その街はごった煮の様相を呈している   作:オラクルMk-II

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ひっさびさにやる1日に2話の投稿。まぁ職業=深海棲艦より文字数は少ないし()


怪異バスター兼コンビニ店員〜その2

 

 

 

 たったの一撃で、華麗に肉の化け物を吹き飛ばして撃破した空木だったが。マユミにも手伝って貰いながら、彼女はせっせと後片付けを始める。

 

 ロッカーから塵取(ちりと)りとホウキ、バケツに雑巾を取ってきて、気持ち急ぎ気味に砕け散った肉片を集めて1箇所に寄せていく。

 

「ん〜……結局なんだったんだろうねこれ? 普通の肉じゃないんだろうけど」

 

「わ、私にはわかんないです……」

 

「んふふ、そーだよね。……にしても焼けたらいい匂いまでするとはね……」

 

 魔力を込めた刃物で叩き切って爆破した肉は、まるでバーベキューでもやったあとのような臭気を発していた。夜勤中だってのに、空きっ腹にキクなこれは。換気扇を最大稼働させながら、空木はため息をつく。

 

 おおむね全ての肉が集まり、床に飛び散った肉汁も拭き取ってきれいになったのを確認して。彼女は、今度は集めたゴミを囲むように、床にボードマーカーで魔法陣を書き始める。はて、この人は何をしているんだろうか。そんな顔をしていたマユミの前で、空木は肉の上で指を組み、呪文を唱えた。

 

焼灼(しょうしゃく)の四番·静粛(せいしゅく)

 

 空木がそう言うと。特にライターやマッチなんか持っていなかった彼女の近くのゴミから、真っ白な炎が湧いて出てくる。先程の爆発する斬撃もだが、妙な技術を持っているこのコンビニの店員に、眉根を寄せながらその様子を見ていたマユミに。空木は燃える肉から目を離して、口を開いた。

 

「コイツ変なことばっかして、絶対フツーの人間じゃないなーって思ってるしょ?」

 

「! え、ぁ……ぃや、そんな……」

 

「その考えは大正解。マユミちゃん、落ち着いて聞いてほしいんだ。一応、この町にこれからも住むわけだしね」

 

 適当に置いていた薙刀を隠していた場所に戻し、拳銃を元あった場所へ。物をしまったあと、果物ナイフぐらいのサイズの刃物を棚から出して、控室のテーブルに5つほど並べながら、空木は言った。

 

「嘘とか苦手だからさ、ぶっちゃけるね。人間じゃなくて、悪魔なんだ。私」

 

「…………………………………へ?」

 

 この日1日の出来事を脳が処理しきれなかったようだ。彼女の発言に、マユミは完全に固まってしまった。まぁ……そらそーなるわな、と空木は思った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 最初の方こそ怯えてビクビクしていたが、こう訳のわからないものを立て続けに見ると慣れるものもあるのだろう。マユミは真顔で空木のいれたココアを飲み続けていた。

 

 しかしまぁ、いつまでもここに置いとく訳にはいかないしな、と空木はそれとなくマユミに彼女の家の事などを聞く。返ってきた返事はおおよそ見当が付いていたが、やはり彼女は引っ越してきたばかりの家でも妙な減少に悩まされていて、帰りたくないのだという。

 

 勝手にテレビがついたり、電気がON·OFFを繰り返したり、ラップ音がしたり。聞けば、ベタな心霊現象が多発しており、少々心労が溜まっていたらしい。

 

 親は?と聞くと、彼女は父子家庭らしく、その父親も仕事の都合で夜遅くまで帰って来ないため、家でいつも布団に潜って震える毎日を過ごしていたと言う。可哀想に、と他人事ながら空木は心配した。家に居たくない、というのも無理はない。

 

 落ち着きを取り戻すにつれ、マユミは逆に機嫌が悪そうな表情になって空木の用意したお菓子に手を付け始めた。たぶん、なんで自分ばかりこんな目に、とか思っているんだろうなと考える。

 

「落ち着いた? マユミちゃん」

 

