非番の日は決まって、お気に入りの喫茶店に2時間ほどお邪魔させてもらい、ノートパソコンでライティングの仕事をするのが
空気中に充満する魔力が時たま作り出す空間の
そういった物から市民を守ったり、彼ら彼女らが帰る手助けをするのが悪魔である彼女の本来の仕事だが。それは一応秘密ということになっており、表向き、日銭を稼ぐために空木はwebライターとコンビニのアルバイトを掛け持ちしていた。
抹茶ラテで軽く喉を潤しながら適当にキーボードを叩く。
自分の仕事の経験を活かして、オカルト関係のトンデモ話なんかのストーリーを他のライターへ提供したり、その筋の雑誌へ寄稿することが彼女は多かった。読んでくれている人からすれば、ずいぶんと
試験勉強中の学生や、夫に隠れて贅沢していそうな女性、電話でできる仕事の打ち合わせをしているスーツ姿の男性等々。周囲が程よく騒がしいのが、なんの物音もなく静かなよりは集中力を高めてくれる。たまに漂ってくるコーヒーやお菓子の香りも楽しみつつ、空木は執筆を続ける。
提示されていた文字数も少なく、得意なジャンルという事で程なく副業は終わる。さて、後は家で見直してから送信するか。そう思い、なんの気無しに外を見たとき。ガラス張りの壁の奥に、見知った顔を見つけた。
「お、やっと来た」
気づくかな? 空木は座ったまま、ひらひらと手を振った。外に居たのは、前に自分に助けを求めてきた女の子。
キョロキョロしていた彼女だが、空木と目が合い、そのまま店の中に入ってくる。その傍らには、彼女の父親だろうか、背の高い中年の男性の姿もあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はじめまして、深尾 空木です」
「まゆみの父の十二月田
参ったなぁ、できればマユミちゃんと2人っきりのが話しやすかったんだケド。ま、来ちゃったならしゃーないか。暗い色合いの服をかっちりと着こなし、あまりカジュアルさを感じさせない服装のマユミの父に、ビジネススマイルを向ける。
「えっと、どこまで聞きました。娘さんから」
「妙な怪奇現象に見舞われるというのは、実は私も同じでした。それが嫌で、家から離れてこの子は外で遊んでくるのが日課になってたんです……そんなとき、妙なものに追いかけられて貴女に助けていただいた、と」
「それだけ、ですか?」
「……貴女が、悪魔を名乗っている、と言うことも」
「なるほど。……長くなるでしょうし、何か頼みませんか? お昼とか済ませてます?」
「え、ぁ、いえ?」
「じゃあ何か食べましょう。ここのカツサンドが絶品なんですけど、いかがですか」
真面目な話の中で、半ば強引に空木は会話の主導権を握る。というのも、暗い話が嫌いな彼女の性格の問題もあった。
話し中のとき、何度かマユミに目が行った。なにか食べよう。自分がそう言ったとき、にわかに表情が明るくなったのを見て、やっぱり高校生でもまだ子供だな、などと思う。同時に、急な話題の切り替えにたじろぐこの男性に、やっぱり親子なんだな、とも感想を抱いた。
トーストやらバターロールやら、頼まれた物を平らげて3人は軽めの昼食を終える。おかわりした飲み物を啜りながら、空木は口を開いた。
「何からお話しましょうか。前にあったこととか、この町の事とか、話せる範囲で言いますが」
「山程ありますが……私からは言いません。そもそも、今日はまゆみが貴女と会う約束をしていると聞いて、お礼を言いたくて同行しただけですから。まゆみ、いいぞ」
「うん……あの、空木さんは、なんでこの町に居るんですか?」
うわぉ、すごいの最初に持ってきたな。ちょっぴり背中側に仰け反りながら、空木は答え始めた。
「長くなるけど……まずはじめに、この町の歴史を言う必要があるんです」
「歴史?」
「えぇ。勇さんは、「古戦場」って聞いて、パッとどういったものが浮かびますか?」
「古戦場、ですか……戦国時代に合戦があった場所、とかですかね。歴史的に価値がある公園、とか」
「まぁ大体はそうでしょうね。ここもそうなんです。まぁ、やっぱり普通とは違うんですが」
