トレーナー、仕事辞めるってよ   作:TE勢残党

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 この私がミーク編を書いていないとでも?
 見せられなくなったから見せてないんですよ。
 前話が遅れた理由はソレです。


#11 BITTER END

「だから――どうか。わたしたち(ウマ娘)を見限らないでくれ。

 

 君の行くその先でも、わたしたち(URA)を見ていてくれ……っ!!」

 

 ――ごめん、やよいちゃん。

 

 俺には出来ないよ。

 

 

 

 目覚まし時計のアラーム音が鳴る寸前に、目が覚めた。

 

 止めてみると2分前である。悪くない体内時計だ。少し気分がいい。

 

 それに……随分懐かしい夢を見ていた気がする。

 

「朝か」

 

 店の仕込みがあるので、起きる時間は以前と大して変わらない。

 

 というか、慣れてしまって自然と5時には目覚めてしまう。一種の職業病……の後遺症、といった所か。

 

「今日はこれと、これと……」

 

 手早く仕込みを済ませて行く。慣れたものだし、メニューも数種類のみ。その上昼時だけの趣味開店だ。大した手間じゃない。

 

「よし、こんなもんだな」

 

 本日分、100食+αを用意し終え、今度は店の準備。窓とテーブルを拭き、床を掃除していく。

 

 ――あれから、そろそろ1年になる。

 

 あれっきりトレセン関係者との連絡を一切絶った(番号が入っていたスマホ等を全て処分した)ので、業界の動向はほとんど分からない。辛うじて分かるのは、URAという組織そのものの屋台骨が揺らぎだしている、ということくらいか。

 

 風の噂でも、今のURAが壮絶な内ゲバの最中にあることは理解できる。ワイドショーやら何やらで、延々と話題にされているからだ。誰がどの派閥かまでは分からないが、泥沼の総力戦の様相を呈している……と言われていたのが半年前だ。

 

 ――暗闘が高じて両陣営から死人が出ており、そのせいで止まれなくなっているのではという噂話を聞いて、俺はそれ以上情報を集めるのをやめた。怖かったんだ、不意に担当の名前が出る可能性が。

 

 当の俺はと言えば、あの日差し伸べられていた全ての手を振り切り、地元でもない岐阜の片田舎へと引っ込んだ。

 

 所有しているマンションの収入などにより、よほどのことがなければ中流上位レべルの生活をしても資金が目減りしない。当初の計画通り手に入れた、これ以上頑張らなくてもいい生活だ。

 

 人生賭けて手に入れたそれを、最初は全力で謳歌していた。

 

 身バレを警戒して長時間留まれないのをいいことに、1か月かけて世界旅行をしたり、ホテルを泊まり歩いて日本中の美味い物を食べて回ったり。反対に1週間分くらいの食糧を買い込んで、部屋に籠って耐久ゲームしたり(100時間かけてゼノ〇レイドDEを全クリした)。

 

 そうやって3ヶ月が過ぎたころ……やりたいと思っていたことを粗方やり尽くしてしまったのだ。

 

 思えばあの妙なやる気は、あらゆる責任から逃げ出したことに対する現実逃避だったのかもしれない。

 

 とは言えそれも、3ヶ月もする頃には記憶から消え始めたということだろう。

 

 そして残ったのは、ひたすらヒマを持て余す生活。

 

 それはそれで悪くはなかったが、永遠にこれが続くのも精神衛生上よろしくない気がしたので、趣味を増やそうと色々試してみるうちに――料理好きが高じて定食屋を開いてしまったのである。

 

 接客はバイトで雇っている近所の子に任せているし、昔と違ってコンタクトをやめてメガネになったし、髪も短くなった。まあ、バレたらまたどこかに引っ越せばいいだろう。

 

 ――或いは。

 

 バレることで退屈が打破されることを、彼女たちに見つけてもらえることを、心のどこかでは望んでいるのかもしれない。だがそれは、俺に許されるべきことではない。自分から逃げ出しておいて、あの場所にまた、戻りたいなどと。

 

 そんな矛盾した心境が、俺にこんなことをさせているのか、なんて。我ながら随分女々しくなったものだ。

 

「よし」

 

 物思いに浸りながらも、手はとまっていない。子供の頃から叩きこまれた習慣は、そう簡単になくなったりしないということか。

 

「おはようございまーす」

「おう、今日も早いな」

 

 バイトに来ている近所の大学生(人間の女性)がちょうど出勤してきた。背は高めだが同時にちょっと丸めな印象で、真中で分けた長めの髪が特徴の表情豊かな子だ。

 

 本人曰く「昼時に授業を受けると絶対に寝るから」とそこをぽっかり空けて授業を組んだところ、そこにピッタリ埋まるバイト募集(うちの店)を見つけて運命とばかりに申し込んだそうだ。