「えぇ、まぁ……私は、ここに居ても良いのでしょうか……」

 

「いいよ、何回も言うけどどうせ暇だし。あと、逆に大丈夫なの。その、明日の予定とか、宿題とか……そもそも私人間じゃないしね」

 

「……………最後については聞かなかった事にします。それに、ウツギさんの近くに居たほうが安全だと私は思いましたから。あと、学校は明日もお休みなんです」

 

「そっか。っていうか信じてくれるんだ。私が悪魔だって言ったこと」

 

「ウツギさんが魔法?を使うのを見ちゃいましたから……それに、助けてくれたから……」

 

「ん〜……褒めても何も出ないよ?」

 

「え、えと、そういう意味じゃ……」

 

 色々と話し込んでいるとマユミの表情もほぐれてくる。よかった、このぶんなら大丈夫そうかな。空木は大きく伸びをしながら、口を開く。

 

「今日はキリの良いところで帰りなよ。家で寝るのが怖いって言うなら、私の友達に言ってどーにかしてもらうから」

 

「その人も、悪魔、なんですか?」

 

「うん。言っておくけど私より強いから頼りになるよ。あとけっこうイケメンだからね!」

 

「へ、へぇ……?」

 

 あまりにもサラリと言ったがこの町にはそんな悪魔とかが普通に複数人居るのか……。とはいえ目の前に居る人物に害はないと判断しているマユミは、強引に納得しておく。

 

「怖くなったり、暇だったらまた会いに来てね。またお話しよっ。住むんだったらこの町のこと、知っておいたほうが良いと思うし。今日はもう遅いしさ」

 

 話しながら、空木は壁掛け時計を指差す。マユミが見たとき、針は深夜の12時を指していた。

 

 ウツギさんの言うとおりだ。先程の妙な物体を除いてここ数時間で誰も客なんて来なかったから暇なのは事実だろうけど、居座ってても迷惑になっちゃうな。そう思って椅子から立ち上がったその時。

 

 ゴアッ ガシャァン!!

 

「ひゃあぁぁ!?」「うわ……今度は何さ?」

 

 先程のドアが勝手に開いたりといった物とは明らかに違う。ガラス張りの壁が破壊されたような轟音が入り口から響いてきて、2人は何事かと音の方向を見る。すぐさま空木は走って様子を見に行った。

 

 「ちょっと、マズイかな。」 見の危険を感じてその場から動かなかったマユミの耳に空木の声が届く。何がどうヤバいのか。ゆっくりすり足で彼女の元へ行くと、コンビニの入り口が車でも突っ込んできたような具合に破壊されている。

 

「え、え、ぇ、ぇぇ」

 

「隠れてて十二月田さん、さっきよかヤバげだから」

 

「は、ひゃい!」

 

 いつの間にか、彼女は机に置いていた刃物を幾つか手に持っていた。飄々(ひょうひょう)とした態度から一転し、真顔になっていた空木の言うことに従い、マユミはカウンター裏にしゃがんで身を隠す。

 

 コツン、コツンと、静かな何者かの足音が聞こえてくる。店内は内線のラジオ等で客は居なくとも賑やかではあったが……嫌にその音は、空木とマユミの耳に残り続けた。

 

 爆弾か何かで扉を吹き飛ばしたのか、うっすらと土埃の舞う壊れた入り口を潜って姿を表したのは、1人の女だった。とーぜん、お客様じゃ無さそうだな。じっと相手から目を逸らさず、空木は制服の袖にナイフを隠す。

 

 この状況で言うには場違いだろうが、綺麗な容姿の女だった。

 

 自分((ウツギ))のようなものとは違う、人間らしさを残した白い肌。長い赤髪と、眼鏡の奥の、宝石を思わせる赤い瞳。服装は黒いドレス姿なのが、この女の色気と白い肌の美しさを引き立てている。しかしその縦に裂けた瞳孔が、この女がヒトからは外れた動物であるらしい事を主張していた。

 

 吸血鬼。女の外見に、そんな言葉が空木の脳裏に浮かんだ。

 