自分のカバンから手帳を取り出しながら、空木は続ける。
「今から言う事は、事情を知らない人間には気の狂った与太話としか思えないと思うんです。それでも時間取っちゃって、マユミちゃん、大丈夫かな?」
「ぜひ、聞きたいです!」
「そっか……大昔、それこそ戦国時代とかよりも前の時代に、ここは悪魔と天使が戦争を行った場所なんです。実はそういった場所ってこちらの世界では各地に点在してるんですけど、ひときわ激しいモノがあったのがココです」
「悪魔と天使……」
「魔力っていって、言い換えると人の体にも流れている「生命力」みたいな物質があるんです。普通の人は微力なんですけど、例えば霊感が強いとか言われる人ってこれを結構持ってるんです。具体的には普通の人が5ぐらいなら、霊感ある人は30とか40あったりします」
紙にボールペンで棒人間を描きながら、空木は言う。
「でも悪魔とか天使ってその比じゃないぐらいあります。100とか200とか、場合によっては1000とかね」
「すごい差があるんですね……」
「えぇ、で、本題はここからです。戦争だから、やっぱり死人が出るわけです。すると、この魔力っていうのは傷から血が出るみたいに、死体から漏れ出ていくんです。あとマユミちゃんが見たと思うけど、魔力のある者が魔法を使ったりしても、同じく空気中に一定量が拡散されます」
「へぇ……するとどうなるんですか」
「悪魔が一人、何発かぶっ放す程度じゃ問題じゃないんです。海に絵の具一滴垂らしても色とかに影響がないように、何も起きません。でも、かなり激しい戦争だったそうで、お互いに魔法も沢山撃ち合ったし、死者も結構出たらしいんです。すると、膨大な魔力が空気中に拡散されたわけです」
結果どうなったかと言えば……。空木は手帳に水の入ったコップの絵を描く。
「理科の授業とかで、水溶液の実験ってあるじゃないですか。水に溶ける塩の量は決まっていて、ある一定を越えると溶け切らないで粉が沈んでいく。同じ事が魔力にもあって、これは空気に溶け込んで同化する性質があります。だけど、一定量を越えると溶け切らずに、余ったモノ同士が結合を始めるんです」
「えぇと、目には見えないんですよね? その、魔力、って?」
「だから厄介なんだ。この、いわば仲間外れになった魔力は集まっていって、これも一定の量がたまると悪さをします」
筆先でぐるぐると渦を描いて、空木は真顔でつぶやく。
「この魔力は空間に穴をあけるんです。そして、漫画に出てくるような並行世界ってものと、この世とを繋ぎます」
「!!」
「勇さんには察していただけたと思います。この穴……私は窓と呼んでいますが、これを通って別次元の動物とか、人とか、それこそ悪魔とか天使とかおばけとか色々こっちの世界にお邪魔してくるわけです。もちろん、害のないものが来たりもしますが、この間マユミちゃんに襲い掛かってきた吸血鬼みたいな、悪さするやつも居ます。そういったものから人間の皆さんをお守りするために、魔界から派遣されてきてるのが……私です」
だいたい言ったよな。一呼吸置くため、空木は抹茶ラテを口に含んで背もたれに体重をかける。
普通に考えれば空想もいいところだが、マユミは実際に眼前の人物が魔法を使うところを見ているし、親の勇にしても怪奇現象については遭遇している。ふたりとも難しい顔になっていたが、先にマユミが口を開いた。
「空木さんが、魔界?って言うところから来た理由はわかりました。でも、あのぅ……」
「遠慮なく聞いてくれていいよ。変なことでもぜんぜん、答えるし」
「……あ、あの……なんで、悪魔さんなんですか。こういうのって、天使さまが来るんじゃあ」
……優しい子だな、やっぱり。失礼だと思って質問を取りやめようとする素振りを最初に見せたマユミに、空木は笑顔で応える。
「それもね、その大昔の戦争のせいだよ。結論から言うと、私の遠いご先祖様が戦争で負けたの。結果は天使が勝ったみたいで、いまでも責任を取らされてるとゆーか」
「はぁ……なんだか人間と同じで世知辛いんですね」
「ですね(笑)」
