エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園   作:M.T.

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(非)日常編②

探索を終えた俺達は、探索の結果を報告し合う事になった。

 

「それじゃあ早速ミーティングを始めようか。まずは赤刎君のグループから報告してくれるかな?」

 

「ああ。タワーは1階がエントランス、5階が放送室、6階が管理室と展望エリアになってた。あと、タワー自体が時計台になってる。」

 

「あれ?2階から4階は?」

 

「何か、重要な機器があるから立ち入り禁止なんだと。放送室の内部はテレビ局みたいになってて、主調整室と副調整室に分かれてた。管理室にも行きはしたけど、ガラスの壁があって中には入れなかった。展望エリアは全部ガラス張りで、楽園全体を見渡せるようになってる。俺からの報告は以上だ。」

 

「ああ、それとウチから一つええか?」

 

「枯罰さん?どうしたの?」

 

…もしかして、さっき展望エリアで気付いた事かな?

 

「実は、この楽園の敷地の全貌が掴めたかもしれへん。」

 

「なっ…!!ら、楽園の敷地がどうなってるのかわかったの!?」

 

「まあ、大した事やあらへんけどな。この楽園は、多分正六角形になっとる。それで、内側が壁で仕切られて丁度6等分されとるんや。エリアが一つ開放されるごとに敷地内を仕切っとる壁が降りて1ピース分の敷地が現れるっちゅうわけや。」

 

枯罰は、楽園の簡単な地図を描いて説明した。

…なるほどな。

これがこの楽園の全貌ってわけか。

そういや、枯罰は毎回敷地の範囲を調べて報告してたけど、あれはまだ開放されていないエリアも含めて楽園全体の敷地を把握するためだったのか?

 

「実はこないな構造になっとるんとちゃうかな、とは前々から思っとったんやけどな。情報量が少なすぎて断定は出来へんかった。今回新しいエリアが開放された事で確信したわ。」

 

「6等分された正六角形のうち、4つが開放されたんだよね?って事は、あと2つエリアが開放されればこの楽園が全部見られるって事!?」

 

「せやなぁ。まあでも、あのクマ公は学級裁判せぇへんとエリアを開放せぇへんやろ。つまり、正攻法で外に出よ思たら最低でもあと2回学級裁判せなあかんねん。ホンマにここにおる全員で外に出よ思っとるなら、新しいエリアが開放されるのを悠長に待っとる場合とちゃうんやないか?」

 

「う…」

 

「ウチがこの報告をしたんは、あくまで現状の確認のためや。変に期待し過ぎんのも考え物やぞ。次、速水。お前らの班報告せぇよ。」

 

「はーい!中は普通の映画館だった!シアターは全部で10個あって、ドリンクバーとポップコーンもあったよー!」

 

「それと、strangeなfilmがあったぜ。」

 

「え?」

 

「見た方が早いだろうから、オマエラも一回theaterで見てみろよ。」

 

ジョンが言ってた変なフィルム…

気になるな。

後で見にいこうかな。

 

「それじゃあ最後は僕達の班だね。科学研究所は全部で4つの階に分かれてて、1階が物理室、2階が化学室、3階が生物室、4階が地学室になってたよ。中には、実験や研究に必要な機材とかが置かれていた。…あ、それと過去に希望ヶ峰学園の学生が自作した発明品とかも置かれてたかな。それから、科学研究所を調べたい時は必ず僕に相談してね。特に物理室と化学室には命に直結するような危険な薬品や機械が置いてあるから迂闊に触らないように。」

 

「わかった。」

 

「それと、いくつか気になる資料もあったぜ。見たい奴は後で個人的に研究所に行ってみろよ。」

 

むぅ、そう言われると気になるな。

後で資料を見てみるか。

 

うん、大体全部の班が情報を共有したかな。

んじゃあ今回のミーティングでわかった情報をまとめとくか。

 