 

「そうですかあ? えへへ、店長……まかないください」

「そう来ると思った。ほれ」

「わはぁ~! ありがとうございます!!」

 

 こいつが早く来る時は、大体出勤時間前にメシを食うためだ。何なら休日にも、900円の時給と共に賄いを二食まで出してもいい(持ち帰り可)という条件で雇っている。どうせ今日も朝飯を食べ損ねたのだろう。

 

「相変わらず美味そうに食うなぁ」

「ほうへふは?」

「食べながら喋るな、ああほらこぼれるこぼれる」

 

 いつもの間の抜けた笑顔で、賄い(昨日残った天ぷらを片っ端からご飯の上にのっけたかき揚げ丼もどき)を掻っ込むバイトちゃん。俺の店最大の常連客として美味そうに食うだけでなく、食い意地分はきっちり働くし性格もいい。中々逸材だ。

 

『客も増えたし、バイトもう一人くらい増やそうか?』

『えっ!? いいいやーわたし一人で十分ですよぉ!! ちゃんと回ってますし! 二人いれば十分ですよ! ね、ね!?』

 

 という以前の会話により(賄いが独占できなくなると困るのだろうか)、いまだに店は2人体制で回しているが……男一人のところに入って身の危険を感じないのだろうか? まあ、見るからに食い気優先ということなのだろうが。

 

「じゃ、いつも通りホールとレジは頼んだぞ」

 

 全部で15席ほどしかない小さな店だが、俺が厨房にかかりきりになる程度には客が入るため、彼女の協力が不可欠だ。

 

 うちは11時から14時までしか開けてない典型的な趣味の店(しかも日曜定休)。メニューは3種類の定食と季節限定品だけ。500円、600円、700円、800円なので計算も楽(しかも現金のみ受け付け)。客の回転がとても速いのだ。

 

 やろうと思えばフレンチのフルコースじみたものだって作れるが、俺自身が高級料理を1回食うより行きつけの店で1品増やして何回も通った方が満足度が高いタイプなので、店のメニューもコスパ特化。大衆食堂というやつだ。お陰で近所の学生やサラリーマンなどには大好評である。

 

 そうこうしているうちに開店時間だ。店を開け、早めの昼休みに入ったらしい人がワっと押し寄せる。

 

「ああ、今日からキャンペーンあるから忘れるなよー」

「はーい!」

 

 厨房から指示を飛ばすと、元気のいい返事が返ってくる。うんうん、この子が看板娘をやってくれるお陰で、随分客が増えていると思う。今度ボーナスと称して焼肉にでも連れて行ってやるか。お洒落な所より喜びそうだし。

 

 キャンペーンとはズバリ、開店から先着10名限定で特盛無料。さらなる大食い野郎を呼び出して客にしようという訳だ。

 

 数日前からのぼりとチラシで広告は万全、見ればさっそく何人か客が入り始めている。

 

 店も軌道にのった。やりがいもあるし、看板娘もいる。

 

 このまま過去の記憶を風化させながら、店を経営してのんびりするのも悪くない。

 

 そう、思い始めていた。

 

 その時だった。

 

 店に向かって猛烈な勢いで走って来る、何かを見た。

 

 最寄りの信号(コーナー)を経て、最終直線でさらに加速。

 

 超前傾姿勢のトップスピードのまま俺の店(ゴール)の前に到着し……とんでもない膝のバネを見せつけながら、止まった。

 

「すまない。特盛無料と聞いて来たんだが、まだやっているだろうか」

「ごめんね~、お客さんが12人目なんだぁ」

「そんな……」

 

 なんてこった。

 

 全てを捨ててこんなところまで来ても、こんな仕事をしても、URAが壊滅状態になってなお……俺は、あの頃から解放されないのか。

 

「お客さん、トレセンの子か?」

「ああ、そうだが」

 

 思わず、時計を見る。11時3分、55秒。

 

 11時のチャイムと同時に駆け付けたとして。

 

 ()()のトレセンからここまで、およそ3キロを3分そこそこで……。

 

「ああ……そうか。そう、なんだな」

「あれ、店長?」

 

 バイトちゃんが訝しむのも構わず、俺は驚愕に目を見開いていた。

 

 過去は消えない。

 

 きっと、俺だけが気づいている。俺だけが、過去の自分がどれだけの損失を齎したのか理解している。してしまった。

 

 ヨレヨレのジャージと、ボロボロの運動靴に身を包んだ、無口な葦毛のウマ娘。

 

 ――()()()()()()()()()()

 

 だが、どうやって引き出す。誰が引き出す。

 

 URAも、トゥインクルも、中央トレセンも。

 

 全部、俺が潰して、だからここまで逃げて来たというのに。




 ルート条件:ゴルシイベント失敗かつ、桐生院の誘いに乗らない。
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