かせる。空木は努めて、わざとゆったりと緩慢な動作でホットココアを作ると、女の子に振る舞うことにした。

 

「ココアのむぅ〜? おいしーよー」

 

「ぇ、ぁ、は、はい!」

 

「出来たてだからねー冷まさないとヤケドしちゃうゾ」

 

「はい…………いただきます……」

 

 両手でマグカップを持って、ふぅふぅと中の飲み物を冷ましながら、彼女はちびちびと口に含み始める。小動物みたいな仕草が可愛らしいな、などと空木は軽く考えた。

 

 改めて、彼女の様子やら何やらに目を向ける。

 

 震えている彼女に薄手の毛布をかけてあげる中、服はこの近くの高校のジャージなのを確認したから、まぁそこの生徒だろうか。今は夜とはいえ時間は10時半程だから、部活動終わりに買い物か何かをしていたとでも説明がつくような時間帯だし、別に変な事もない。

 

 それによくよく見れば、それなりに顔立ちの整った子だった。ショートボブのきれいな茶髪、ツリ目がちだけど下がった眉が優しげな雰囲気を醸す表情と、有り体に言って美人と言える子だ。だがしかし、今は泣き腫らしてむくんでいるせいで、多少見るに耐えない部分があったが。

 

「どう、少しは落ち着いた?」

 

「はい……すみません。えぇと……」

 

「うつぎ。苗字はふかお、ね。どっちでも好きな方で呼んでよ」

 

 制服の胸に付けていたネームプレートを見せながら言う。細目でにんまりしていると、相手も自己紹介を始める。

 

「し、十二月田(しわすだ) まゆみっていいます。すみません、いきなり押しかけて、こんなに良くしてもらって……」

 

「シワスダ·マユミさん、ね。変わった名前だねー……あ、あとさ、最近ここに引っ越してきたりしたの?」

 

「! なんで知ってるんですか!」

 

「あ、ごめん、怖がらせちゃったかな。いやさ、ここ学校近いからお昼ごはんとか朝ごはん買いに来る子も多いから。でもマユミちゃんみたいな子は初めて見たから」

 

「はい……1週間前に合田市に来たばかりで。その、それで……」

 

 言いよどんだマユミに、ニヤリ、と空木は笑いながら口を開いた。

 

「怪奇現象に悩まされてる。ってカンジ?」

 

「!?」

 

 びくん、と彼女の体が跳ねる。あぁやっぱり図星かと思い、空木は続けた。

 

「お化け、霊障、UFO、神隠し……はまだ無いか。何にせよこの町の名物だよ」

 

「え、えぇ!?」

 

「あ、知らなかった? ここ有名だよ、変な事件ばっかり起きるから、おまわりさんも頭抱えてるんだって。」

 

 別に怖がらせる目的で言ったわけではないのだが、心当たりがいくつかあったらしい。意図してのんびりとした口調で話している中で、マユミは持ち直していた顔色をどんどん悪くしていった。「あらららら。」 慌てて空木は震える彼女を宥める。

 

「よしよし。大丈夫?」

 

「は、はい……………」

 

「……もしかして何か訳ありかな? そうだな……家でも何かあった?」

 

「………………………。」

 

「んぁ、ごめん。そういえば初対面だもんね。言いたく無いならいーよ、まぁ、好きなだけゆっくりしてきなよ。どーせ暇だからさ」

 

 俯いて固まってしまった彼女にへらへらしながら言った、そのとき。ふと、また自動ドアの開く音と入店チャイムが店内に響いた。

 

 客か、一応見てないとな。スタッフルームのドアを半開きで止めながら、空木は対応のためにカウンタまで戻る。

 

「ごめん、ちょっと待っててね。いらっしゃいま―――」

 

 マニュアル通りの挨拶を客に向けようとしたが……言い終わるよりも前に、彼女は口を動かすのをやめた。なぜならば人の気配という物が感じられなかったのだ。

 

 今しがた閉まるのを見たから、扉は間違いなく開いていた。入店を知らせるチャイムも現在進行系で鳴っている……が、なぜだろう。人の姿が店内に無い。トイレにでも駆け込んだのなら足音でわかるからそれもない。さて、なんだかキナ臭くなってきたナ。空木はため息をつく。

 

「ただいま」

 

「? お客さん、大丈夫なんですか?」

 

「いーのいーの、機械の故障かな。なんか勝手にドア開いただけだったから」

 

「えっ……」

 

「気にしないで。じゃ、お話しよーか」

 

 では、仕切り直して。と空木は会話を切り出す。

 

「かいぶつ、って言ったよね。どんなのだった?」

 

「! ……信じて、くれるんですか!?」

 

「モチ。言ったでしょ、ここ怪奇現象で有名な街だから。オバケ見た、ゾンビ見た、なんかへんなの居た! 日常茶飯事。話してみなよ。とりあえず私は信じるよ」

 

「……2、30分ぐらい前だったんです……その……へんな、肉の塊みたいなのが……後ろから……!」

 

「肉の塊? なんか逃げてきたように見えたけど。赤いナニカが、あなたを追いかけて来たってこと?」

 

「は、はい!」

 

「へぇ。大きさとかわかる? 思い出すのがヤならいーよ」

 

「あ、えーと……その、逃げるのに夢中だったから……」

 

「そっか、ありがと。じゃあさ―――」

 

 切り直してそこまで話を進めたところで、また妙な事が起こる。またもや店の自動ドアが勝手に開いたのだ。

 

「ん?」

 

「ひっ……!!」

 

