その街はごった煮の様相を呈している   作:オラクルMk-II

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一晩明けたら応募がたくさん来てて笑いました。大急ぎで描きますので参加者の方々は少々お待ち下さい。


フェレス・ザ・クレイジードライバー〜その2

 

 

 十二月田一家との喫茶店のやり取りから丸3日が経過する。自宅でクライアントへ出す記事の構成を練りながら、空木は魔界に提出するための日誌も進める。

 

 だいたい週に2回は起こるトラブルの対処をする彼女とその友人であるエイムだが、ここ数日間は至って平和な日々が続いていた。あまり期限の早い仕事ではないのもあって、空木は一旦休憩のためにキーボードから手を離す。

 

 少し前に。警察から、自分が突き出した吸血鬼、アグラーヤについての調査結果が届いていたので目を通すことにした。

 

「どれどれ」

 

 つけっぱなしにしていたテレビの音量を下げ、文章を見る。彼女にしてみれば、予想通りというべきか、既視感のある事柄がつらつらと書かれている。

 

『血液型や骨密度などの体組成·身体能力に、平均的な吸血鬼と同等の数値を確認。未知の細菌·疾患による、ヒトとの共生においての危険は見られず。この結果を踏まえて、脅威度を下げ、以後、銀製品を利用した吸血鬼向けの施設へ収容。その後、悪魔·天使の支援の元、当施設にて就労支援を行うものとする』

 

「…………。素直に言うこと聞くのかな、あの人」

 

 当施設にて就労支援を行うものとする。よほど抑えの効かない者以外に適用されるテンプレートの文章なのだが、その最後の文が引っかかった。

 

 正当防衛だったが、自分も加担したとはいえ、コンビニ内部を破壊したアグラーヤの事を思う。尊大な態度と人間を見下す価値観、なんだかズレたセンス。空木もよく知る、典型的な「元の世界ではブイブイ言わせていた」タイプの行動そのものだった。

 

 自分とは別世界の悪魔や天使、今回のような吸血鬼。珍しい例で言うと、魚人とか宇宙人のようなヤツが過去にこんな具合だったな、と彼女は思う。

 

 最低限、進めなければいけない程度には書類も進めたのであと今日はもう遊ぼうかな、なんて考えていたとき。書斎の固定電話が鳴り、誰だろうかと受話器を取る。番号を見ると、自分も協力している警察からだった。

 

「もしもし、何かトラブルでもありましたか?」

 

『夜分遅くにすみません。少し、ここ数日気がかりな事件がありまして、空木さんからのアドバイスが頂きたくお電話しました』

 

「アドバイス、ですか。その事件とやらについて詳しく」

 

 話が長くなりそうなのを予見して、首に子機を挟みながら、空木はスナック菓子の袋を開けてソファに座り直す。

 

『最近ちらほらと町で行方不明者が出始めているんです。その、言い方は悪いのですが気にすべきかどうなのか、微妙な数でして……』

 

「認知症の方が散歩して保護された、とかではなく?」

 

『えぇ。今日でもう3人目なのですが……30〜40代の中年男性の行方がわからなくなっているんです。これといった持病なども無い、健康な方ばかりで……あと、行方不明者には何個か共通点がありますが』

 

「? それはどんな」

 

『いずれも独身の方だということです。それにこの町の住民の大半は、貴女がいる事を知っているのは承知だとは思いますが、もうここに住んで長い方です。わざわざ危ない夜に出歩いたりする訳がないと思うんですよ』

 

「ん〜…………確かに聞いている分には、その人らの失踪なんてゆーのは作為的なモノを感じますね」

 

『やはり、また窓から来た者が何か企んでいるのでしょうか』

 

「残念ながら、まだ判断するのは難しいでしょうね。その、男性3人が姿をくらました間隔とかは?」

 

『およそ1週間単位です。なので、最初に捜索願いが出た方については、もう1ヶ月近く失踪しています』

 

「3週間、か……」

 

 マユミちゃんと知り合うよりも前、ね……。ホワイトボードになっている壁に、空木は情報を整理していく。

 

『この話について聞きたかったのもそうなんですが……言いにくいのですが、もう一つ、気がかりな事が』

 

「どうぞ。私なんかで良ければ話してください」

 

『そう言って頂けると嬉しいです……もう一つというのが、最近町中で出没するようになった不審な車の事でして』

 

「不審なクルマ」

 

『はい。あの、空木さんは「ロールスロイス」っていう高級車をご存知ですか』

 