・今回開放されたのは研究室3つ、科学研究所、映画館、モノクマタワーの6つ。

・今回開放された研究室は、聞谷、ジョン、一の3名。

・科学研究所は1階が物理室、2階が化学室、3階が生物室、4階が地学室になっている。

・物理室と化学室には危険な薬品や機械、謎の資料などが置かれている。

・映画館は全部で10個シアターがあり、ポップコーンとドリンクバーが用意されていた。

・モノクマタワーは1階がエントランス、5階が放送室、6階が管理室と展望エリアになっており、巨大な時計が付いている。

・2階から4階までは重要な機器があるため立ち入り禁止。

・放送室は放送局のような造りになっており、主調整室と副調整室に分かれている。

・放送室の機器は基本的に操作可能だが、死体発見アナウンスと捜査終了アナウンスをするための機械だけは操作不可。

・管理室では楽園内全ての施設の時計の管理が行われており、ガラスの壁で封じられて入れないようになっている。

・展望エリアの壁は全て窓ガラスでできており、楽園全体が見渡せる。

 

「…とまあ、こんな所か。」

 

「そろそろお昼にしよーよぉ、ボクお腹すいたー!」

 

「…しょうがねぇな。」

 

「ウチらで作ってくるさかい、お前らは机を片しとき。」

 

「オレも手伝うぜ。」

 

数十分後、いつもの2人とジョンが昼食を作って持ってきてくれた。

仕田原達の死を経験して心身共に疲れ切っていたせいか、食事が余計に美味く感じる。

3度目の学級裁判の後の2度目の食事なので、こういう言い方はあまりしたくないけど…9人での生活にも少しずつ慣れてきた。

事件が起こった事と内通者の事でパニックになっていた頭も、一晩寝たら少し落ち着いてきた。

仕田原の飯が食えなくなっちまったのは寂しいけど、せっかく枯罰達が作ってくれたわけだししっかり食べて栄養つけないと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼食の後は、各自自由探索の時間になった。

弦野が言ってた集まりは、結局夕食の後に行われる事になった。

何で弦野が急に俺達を集めたのかは気になるけど、まだ夕食まで時間があるし先に今回亡くなった3人の供養をしておかないとな。

俺は、早速宝条の研究室に向かった。

 

「…。」

 

宝条の研究室は、相変わらず値段がつけられない程貴重なお宝がたくさん飾られていた。

俺がプレゼントしたアクセサリーも、ショーケースに飾られてキラキラと輝いていた。

…でも、アイツがいない研究室はどこか寂しい感じがした。

どれだけ高価なお宝に囲まれても、それをかき集めて手入れしていたアイツがいないとやっぱり物足りない。

 

「…結局、ここで約束したのがお前との最後の思い出になっちまったな。」

 

宝条が死んだ。

運悪く筆染に殺されてしまった。

…宝条は、確かに自分のために筆染を殺そうとした。

でも、アイツ自身は決して悪い奴じゃなかった。

それは、ここでアイツの話を聞いた俺がよくわかってる。

ワガママでヒステリックな所はあったけど、本当は素直になれなかっただけなんだ。

夢を叶えるために必死で努力して、育ての親に恩返しをするつもりでいる、そういう奴だった。

変な気を起こしてしまったのだって、内通者に操られたからだ。

じゃなきゃ、たかが願い事一つで宝条があれほど仲良くしていた筆染を殺すわけがない。

俺は、二人の命を弄んだモノクマも、二人にコロシアイをするように仕向けた内通者も許さない。

俺も枯罰と同じ気持ちだ。

絶対に、モノクマと内通者を糾弾してやる。

 

「…。」

 

宝条は、こんな所で死んでいい奴じゃなかった。

なのに、どうしてこんな事になっちまったんだ。

せっかく、みんなと打ち解けてくれたと思ったのに。

アイツは俺の事を友達だと思ってくれてたのに。

…一緒にここから出て、みんなで普通の高校生らしい事をしようって約束したのに。

 

