エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園   作:M.T.

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(非)日常編③

楽園生活7日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

…頼む、傷に響くから大音量は勘弁してくれ。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

食堂に行くと既に安生と聞谷がおり、その後ジョンと速水と筆染と一が、遅れて黒瀬と宝条が来た。

弦野は、いつもの事だが今日も来ていなかった。

安生によるとチャットが既読になっていたので生きてはいるらしいが、流石に7日も碌なものを食べてないとなると心配だな…

後で声とかかけに行った方がいいかな?

 

今日の朝食当番は漕前、枯罰、仕田原の3人で、神崎は相変わらず自分の分を作っていた。

3人の飯が美味かったのはいつもの事だが、神崎も神崎で素人とは思えない程ハイクオリティな料理を作っていた。

ちなみに食事を完食した後は約束通り漕前、ジョン、一の3人に奢ってもらったアイスを食べたのだが、勝利をもぎ取ってゲットしたアイスというだけあって格段に美味かった。

 

 

 

朝食の後は、各自自由探索の時間になった。

今日は少し日差しが強いな…

 

さて…どこに行こうかな。

そうだ、とりあえず図書室にでも行ってみるか。

俺は、図書館で参考書を探しつつ本を読んで時間を潰す事にした。

 

「えーっと、学習参考書の出版社から検索してみるか。四省堂と啓森館と…お、あったあった。」

 

俺は、検索機に表示されたマップに従って参考書を探しに行く。

 

「んーと、確かここら辺に…おっ、あったあった。」

 

俺は、必要な参考書を持って館内にあったカートに入れる。

そして、読む本を探しに図書館内を彷徨いた。

 

「えーっと…ん?」

 

その途中で、本棚に並んでいる本が目に留まった。

その本には、背表紙に『Scarlet 〜少女と殺人鬼の恋〜』と書かれていた。

 

「何だこれ?」

 

作者は…沙羅乃上魚三郎か。

確か最近注目されるようになった新人作家で、一部のコアなマニアに人気があるんだよな。

一度作品を読んでみたい作家の一人だし、ちょっと読んでみるか。

俺は、その本を手に取ってパラパラとページを捲ってみる。

 

…ふんふん、なるほど。

どうやら、家族を亡くした幼い少女が殺人鬼の男3人に拾われて家族として一緒に暮らしていくというストーリーのようだ。

男達に出会うまでずっと迫害されていた少女は男達を兄のように慕い、リーダー格の男の強さと優しさに惹かれ恋心を抱く。

少女の初恋の相手である男もまた絶世の美女へと成長していく少女に惹かれ、兄妹のような関係だった二人がやがて恋人同士になっていく…か。

 

ジャンルは恋愛小説っぽいな。

グロテスクで狂気的なミステリー小説やサイコホラー小説でお馴染みの作家だから、こういうのは新鮮でちょっと読むのが楽しみになってきたぞ。

もう少し読んでみよう。

 

ある日少女が男の部屋で涙ながらに想いを伝えると、男は悪戯っぽく笑って少女の小さな唇に接吻をする。

舌を絡めながら少女の寝衣を脱がせ、唇を離すと銀糸が繋がっていた。

男は少女の豊満に実った白い果実を掬い上げ、先端に聳え立つ蕾を舌先で弄る。

少女が艶めかしい声を上げながら未知の快楽に肩を跳ね上がらせ潤んだ瞳を男に向けると、男の苛虐心と情欲が加速していく。

妹のように可愛がっていた少女が妖艶な身体つきに成長し欲情した雌の顔を向けているのを見て、男は内に秘めていた欲望を少女にぶつけ永遠に自分だけの女にしてしまいたいとすら思った。

やがて少女の火照った身体を撫でる男の手が下へと降りていき、少しゴツゴツした長い指が下着の中に…

 

 

 

…ん?

おいおい、ちょっと待て。これって官能小説じゃねぇの!?