「!」

 

 前に、喫茶店の前で見かけた車を思い出す。滅多に走ってるような物じゃないし、アレの事だろうかと空木に電流が走る。

 

「もしかして赤いオープンカーですか?」

 

『あぁ、そうですそうです! 知ってましたか、なら話が早いです』

 

 空木の発言に少し嬉しそうにしながら、受話器の奥の警察官は話しはじめた。

 

『なにせあまり見ないような派手な車でしょうから、結構有名になってたんです。ちょっと気になって、好奇心で後をついていってみたんです』

 

「……何やってんですかアンタ」

 

『ははは、あ、いや、オフの日に自分の車でなんですけど……のんびりと後をついてって、変な事が』

 

「変って何がです」

 

『それが、追いかけているうちに「消える」んです』

 

「消える?」

 

『ええ。追ううちに、普通なら最後は行き止まりになっている路地に入って、そこでプッツリと姿を消すんです。見間違いかと思って何度か日を改めてやってみても、やっぱり消えるんですよ』

 

「へえ…………」

 

 考えられる事は、別の空間同士を繋げる移動魔法を使ってるのか? 警官の発言に彼女はメモ帳をめくる。

 

 空木と一緒に現世へ来て働いている悪魔は、この町には全部で5人ほどだ。もちろん、その中にロールスロイスなんて乗っている者は居ない。たまに応援でやってくる天使もいるのだがその中にも居ないから、警官の言うことが本当なら十中八九、あの運転手の女はこちらに迷い込んできた、魔法を使える何者か、と考えた。

 

『問題はここからです。件のロールスロイスは女性が運転しているのを多くの方が目撃していて、大半は助手席にサングラスやマスクを付けている男性が乗っていたそうなのですが……その人物が、行方不明者の顔に似てるんです』

 

「!!」

 

 確かに乗ってたよな。なんだか頬の肉が削げ落ちた、げっそりした男が隣に…………。受話器を握る手が、汗で湿るのを知覚する。

 

『その、一緒に行動して普通に買い物してたりしているそうで、その女性と男性に何もおかしなところは無いんです。それどころか仲睦まじくお話している所も確認されていますから、ただの夫婦か知人同士なのでしょうが……』

 

「……えぇ、それで」

 

『なんだか、引っ掛かるんです。空木さん。この2つは、関連性があると見るべきでしょうか?』

 

「………………………っ。」

 

 ゆっくりと、重い口を開く。

 

「十中八九、ドライバーは窓から迷い込んできた何者かで間違いないかと」

 

『!! や、やはり』

 

「お話はだいたいわかりました、こちらからもエイムに伝えておきます」

 

『よろしくおねがいします。引き続きこちらでも探りを入れますが、ここまでの調査結果もそちらへ送ります』

 

「ありがとうございます。では、また」

 

 話も終わり、受話器を置く。ふぅ、と一息ついて炭酸飲料を喉に押し込む。

 

 ロールスの不審者と行方不明者、か。確かにたまにここの辺りに出てきたぐらいならともかく、住んでるわけでもないのに、数日間で頻繁にここ(合田市)を通り始めたって言うのは、無実なら悪いけどなんだか怪しいな。そんなように、空木が会話の内容を脳内に落とし込んでいたときだった。

 

 今しがた通話が終わったばかりなのに、今度はスマートフォンが鳴った。おいおい次は誰だ? 画面を覗くと。相手はマユミの父、勇だった。

 

「あぁ、勇さんですか。どうかしましたか?」

 

 繋がった!! 良かった……。そんなような、声からして、なんだか切羽詰まった様子だ。

 

 次に彼から発された発言に、空木は目を剥く。

 

「マユミちゃんがさらわれたァ!?」

 

 必死そうな父親の訴えを聞き。年甲斐もなく空木は叫んでしまった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 助けられるなら町の人間はできる限り守るし、ましてや交流を持った人間ならば尚更手厚く保護する、というのが空木のポリシーである。

 

 大切にしている持論を踏みにじられて、彼女は今怒っていた。どこの誰がマユミを誘拐したのは知らないが、半ば正常な思考回路を失いかけている彼女は1つの結論に行き着いていた。

 

 なんの根拠も証拠も全く無かったが。マユミは、ロールスの女に連れ去られたに違いないという一方的な決めつけである。

 

『……その、空木殿』

 

「なにさ!!」

 

『少し落ち着いては? 確かにまゆみ殿が姿を消したのは心配ではあるし、警察から連絡があったろーるすも怪しいと思うのは至極当然でござる』

 