「宝条。ごめんな。お前が筆染を殺そうとするほど追い詰められてた事に気付いてやれなくて。…俺、お前の友達だとか言っておいて何やってんだろな。…約束、守れなくなっちまってごめんな。俺、生きるよ。お前の無念を晴らすためにも、何としてでも全員で生き延びる。そして、お前の命を弄んだモノクマと内通者に一矢報いてやる。だから、どうか安らかに眠ってくれ。」

 

俺は、宝条が以前ついていたテーブルに向かって合掌して頭を下げた。

…これでアイツも少しは浮かばれるといいんだけどな。

俺は、複雑な思いを抱えつつ宝条の研究室を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、次に筆染の研究室に向かった。

筆染の研究室は、相変わらず絵の具の匂いがした。

部屋の壁には美しい風景画が描かれており、絵の道具は使いっぱなしで、筆染が殺されてしまったのが嘘のようだ。

 

「…。」

 

筆染は、ちょっとドジだけど誰よりも仲間想いな奴だった。

初めは孤立していた弦野も、筆染のお陰で俺達に心を開いてくれた。

いつでも明るく振る舞って、俺達を元気付けてくれた。

そんなアイツが今までの誰よりも残虐な殺され方をして、俺達の心は深く傷ついた。

仕田原と宝条に狙われてしまったがばかりに、アイツは命を落とした。

俺が仕田原の正体に、宝条が追い詰められている事に気がついていれば、筆染は死なずに済んだのかもしれない。

でも、それを後悔したところでもう遅い。

筆染は…アイツはもう二度と還ってこない。

 

「…あ。」

 

ふと、一枚のキャンバスが俺の目に留まった。

…そういえばアイツ、このキャンバスに何かを描いて完成したら見せるって言ってたっけ。

俺は、キャンバスを見て思わず目から涙が溢れてきた。

キャンバスには、希望ヶ峰学園の校門の前で俺達16人が並んで笑顔を浮かべている絵が描かれていた。

 

「チクショウ…チクショウ…!!何でだよ…チクショウ!!」

 

本当なら、この絵みたいにみんなで希望ヶ峰学園に入学していたはずなのに。

今頃、みんなで笑い合って学園生活を送れていたはずなのに。

何でこんな事になったんだ。

このコロシアイさえ無ければ、筆染だって死ななかった。

何でアイツが狙われなきゃならなかった。

何でアイツが死ななきゃならなかった。

…許せない。

こんな事になったのは、全部モノクマのせいだ。

絶対に最後まで生き延びて筆染の仇を討ってやる。

そう思った直後だった。

 

「あ…」

 

グシャグシャになったヘアピンが俺の目に留まった。

…多分、誰かが現場から拾ってきてここに置いたんだ。

筆染が少しでも浮かばれるように。

誰が置いたのかは知らねぇけど、きっとソイツも筆染の死を悔やんでいたんだ。

 

「筆染…ごめんな。お前は俺達の事を考えて行動してくれてたのに、こんな事になっちまって…でも、俺達はお前の分まで生きるから。お前ならきっと、こういう時俺達の背中を押してくれるよな?」

 

筆染が見守ってくれてる。

そう思うと、俺は少し気分が軽くなった気がした。

筆染の死を無駄にしないためにも、俺はここを出るんだ。

俺は自分にそう誓った後、筆染の研究室を後にし仕田原の研究室に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、仕田原の研究室に入った。

仕田原の研究室は、他の二人の研究室と違って昨日まで仕田原がここにいたという痕跡が無かった。

…そりゃそっか。

アイツがこの研究室を使うわけないか。

アイツの本性は【超高校級の家政婦】じゃない。

【超高校級の爆弾魔】なんだから。

 

