どうにかフェレスを説き伏せ、仮釈放状態にした彼女の駆るロールスロイスドーンに乗り込み。空木は道中で、ピコリコ星人となったマユミと、やはり熱にうなされているポチョムスも後部座席に押し込み、再度の魔界入りを目指す。
こちらが指定した出港時間まで残り2時間。ゲートから空港までは30分もしないので余裕はある。思いのほか
「お客様、どちらまで回せばいいのかしら」
「このまま道沿いに。行き止まりに、工事現場の跡地になってる更地があるから」
「あっそ……ところでマユミちゃんはなんで
〔気にしないでください〕
「そ、そう? ……ねぇ空木ちょっと、体に悪影響とか無いわけ?」
「貴女のこの車に乗りっぱなしのほうが悪影響だけどね」
「悪かったわね……」
運転手に適当に答えながら、目当ての御札を5枚取って、さらに空木は手帳の紙に適当に五芒星図を描く。程なくして目的地に着く。彼女は車から降りると、目の前に広がる更地の真ん中の辺りに止めるようフェレスに言った。
「ここまで車を。オーライ、オーライ……ありがと、ここで大丈夫」
「何する気?」
「心配しなくても壊したりはしませんよ。フェレスは見てるだけでいーから」
鉄製の定規を手に持ち、空木は車を囲むように地面の土に丸を描く。その丸に等間隔で、先ほど用意した紙と御札を貼り付けた。そして最後に、空木は車に乗り直し、一枚の札を持って魔法を唱える。
「ヲチスヒ・カクヤエヌ・キオルチケ・テヤケノギエ……」
指の間に挟めていた紙は、詠唱が終わると同時に燃え始めて消滅した。すると、車を囲っていた陣が輝き出し、ロールスロイスはそのまま地面の中にずぶずぶとめり込んでいく。
「わ! わ! わ!?」
なんだこれはとフェレスが思っている間にどんどん車は沈んで行く。車体が全部地面に潜り込むと、目を開けば、星空のような景色の広がる空間の中を車は漂っていた。
「だ、大丈夫なのこれ? どこかに自由落下してるようにしか思えないのだけれど」
「大丈夫ですって安心してください」
「なんで抑揚の無い言い方するの? 私を不安にさせたいのかしら??」
内心穏やかでは無かったフェレスに空木はぞんざいな対応を返す。後ろに居たマユミはというと、うなされているポチョムスの世話にかかりっきりで、あまりこの状況にどうこう思っているようには見えなかった。
無重力のような不思議な感覚のまま数分が経過する。空木が少し車から乗り出して下を見ると、この空間の底の部分から光が近づいてきていた。シートに座り直して、財布を開く。
「あと少しで着きます。発進の準備を」
「……痛くないわよね?」
「何がさ……」
自分が下を見て何か確認したものだから、フェレスも気になったか、彼女は何度も下を見る。なにもないったらと空木は一応なだめておいた。
光の中に車は入ってゆく。気がつけば、空木も昨日に訪れた門のある場所へ4人は出ていた。
つい何時間か前に出ていったはずの空木の姿を見て、施設職員が怪訝な面持ちになる。彼女は多くても半年に1度ぐらいの頻度で里帰りをするので、こんな数時間もしないうちに魔界に戻ってくる事はほとんど無いのだ。
「空木さん? 忘れ物ですか?」
「いいえ、ちょっとこちらの方を連れて空港に用事が。勝手に戻ってきたのは謝ります」
「別に構いませんが……そちらの女性は?」
「知人です。じゃ、また後で……フェレス」
「はいはい。」
職員に挨拶を済ませ、空木は運転手にとりあえずまっすぐ行くよう言う。フェレスはため息混じりにアクセルを踏んだ。
◇ ◇ ◇
「貴女の出身地ってこの魔界も、ずいぶんツマラナイ景観ね」
「どういった点で」
「だって人間界の町中なんかと何も変わらないわ。ビルなんか立っちゃって、道も舗装されて、しかも電気自動車まで走ってるじゃない。もっとこう、悪魔城みたいな建物は無いの?」
「世の中なんてそんな物でしょう、漫画の見過ぎだよ。少なくともコッチじゃ、車が空飛んだりするのは大分先だと思うよ」
「面白くないわね……マユミちゃんもそう思うでしょう?」
〔わぁ〜……〕
「………マユミちゃん?」
〔なんですか?〕
「その……そんなにビル群が珍しいのかしら」
〔引っ越す前は田舎暮らしだったので〕
「そ、そーなんだ」