「だから!? なに??」

 

『いえ。怪しいからといって、拙者に定点からその車を狙撃するように言うのは、それは流石にどうなのかと思うのでござる』

 

「どうせエイムの回復魔法で車も中のスットコドッコイも治せるでしょ! 無問題だモンね!!」

 

 無線機から聞こえてきた気乗りしていないエイムの声に、彼女はブツリと通信を切る。

 

 視野の狭くなった空木の行動は早かった。例の車のよく通るルート、女の行動ルーチン、立ち寄る店など色々と根掘り葉掘り情報を集め、有力……かはわからないが複数の情報を仕入れる。

 

 まず1つ、乗っている女の名前は「フェレス」という事だった。偽名かどうかはともかく、ビルの中にある、高級チョコレートの専門店によく来るらしく、そこの店員から聞いた。

 

 またもう1つ、理由はわからないが、赤いオープンカーはよく峠道を登って降りてくるのだという。非力な自分の車では登るときは振り切られるかと思い、現在、空木は深夜の山の、山頂近くの休憩所に車を止めて張り込みをしていた。

 

 ゼッタイ許さん。もし犯人なら引きずり下ろして洗いざらい吐かせてやる。わなわなと震えながらハンドルを握っていたその時だった。

 

 バックミラーに車のライトの光が映る。

 

 さて、車はなんだ―――気を引き締めていた彼女の網膜に。真っ赤な大型高級車が、確かに投影された。

 

「!!」

 

 そして、完璧な偶然と幸運だったが。助手席にマユミが乗っているのを見て、空木は目を見開く。

 

「来たぁ!!」

 

 ローレンジにレバーをぶち込み、アクセルを踏みつける。獲物を見つけて闘争心に火がついた持ち主の気合とは反比例するように、のんびりのんびりワゴンRは加速し、対象の後ろにつく。

 

「やっぱりあってたよ私はぁ!! エイムくん狙って、コイツ隣にマユミちゃん乗せてる!!」

 

『ゑ、マジでござるか!? しかも来たの?? すごい偶然でござるな!?』

 

「いいから早く準備!!」

 

 彼女の怒号にも近い報告を聞いて、無線の奥からかちゃかちゃと物音がするが、今はそれどころではない空木はハンドル操作に集中する。

 

 軽自動車とはいえ、急な坂道を下るとなるとあっという間に速度は100kmを超えた。するとどうだろうか。前にいたロールスロイスもいきなり加速を始めた。

 

「あ、逃げる気だなこんにゃろ!!」

 

 完全に頭に血が上って、追いかける以外の選択肢が脳の片隅に追いやられた空木は、ただ乱暴にアクセルを床まで踏みつける。しかし悲しいことに、差は広がる一方だった。

 

「ちょっと、この、もっとスピード出ないのォ!!」

 

 ムキになった彼女は、冷静なときでは絶対やらないような事もやる。意味もなく、車が速くなるワケもないのに、体を前後に揺すったりなんだりと運転席でのたうち回った。

 

「追っ付けない……このぉ……」

 

 限界までヒートアップしていた思考が段々と冷めてくる。無茶な速度でカーブに飛び込んでは、曲がり切れなくなって壁に擦りそうなほど近付いて……なんて繰り返す運転をしていたのを、すっかり相手が見えなくなるほど引き離されてしまい、空木はアクセルを緩めてしまった。

 

 トイレ付きの休憩所に停車する。戦意を喪失した彼女は、下で待機している親友を頼り、ただ祈る。

 

「頼むよエイムくん……勇さんに吉報届けなきゃ…………!」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 空木が振り切られた地点よりも更に山を下った地点にて。エイムは森の中に息を潜めながら、持ち込んでいたケースの蓋を閉じ、準備を終える。

 

 背中から生えている羽をぴったりととじて、愛銃のアサルトライフル、ACRを構えながらその場にしゃがみ込む。先程また空木から来た無線で彼女から後を託され、渋々彼は発射姿勢を取り、じっと時を待つ。

 

 ここから道路まではおよそ200mほど。こう暗いと向こうからは見えづらく、念を入れてサプレッサーも付けておいたが、銃声を聞かれる恐れもないでござろう。楽観的に考えながら、エイムはスコープを覗いた。

 

 車が降りてくる度にこれかこれかと確認する。どれほど時間が経過したか、何気なしに数回目の確認作業に入ったとき。彼は目標を補足した。

 

