トレーナー、仕事辞めるってよ   作:TE勢残党

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 1話投稿から丸4日かからなかったのヤバない?

 本作は皆様のニチャり顔と曇り顔に支えられております。本当にありがとうございます。

 ゴルシエミュってたら脳がパンクしそうになったから短め。ごめんやで。


#5 破天荒

「悪ぃ! お前の貯金、FXで全部溶かしちまった!!」

 

 第一声がコレだ。()()()()()()()()()

 

「ゴルシが嘘つくとは、珍しいこともあるもんだな」

 

 奇特、奇怪、破天荒。やることなすこと意味不明。

 

 周囲の評判はそんな所だが……実のところ、彼女は誰よりも仲間想いで、何より賢い。9割の奇行の中に、1割の思慮深い行動が紛れ込んでいるウマ娘。頭が良すぎて逆にバカ。

 

 それがゴルシだ。こいつは、人に不利益だけを与えるような悪ふざけはしない。

 

「……んだよノータイムかよぉ! ちょっとくらいビビれよなー!」

「何年の付き合いだと思ってる。もう慣れた」

 

 こいつがいつの間にかチームに居つくようになったのはいつだったか。

 

 実を言うと、正確には覚えていない。記憶力には自信がある方だが、ある日を境に当たり前のようにチームミーティングに顔を出すようになったような気がする。

 

「なんだよつまんねえ顔しやがって! ははぁん、さては学食の冷やし中華に中ったか!」

「2か月前までの限定だったろアレ、あと俺はまだ昼飯食ってないぞ」

 

「知らねえのか! オセアニアでは冬に冷やし中華は常識なんだぜ!? あ、常識と言えばバミューダトライアングルの裏側から訴状来たんだけどさ、アレ読めなかったから紙飛行機にしてマックイーンに投げたんだけどよ、風に乗ってアタシの目ん玉に直撃しやがって」

 

 ペラペラと意味の分からない言葉を喋るゴルシ。本気で解読すると実は意味のある文章だったりもするのだが、今日はそこまで頭を回す気力が出ない。

 

「どこから突っ込めばいいんだ、それ」

「どこからでも開けられますって書いてるパウチの開けられない方からだな」

「全方位ってことか……おい、どこ行くんだ?」

 

 おもむろに歩き去っていくゴルシに声をかける。

 

「昼飯まだなんだろ? 買って来てやるよ」

「……助かる。高菜な、おにぎり」

「ツナマヨもだろ。わーってるって!」

 

 相変わらず、言動の意味不明さに比して気の利くやつだ。

 

 財布から出した500円玉を投げてよこすと、ノールックのままジャンプしてわざとらしく空中でポーズをとりながら確保。そのまま職員寮傍にあるコンビニへと走って行った。

 

 生徒は立ち入り禁止だが、まあいつもの事だ。見つかって怒られるようなヘマはするまい。

 

(……アイツなりに、心の準備の時間を用意してくれたってことかね)

 

 思えば随分振り回されてきた。

 

 急に無人島に放り出されたり、たこ焼きの屋台をやると言って材料調達のために蛸壷づくりをしたり、時代はクイズだと言い出したかと思えばアメリカを横断するクイズ大会破りに同行させられたり――

 

(練習してた記憶がねえ……)

 

 どうしてこいつがG1で4つも勝てたのかは、恐らく彼女自身にしか分からないだろう。勝利者インタビューで秘訣だのコツだの聞かれる度に、どうにかして言い訳をひねり出すべく頭を回した日々が懐かしい。

 

 本人が楽しそうだったのでよしとしたが、本当に良く分からない奴だ。ある意味ブルボンの対極……なのだろうか。

 

 しかしまあ、こいつの勢いに飲まれていると余計なことを考えずに済むので、

 

「ほらよ」

「おう、サンキューな……んだこれ」

 

 物思いに浸っていると、ゴルシがペットボトルの緑茶を持って戻ってきた。

 

 生の真鯛と一緒に。

 

「言ったろ、昼飯!」

「ああ、おにぎりは別であんのな……どうしたんだこの鯛」

 

 見ればまだ生きている。この一瞬でどこから持ってきたのやら。そう言えばバレンタインにも貰ったな、生の真鯛。

 

「んな細かいこと気にすんなって! 田舎行ったらいくらでも食えるだろ?」

「……なんだ、知ってたのか」

 

 どうやって言い出したものかと思ったが、取り越し苦労だったらしい。

 