その先はそれはもう情事の場面が細かく書かれた過激な表現のオンパレードだったので、俺はそっと本を閉じて本棚に戻した。

未成年しかいないのに何でこんなものが置いてあるんだ。

あのクマ、やってる事完全にセクハラじゃねーか。

それとついでに本棚の中からメダルが出てきたので回収しておいた。

後で使う機会が出てくるだろう。

 

…そうだ、そういえば黒瀬の本もあるんだった。

読んで感想聞かせたらアイツも喜ぶと思うし、何冊か読んでみるか。

俺は、黒瀬の映画やゲームの本を何冊か持ってきて読んだ。

 

「お。」

 

俺は、『霊感探偵』という小説を手に取った。

これのドラマ見た事あるぞ。

確かバカだけど霊感がある男子高校生が主人公で、双子の弟はすげー頭良くて地元でも有名な名探偵なんだけどある日交通事故で死んじまって幽霊になっちまって、主人公はどうしても弟が解決したかった事件を解決するために幽霊の力を借りて弟になり切るんだよな。

これ、最後の方録画し忘れて結末どうなったか知らねぇから読んでみるか。

 

それから、『The ripper』…

これはかの有名な殺人鬼ジャック・ザ・リッパーが主人公の話で、ありとあらゆる顔を使いこなし周りの目を欺きながら次々と事件を起こしていく話だったな。

 

それと、俺の一番のお気に入りの『文学探偵シリーズ』。

これは新米刑事の主人公が、高校時代の同級生の文豪に事件解決のヒントをもらう話だ。

その文豪は事件を実際に見てるわけじゃないのに豊富な知識と優れた推理力でその事件の真相を全て原稿用紙に書き下ろして小説にしてしまうのだ。

第一編の最後は黒瀬が飽きたせいで文豪が黒幕に殺されるという雑な終わり方をしたが、結局人気が出過ぎて実は生きてましたっていうオチで続編が出たんだよな。

 

俺は、黒瀬が脚本を手がけたドラマや映画の本を読んだ。

さすがは【超高校級の脚本家】というだけあって面白かった。

特に、殺人事件が起きたシーンはまるで本当に俺の目の前で殺人が起きたんじゃないかってくらい読者を作品の世界観に引き込む描写になっていた。

読んだ分は黒瀬に感想聞かせてやるか。

そんな事を考えつつ、俺は図書館で選んだ参考書を持って部屋に戻った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

参考書を読みながら暇潰しに少し勉強していると、部屋のインターホンが鳴る。

 

「…はい。」

 

俺は、すぐにドアを開けた。

ドアの前に立っていたのは聞谷だった。

 

「どうした?」

 

「お食事の準備ができたそうなので、呼びに来ましたの。」

 

「そうか…って、あれ?今何時だっけ?」

 

「12時15分ですわ。」

 

「うわ、やべ!15分も遅刻してんじゃねーか!!」

 

そういや勉強してて全然時計見てなかったからな…

うわ恥ずかしっ、2日目の筆染と同じ失敗しちまったよ!!

 

「悪い、ありがとな教えてくれて!」

 

「いえ。早く行きましょう。」

 

俺は、慌てて部屋から飛び出すと聞谷と一緒に食堂に向かった。

 

 

 

「悪い、遅刻した!!」

 

「フン、遅いぞ子供。」

 

「すまん、参考書読んでたらつい…」

 

「えー、そうなのー?まるで絵麻ちゃんみたーい。」

 

「う…」

 

食堂には既に弦野以外の全員が集まっていたので、すぐに昼食を取る事になった。

今日の昼飯係は枯罰、仕田原、速水の3人だった。

昼食の後は自由時間となったので、とりあえず黒瀬に本の感想を伝える事にした。

 

「黒瀬。」

 

「ふぃー、何ですかー。」

 

「あのさ、さっき図書館でお前が脚本を手掛けた作品の本を読んだんだけど、面白かったぞ。」

 

「そぉ?えへへー、それは嬉しい限りですなぁー♪」

 

可愛い…

コイツ、マイペースで考えてる事はわかんないけど何かふわふわしてて見た目と喋り方は天使みたいなんだよな。

 

「だったら円くんには特別にボクの作品の魅力を教えてあげますっ!」

 