「隠れていてもわかる……ケガレのない生娘の匂いだ……差し出しなさい、その首を…………」

 

「……………………。いらっしゃいませー」

 

「それに引き換え、お前はなんだ? まるで無味無臭だ……こんなに食欲のソソられない血の匂いは初めてだ」

 

 不遜(ふそん)な態度で女は言う。察するに、先程の怪物をマユミに差し向けたのはコイツか? 空木は無表情のまま対話を試みる。

 

「さっき、女の子が駆け込んで来たんですがね、変なもの差し向けたのはお客様でしょうか?」

 

「へんなもの……へんなものか……全く使えない下僕だった…………まさかあそこまでニブい動きしか出来ないとはねぇ」

 

「……あんなモンが部下ですか。趣味悪いですねお客様」

 

「ふふふ、言ってくれるじゃあ、ないか‥…………」

 

 何が楽しいのやら。女は両手を広げて深呼吸をしてから、口を開いた。

 

「私こそは全知全能にして夜を統べる吸血鬼、アグラーヤ·ヴァザロフ。その名を忘れることは誰であっても許されない―――」

 

 …………………………。

 

 しん、と店内は静まり返る。

 

 ナルシストかなこの人? 奇しくもこの時、この女の名乗り口上を見て。空木と、目元だけ机から出していたマユミの脳内に巡った感想は一致していた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 スウウゥゥ、と音が聞こえるぐらいに深く深呼吸をする女に空木は目を細める。演劇か何かを思わせる大振りな仕草の自己紹介だったが……時間が立つにつれて、マユミはこの女の周囲に漂うただならぬ空気感に気圧されて、また恐怖を覚える。こんな殺気、人間が出せる物じゃない。意図せず体が震えるのが自分でもわかった。

 

「平伏しなさい小娘ども。貴女は私にその血を捧げるための生き物なのよ……」

 

「……はぁぁぁぁぁ〜……またか」

 

「!?」

 

 いや、「またか」って何またかって!? 吸血鬼よドラキュラよヴァンパイアよ、なんで平然としてるのこの人! 詳しくはわからないが、素人目にもこの女はさっきの肉なんかとは比べ物にならない脅威なのを本能的に察知したマユミは、なおも平然とする空木のことも恐ろしく感じる。

 

「ここコンビニですよ、血を求める前になんか買ってってください。変なことするなら追っ払いますよ」

 

「ほぅ、今から干からびるというのに、私を前に戯言(ざれごと)を。なかなか見どころがあるな、小娘」

 

「だいたいね、アナタ自分が不審者だって自覚してる? フルネーム名乗っちゃってさ、アグラーヤ·バザロフさん?」

 

「…………「ヴァ」ザロフだ」

 

「ばざろふ?」

 

「ヴァ!!」

 

「どうでもいいや」

 

「な ん だ と ?」

 

 いや、どう見たって買い物に来た人じゃないよぉ……。震えながらマユミはとぼけている空木と、吸血鬼とのやり取りを眺める。

 

「度胸がある小娘だ……我が眷属(けんぞく)として飼ってやる事も考えたが気が変わった。目障りだ、この手で新鮮な肉骨粉に変えてやろう」

 

「日向ぼっこしながら仕事するのが日課なので、そんなんこちらから願い下げですね」

 

「きっ、貴様……まぁいい、泣いて後悔する事になろうと、私は手加減など―――」

 

 

「魔砲の二十七式·拒絶(きょぜつ)

 

 

 吸血鬼が言い終わらないうちに、空木は両手を合わせてそう言った。すると、彼女の指先から青い光線が放たれ、アグラーヤと名乗った女は小規模な爆発とともに飛んでいく。

 

 壊れた自動ドアの方へと物凄い速度で吹き飛ばされた女を見て、空木は音楽を流していたスマートフォンを手に取る。何かの操作を済ませると、彼女は私物のそれをマユミに手渡して言った。

 

「電話帳開いたから、警察に電話して。大丈夫、化け物がコンビニに来たって言えば伝わるから」

 