無理矢理引っ張り出された恨みを晴らそうというのか、不満を垂れ流すフェレスを空木が軽くあしらうと。この女は、マユミに同意を得ようとする。しかし話し相手が都会の景色に目を輝かせているのを見て、大きなため息をついた。
苛立ちながらフェレスが十数分車を走らせていると、栄えている区画を抜け、4人は郊外に入る。住宅街らしきその場所は、道の両脇に露天がたくさん出ていた。祭りか何かか? そう思っていると、空木が口を開く。
「そっか、6月か……バザーの時期だったかな……」
「何よ、なんだかお祭りみたいじゃない」
〔美味しそう……〕
「ん〜……クレープ1個で2.5カルセね。普通だな」
「…………さっきから目に入るけど、「カルセ」って何よ」
「こちらの通貨単位です。大体1カルセで今は220円ぐらいでしょうか」
「ふ〜ん……」
どうせもう来ることはそう無いだろう。勝手にそう思ったフェレスはいらない情報だな、と適当に流した。
屋台が並んでいた通りも終わり、一行の車は長いトンネルに入る。車通りの少ないそこを、フェレスは誰に言われるでもなく、多少飛ばし気味に抜けた。
「うわ、結構大きいわね」 トンネルを抜けて姿を見せた空港の姿に。思わずフェレスはため息をついてそう漏らす。
「そうですか?」
「片田舎のボロ空港かと思ったわ。国際空港並みの規模じゃない……」
道や標識の案内に従っていると、車は高速道路の料金所のような場所に着いた。遮断バーが降りたのでフェレスはブレーキを踏む。職員に対応する空木を、彼女とマユミはぼうっと見守った。
深々とお辞儀していた女性の悪魔に、空木は紙袋から札束と何かの箱を取り出しながら話す。
「深尾様、お待ちしておりました。25000カルセを円でお支払い、と聞きましたが……」
「用意してあります。数えるの面倒だとは思いますが……200万円と、300万円分の貴金属が入ってます。残りの10〜30万は
「頂戴いたします。では、搭乗口までご案内しますね」
「お願いします……フェレス、前の車に付いてって」
「はいはい。」
おいおいそんな大金でこれから何をするつもりだ。そう思っていたフェレスの前に、どこからか、屋根に「誘導中」と光る
◇ ◇ ◇
ほんの4〜5分ほど前に従って流していると、車は空港の建物の中を貫通していたトンネルをくぐり、そのまま滑走路のような場所に来る。
宇宙空港とか聞いたから、SF映画みたいな基地っぽいところかと思ったら案外普通なんだな。やはりツマラナイ場所だ……。考え事混じりで、のんびり頬杖をついて運転するフェレスの前に、口の開いた大きなコンテナみたいな物が立ち塞がる。
「……ねぇ、船ってもしかしてコレなの?」
「うん。ロア級輸送船……乗り心地の悪い貨物船だね」
「かっ、貨物船……」
500万円も払って乗るのがコレだと?? 改めてフェレスは船を見る。
例えるなら各部にロケット推進機らしきもののくっついただけの灰色の「筆箱」か「長財布」だ。飾り気がなく、デザインもへったくれも無い、ただ実用性を追求したらこんな形になったみたいな乗り物だった。とても金額に見合った船ではないと、少なくともフェレスは感じる。
だが金を払ったのは雇い主の空木であり、こちらはビタ一文使う事なく、それどころか仕事さえやれば晴れて釈放、ついでに小遣いまで約束されているのもあって断れるはずもなく。渋々、彼女は愛車のロールスロイスドーンを、この子汚いコンテナ船の中へと進ませた。
外装から予想がついていたが、中はまるで使い古した工場設備といった
「オーラーい、はーいOKでーす。お疲れ様でしたー」
「さ、降りましょうか」
「……こんなボロっちい船で宇宙なんて出て本当に大丈夫なんでしょうね」
「さぁ」
「さぁ!?」
「冗談です。マユミちゃん、ポチョムスさん運ぼうか」
〔はい!〕
こいつ、適当言って私を殺す気じゃないだろうな?? 冷や汗をかいて嫌な方向に勘ぐってしまうフェレスをよそに、空木とマユミは寝ているポチョムスを抱えて、船内の医務室へと案内を受けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風邪を引いた宇宙人だかなんだかを連れ添って居なくなった2人とは離れ、フェレスは別の者から客席まで案内される。こちらは予想と違って、少し豪華だった。
