エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園 作:M.T.
楽園生活13日目。
『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』
今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。
俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。
◇◇◇
食堂には既に安生、聞谷、速水、筆染が来ていていた。
いつもの3人とジョンは朝飯を作ってくれていた。
すると一、宝条、黒瀬が食堂にやって来た。
…この3人はまた遅刻か。
「それじゃあ全員揃ったし、朝ご飯食べようか。」
「さんせー。ボクもうお腹ペコペコだよぉー。」
朝食の後は自由時間となった。
とりあえず、プレイルームにでも行こうか。
メダルは探し出してコツコツ貯めていたのであと何枚か残っている。
俺は、プレイルームに行ってガチャを引いた。
出てきたのは高級そうなダイヤモンドのアクセサリーと新品のエプロンだった。
アクセサリーは…女物か。
うーん…マジで使い道が無いなぁ。
誰かにあげるか。
「あら、赤刎くんじゃないの。」
俺は、突然宝条に話しかけられた。
「…何だ、宝条か。」
「何だって何よ。失礼な男ね。ねえ、何してるの?」
「ああ、このモノモノマシーンで遊んでたんだ。」
「ふーん。アンタ、暇なのね。」
言い方がいちいちキツいな…
つーかここに来たって事は宝条も暇潰しに来たんじゃないのか?
…あ、そうだ。
「宝条。」
「何よ。」
「はい。」
俺は、さっき手に入れたアクセサリーを渡した。
「…へ?」
「プレゼントだよ。ほら。」
「はぁ?えっと…それを、ゆめに?」
「ああ。さっきガチャで手に入れたんだけど、俺は使えないからさ。気に入ってくれると嬉しいんだけど…」
「わーいありがと赤刎くん!」
宝条は、自分へのプレゼントだとわかった途端に猫を被ってアクセサリーを受け取った。
…気に入ってくれたのかな?
「ねえ赤刎くん、さっき暇してるって言ってたわよね?」
「ん?あ、ああ…」
「良かったらゆめが話し相手になってあげようか?」
「えっ?」
「何よその反応。ゆめと話せるのが嬉しくないわけ?」
「そうは言ってねぇよ。ただ、お前から言ってくるとは思わなくて…俺、お前とちゃんと話した事あんまりなかったからちょうど話聞けたらなーって思ってたところなんだ。」
「…ふーん。いいわ。とりあえずゆめの研究室来なさいよね。」
宝条は俺を研究室に案内した。
俺は、宝条と過ごすことにした。
◇◇◇
宝条は、俺がプレゼントしたアクセサリーをショーケースにしまった。
「それにしてもすげぇ数のお宝だな…これ全部お前が集めたのか?」
「そうよ?ふふーん、ゆめの事、ただの可愛いお姫様だと思ってたでしょ?でもね、ゆめは一流のコレクターでもあるのよ。ゆめの手にかかれば、こんなの余裕だわ。」
いや、お姫様だとは思ってないぞ。
お前の才能に驚かされたのは事実だがな。
「それにしても…マジで色々あるな。…もしかして、何か後ろ暗い事でもして手に入れたんじゃ…」
俺がボソッと呟くと、宝条の目つきが変わった。
「…アンタ、それ本気で言ってんの?」
「えっ?」
「ふざけんじゃないわよ!!どいつもこいつも、何も知らないくせに!!私がっ!!今までどんな思いで過ごしてきたのか…!!」