「えっ、え、ぇぇ……!?」

 

「ほら早く。心配しないで、110番すれば世の中のことはだいたい何とかなるから!」

 

 問題はない、とはにかんで見せる空木に不安に思いながらもマユミは携帯電話を取った。それと同時に、外へ投げ出された女が戻ってくる。

 

 起き上がるなり、弾丸のように突っ込んできた相手を見切り、空木は床に御札を1枚貼り付ける。すると、薄い黄色の膜のような半透明の壁が現れ、吸血鬼の突進を阻んだ。一度女の攻撃を阻んだ障壁はすぐに消え、続けざまに空木は敵の顔目掛けて刃物を投げる。少し避けられたが、ナイフは正確に吸血鬼の首筋を捉え、肉を断った。しかし血が流れていても、あまり相手は気にしている様子がない。

 

「ふふ、ふは、アハはハハハ! 小娘が、私に向かって何度も舐めた真似を……!!」

 

「いいからちゃっちゃと来てください。どうせ、ブチのめされるのは貴女だ」

 

「ンフフフフ……私のために血を流せぇ!!」

 

 今しがた投げつけたナイフの傷はもう塞がっていた。浅かったのかと考えたが、だが流れ出た血液の量は多かったから結構深かったはず。なるほど、吸血鬼、というのはフカしてる訳じゃなさそうだな。猛然と殴りかかってくるのを、商品棚や壁を上手く使って相手の攻撃を避けつつ、空木は分析する。

 

 切り傷や軽めの魔砲じゃ、あまり痛そうにして無かったし、それなら刃物使うのも殴るのも大差なさそうね。今更武器持ってくるのも面倒だし……じゃ、殴り合いに付き合うか。早々に結論づけて、彼女は動き始めた。

 

 店内の構造はもちろん知っているので地の利は空木にあった。彼女はパンチをすかして棚や商品に()(つまづ)く相手に、じゃれる程度のチョップや軽い蹴りを入れる。痛くも痒くもないそれを受けて、この吸血鬼の眉間にシワが寄り始めたのを確認する。

 

 喧嘩を売ったはいいが、ただの人間ではない。それを察したのか、こころなしか、空木は襲いかかる吸血鬼の動きにためらいが出て来ている気がした。

 

 だんだんと、この女の顔から笑顔が消えていく。空木はイートインスペースにあった机を持ち上げて盾にし、殴りかかってきた相手を軽くいなす。女の拳が当たった調度品は粉々に砕け散ったが、空木は涼し気で余裕そうな態度を崩さずに敵の攻撃を避け続けた。

 

「トンボ、クモじゃないんだ、ヒトと同じ形してんの、人の目なんて視野は限られてんですよォ!」

 

「っ、ちぃ!!」

 

 ただただがむしゃらにこちらを殴り付けてくる単調な相手に、ますます空木は笑みを濃くする。

 

 さて、そろそろ反撃の頃合いかな。唐突に回避を優先していた動きを切り替えて、彼女は吸血鬼を相手に攻めに転向した。

 

 こちらの皮膚をえぐり取ろうと力任せに振り下ろされた爪を掻い潜り、手始めに女の顎に肘を入れる。急な動きの変化についていけずに一撃を貰った吸血鬼が動揺したのを見逃さない。

 

「ごっ!?」

 

「もいっちょ!!」

 

 多少仰け反った相手に、今度はみぞおちを狙って殴る。起き上がりこぼしか何かのように、狙い通りに今度は反対側に来た頭にパンチでもしようかと空木は考えた。が、腐っても吸血鬼。優れた身体能力で立て直し、また相手は反対の手の爪を立ててこちらを狙ってくる。

 

 だが空木は、大人しくそんな大振りな攻撃を受けるつもりは無かった。彼女はいきなり制服のポケットに手を突っ込み、休憩中に食べた飴の包み紙を適当に放り投げる。

 

「???」

 