飛行機のファーストクラスや寝台車の高級席を思わせる、ホテルの個室みたいな広い空間。シートベルト付きの変なベッドが目立つが、それ以外は普通の値の張るクラスの席に見える。
ベッドに腰掛け、持ち出しを許可された自分の携帯電話を起動する。どういうわけか規格が同じだった備え付けのイヤホンを挿して、好みの音楽でも聴いてようかと思うと。そんな彼女へ、客室乗務員が飲み物と軽食メニューを持ってこちらに来た。
「失礼します、お飲み物のサービスはいかがですか」
「何があるの……紅茶、ね。それお願い」
「かしこまりました。」
ミールカートから紙コップと飲み物を出す相手を見る。ふと、他の席を見る。自分以外には誰も乗っておらず、まだ空木たちが戻ってくる様子もない。
なんとなく話し相手が欲しくなり。フェレスはサービスに話しかけてみた。
「ねぇ、ちょっと。私、あの空木とかいう性悪な女に付き合わされてココ来てるのだけれど。悪いけど、話し相手になって頂けないかしら?」
「あぁ、そうなんですね! 道理で。見ない方だと思いました、フェレスさん」
「!」
見知らぬ女が自分の名前を知っていたのを思わず問い詰めそうになった。考えるまでもない。予約とやらを取るのに空木はきっと全員の名前を伝えたんだな、余計な事を……等と思いつつ、フェレスは続けた。
「私、あまりこの辺りの事は詳しくないの。この船、悪いけどちょっとボロっちいけれど、星間飛行なんて大丈夫なの?」
「ご安心ください。当機は去年建造された新造艦でして、点検も3日前に済ませております。外観こそ、デブリ帯を通る都合上傷が目立ちますが、頑丈さは特筆に値する船なんです」
「ふ〜ん、そうなの」
「ただ、ちょっと乗り心地は悪いんですけどね。」
「こちらはサービスになっております。」 はにかみながらその悪魔はテーブルにレトルトの軽食か何かを置いて、今度は彼女の方から話を始める。
「空木さんとはどのようなご関係ですか?」
「友達でもなんでもないわよ。私は車を人質に取られて無理矢理来させられただけで」
「あぁ……たまに強引ですからね。あの人」
「……気になってたけど、身内なの? 知ったような言い方だけど」
「有名な方ですよ。州の定める20名の「守護悪魔」の一人ですから」
「守護悪魔?」
「はい。魔法犯罪の多発する世界へ派遣される方の一人なんです。私も憧れなんです!」
「へぇ」
なるほど、ようは自分のような迷い込んできて悪さするのをとっ捕まえる連中の、さらに精鋭の訳だ。道理で色々と手慣れてるわけだ……。フェレスは乗務員の発言に、想像よりも空木という女はやり手らしいと判断して苦い顔になる。
世間話も終わり、彼女は個室から出ていった。さて、適当にくつろぐか。ふかふかのベッドに横になり、のんびりとしてると。にわかに室内照明が薄暗くなり、艦内にアナウンスが流れ始めた。
『本日は、当機066a便をご利用いただき、ありがとうございます。船内施設の利用に当たり―――』
なんの事はない。離陸や不時着時の対応なんかの話だった。ぼうっとしていたフェレスの耳に、気になる事が入ってくる。
『最短航路を通る都合上、小惑星群やデブリ帯を通過する可能性がございます。お手数ですが、この非常ベルがなった際は、ベッドに備え付けたシートベルトの着用を、お願いします』
「……これか」
ずっと気になっていた、ベッドの横にくっついていたベルトの使い方だった。いちいち付けて外して、とやるのも面倒だと思い、事前にフェレスはそれで布団の上から自分の体を固定することにする。
自分で評するのも妙だが、なんだか暴れる凶悪犯が縛り付けられているような状態が出来上がる。だがこのベッド、なかなか寝心地が良く、ベルトの圧迫感こそ感じるが、不快感はあまり無い。
「……………………。」
目的地に付くまで、このボロ船に何もなければ良いのだけれど。フェレスは目を瞑り、仮眠を取ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はっ、として目が覚める。時計を見ると、ざっと5時間ほど経過していた。
慣れない環境に身を置くと疲れるということだろうか。思いのほかスッキリとした寝覚めに、フェレスはわざと目をぱちぱちさせ、水筒に移して残っていた紅茶を飲んだ。