「え?」

 

あー、これ長くなるやつだ…

でも元はといえば作品の感想を伝えるために話しかけたんだし、これを機に脚本についての知識とか色々教えてもらうか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

3時間後。

 

「でね、円くんはメイド服着せてあげたら絶対可愛いと思うんだよねー。」

 

「…あの。もういいか?」

 

結局あれから3時間ぶっ通しで黒瀬の話を聞かされた。

それも、真面目に脚本の話をしてたのは最初の20分だけで、残りの9割弱は俺に女物のファッションを着せて人形にしたいという願望をひたすら聞かされたのだ。

脚本家の才能云々の前に、俺の女装の話だけで2時間半以上ぶっ通しで話し続けるというのがすごいと言うかもはや怖い。

やっと黒瀬に解放してもらえたので、俺は食堂を後にした。

 

さて。黒瀬との話が終わったし、次は何をしようか?

…そうだ、さっきメダルを拾ったんだった。

ガチャが引けるし、プレイルームに行こう。

 

プレイルームに行った俺は、拾ったメダルでガチャを引いた。

出てきたのは、最近発売された新型のゲーム機だった。

ゲーム機か…

誰かにあげたら喜ぶかな?

 

すると、後ろから突然声をかけられる。

 

「よっ。」

 

振り向くと、漕前が笑顔で俺の方に手を振っていた。

 

「…ああ、漕前か。どうした?」

 

「お前もそのガチャやってんのか?」

 

「まあな。」

 

「それさ、なかなかいい景品出なくね?モノクマは豪華景品が盛り沢山とか言ってたのに全然当たりが出ねーしよ。騙された気分だぜ。」

 

「そうか?俺は今こんなものを引いたけどな。」

 

そう言って、俺はゲーム機を見せた。

すると、漕前は血相を変えて食いつく。

 

「はぁ!!?おま…それ、本当にこのガチャでゲットしたのか!?」

 

「まあな。」

 

漕前は、グッと拳を握りしめ歯を食いしばると、唐突に何かを思いついたのか再び俺に食いついてきた。

 

「なあ、赤刎!俺、今持ってるメダル全部つぎ込んで絶対もっといい景品当てるぞ!だからそれ…」

 

「やるよ。」

 

「…え?」

 

「いや、だから、これ欲しいんだろ?だったら交換と言わずお前にやるよ。」

 

「マジで!?いいの!?」

 

「まあな。欲しい奴が持ってた方がゲーム機も喜ぶだろうしな。」

 

俺がゲーム機を漕前に渡すと、漕前は目を潤わせて俺を見た。

 

「赤刎、お前って奴は…ありがとな!!やっぱ持つべきものはマブダチだぜ!!」

 

「うわキタネ!!わかった、わかったから離せって!!」

 

漕前がいきなり俺の頭をワシャワシャして右頬にキスしてきたので、俺は思わず拒否反応をしてしまった。

漕前には悪いが、男からのほっぺにチューとか誰得なんだって話だよ。

 

「いやー、これ高いから自分じゃなかなか買う勇気が出なかったんだよな。」

 

「そうか、気に入ってくれたみたいで良かったよ。なあ、せっかくだしこれからちょっと話さないか?」

 

「話?おう、いいぞ!じゃあ俺の研究室で話すか!」

 

俺は、漕前に連れられて研究室に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まあゆっくりしてけよ。っつっても何も無いけどな。」

 

俺が席につくと、漕前は自販機で買ったジュースをくれた。

俺は、ジュースを飲みながら漕前と話をする事にした。

 

「なあ、漕前。」

 

「ん?」

 

「できればお前の過去の話とか聞かせてくれるか?」

 

俺がお願いすると、漕前はどっと笑い出した。

 

「はははは!!!過去の話ねぇ!!まあそう来るよなー。他の奴なら何でその才能が開花したのかとか色々話のネタがあるけど、俺にはそういうの全然ねーもんなぁ。」

 

「わ、悪い…」

 

「ははっ、冗談だっての。まあ俺の生い立ちなんて至ってフツーだし、どうせ聞いてもつまんねーと思うぜ?」

 