宝条は、今まで見た事もないくらい激しく取り乱して喚き散らした。
いつもの癇癪とは違う、本気で怒っているようだった。
「ほ、宝条…!?悪かったよ、軽はずみで無神経な事言った俺が悪かったから!」
「っ…!!」
宝条は肩で息をするほど取り乱していたが、何とか宥めて落ち着けた。
「えっと…とりあえず、何か飲むか?」
「…。」
宝条が無言で頷いたので、俺はちょうど近くに置いてあったティーセットで紅茶を淹れてやった。
宝条は、紅茶を一口飲むとふぅと一息ついた。
「…ゆめ、ロイヤルミルクティーが飲みたかったんだけど。」
「えっ、ごめん…だって何も言ってこなかったから…」
「ったく、それぐらい察しなさいよ。男でしょ?」
ええええ…無茶おっしゃいますなー…
「…まあでも、おかげでちょっと落ち着いたわ。」
「そっか。」
まあ、本人が落ち着いたなら良しとするか。
「…なあ、宝条。」
「何よ。」
「さっきは何であんなに動揺したんだ?…やっぱり、過去に何かあったのか?」
「………。」
「ああ、いや…別に言いたくないなら言わなくていいぞ。俺は…」
「…話すわよ。私の才能と関係ある話でもあるし。」
宝条は、素の喋り方で話し始めた。
「私、本当は実家が貧乏だったの。こんな事知られたら印象最悪だから、ずっとお金持ちのお姫様だって嘘ついてたけどね。私の親は二人揃ってバカでね、ちゃんとした仕事でお金稼ごうとしないから借金は増えてく一方だし、私をちゃんと育てる気もなかったからご飯は食べさせてもらえない日の方が多かった。あの頃はそれが当たり前なんだって思い込んでずっと我慢してたけど、本当はおとぎ話に出てくるお姫様みたいなキラキラした生活に憧れてた。だからちょっとでもそうなりたくて珍しい物とかを集めて自分だけの宝物にしてたの。…今思えば、その頃から才能を発揮してたのかもね。」
「なるほどな…それにしても、本当にひどい親だな。仕事も育児も碌にしないなんてよ。」
「ええそうよ。あんな奴らの実の娘だと名乗る事すら恥ずかしいわ。…アイツらは、結局最期までクズだった。」
「…最期まで?」
「自殺したのよ。多額の借金をして買った壺が実は偽物だとわかって借金を返せなくなったの。まあそうじゃなくても元々してた借金も雪だるま式に利子がつきまくっててとてもあんなクズ共に返せる金額じゃなくなってたんだけど。それで、闇金にまで手を出して首が回らなくなったアイツらはあの世に逃げたのよ。ホントクズでしょ?まだ幼かった私まで巻き込んで一家心中しようとしたんだから。」
「…その後はどうなったんだ?」
「…その後、誰かが通報したのか知らないけど私達は駆けつけた救助隊に救急搬送されたわ。クズ親二人は死んだけど、私だけは奇跡的に助かったの。退院した後は、クズ二人が借金をしてたヤクザに引き取られたの。ホント、あの二人にお金を貸してた人達が良心的だったのが唯一の救いだったわ。お金を返さないクズには容赦ない人達だけど、娘の私に罪はないって言って本当の娘のように可愛がってくれた。」
…なるほどな。
宝条もつらい人生を歩んでたんだな。
でも、宝条を引き取ってくれた人達のおかげで今の明るい宝条がいるってわけか。