 入店する客はやはり居なかった。しかしまたもや自動ドアはひとりでに開き、静かな店内にチャイムが鳴り響く。すっかり参ってしまったようで、マユミは座りながらうずくまって泣き出してしまう。

 

「ん……ほら、泣かないで。私がいるし」

 

 こう、わりかし静かなトコで、しかも怖いものから逃げてきた後の怪奇現象ね。こりゃ、確かに慣れてなきゃ参っちゃうカモ。

 

 気の毒に思った空木は、そっと彼女の背中を撫でながら、気晴らしになればと持っていたスマートフォンから音楽を流す事にした。ついでに機材も弄って、店内に流していたラジオの音量を上げる。

 

「ん〜、やっぱ誰も居ないね」

 

「こ、これもぉ、怪奇現象……なんですかぁ……??」

 

「そ…………怖かったよね今まで。でも、大丈夫。私で良ければ、一応やれる範囲で力になったげる。」

 

 「大人の仕事は子供の前で格好つけることだからね〜」 空木は控え室からお菓子の入った小皿を持ってきてカウンタに置く。チョコやら飴やら入ったそれから何個かを掴んで口に放る。忙しなく店内を見渡しながら、彼女はマユミに言った。

 

「ここにいていーからさ、お菓子でも食べてリラックスしなよ。ヘンナの来たら対処するからさ」

 

「んぇ……?」

 

 ヤバげな雰囲気だし、一応用意するか〜。震える彼女の背中を撫でながら、慣れた様子で空木は準備を進める。タバコの棚の隣に隠していた御札(おふだ)やらピストルやらを取り出す。そんな折、また自動ドアが開いた。

 

 なんだ、また心霊現象か? そう思った彼女は、目に映った物に気を引き締めた。外は真っ暗で街灯が少ないのでよく見えないが――明らかに外に何か居るのが確認できる。

 

「うわ、早速来たね」

 

「えっ……ぇ、け、拳銃……!?」

 

「マユミちゃん隠れてなよ。チャチなお化けなんてさっさ……と………???」

 

 お化け退治なんてさっさと済ませて、この子を送り返すかぁ。なんて思っていた空木の前に。恐らくはマユミが見たという怪物が、のっそりとコンビニに入ってきて、電灯に照らされた姿を晒す。

 

「「……………………???」」

 

 なんか予想と違うな???

 

 空木はどんなグロテスクな物体が来るかと、ほんの少しの興味すら抱いていたのだが。明るい場所で見ればなんだ、本当に文字通りのステーキ肉か何かの塊みたいなモノがコンビニの入り口に鎮座していた。キレイな赤色の所々に、程よく脂身のサシまで入っていて、傍から見れば美味しそうな霜降り肉か何かに見える。

 

 突然黙った空木に気になったのか、怯えていたマユミもゆっくりと部屋から顔を出して「ソレ」を見た。はて、こんな精肉店のショーケースに並んでそうな見た目だったか?? 激しく混乱する。

 

「ずいぶんと美味しそうなお化けだね……?」

 

「……は、はい……??」

 

 ただ、じっくり観察すればやはり異常なことには違いなかった。美味しそうなこの肉塊は、立ち上がった人間一人分ぐらいの大きさはあるし、しかもよく見ればジリジリと空木たちのいる方へとにじり寄ってきている。

 

「ち、近づいて来てませんか……!?」

 

「だね」

 

「ど、どうするんですか!」

 

「いま考え中」

 

「えぇ!?」

 

 のんびりしすぎているというか、もはや天然ボケをかましているようにしか見えない空木に動揺するマユミを他所に、ぐちゅぐちゅと音を出しながら。その肉の塊は人の形に「変形」した。

 

「「!!」」

 

 ただの肉じゃないとは思ったがそう来たか。異常性を発揮し始めた怪異に、口を半開きにして涙目になっていたマユミを見て、やはり落ち着いた様子を崩さず空木はキャラメルを1個食べた。

 

 そこからさも当然のように、彼女はカウンター裏から何か長い物を取り出した。何かと思えば、刃が向き出しの薙刀だ。怪物なんてものを見ておいて今更だが、非現実的な光景に今日何度目になるのか、マユミは目を剥く。

 

「!?」

 

「ま、見ててよ十二月田さん。こんなのはチョチョイとね」

 

 持っていたピストルを机に置き、空木は薙刀に御札を何枚か巻いていく。そして、両手でしっかりと得物を握り、野球選手か何かのように何度か素振りをして何かを確認し、店員が居るべき場所から出て、彼女はモンスターを正面に見据える。

 

 きれいなバッティングフォームを取って、にんまりと空木は笑った。それと同時に、いままで緩慢な動作を続けていた肉塊は、走って彼女に近づく。

 

「∞∆∨∶∇≯≤≡∣⊕≤∩∥≦∑∅∧∏!!」

 

 眠そうな顔だった彼女に、猛然と肉塊が躍りかかる。すると、空木は勢い良く薙刀を振るいながら叫んだ。

 

 

「ホォームラァン!!」

 

 

 刃物が当たった化け物は、閃光を放ちながら勢い良く爆散した。何が起こったかわからず、マユミは唖然とする。ふぅ、と軽いため息を一つ、空木は呟いた。

 

「ったく、売上が落ちるでしょーが!!」

 

「」

 

 え? そこなの?? 目の前で非現実的な動きを見せた謎の肉に、恐怖を覚えて震えていたマユミだったが。あまりにも呆気なく決着が付き、拍子抜けする。と、同時に、自分を助けてくれたこの女のどこかズレた怒りの声に、内心で突っ込まずにはいられなかった。

 

 

 

 




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