「それでも聞きたいんだ。頼む。」

 

「いいぜ。っつってもマジでフツーだぞ。親が俺が産まれる前に離婚した事以外はな。」

 

「え?」

 

「俺はそん時まだお袋の腹ん中だったから詳しくは知らねえんだけどよ。何かお袋が親父と大喧嘩して、それがきっかけで離婚したらしくてさ。お袋が俺を女手ひとつで育ててくれてたんだよ。ただでさえ元々身体が弱いのに俺のために一生懸命働いてくれて、俺が中学に上がるまでは家事も一人でやってくれてよ。でも、俺の話は嫌な顔ひとつせずにちゃんと聞いてくれるんだよ。どんなに忙しくても弁当は毎日作ってくれるし、授業参観には毎回来てくれるしな。」

 

「…へぇ、いいお母さんだな。」

 

「ああ。だから、絶対離婚は親父の方に原因があるはずなんだ。表向きはお袋がどこの誰かも知らない奴と浮気したのが原因で離婚して俺はそのどこぞの馬の骨との子だって事になってるけど、真っ正直なお袋がそんなだらしねぇ事するわけないし、俺は親父がお袋への嫌がらせのために流したデマだって信じてる。」

 

「ひでぇ話だな。喧嘩したからってそこまで執拗に嫌がらせするか普通。」

 

「…。」

 

「あ、悪い。仮にもお前の父さんの話だったな。」

 

「…いや、いいよ。お袋の名誉のために血の繋がりだけは信じてるけど、お袋を捨てて離婚後も嫌がらせするようなクソ野郎、俺は父親とも何とも思ってねぇから。正直、俺だって本当はお袋を裏切った男の血を引いてるだなんて信じたくねぇ。ただ…」

 

「ただ?」

 

「俺が学校に行ってる間に親父が俺達の家に来て色々暴言を吐いて帰ってったらしいんだけどさ。俺が帰ってきた時お袋が珍しく愚痴こぼしてたんだよな。普段どんなに疲れてても愚痴とか言わねーのによ。」

 

「愚痴?」

 

「ああ。『あの子にも湊みたいな優しい子に育って欲しかったのに』って。」

 

「まるでもう一人子供がいるみたいな言い方だな。」

 

「ああ。俺もそう思ってお袋に聞いてみたよ。そしたら、お袋は俺に兄貴がいるって言い出したんだ。」

 

「お前の…兄貴?」

 

「ああ。兄貴の方は親父に引き取られたらしくてな。クソ親父の顔は見たくもねぇけど、俺は一度でいいから兄貴に会いたい。俺は、ここから出てお袋と兄貴に会うまでは絶対に死ねないんだ。」

 

「漕前…よし、わかった。俺もお前の兄貴探し手伝うよ。そうだ、ジョンにも頼んでみるか。アイツ有名人だから、SNSで呼び掛ければ一発で見つかるだろ!」

 

「いや、別にそこまでしなくても…」

 

「何言ってんだよ。俺達、もうとっくに友達だろ?」

 

「…え?」

 

「それとな、別にお前の兄貴が無事見つかっても俺に感謝とかしなくていいからな。友達が困ってたら助けるのは当たり前だろ?」

 

「赤刎…お前…!」

 

漕前は、目に溜まった涙を袖で拭っていた。

 

「ははは、泣くなって。…あ、あとさ。もうそろそろ俺の事下の名前で呼んでくれねぇか?俺もそうするからさ。」

 

「え、何で急に?」

 

「いや、ジョンとは名前で呼び合ってんのに俺らだけ苗字で呼び合うのも変だと思ってさ。違和感あって気持ち悪いっていうなら俺だけお前の事名前で呼ぶ事にするけど。どうだ、湊?」

 

「…わかったよ、円。」

 

俺が右手を差し出すと、湊は力強く俺の手を握り返した。

 

「あ、そうだ!お前に貰ったゲームなんだけどよ。夕飯まで時間あるし一緒に遊ぼうぜ!」

 

「え?でもそれはお前のだろ?」

 