「引き取られた日、私決めたの。私は、あんなクズ親みたいになりたくない。あんな日常は二度と送りたくない。だから自分の力で世界中のお宝を集めて、ずっと夢見てたおとぎ話のお姫様になるんだって。その日から、私は本格的に収集を始めたわ。お父さんと組のみんなは私のためにお金を用意してくれてたけど、お父さん達に頼って成り上がったと思われるのは嫌だったから、貰ったお金は投資に回して、プラス分のお金で収集をしたの。そのうち私が収集家として有名になって個展を開くようになったら、お父さん達にお金を借りなくても困らないようになった。お父さんの職業柄、私が犯罪に手を染めて収集をしてるんじゃないかっていう噂も絶えなかったけど、そんな汚い手は使わずにあくまで合法的な手段で収集をしたわ。犯罪に手を染めたりなんかしたらそれこそ私の恩人達の顔に泥を塗る事になるしね。逆に犯罪に手を染めてる同業者がいたらブタ箱送りにしてやったくらいよ。」
…そうか。
だからさっき、俺が後ろ暗い事でもしてたんじゃとか言った時怒ったのか。
そりゃあ、必死に努力して手に入れた功績を汚い手を使って手に入れたって勝手に決めつけられたらいい気分はしないよな。
「…宝条。ごめん。俺、お前の事勘違いしてたよ。お前は、誰よりも夢に向かってひたむきに努力する、そういう奴だったんだな。」
「な、何よ。面と向かってそういう真面目な事言わないでよ。…恥ずかしいじゃない。」
宝条は、照れ臭そうにそっぽを向いた。
「…ねえ。」
「何だ?」
「私、今まで友達いた事ないの。ここに来てアンタ達とバカやって、普通の高校生ってこういう事するんだなって初めて知ったわ。…正直、ずっとアンタ達とこうしていられればいいのにって思った事もあった。だから…」
「だから?」
「…アンタ、私の友達になりなさいよ。」
「は?」
「だから、私の友達にしてあげるって言ってるの。聞こえなかった?」
「何言ってんだお前。俺達、もう友達だろ?」
「…え?」
「少なくとも俺は、ここに来た日からお前の事を友達だと思ってたんだけど…お前は違うのか?」
「…………っ」
俺は当然の事を言ったつもりだった。
宝条は、突然俯いて両手で顔を塞いだ。
両手の隙間から見えた口元は、僅かに震えていた。
「…大丈夫か?」
「うるさい!何でもないわよ!!放っときなさいよ!!」
「お、おう…」
「…ねぇ。」
「何だ?」
「普通の高校生は、友達と外で食べ歩きしたり、色んな所に行って思い出作ったりするんでしょ?」
「まあ…な。俺も普通の高校生とは言いがたい生活してたから詳しくは知らねぇけど。」
「…ここから出たら、私が行きたい所に連れて行きなさいよ。」
「ああ。ここから出たら、12人全員で一緒に遊びに行こうな。」
「…。」
宝条は、俯いたまま無言で頷いた。
「…もしかして、泣いてんのか?」
「はぁ!?そんなわけないでしょ!?バッカじゃないの!?勘違いしないでよね!!別にアンタ達と遊びに行けるのが嬉しいわけじゃないんだから!!」
「はいはい。」
話をした後だと、宝条の素直になれない所も可愛げがあるように思えてくる。
宝条と仲良くなれて、絆がより深まった気がした。
この約束を嘘にしないためにも、俺達は全員で外に出るんだ…!!
《宝条夢乃との親密度が上がった!》
◇◇◇
その後、昼食を摂りに食堂に向かった。
食堂に着くと、突然速水が『話がある』と言ってきた。
「みんなー、アタシから…つーか律から話があります!」
「話?」
「それも弦野君からって…」
「ほら、律!言っちゃいなよ!」
速水に促された弦野は、咳払いをすると話を始めた。
「…えっとな。今日の夜の8時から多目的ホールで演奏するから、来たい奴がいれば適当に来い。」