 あぁ、やっぱり狙い通り。この気の抜けない時だというのに。この吸血鬼の類まれな反射神経が、マイナスに作用した。女は反射的に、そのゴミを目で追ってしまったのである。これ幸いと、空木は仕返しとばかりに大きく振りかぶって右ストレートを顔面に叩き込んだ。

 

「てやっ!!」

 

「うぼぉあっ!?」

 

 勢いのついた拳は、この女のかけていた眼鏡を叩き壊し、その鼻っ面に深々と突き刺さる。

 

 たかが一人の人間相手に苦戦している自分自身に相当困惑しているのか。思わず殴られた鼻を抑えて後ずさりした吸血鬼に、空木はお構い無しに畳み掛ける。彼女は机を挟んで距離を取った相手へ、それならばと、テーブルに片手をついて飛び越えるついでに女の脇腹へ両足で蹴りを入れた。

 

「ていっ♪」

 

「おぉ゛ぁぁ!?」

 

 一瞬とはいえ顔を抑えたのがまずかった。空木の動きから目を逸らして対応が遅れた吸血鬼は、強烈な一撃をもらって本棚に体を打ち付ける。

 

 ありえない。自分がこんな小娘如きに遅れを取るはずが――とか、考えてそうだなこれ。ふらついた足取りから一転して、逆上しながら女は駄々でもこねるように散乱した雑誌やら何やらを投げつけてきた。

 

 流石は吸血鬼といったところか。本とはいえ、人外の腎力で投げられたものは建物の建材にヒビを入れるような速度で飛んでくる。至って冷静に回避しながら、空木は再度こちらへ突進してきた女をいなす。

 

 やっぱりこの人、身体能力に任せてばかりで喧嘩は下手だな? 内心で彼女はため息をつく。何度目かはわからないが、冷静に彼女は女の体当たりを避けた。すると、その吸血鬼は壁に頭がはまって動けなくなる。そろそろ一方的に殴るのも嫌になってきた空木は、決着をつけるべく行動を起こした。

 

 もがきまくっている相手をよそに、彼女は右手の掌の指をぴんと伸ばして広げると、反対の手で手首を強めに握った。壁から頭を抜くのに躍起になっている女を、のんびり眺めていると。空木の右手は、時間の経過とともに光を帯びていく。

 

 そろそろかな。などと空木が考えたところで、吸血鬼は壁を叩き壊して対処した。血だらけの頭に、怒りがありありと浮かんだ表情をつけて、やはり馬鹿の一つ覚えのようにまた突進してくる。彼女は難なく回避したが、多少は学んだか、女は靴のソールが削れるような勢いで強引にブレーキをかけて空木に向き直る。が、少し遅かったようだった。

 

「魔砲の五十三式·光弾(こうだん)

 

 空木は掴んでいた右手を、ぱっ、と離した。すると、手のひらに集まっていた光が吸血鬼の方へと発射される。それは小規模な爆発を伴って、女を店外へ向かって吹き飛ばした。

 

「み°っ」

 

 なんとも間の抜けた声を出しながら、吸血鬼は豪快にガラス戸をぶち破って外に投げ出される。コンクリートの地面に強かに頭を打ち付けた相手へ、空木は今の複数回のやり取りでめちゃめちゃになったイートインスペースを見渡しながら、余裕綽々なのを見せつけて口を開く。

 

「まったくもぅ、昨日掃除したばかりなのに、これじゃ台無しだぁ……」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 眼前で繰り広げられた2人の攻防にマユミは唖然としていた。アクション映画か何かを見ている気分で、まるで現実味がない。口を開けたまま、滅茶苦茶になった休憩スペースに仁王立ちしている空木に近寄る。

 

「まったくもぅ、悪質なクレーマーだった……」

 

「う、ウツギさん……」

 

「あ、大丈夫だった? 怪我とかない?」

 

「は、はい、私は……」

 

「そっか。通報は済ませた?」

 

「はい! …………え、えと」

 

「あぁ、壊れた店のことは気にしないで。多分もうちょっとで……あ、居た」

 