「ははは、バカだな円は。これ、最先端のゲーム機だぜ?当然マルチプレイにも対応してるっつーの。」

 

俺は、湊と一緒にゲームをして時間を過ごす事にした。

プレイを始める事1時間。

 

「っしゃ俺の勝ちー!!」

 

「クッソー、何で何回やってもお前に勝てねーんだよ。」

 

「へへっ、俺は授業中先公の目を盗んでずっとゲームやってたからな。【超高校級のサボり魔】とまで呼ばれた俺のサボりスキル舐めんなよ。」

 

「いや威張れる事じゃねーよ。ちゃんと授業聞けよ。」

 

「…円、正論は正論でも言っていい正論とダメな正論ってあるんだぞ。お前まで先公みたいな事言うなよ。」

 

「一応先生だからな。俺のバイト先にもいるんだよな、お前みたいなサボり魔。」

 

「へー、ソイツに是非とも会ってみたいもんだな。なーんつってな、はははは…」

 

「笑い事じゃねぇよ。ソイツもお前もちゃんと授業聞けって言ってんだ。息子がバカだとお前の母さん悲しむぞ?」

 

「うぐ…お、お袋を出すのは卑怯だろ!」

 

湊は、『勘弁してくれ』と言いたげな表情をした。

その後は俺の話を少しした後、時間がちょうど良くなったので二人で食堂に行く事にした。

 

「それじゃあ、そろそろ行くか。」

 

「…あ、あのさ。」

 

俺が先に歩くと、湊が俺を呼び止めた。

 

「…えっと、ホントさっきからワガママばっかで悪いんだけど…外に出たら頼みたい事がもう一つあるんだ。」

 

「頼みたい事?」

 

「ああ。その…俺に勉強を教えてくれねぇか?」

 

湊は、照れ臭そうに言った。

 

「俺、バカだからさ。成績が全然振るわねぇんだよな。でも、将来お袋に楽させる事考えたらやっぱりそれじゃダメなんじゃないかって思ってて…俺、外に出たら真面目に勉強して、いい就職先目指すよ。だから円、お前に勉強を教わりたいんだ。」

 

湊が頼み込んできたので、俺は笑って返す。

 

「何言ってんだよ、友達が困ってたら助けるのは当たり前って言っただろ?お前ならタダで教えてやるよ。」

 

「本当か!?」

 

「おうよ。ただし、俺の教育方針は厳しめだぞ?それでもやるか?」

 

「やるさ!!俺はお前じゃなきゃダメなんだよ!!」

 

湊は、ニッと笑って力強く頷いた。

本音をぶつけ合って、湊との距離が一気に縮まったような気がする。

俺達は、そのまま二人で一緒に食堂に向かった。

 

《漕前湊との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

6時過ぎに弦野を除く全員が食堂に集まり、13人で夕食を摂った。

今日の夕飯の当番は枯罰、仕田原、ジョンの3人だった。

夕食を済ませた後はちょっとしたミーティングを行い、各自探索で新たに発見した事などを報告し合った。

ミーティングが終わると各自流れ解散となったので、俺は温泉でまったりする事にした。

 

「あぁ〜、ええ湯じゃった。」

 

温泉を満喫した俺は、鼻歌交じりにホテルの方へと歩く。

すると、その時だった。

 

 

 

「大変だ!!弦野が倒れた!!」

 

湊が、血相を変えて俺の方に走ってきた。

 

「何!?」

 

弦野が倒れた…?

まさか、誰かに狙われて…

いや、俺達の中に弦野を殺そうとする奴なんていないはずだ。

だがもし、弦野に何かあったら…?