「………えっ?」
「だから、演奏するっつってんだよ。聴こえなかったか?」
「ちょっと待って、律君、どういう風の吹き回し!?あれだけ嫌がってたのに…」
「絵麻。お前、前に言ってたよな。外に出たら俺の演奏が聴きたいって。外に出たらと言わず今聴かせてやるよ。さっき曲が出来上がったばっかりだしな。」
「出来上がったばっかり?って事は…」
「ああ。自分で作った曲を弾くんだよ。せっかくの復帰コンサートだし、どうせなら曲まで拘りたいだろ?」
「まっ!!?え、待って!?いや、ちょっ…待って!?」
筆染の奴、メッチャ動揺してんじゃねぇか。
そんなに嬉しいのか。
「で、どうすんだ?来んのか来ないのか。」
「もちろん行くよ!!律君の演奏を生で聴けるなんて、普通なら人生で一回あるかないかくらいだもん!!」
「決まりだな。お前らはどうする?俺は絵麻が聴いてくれればいいし、強制じゃねぇ。」
「俺はもちろん行くよ。弦野の復帰コンサートなんて、行かないわけにいかないからな。ジョンも行くだろ?」
「Of course!」
「僕も是非聴きたいな。」
「わたくしも拝聴させて頂きますわ。」
「ボクも律くんの演奏聴きたいから行くよー。」
「アタシは準備とか手伝おっかな。」
「ほんならウチもやるわ。」
「仕田原ちゃんも聴くよね?律君の演奏!」
「えっ!?自分なんかが一緒に拝聴していいんですか!?」
「ダメって言うわけねぇだろ。お前も来いよ。」
「で、ではお言葉に甘えて…自分も準備のお手伝いをさせて頂きますね!」
「ボ、ボクも仕田原さんが行くなら…」
「ゆめちゃんは?」
「行くわよ。…聴きたいし。」
全員行くのか。
まあ、全員で演奏を聴けばコロシアイで荒みかけた心も癒えるし団結力も高まるからな。
それにしても自作の曲の演奏かぁ。
楽しみだな。
◇◇◇
…さてと。
まだだいぶ時間があるし、誰かと一緒に過ごして時間を潰そうかな。
そんな事を考えていると、仕田原が重そうな袋を運んでいるのが見えた。
「よいしょ…」
「仕田原、何してるんだ?」
「ああ、ええとですね…お食事を作るための食材の準備をしている所です。」
「そっか。って事は今忙しい?」
「ええと、何かご用でしょうか?」
「用事って程じゃないんだけど…お前に渡したいものがあるんだ。」
「じ、自分にですか!?」
「ああ。これなんだけどさ。」
俺は、ガチャで手に入れたエプロンを仕田原に渡した。
「ガチャで手に入れたんだけど、俺は使わないしお前にやるよ。」
「えぇっ!!?そ、そんな…あ、赤刎さんが自分にプッ、プププ…プレゼントを!?い、いけませんそんな!!」
「え、嫌だった?」
「いえ!!決してそのような事は…!!ですが、赤刎さんが自分のような無能にプレゼントをなさるという事は本来あり得ない事ですので、受け取るからにはせめて何かご奉仕をさせて頂かなくては…そうだ、でしたら自分の身体で支払わせて頂きますね!」
「はあ!?」
「あ、でもそれだと赤刎さんにゴミを差し上げる事になってしまいますよね!?そのような失言をしてしまい、大変申し訳ございません!!お詫びに死をもって償わせて頂きま…」
「待て待て待て待て!!!」
「はい?」
「考えよう!?プレゼントした相手に自殺される人の気持ち!!」
「で、ですが…」
「と、とりあえず…ええっと…研究室で話でもするか。」
俺は、ひとまず仕田原の研究室で話をする事にした。
◇◇◇
「どうぞ…」
「ありがとう。」