「おうよ。トレピッピのことならこのゴルシちゃんが一番よく知ってっからな」

 

 どこで知ったかは言いたくないということか。

 

「まあ、そういう訳でな。辞めることになった」

「ほーん、んで、どの辺に引っ込む予定なのか決めてんのか?」

 

 意外にも、普通に引退後の話を聞かれた。

 

 ああ、そういえば最初の方は全員こういう感じになるんじゃないかと予想していたっけ。今にして思えば何を甘いことをと言う話だが。

 

「あー、細かいことは決めてないんだけどな。直接行った先で落ち着くとマスコミが辿ってきそうだから、実は三か所アパートを取ってある」

「……本気なんだな」

 

 いつになく真剣な表情のゴルシ。

 

「ああ。ま、元々さっさと引退するために金稼いでたんだし、当初の目標通りと考えたらそう悪いもんでもないぞ」

 

「そうか。田舎かあ、いいじゃねえか。アタシも一遍くらいは無人島とか開発してみたかったんだよなあ」

 

 ……こいつ、付いて来る前提で語ってやがる。

 

「それともアレか? 里山で手に入れたヘラクレスオオカブトとアトラスオオカブトの決戦が見れるかもな!?」

 

 だが、まあ。

 

「――まあ、いいんじゃないか?」

「へ? おいおいいつものツッコミはどうしたんだよワトソン君!?」

「誰がワトソンだ。ゴルシなら止めても来るだろうってだけだ。それに」

 

 マルゼンと違って、メディアに捕捉されて云々とか考えるだけバカらしいのが、こいつだ。俺より先に潜伏先に居座って、玄関開けたら寝そべってゲームしてる、くらいは普通に想像できる。止めるだけ無駄だ。

 

 何より――

 

「俺が本気で来てほしくない時は来ないだろ」

 

 こいつは、そういう奴だから。

 

「っ――んだよもー! 今日のオマエ遊びがいがねえなー!!」

「仕事辞めようってんだから一応マジメにしてんだよ!」

 

 同時に、こいつにしんみりした空気が似合わないのも道理だ。

 

 笑って、バカやって、すっぱり別れる。あるいは付いて来る。それでいい。

 

「あ、それと。今朝俺の私物だいたい全部にちっちゃく"金"って文字書いてたのゴルシだろ」

「お、知らなかったのか? ゴルシちゃんは遍在するんだぜ」

 

 ……ひょっとして、ものすごく遠回しに「あれをアタシだと思って」と言おうとしてるんだろうか。

 

「お前なあ……」

 

 いやいや、こいつに限ってそんな湿っぽいことはするまい。思考がブルボンに寄っている。きっとそうだ。

 

「別にいいだろ、アタシと何かあった訳でもねえんだし。それともなんだ、うまぴょいしたのか? アタシ以外のヤツと……」

「隠語みたいに使ってんじゃねえよ!」

 

 それからは、いつも通りの言い合いが続いた。

 

 こいつなりに、去っていく俺のことを考えてくれているのだろう。気兼ねなく出て行けるようにしてくれている。

 

 気のせいかもしれないが、気遣いの上手いゴルシなら、あるいは本当にそうかもしれない。

 

「――ま、辞めてからも元気にしてろよ」

 

 話が途切れた後。急に、真面目な顔でそんなことを言い出すゴルシ。

 

 それに答えようと、口を開こうとする直前。

 

「……トレーナー」

 

 背後から、聞きなれた、特徴的な声がする。

 

 トウカイテイオーだ。

 

「よ、よぉテイオー、どした」

「今の。本当?」

 

 ゴルシの顔が一瞬強張った直後、わざとらしく口笛でも吹きそうな顔になった。

 

 台詞にして「やっべ」からの「しーらね」だろうか。

 

「んじゃアタシはゴルゴル商事のTOBが忙しいから……じゃあな!!」

 

 一転、凄まじい勢いで逃げ出すゴルシ。あれを宝塚記念の時やってれば勝てたと思うんだが……まあ、あいつはやる気のあるなしが極端に成績に出るタイプだった。考えても仕方ないか。

 

「トレーナー、辞めちゃうの?」

 

 さて、現実逃避はやめにしよう。

 

 目の前のテイオーは、明らかに眼の光が消えている。

 

 チーム唯一の中等部のはずなのに、返答如何では命はないかもしれない。そう思わせる圧があった。




「…………これでいいんだ。アタシは、奇行種ゴルシちゃん、だからな」

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