 服が焦げて白目を向いて倒れている吸血鬼なんて知らないフリをして、空木は店の外に出て、建物の上を見ながら手を降った。

 

「エイムくーん! 出て来ていーよー!!」

 

「承知した」

 

 気になって同じく出てきたマユミの前に、1人の男が、店の屋根から軽い身のこなしで降りてくる。

 

 肌の色さえ除けば普通の人間らしい見た目のウツギとは違う。黒い着物と頭巾に、灰色のネックウォーマーと顔がよく見えない、周りが薄暗いのもあって怪しい雰囲気が漂う格好の男だ。おまけに背中からカラスのような真っ黒な鳥の羽みたいなものが生えている。明らかに人間ではなかった。

 

「ひゃっ!?」

 

「おっとウツギ殿、こちらのお嬢さんは」

 

「今言うよ。マユミちゃん、この人ね。さっき言ってた友達って。たぶんこのヘッポコ吸血鬼なんかより遥かに良い人だろうから安心していいよ」

 

「マユミ殿、でござるか。拙者、ウツギ殿と同じくこの町で気ままに人助けに生きる悪魔、エイム·リテンと申す者。以後、お見知りおきを」

 

「ど、どうも……?」

 

 会話の最中、パトカーのサイレンの音をマユミは知覚した。そこから数分もせず、またたく間にコンビニの駐車場は2、3台の車のランプでにわかに明るくなった。

 

 え、え、これ見られて大丈夫な物なの?? そう思っていたマユミを他所に、堂々としていた空木とエイムのところへ、車から降りてきた警官が敬礼してから近くに来る。

 

「お疲れさまです空木さん、エイムさん。大丈夫でした?」

 

「どーもー。すみません、こんな遅くに……なんか吸血鬼とか言ってくるヤツに襲われちゃって」

 

「うわっ、またですか。大変ですね」

 

「警察の方々に比べればなんてこと無いですよ。あ、手錠は一応暴れないように銀製ので」

 

「了解です。エイムさんと、こちらの女の子は?」

 

「あ、いや今日対応したのは私だけなので、エイムくんとこの子は無関係です。たまたま買い物に来てただけなので」

 

「そうですか。本当に、協力に感謝します」

 

「いえ、どういたしましてー」

 

 ずいぶんと慣れた具合に警官と話している空木の隣に、今度は護送車みたいなバン型のパトカーまで来る。打ち合わせか何かが終わり、警官らはせっせと倒れていた吸血鬼に手錠をかけると、担架に乗せて連行していった。

 

 ????? 嘘でしょ、もしかしてここの警察の人たちには「これ」って普通の事だったりするわけ??? ぐちゃぐちゃになっていた店の方には目もくれず、事後処理を済ませて引き上げていく警察にマユミは目を丸くする。

 

「アディオスでござる。吸血鬼のご令嬢」

 

「令嬢、ってほど教養無さそうだったよ?」

 

「拙者が手合わせした訳ではござらんからなぁ。でも、ウツギ殿がそう言うのならばそうなのでしょうな」

 

「ん。じゃ、お店の修理よろしくね。どうせこの時間で客なんて来ないし」

 

「任された」

 

 空木の言ったことに返事を返すと、エイムは大きく伸びをしてから、顔をぱんぱんと軽く叩いて店の方へと歩いていった。

 

「さ、帰ろっか。マユミちゃん。面倒事に巻き込んじゃったからさ、送ったげる」

 

「……………ウツギさん」

 

「ん」

 

「いつも、こんな感じなんですか?」

 

「ん〜」

 

 少し考え込んでから、空木は答える。

 

「この間よりマシだったかな」

 

 あぁ。忘れられない思い出が沢山できそうなところだなぁ。

 

 彼女の返事に。マユミは気が遠くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みんな戦闘シーン好きでしょ? 俺も好きだからぶち込んだ。

見たいお話の大まかなジャンルをお選びください。1番多いやつがフワッと増えます。

  • ほのぼの日常
  • ドタバタコメディ
  • ギャグバトル
  • 真面目な戦闘シーン
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