仕田原が緑茶を淹れてくれたので、俺は一口飲んで気分を落ち着けた。
「…ふぅ。美味いな。」
「ありがとうございます。」
「なあ。仕田原ってさ、何でそんなに自分を卑下するんだ?…もしかして、過去に何かあった?」
「………。」
「あ、いや、別に言いたくないなら無理して言わなくても…」
「…いえ。赤刎さんが聞きたいと仰るのならお話しします。」
仕田原は、少し暗い表情を浮かべつつも話してくれた。
「自分は、今はもう開発事業によって土地を買い取られた寒村の出自でしてね。実家は非常に貧乏で、自分は家事しか取り柄のない無能だったんで両親から嫌われてました。口減らしのために山奥に置き去りにされた事もあります。ですが、そんな自分にも転機が訪れました。一家全員疫病に罹り、自分だけが生き残ったんです。自分ももう死ぬのかと諦めかけていたその時でした。たまたま村に訪れていた大企業の社長に保護して頂き、ありがたい事に治療まで受けさせて頂いたんです。後から聞いた話だとその方は自分の村の出身だったそうで、飢えと病で苦しんでいた自分を放っておけなかったそうです。」
「なるほどな…その後はどうなったんだ?」
「その方…旦那様は、使用人として働く事を条件に自分を引き取ってくださったんです。自分は、旦那様の期待に応えるため毎日必死に働きました。旦那様と奥様は自分を温かく受け入れて下さり、先輩方も親切に自分に仕事を教えて下さり、親に嫌われていた自分にもようやく居場所ができました。」
「いい人達だな。」
「はい。…そして、そこには自分を心から愛して下さる方がいたんです。旦那様には行哉さんという自分の2歳年上のご子息がいまして、使用人の中で一番歳が近かった自分はよくお話の相手をさせて頂きました。そんなある日、行哉さんは自分にとんでもない事を仰ったんです。自分の事を、妻に迎えたいと…行哉さんは聡明で紳士的な方だったので、身の程知らずではありますが自分も行哉さんに惹かれておりました。自分達がお互いに惹かれ合っている事は周知の事実だったので、自分達は結婚を前提にお付き合いをしていたんです。自分は、優しい方々に恵まれて、行哉さんにも愛して頂いてとても幸せでした。」
「…でした?」
「……亡くなったんです。2年ほど前に。その日は自分が旦那様に仕えてから7年目だったので行哉さんは自分などのためにお祝いの品を買って下さっていたのですが、向かった先で爆発事故に巻き込まれたんです。行哉さんは瀕死の重傷を負って救急搬送されましたが、病院に着いてすぐに息を引き取られました。自分は、今でも後悔してるんです。行哉さんは、自分などとお付き合いをしたばかりに亡くなってしまった。自分が不甲斐ないせいで、あの方は命を落とされたんです。」
「お前のせいじゃない。お前がそんな事言ったら、亡くなった彼氏さんが悲しむぞ。」
「………ありがとうございます。そう仰っていただけて、少し楽になりました。…その後、自分は行哉さんを亡くした悲しみをバネにより多くの人のお力になれるよう努力しました。そのおかげで、【超高校級の家政婦】と呼ばれるまでに至ったんです。」
そうだったのか。
…あれっ?
ちょっと待てよ?
仕田原の彼氏さんが亡くなったのって2年前だよな?
爆弾魔が出没したのも2年前から…
って事は、彼氏さんが最初の被害者だったのかもしれない。
もし俺達の中に爆弾魔がいて、この事実を知ってたとしたら仕田原が危ない。
何としてでも仕田原を守らないと…俺はもう、仲間を失いたくないんだ!!