あたりを見渡すと、窓のある壁の近くが「到着」と光っている。どうやら寝ている間に目的の星か何かには着いたらしい。
「乗り心地の悪い」と念を押された割には何も無かったな? 身構えたのに損をしたなと思いながら、フェレスはベッドから降りて、脱いでいたジャケットを羽織って個室から出た。
「あ、お目覚めですか」 部屋から出てすぐ、彼女は離陸前に喋った悪魔と鉢合わせた。どうも、と生返事のあと、口を開く。
「ちょっと寝過ごしちゃったかしら」
「いえ、今着いたばかりですよ。ちょうど起こしに来たんです」
「あら、それは良かった。ん〜、乗り心地の悪いとか言ってたけど、結構何も無いのね。及第点をあげるわ」
「ありがとうございます。フェレスさんは乗り物酔いはあまりしない方なんですね」
「そうかしら? 人並みだと思うけれど」
「空木さんはいつもこの等級の船に乗ると酔ってしまうんです。さっきも格納庫でエチケット袋持ってしゃがんでましたし」
「嘘よ、あんなのがそんなこと」
「うふふ。あ、その空木さんからですが、車のあるところまで来るようにと」
「そう。ありがと、気が乗ったらまた乗るかもね」
「またのご利用を、お待ちしております。」
優雅な仕草でお辞儀する彼女に見送られながら、フェレスは自分のロールスロイスの元へと向かった。
◇ ◇ ◇
〔う、空木さん気をしっかり! はい、し、深呼吸を……〕
「マユミちゃん、ありがっ!? ゔっ、ぉぇっ……」
「…………本当なのね」
車を置いた格納庫まで降りてきたフェレスの目に、四つん這いになっている空木の背中を擦るマユミの姿が映る。本当に乗務員の言うとおり、女は酷い乗り物酔いに苦しんでいた。
車を見ると、赤いウインナーみたいな宇宙人はもう乗せられていた。コンテナの蓋も開いており、一応、いつでも発進できるようにはなっている……が、どう見ても空木に関してはそれどころでは無さげだった。
『到着しました、惑星サイラーラです』
「ぅぅ……ぅ゛っ! ……ぉぇっぷ」
「……ねぇちょっと、貴女大丈夫なの?」
「ふぇ、フェレス……ぽ、ポチョムスさんの容態に比べればこのぐらっ……ゥォロロロロロロ………」
「あわぁっ!? ちょっと、こっち向いて吐かないでったら!?」
駆け寄ってきたフェレスを見た途端、また喉という名のダムが決壊する。空木はこらえきれずに、エチケット袋へ胃の中の残り物を吐き出した。いったいどこから出ているんだという量の水分を戻している女に、フェレスは引きつった笑みを向ける。
〔わぁっ!? う、空木さん新しい袋です! あっ、溢れちゃう!!〕
「乗り物酔いが酷いとはね。というかねぇ、アナタあんな運転しといて船とかだめなの?」
「く、車は自分でハンドル握るじゃないですぅっ……ぅぇぇぇろろら」
「うわぁ……ちょっと、ナビはどうすんのよ……知らない道なんて流石に走るの嫌よ私は」
「じょ、乗務員の方に付き添いを頼みむぁっ! ぅおえっ!」
「あぁっ!? ちょっと、落ち着きなさいったらもう!」
「彼女に案内してもらって、病院には、こっ、このカードを受付へ……それで通れるはずだから……」
ただでさえ顔の白い空木は、更に青ざめた表情で身体中の水分を袋に注ぎ込んでいる。やっと落ち着いたか、彼女は近くにあったベンチにフラフラ座り込み、フェレスに続けた。
「フェ、フェレスは案内を受けながら、マユミちゃんと車で彼を病院へ……私も後で合流します……」
「……良いの、私を放し飼いにして」
「道案内なしに、この星を抜けるのは難しいと……思うよ」
「……ちっ」
やっぱり見抜かれてる。わざとらしいため息をついて、彼女は愛車のエンジンを掛けた。それを見て急いでマユミも助手席に乗り込む。すると、ちょうど先程挨拶した乗務員も降りてくるのが見えた。
「全く!! 私のロールスをタクシー代わりだなんて、高く付くわよ!!」
体調不良で今にも死にそうになっている空木を睨みながら、フェレスは乗務員の着席を待った。
次話でポチョムスさん編終わりです。
見たいお話の大まかなジャンルをお選びください。1番多いやつがフワッと増えます。
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