不安を抱きつつ、俺は湊と一緒に診療所に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

俺は、湊と一緒に診療所に駆けつけた。

 

「…二人とも、静かに。」

 

診療所にいた安生が口元で人差し指を立てたので、俺は少し声量を落とす。

 

「あ、悪い…」

 

「弦野君は、水を飲ませて安静にしてるよ。」

 

「まあここ7日間碌なモン食うてへんかったし、無理ないわ。」

 

「それに、今日まで弦野君ほとんど寝てなかったらしいからね…今日は日差しが強いし、それで目眩を起こしちゃったんだ。今回は運良く軽い症状で済んだけど、これ以上彼が頑なに食事と睡眠を拒むようなら本当に命を脅かしかねない。」

 

「…。」

 

弦野の奴、そこまで危険な状態だったのか。

倒れるまで食事と睡眠を拒絶するなんて、よほど俺達の事を信用してないんだな…

もしかして、過去に弦野に人を信じなくさせる何かがあったのか?

それがもし、弦野が音楽界から突然姿を消した原因だとしたら…

 

「弦野…」

 

「…うっせぇな、心配してんじゃねぇよ。」

 

俺が声を掛けると、弦野は弱々しい口調で悪態をついた。

 

「ここで俺が死のうがどうしようがテメェらには関係ねぇだろ…」

 

 

 

「関係なくなんかないよ!」

 

そう言って診療所に入ってきたのは筆染だった。

弦野は、筆染の顔を見るなり鬱陶しそうに深くため息をついた。

 

「…チッ、またテメェか。」

 

「弦野君も大事な仲間だもん。いなくなるのは嫌だよ。」

 

「それが余計なお世話だっつってんだろ。帰れ。」

 

筆染は、弦野の発言をガン無視して弦野が寝るベッドの横の椅子にちょこんと座った。

 

「あのね。あたし、おにぎり作ってきたの。仕田原ちゃんに作り方教えてもらったんだ。」

 

「会話出来ねぇのかテメェ。帰れ。」

 

「弦野君に元気になってほしくて心を込めて作ったんだよ?一口でいいから食べてくれると嬉しいな。」

 

筆染は持っていた包みからおにぎりを一個取り出して弦野の口の前まで運ぶが、弦野は顔をプイと背けた。

 

「安心して。毒は入ってないよ。ほら。」

 

「…いらねぇっつってんだろ。帰れ。」

 

すると、湊が筆染の後ろからひょっこり出てきておにぎりに手を伸ばす。

 

「うお、美味そうなおにぎりだな。いらねぇなら俺が貰っちゃおーっと。いっただっきまー…」

 

「やめろ!!」

 

湊がおにぎりを取ろうとすると、弦野は慌てておにぎりを引ったくって齧りついた。

それを見た全員が、信じられないと言いたげな目を弦野に向けた。

 

「マジか、弦野が…」

 

「食った…」

 

「…ん゛っ!?」

 

すると、弦野はおにぎりを口に含んだ途端に元々悪かった顔色をさらに悪くした。

 

「つ、弦野君!?大丈夫!?」

 

「…筆染。オメー、塩と砂糖間違えてるぞ。」

 

「えっ、嘘!?…うわ、ホントだ!甘っ!!」

 

筆染は、弦野に言われて作ってきたおにぎりを一口食べた。

作った張本人も、まさかの激甘おにぎりに驚いていた。

 

「はは…漫画みたいな間違え方だな。」

 

「味見せぇへんかったんかい。」

 

湊は引き攣った笑みを浮かべ、枯罰は呆れ返ってため息をついた。

 

「ごめん弦野君!!あたし、弦野君に元気になってもらいたくて頑張ったんだけど…失敗しちゃった…」

 

筆染は、シュンと落ち込んだ表情を浮かべて残りの二つを包み直そうとした。

すると、弦野はおにぎりを空いている方の手で掴み、両手のおにぎりをガツガツと口の中に押し込み始めた。

 

「弦野君!?」

 

「おい、そんなに急にがっついたら…!」

 

弦野は一個目のおにぎりを食べ終わると、空いた手で包みに残ったもう一個のおにぎりを掴んでがっつく。

すると案の定、米粒が気管に入ったのか突然むせ返った。

 

「う゛っ、げほっ、げほっ…!」

 

「あー、ほら。言わんこっちゃない。そんなにがっつくから…大丈夫か?」

 

「うぷっ…う、うっせぇ…!放っとけ!!」

 