(赤いおーぷんかーの、高級車。これにござるな)

 

 事前に狙撃にはある程度の時間の余裕が取れる場所を確かめてからこの場所に陣取っていただけに、彼には相手が悪者だと余裕を持って確認する暇はあった。実は頭に血が上っていた空木の事をあまり信用していなかったのだが、彼女の言った通り、ロールスロイスの助手席にマユミが乗っているのを見て。これで後腐れなく弾を撃ち込めるとトリガーに指をかける。

 

「…………本当にまゆみ殿が隣に乗っていますな」

 

 銃の扱いには自身がある彼には、狙撃に向かないコレを用いても、たかだか200m程度先の対象物を撃つぐらい朝飯前だった。深呼吸をしてリラックスしながら、呼吸でブレる自分の指も計算に勘定し、狙いを定める。

 

「人質もいる(ゆえ)、気は進まんが……狙いは外さないでござる。」

 

 愛銃の銃口を、峠を下ってきた車のタイヤに向ける。

 

 しっかりを狙いを定めて、彼は引き金を引いた。

 

 

 ここでおかしな事が起きる。間違い無くタイヤに弾丸は当たったが、平然と赤い車は走り続けた。

 

 

「??? あれ、外したかな??」

 

 ジャムって弾でなかった訳でもないし?? 困惑しながら、しかし素早く切り替えてエイムは再度の狙撃を試みる。

 

 よく狙ってから、もう一発……確実に、弾丸は対象物のタイヤに当たった……はずだった。

 

「…………………?? なぜでござる?」

 

 やはり、車は止まらなかった。いきなりタイヤがバーストしたとなれば、操舵不能か蛇行からの衝突で止まるべきところが、フェレスの駆るロールスロイスは、やはり軽やかに峠道を下っていく。それどころか、見ていると相手は撃たれたことにすら気付いていなさそうだ。

 

「おろろ?」

 

『ちょっとエイムくん!? 聞こえてるよ! もしかして外した??』

 

「いや、当たったはず……でござる」

 

『はずって何はずって』

 

「それが、着弾しても車が走り続けているのでござる。あの車はキャタピラか何かで走っているでござるか?」

 

『はぁ!?』

 

「先回りして言うが、拙者、嘘は言っていないでござる。自身の腕前と客観的事実を申し上げたまでで」

 

『……………な、なんでなんだろ?』

 

「さぁ?」

 

 一応、事故を見越してこの先にはクッション材やら魔法を使った建材などなど、マユミの身の安全を保証する仕掛けも用意していたのだが。そもそも狙撃自体が失敗し、空木の考えていた計画が破綻する。

 

 わけのわからないまま、エイムは双眼鏡で山を降りていく車を見ながら、無線機に話しかけた。

 

「空木殿。言い訳、させてもらえるでござるか」

 

『?』

 

「たぶん(それがし)のせいではないでござる」

 

『うっさいっての! この!』

 

 ぶつん! と通信の切れる音がする。

 

 これはこれは。なんだか厄介な相手になりそうな気がするでござる。私物のライフルをせっせと片付けながら、彼は相方が自分を拾いに来るのを待つことにした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 速い車じゃないと、彼女を助けてあげられない。こんなポンコツじゃ無理かぁ……?

 

 苛立ちを抑えきれず、空木は近くにあった自販機を軽く蹴っ飛ばす。

 

 眼下に広がる峠道と夜景に視線を飛ばせば、逃したあの女の物と思われる車のライトの光が見えた。逃げ切ったのだから当然か、先程とは打って変わって悠々とロールスを走らせているのが、彼女の心に油を注いだ。

 

 ギュッと握り拳に力を込める。ふぅ、と意識してため息を付いて、体の力を抜く。空木はスマートフォンから知人に電話をかけた。

 

「あ、深尾なんだけど、ツバキさん、今大丈夫だったかな。ごめん、明日ぐらいにワケあって、預けてた私の車そっちに取りに行きたいんだけど、用意しておいてもらえるように言って頂ける?」

 

 通話相手は、話したかった相手とは違ったが。要件だけ伝えて話を終えると。彼女は車に乗り、山を降りた。

 

 

 

 

 




次話·もしくは更に次話でフェレスさんとは決着となります。

見たいお話の大まかなジャンルをお選びください。1番多いやつがフワッと増えます。

  • ほのぼの日常
  • ドタバタコメディ
  • ギャグバトル
  • 真面目な戦闘シーン
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