…仕田原。

アイツは、誰よりも真面目で俺達のために働いてくれる。

そういう奴だと思っていたのに。

俺達は、今までずっとアイツに騙され続けていた。

アイツが卑屈で生真面目な性格を演じていたのも、毎日料理を作ってくれてたのも、全部爆弾魔として俺達を殺すためだった。

俺達にとっては仲間でも、アイツにとって俺達は『どうでもいいその他』の一部に過ぎなかったんだ。

 

俺は、今でも筆染を殺し多くの一般人を犠牲にしてきた仕田原を許せない。

でも、仕田原をあんな残虐な方法で処刑したモノクマはもっと許せない。

確かにアイツは殺人鬼だったけど、演技とはいえ俺にとっては大事な仲間だったんだ。

だからせめて、安らかに眠って欲しい。

俺が仕田原の席に向かって合掌して頭を下げた、その時だった。

 

「…あれ?」

 

俺は、椅子の下に鍵が落ちているのに気がついた。

…何の鍵だ?これ…

俺は鍵を拾って研究室全体を見渡してみた。

すると、ひとつだけ鍵穴付きの扉がある事に気がつく。

俺は、拾った鍵を使って部屋の中に入ってみた。

すると…

 

 

 

「うわぁあああああああぁあああっ!!?」

 

俺は、思わず叫び声を上げた。

開けた部屋には、モノクロの少年の顔写真があたり一面にびっしりと貼られており、棚には何種類もの爆弾が入っていた。

本棚には、殺人や爆薬に関する本、過去の事件のスクラップ帳などが入っていた。

テーブルの上に広げられていた手帳には過去に仕田原がターゲットにした建物の写真が貼られており、そこには赤いマーカーでバツ印が書かれていた。

…なるほどな。

ここが【超高校級の爆弾魔】の研究室だったってわけか。

 

すると、壁に貼られていた写真が一枚落ちた。

俺は、その写真の裏側を見て思わずゾッとした。

 

「ひっ…!?」

 

写真の裏側には、真っ黒になって読めないほどびっしりと『行哉さん』と書き殴られていた。

たまたま裏に文字が書かれてる写真が落ちたとは考えにくいから、多分貼られている写真全部に書かれているのだろう。

そう思うと余計に背筋が凍った。

まさか、アイツの恋人に対する執着心がこれ程だったとは。

 

仕田原…

アイツは、結局最期まで何がしたいのかわからない奴だったな。

仕田原の最期の笑い声が、今でも頭から離れない。

同じクロでも、アイツは武本や神崎とは根本的に違う。

アイツは、自分の死すらも愉しんでいた。

それほどまでに、アイツの心は壊れてしまっていた。

きっと、アイツを人殺しの怪物に変えてしまうほど、アイツにとって恋人は大切な存在だったんだ。

せめて、亡くなった恋人と一緒にアイツの事も供養してやらないとな。

俺は、散乱したテーブルの上に供物を二つ置いて部屋を後にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…さてと。」

 

まだ夕食まで少し時間があるな。

誰かと話でもして過ごそうかな。

 

「…あ。」

 

「何や、お前か。」

 

俺は、自販機で飲み物を買っていると枯罰と目が合った。

 

「枯罰。ちょっと話したい事があるんだけど…いいか?」

 

「話?何や。」

 

「お前の才能について…」

 

「…はぁ。その話やろなとは思っとったわ。で、何が聞きたいん?」

 

良かった。今まで才能に関して何も言わなかったから、てっきり断られたり嫌がられたりするものだとばかり思ってたけど…

枯罰はこう見えて一癖も二癖もあるメンバーの中では屈指の常識人で良識人だ。

でも、今まで言わなかったって事は本人が気にしてるって事だろうから、質問は慎重にしないとな。

 

「…とりあえず、ここじゃ誰かに聞かれるかもしれないから別の場所で話そうか。そうだな…俺の部屋ならとりあえず安心かな?」

 

「…。」

 

俺が部屋で話をするように提案してみると、枯罰は少し目を見開いてフリーズしていた。

 

「…どうした?」

 

「…別に。」

 

どうしたんだ枯罰の奴?