内容こそ悲壮感が漂っていたが、発言する女がどこか楽しげなので全くそんなように見えず。マユミと勇は不思議に思う。にんまりとしながら、空木は続けた。
「あと、この世界の人たちが思うような生き物じゃ無かったりしますよ、少なくとも私の知ってる悪魔とか天使って」
「それはどういう?」
「こう、神の手足となって人を導く天使、とか、契約の代償に手足をもぎ取って願いを叶える悪魔、とか。よく聞く話ですが、それこそ私にはおとぎ話ですね」
「……たしかに、空木さんって私にはただのお姉さんにしか見えないです」
「でしょ。正直な話、さっき言った魔法が使えるか使えないか程度の違いだと思いますよ。私は生物学には疎いので、あまりわかりませんが」
確かに、こうやって話していても別に違う倫理観を持ち合わせている訳でもなく、食べ物なんかの
「それにスゴいのたくさん居ましたからね。詐欺師やってる天使とか、こっちで言うマフィアとかヤクザにあたる天使も居ますし」
「え、えぇ……?」
「もちろん良い人も居ますけどね。逆に私の知人で、こっちの世界で看護師やってるヤツ居ますよ」
「あ、悪魔が看護師……??」
マユミの脳内に、頭上に輪っかがあって、背中から羽が生えているヤクザやスーツ姿の胡散臭い男が現れる。一般的な神話とか童話で聞くような話からかけ離れている空木の弁に、思考がかき乱されるような感じだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話す事も無くなり、3人は会計を済ませて店をあとにする。普通にそれぞれ別会計でいいかと空木は思っていたのだが、勇が娘の恩人だから全額払うと言って聞かなかったので、じゃあいっかと代金を彼に出してもらった。
駐車場に停めていた自分のワゴンRに乗り込む。空木のその様子を見ていたマユミには、本当に何から何まで普通の人と変わらないな、なんて思われていた。因みに偶然だが、勇がゴルフを停めていたのがその隣だった。
「今日は色々ありがとうございました。ここのカツサンド、教えていただいてありがとうございます。美味しかったです」
「いいえ〜。マユミちゃん、夜はあまり出歩かないようにね。一応エイムくんに見てもらうよう言ってあるけどさ」
「き、肝に命じておきます」
他愛ない会話をしているその時だった。なんの気無しに、マユミが大通りの道路に目を向ける。信号待ちをしていた、外国製の高級車が目に入った。
娘が変なところを見ているのに気づき、勇が同じ方向を見た。「ほぉ〜」 彼はため息をつきながら、口を開く。
「すごいな、ロールス・ロイスだ。しかもオープンカーか」
「ろーるすろいす?」
「高級車ですね。とんでも無く高いヤツ。珍しいな、初めて見ます」
「えぇ、私も実物見るのは初めてですよ」
ふと、空木の目が十二月田家のゴルフに向いた。ここ数日雨が続いていたのに綺麗なあたり、こまめに洗車しているのか。別に詳しく無いが、格好の良いホイールも履いている。どうやらこの父親は車好きと見える。ならあんな滅多に見れない高級車、気になるよな、とまで考えたときだった。
オープンカーなので、ドライバーと、助手席に人が乗っているのが誰の目にも明らかだった。確か数億円の車だから、よっぽどハイソサエティな階級の人間なんだろうな、なんて思っていた空木の目が、助手席に居た人間に釘付けになる。
気のせいだろうか。スーツ姿で頬がこけていた痩せ型のその男はサングラスを掛けていたのだが。その奥の瞳に生気が感じられないように見えた。
「………………。」
「いつか、1度でいいから乗りたいもんだなァ」
「そーぉ? 何がいいのかわかんないよ」
運転席に居る、長い黒髪が目を引く美形の女の方も見る。口許が緩んでニヤけているようにも見えなくない……どうしてだろうか。空木には、その女の笑みが何か邪悪な物に見えた。
いつも1万文字で投稿してたものだから半分単位で投稿するのが新鮮に感じるゾ……
見たいお話の大まかなジャンルをお選びください。1番多いやつがフワッと増えます。
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