「…仕田原。俺は家事とか全然出来ないからお前や枯罰に任せっきりだけど、お前もつらい事があったら俺達を頼っていいんだぞ。友達なんだし。」
「…ふふっ。」
「どうした?」
「いえ。あなたがあの方と同じ事を仰るので、少し可笑しくなってしまいまして。」
「お、おう…」
「…赤刎さん。自分などの話を聞いていただき、ありがとうございました。では、自分はそろそろ仕事に戻らなければならないので今日はこの辺で。」
「おう。また話しような。」
俺は、仕田原の研究室を後にした。
仕田原と話をして、俺達の絆がより強くなった気がした。
《仕田原奉子との親密度が上がった!》
◇◇◇
その後、早めの夕食を済ませ、俺達は多目的ホールに向かった。
コンサートの準備は既に進められており、ホールはコンサートにふさわしい雰囲気になっていた。
「よぉ。」
後ろから声をかけられたので振り向いてみると、タキシードを着て髪をオールバックにした弦野が立っていた。
「つ、弦野!?どうしたんだその格好!?」
「あ?演奏するっつったろ。だから相応しい格好に着替えたんだよ。」
すると、弦野の後ろから枯罰と速水と筆染が現れる。
「中々イカしてるっしょ?アタシらが髪セットしたんだよ。」
「コイツ、髪は普段通りでええなんてふざけた事抜かしよるさけ、ウザったい前髪ポマードでガチガチに固めたったわ。」
「前髪で右目隠れてるお前に言われたかねーよ。…あと絵麻、頼むから無言で撮るのやめろ。」
「だってー、律君の晴れ姿だよ?後でアイコンにしちゃうもんねー。」
「恥ずいし紛らわしいからやめろ。」
「えー?あ、ごめん。ちょっと待って。」
「どうした?」
「えっと、ごめん。ゆめちゃんから呼び出されたからちょっと行ってくるね。」
「宝条から?」
「うん。大した用じゃないみたいだから、始まる前には余裕で戻って来れると思う。それじゃ行ってくるー。」
そう言って筆染は多目的ホールを後にした。
…って事は、今来てないのは宝条と筆染だけか。
「あ、そうだ。喉乾くだろうし、飲み物配るね。ましろ、頼んだもの持ってきた?」
「はーい。」
すると、全員分のドリンクを持った黒瀬がこっちに来た。
「はいどーぞ。」
「サンキュ。」
俺は、黒瀬からドリンクを受け取った。
黒瀬は、全員にドリンクを配った。
「円くーん。隣の席座っていいですかー。」
「好きにしろ。」
「わーい。」
俺が席につくと、黒瀬が俺の右隣にちょこんと座った。
さてと…ちょうど喉乾いたしもらったドリンクを飲むか。
俺がドリンクを飲むと、黒瀬も自分のドリンクを飲んだ。
…あれ?少し眠くなってきた…?
「…んんっ。」
突然、黒瀬が色っぽい声を出した。
「あれ?どうした黒瀬?」
黒瀬は、顔を少し赤らめて身体を震わせていた。
両手でスカートを掴んで両脚をモゾモゾと動かしている。
「……ぅぅ…お、おしっこ…」
「お前、まさかトイレ行きたいのか?」
「ぁぅ…」
「なら早く行ってこいよ。演奏に1時間はかかるらしいから、始まったらすぐにはトイレ行けねぇぞ?」
「んぅー。」
黒瀬は、トイレをしに多目的ホールから退室した。
まあトイレぐらいならすぐ戻ってくるだろ。
まだ8時まで1時間近くあるしな。
…ああ、クソッ。
昨日はよく寝たはずなのに眠くなってきた。
まだ時間はあるし、開始時刻まで寝る……か……………
ーーーーー
ーーー
ー
「…い。」
ん?
「おい。」
何だ、誰かの声が聴こえるな…
「起きろド阿呆!!!」
「びゃあっ!!?」
俺は、枯罰の声で目が覚めた。
…うう、耳元でデカい声出されたから耳と頭が痛い…
「うう、枯罰か…どうかしたのか?」
「ったく、どうしたもこうしたもあらへんわ。もう開始時刻やっちゅうのにお前ら全員寝とったさけウチと弦野で片っ端から叩き起こしとったんや。お前ら演奏聴く気あるんか?」
「えっ、開始時刻だと!?今何時!?」
「20時10分。」
「…マジか。」
って事は1時間近く寝てたのか…
あれ?今、他のみんなも寝てたって言ったのか?
「おい、他のみんなも寝てたってどういう事だ?」
「こっちが聞きたいわボケ。お前ら揃いも揃ってさぞ気持ちよさそうにグースカピースカ寝よってからに、スイミング帰りかなんかか?あぁ!?」
「今そういう小ボケはいいから。なあ、みんな眠ってたのか?」
「Yeah.オレはいつの間にかfall asleepしてたみたいだぜ。」
「アタシもー。律に叩き起こされたー。」
「僕もだよ。普段はこういう時寝たりしないんだけどね。」
「ボクも…何か、さっきはすごく眠くなったんだ。」
「自分もです。」
「う〜ん、まだ眠いですわぁ。」
ここにいた全員が眠っただと?