…もしかして、男子の部屋に行くのが恥ずかしいとかそういう事か?

いやいやいや、何考えてんだ俺。

枯罰に限ってそれはないだろ。

 

 

 

俺は、枯罰を連れて自分の部屋に入った。

 

「悪いな、散らかってて。適当にそこら辺座れよ。」

 

「…。」

 

俺は、冷蔵庫に入っていた麦茶をグラスに注いで枯罰に出した。

 

「はい。」

 

「…。」

 

「…どした?麦茶嫌い?」

 

「…いや。ウチな、人から出されたモンはどうも受け付けへんねん。すまんな。」

 

「あ…」

 

そういや、前もそんな事言ってたな。

食事に何入れられるかわかったもんじゃないから自分で作るとか何とか…

あの時はただの潔癖症だと思ってたけど、もしかして才能が関係してたりするのかな。

 

「…なあ、枯罰。」

 

「何や。」

 

「黒瀬はお前の事を【超高校級の傭兵】だっつってたけど、本当なのか?」

 

「…ああ。ホンマや。ウチの才能は【超高校級の傭兵】。まあ傭兵って響きはええけどやっとる事は実質殺し屋やな。」

 

「…え?」

 

「ウチは元々ある軍隊に所属しとった少年兵でな。ある事がきっかけで軍を抜けてからは金で雇われて仕事をするようになった。ウチは、雇い主から依頼された仕事を熟す日々を送っとった。要人のボディーガードとかスパイ活動とかならまだええ方やったけど、殺しやら戦争屋やら、あとは拷問官紛いの事をやらされた事もあった。アレはホンマ胸糞悪かったな。イラついて依頼人の方を殺してまうところやったわ。」

 

…なるほどな。

枯罰が才能について語らなかったのも、人の死に対して冷静だったのも、全てにおいて万能だったのも今なら理解できる。

才能について語らなかったのは、人を殺してる事が明るみになったら不利になるから。

人の死に対して冷静だったのは、今まで多くの人の死に直面し、枯罰自身も多くの人を殺してきたから。

全てにおいて万能だったのは、傭兵として超一流だったから。

殺し屋やらスパイ活動やらに手を染めていれば、必然的に多方面に渡って優れた腕前を持つ事が求められる。

コイツは、神崎みたいに初めから何でも完璧に熟せたわけじゃない。

完璧にならざるを得なかったんだ。

 

「ひとつ、聞いてもいいか?」

 

「何や。」

 

「…金で雇われたら、誰でも簡単に殺すのか?」

 

「お前なぁ。言い方っちゅうもんを考えんかい。」

 

「悪い。でも、それだけはどうしても知りたいんだ。どうなんだ?」

 

「…半分YESで半分NOやな。金が無いと生きて行けへんし、妥当な金額で依頼されたらやるわ。それが赤の他人ならそれほど心は痛まへん。人を殺す訓練なら、軍に所属しとった頃から散々受け取ったでな。金のためだと思えば割り切れんねん。せやけど、流石に仕事は選ぶで。この業界を舐めとるような奴の依頼は初めから受けへん。」

 

「じゃあ…今まで殺人が起こった時に怒ってたけど、アレは嘘だったのか?」

 

「嘘なわけないやろ。ウチは、人殺しを許さへんし裁かれて当然やと思うとる。…ウチ自身も含めてな。」

 

「…。」

 

「安心せぇ。ウチはお前らを殺さへん。傭兵として雇われた時から、仕事以外の殺しはせぇへんって決めとんねん。ウチかてオシオキは嫌やしな。まあ、殺されそうになったら間違うて殺してまうかもしれへんけどのぉ。」

 