俺は弦野の背中を摩って声をかけるが、弦野は手を止めずに両手のおにぎりをがっついた。

 

「弦野君!いいよ無理して食べなくて!ちゃんとしたもの作れなかったあたしが悪かったから!」

 

筆染が止めるのも聞かず、弦野はおにぎりを全部平らげると近くに置いてあったペットボトルの経口補水液を飲んだ。

 

「…っはぁ。」

 

「つ、弦野君…?」

 

「…筆染。」

 

「あ、あの…」

 

弦野に名前を呼ばれた筆染はビクッと肩を跳ね上がらせ、謝罪の言葉を返そうとする。

だが、弦野が言った言葉は筆染の予想とは違ったものだった。

 

「…美味かったよ。ご馳走様。また作ってくれるか?」

 

その言葉を聞いた筆染の顔がぱぁっと明るくなり大きく頷く。

 

「…うん!楽しみにしてて!今度はお世辞抜きで美味しいって言わせてみせるから!」

 

すると、湊が弦野と肩を組んでニッと笑った。

 

 

 

「いやー、筆染ちゃんってマジでいい子だよな。弦野なんかにも優しくてよ。ホント天使って感じだわ。」

 

「なんかって何だ。あとウゼェから離れろ。」

 

弦野は、鬱陶しそうに湊の腕を払い除ける。

…でも確かに、何で筆染はこんなに弦野の事を気にかけるんだ?

もしかして、弦野の事が好きなのかな。

 

「…にしてもオメー、何でそんなに俺に構うんだよ。」

 

弦野が尋ねると、筆染は満面の笑みを浮かべて答える。

 

「あのね。あたし、好きなんだ。君の演奏。」

 

「あ?」

 

「あたし、絵を描いてる時に君の曲聴いてると、すごくいい作品が描けるの。多分、あたしの作風と君の演奏の相性が良いんだと思う。それに嫌な事があった時とかも、あたしは何度も君の演奏に救われたんだ。あたしと同い年の君が頑張って演奏してるのを聞いてるとなんか励まされてる感じがして、『よーし、あたしも頑張るぞー!』って気分になれるんだよね。」

 

「…チッ。テメェも結局今までの奴等と同じで、俺の才能以外には興味ナシかよ。」

 

「あ…」

 

そういえば、弦野は親に無理矢理ヴァイオリニストにさせられて、それが嫌でバックレたって言ってたっけ。

そんな弦野にとっては、筆染の言葉は地雷だったのかもな。

すると、筆染は少し俯いたかと思うと拳を握りしめて言った。

 

「…わかった。」

 

「あ?何がだよ。」

 

「あたしが、もう弦野君につらい思いをさせないようにする。弦野君が自分の演奏を嫌いにならないようにあたしなりに頑張るから、外に出られたらもう一度演奏を聞かせてくれないかな?」

 

すると、弦野は深くため息をついて答える。

 

「…気が向いたらな。」

 

すると、筆染は目をキラキラと輝かせて弦野に抱きついた。

 

「ホント!?やった!!ありがと弦野君!!」

 

「うわっ、おいバカ何すんだよ!?まだ弾くと決めたわけじゃねぇよ!!」

 

筆染に抱きつかれて赤面する弦野を見て、湊は悔しそうにしていた。

 

「くっ…チクショウ、弦野のクセに…羨ましいぜ全く…!!」

 

「はいはい、俺達はお邪魔みたいだし退散するぞ。」

 

俺は、湊の手を引いて診療所を後にした。

 

「あれ?そういや安生と枯罰ちゃんは?」

 

「アイツらなら、空気読んでとっくに退散したよ。俺達も行くぞ。」

 

時計を確認するともう9時だったので、俺達は部屋に戻った。

こうして楽園生活の7日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の天才】神崎帝

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の幸運】漕前湊

 

【超高校級の???】枯罰環

 

【超高校級の家政婦】仕田原奉子

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

【超高校級の画家】筆染絵麻

 

【超高校級の収集家】宝条夢乃

 

ー以上14名ー

 

 

 




かなりギリギリまで攻めたけど大丈夫かな…
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