そんな偶然あり得るのかな。
…あれっ?
黒瀬の奴、戻ってないのか?
「なあ、枯罰。黒瀬知らないか?」
「知らんわ。迷子になっとるんかアイツ。ホンマどないなっとんねん。筆染と宝条もおらんしなぁ。」
…え?筆染と宝条も?
何だろう。何か、ものすごく嫌な予感がする…
俺がそう思っていた直後だった。
「!」
突然、全員宛てに黒瀬からチャットが来た。
《みんな早くカラオケエリアに来て。大至急。》
カラオケエリアに来いだと?
でも、何で急に…
《どうした急に?何かあったのか?》
《見た方が早いよ。いいから来て。》
…チッ、何なんだアイツ。
勝手にトイレに行くって言って出ていって戻ってこないと思えば、カラオケエリアで道草食ってたのか。
「どうする?行くか?」
「とりあえず行くだけ行こうぜ。絵麻達が来てなくて心配だし、このままだと気になって気持ち良く演奏できねぇからな。」
「…そうだな。行こう。」
俺達は、黒瀬の指示通り全員でカラオケエリアに向かう事にした。
◇◇◇
俺達は、一斉に多目的ホールから出てアミューズメント施設に向かう。
すると、その途中だった。
「…ねえ、何アレ。」
速水が指差した先を見ると、2階の窓から黒煙が上がっていた。
カラオケエリアって、確か2階だったよな…
…まさか!!
嫌な予感がした俺は、カラオケエリアへと走り出した。
どうか、どうか俺の思い違いであってくれ…!!
「黒瀬!!」
俺が駆けつけると、そこには消火器を持った黒瀬がいた。
黒瀬は黒煙の上がる部屋の前に立っており、俺達の姿を確認すると少し悲しそうな笑顔を浮かべた。
「…あはぁ、遅かったねみんな。」
「なあ、何があったんだ!?教えてくれ!!」
「ん」
黒瀬は、煙が上がる部屋を指差す。
俺は、恐る恐る部屋を覗いた。
「…う゛っ…!?」
部屋が焦げる匂いに混じって鼻に襲ってきた強烈な匂い。
部屋には焦げて黒くなった血が大量に飛び散っており、部屋の隅には焼けた手首が転がっていた。
そして、転がった手首の近くに落ちていたものを見て、俺はさらに絶望した。
グシャグシャに変形したヘアピン。
それは、アイツがいつもつけていたものだった。
…どうして。
いつも明るく俺達を元気付けてくれたアイツが、どうして。
【超高校級の画家】筆染絵麻は、その部屋で跡形もなく吹き飛んでいた。
「キャアアアアアアアアアッ!!!」
「!」
聞谷の声で、俺は現実に引き戻される。
俺は、声の方を振り向いて聞谷に歩み寄った。
「どうした!?」
「あ、あああああああ…」
俺は、恐る恐る聞谷が指差した先を見る。
「ッーーーーー!!!」
個室に転がっている一つの影。
見間違うはずがなかった。
でも、その現実を受け入れる事が出来なかった。
せっかく、仲良くなれたと思ったのに…
一緒に外に出ようって約束したのに…
何でお前が…!!
そこには、頭から血を流して息絶えた【超高校級の収集家】宝条夢乃の姿があった。
ー生存者ー
【超高校級の講師】赤刎円
【超高校級のカウンセラー】安生心
【超高校級の香道家】聞谷香織
【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ
【超高校級の???】枯罰環
【超高校級の家政婦】仕田原奉子
【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー
【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律
【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳
【超高校級のランナー】速水蘭華
ー以上10名ー
ふっふっふ…
3章だもんね。
2人死ぬよ。