「…いや、流石にそこまで責める気は無い。筆染の時みたく、正当防衛のつもりが間違えて殺しちまったって事はあるだろうしな。お前から殺しに行く事が無いならそれでいい。」

 

「さよか。」

 

「話を聞いてよくわかった。…やっぱり、お前は悪い奴じゃない。お前を信じた俺の判断は間違いじゃなかった。どんな小さな事でもいいから、何か気がついたら教えてくれ。俺は、お前の事を頼りにしてるからな。」

 

「買い被んなや。お前、何をそこまでウチに期待しとんねん。」

 

「だって、お前は俺が困った時いつでも助けてくれたじゃねぇか。何かこう、頼れる相棒って感じ?」

 

俺がそう言って枯罰の手を握ると、枯罰は少し目を見開いて顔を逸らした。

よく見ると、耳が少し赤くなっている。

元々肌が白いから、赤くなったのがわかりやすい。

 

「…やめぇや。恥ずいやろ。」

 

「どした?もしかして、照れてんのか?」

 

「…別に。」

 

「へへへ、何だよオイ。お前も可愛いとこあるじゃねぇかよ。」

 

「喧しいわボケ!お前ホンマにころ…どつくぞコラ!」

 

おーおー、照れてる照れてる。

枯罰といい宝条といい、ツンデレ女子って何か唆られるんだよな。

 

「枯罰。ありがとな。話してくれて。俺は、お前の事を信じるよ。だからお前も協力してくれないか。」

 

「ド阿呆。逆やろ。お前がウチに協力すんねん。」

 

俺が右手を差し出すと、枯罰も右手を差し出してきたので俺達は手を叩き合った。

 

「そろそろ飯の時間やし、ウチはもう行くで。」

 

「ああ。」

 

そう言って枯罰は立ち上がり厨房へ向かっていった。

…俺もそろそろ食堂に行こうかな。

俺達は、その後枯罰、弦野、速水が作ってくれた夕食を摂った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

夕食の後は、弦野に全員多目的ホールに集まるように言われているので、俺はホールに向かった。

多目的ホールに行くと、既に俺と弦野以外の7人が席についていた。

俺も席について時間が来るのを待っていると、集合時刻丁度に弦野がステージ上に現れた。

髪型はいつものままだったが、この前中止になってしまったコンサートの時のように正装をしていた。

弦野は、ステージの中心に立って頭を下げるとヴァイオリンを手に取って演奏を始めた。

 

「…!」

 

俺は、演奏が始まるなりすぐに目を見開いた。

出会った当初は粗暴なイメージがあった弦野からは考えられないほど繊細で清らかな音色。

今まで聴いた事ない、幻想的で独創的な旋律。

俺は確信した。

音楽業界から姿を消してもなお、弦野の腕前は健在だった。

これが【超高校級のヴァイオリニスト】としてスカウトされた理由なのだと。

素晴らしい演奏に心を洗われ、あまりの心地良さに瞼を閉じようとした、その時だった。

 

「!」

 

俺は、再び目を見張った。

演奏をしている弦野の頬を伝うものがあった。

…汗じゃない。

弦野は、それでも演奏をする手を止めなかった。

目から溢れ出したそれを拭う事もせずひたすら弾き続けた。

 

 

 

やがて、1時間にもわたる演奏が終わり、ホール内は静寂に包まれた。

弦野は、ハンカチで涙を拭うと深く頭を下げた。

 

「…。」

 

俺が泣きながら演奏をしていた弦野にどんな反応をしたら良いのかわからず戸惑っていた、その時だった。

 

「!」

 

俺が座っていた席の後ろから、拍手の音が聞こえてきた。

手を叩いていたのは、枯罰だった。

俺もそれに合わせるように拍手をし、いつの間にか全員が拍手をしてホール内は拍手の音が響き渡っていた。

素晴らしい演奏をした奏者に称賛の意を込めて、その場にいた全員が手を叩いた。

弦野は、拍手の音に包まれながら舞台を後にした。

 

 

 

コンサートが終わり、部屋に戻ろうとしていた時、俺は弦野に会った。

 

「よ。」

 

「…赤刎か。」

 

弦野は、演奏中ずっと泣いていたせいか鼻を赤くしてずびずび鳴らしていた。

ツッコんだらキレられるだろうし、俺は別の話題を切り出す事にした。

 

「いやあ、それにしてもさっきの演奏凄かったな。まさか、この前出来なかったコンサートをやるために俺達を集めたとはな。」

 

「…本当は、絵麻に聴かせるために準備してきたんだ。でも枯罰達に手伝ってもらってここまで準備したのに準備しっ放しってのも何だし、せっかくだからお前らの前で演奏する事にした。」

 

そういえば、この前に筆染のためにコンサートを開くって言ってたな。

もしかして演奏中に泣いてたのも、筆染の事を思い出したからなのかな。

 

「…なあ。さっき弾いた曲って、何て曲なんだ?聴いた事ない曲だったけど…」

 

「…あの曲には、名前が無いんだ。」

 

「えっ?」

 

「まだ名前をつけてない。あれは、俺が絵麻に聴かせるために作曲した曲だ。…まあ、一番聴かせたかった奴には聴かせられなかったけどな。」

 

「…いや、届いてるよ。」

 

「え?」

 

「お前の演奏は、筆染にも届いてる。筆染だけじゃない。ここで犠牲になってしまったみんなが聴いてくれてるよ。」

 

「…はぁ?馬鹿馬鹿しい、幽霊なんているわけねぇだろ。」

 

「かもな。ぶっちゃけ言うと俺も死後の世界否定派だ。」

 

「じゃあ何で適当な事ぬかしたんだよ。」

 

「だって…そう思いたいだろ?」

 

「は?」

 

「俺、宗教系の孤児院の出身でさ。俺自身は死後の世界とか信じてないんだけど、俺の尊敬する先生が『信じる者は救われる』って言ってたんだよ。だから、今まで犠牲になったみんなが見守ってくれてるって思うようにしてるんだ。その方が、俄然ここから出てやるぞって気になれるしな。」

 

「…そういうもんかよ。」

 

「ああ。筆染は、きっとお前の事を見守ってくれてるよ。」

 

「…そうだな。」

 

「弦野。」

 

「どうした?」

 

「お前…何か変わったよな。前はみんなの事を全然信用してなかったのによ。」

 

「…別に。ここの生活に慣れてきただけだ。俺は、俺が生き残るためにやるべき事をやるだけだ。絵麻のためにも、俺は生きる。」

 

弦野…

前は、行動をする理由が『死にたくない』という消極的なものだった。

でも、筆染の死を乗り越えた事で『生きたい』と強く思うようになったのか。

 

「…そうだな。俺も、札木や湊のために生きてここを出る。お互い、協力して一緒に脱出しような。」

 

「ああ。」

 

俺が手を差し出すと、弦野は俺の手を強く握り返した。

 

「…あ。」

 

「どうした?」

 

「思いついた。さっき弾いた曲の名前。」

 

「ホントか?どんなタイトルにしたんだ?」

 

「『天国の君のためのセレナーデ』。俺の演奏がアイツに響くように、俺は外に出たらこの曲を弾き続けていくんだ。」

 

「…そっか。」

 

初めはあれだけ自分の才能を嫌っていた弦野が、亡くなったみんなのために演奏を続ける事を選んだ。

…人って、変わるもんだな。

 

弦野も枯罰も、3度の学級裁判を乗り越えてより絆が強くなった。

みんなの絆があれば、絶対にここから出られるはずだ。

俺達は、希望を捨てない。

モノクマなんかに絶対負けない。

 

そう誓った俺は、部屋に戻ってベッドについた。

こうして、楽園生活15日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 

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