エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園   作:M.T.

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(非)日常編④

楽園生活17日目。

 

『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』

 

今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。

コイツ、俺達に嫌がらせしてないと死ぬ病気にでも罹ってんのかな。

俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

食堂には既に安生、聞谷、速水が来ており、遅れて一が来た。

今日は、枯罰、速水、弦野の3人が朝食を作って持ってきてくれた。

だが、一向に黒瀬が来る気配が無かった。

…まあ、アイツは遅刻魔だから今更驚きはしないけどな。

 

「マシロの奴こねぇな。oversleepか?」

 

「別にいいんじゃねぇの?あんな奴。俺も内通女と一緒に飯食いたくねぇしよ。」

 

「そ、そうだよ!殺人鬼と一緒にいたら何されるかわかんないじゃん!」

 

「弦野さん、一さん。言い過ぎでは?」

 

「別に言い過ぎやとは思わへんけど、放っとくのは反対やな、あんな奴一人にしとく方がアカンやろ。アイツ、目を離したら何するかわからへんぞ?」

 

「ひぃいいいいいっ!!?枯罰さん物騒な事言わないでよ!!」

 

「お前が先に物騒な事言うたやんか。」

 

「…仕方ないね、僕が呼びに行ってくるよ。」

 

「じゃあアタシも行くよー。」

 

「いや、俺が行く。」

 

「いいのかい?」

 

「ああ。アイツも俺の前では変な気を起こさないだろうしな。」

 

「何だよその謎の自信。」

 

俺は、一人で黒瀬を迎えに行った。

 

 

 

黒瀬の部屋の前に着いた俺は、インターホンを鳴らす。

 

「まっしろしろすけ出ておいでー。出ないと目玉ほじくるぞー。」

 

すると、ガチャリとドアが開いたかと思うと白いフカフカの毛布で身を包んだまっしろしろすけこと黒瀬が出てきた。

まだパジャマを着ている事ともともと癖毛の髪が寝癖でグシャグシャになっている事から、ついさっきまで寝ていた事が見て取れた。

もう集合時刻過ぎてるのに熟睡するなんて呑気な奴だな。

 

「んあー、何ですかー。」

 

「何ですかじゃねぇよ。飯の時間だ。」

 

「えー…まだ眠いよぉ。もうちょっと寝かせてー。」

 

「ダメだ。…つーか、いつも何時に寝てるんだよ?夜更かししてるんじゃないだろうな?」

 

「まさかー。お昼寝してるし、ちゃんと10時にはお布団に入ってるよぉ。ちゃんと1日14時間寝てるもんねー。」

 

「寝すぎだろ!!よくそんなに寝れるな!?」

 

「えへへー、褒めても何も出ませんよー?」

 

「褒めてない。ホラ行くぞ。」

 

「えー、まだ寝たいよぉ。あ、そうだ。円くん、ボクと一緒にお布団に入る?」

 

「入らない。みんなを待たせてるから行くぞ。」

 

「ぴえん」

 

俺は、ぐずる黒瀬を引っ張って食堂へ連れて行った。

ようやく全員揃ったので、全員で朝食を摂った。

朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。

まずはどこに行こうか?

…そうだ。

映画館が開放されたらしいし、行ってみようかな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

俺は、映画館に行って映画を見る事にした。

ジョンが言ってた変な映像とやらを見るか。

俺は、変な映像とやらを機械にセットし、その時にメダルを見つけたので回収した。

そしてポップコーンとお気に入りのジュースを持って、空いているシアターの席に座った。

すると、突然上映が始まった。

どうやら、ミステリーもののアニメ映画のようだ。

モノクマが作った映画らしいので嫌な予感しかしないが、ジョンがわざわざ調査中に言ってきたという事は何か重要な手掛かりがあるかもしれないので気は進まないが見てみる事にした。

どこかで聞いた事があるBGMが流れ、暗い館の扉が開く。

 

…ん?どこかで見た事あるぞ?

 

そしてとうとう、アニメの本編が始まった。

パシャパシャというカメラのシャッター音の後、決めポーズをしたモノクマが現れる。

 

『ボクはマスコット探偵モノクマ。幼馴染みで同級生のモノミと遊園地に遊びに行って、黒ずくめのクマの怪しい取引現場を目撃した。』

 

丸パクリじゃねぇか!!

怒られるぞコレ!!

というツッコミを心の中で留めつつ、俺は引き続き映画を見た。

某見た目は子供頭脳は大人の探偵アニメを丸パクリしたオープニング映像のあとは、映画の本編が始まった。

 

『ドカーーーン!!!』

 

『モノミーーー!!!』

 

『モノ…クマ…?』

 

「…。」

 

何だこれ。

酷すぎる。

マジでマジメに見た時間を返せとしか言いようがない。

事件が起きてから解決まで、全てが滅茶苦茶だ。

ジョンがわざわざ話題にするほどの映像だから心して見ようと思っていたのに、蓋を開けてみれば駄作未満の茶番映画だった。

ジョンめ、こんな汚物をわざわざミーティングの場で持ち出しやがって。

後で文句言ってやる。

エンドロールが流れバカバカしくなって席を立とうとした、その時だった。

 

『キャー!!』

 

『何!?また事件が起こったのか!?』

 

どうやら、この映画は一つの事件を解決して終わり、というものではなかったらしい。

エンドロールが流れ終わった直後、次の事件が起こる。

はいはい、駄作駄作。

そう思って俺がため息をついて椅子にどっかり座った、その時だった。

 

 

 

「…え?」

 

突然、映像がアニメから実写に切り替わった。

そして、何者かが血塗れのナイフを持って怯え切った男に一歩ずつ近づく。

見たところかなり身なりが良く腹に贅肉がついた中年男が尻餅をつき、後退りをしている。

 

「ひっ、ひぃっ…!!た、頼む!!見逃してくれ!!この通…

 

 

 

ザシュッ

 

ナイフを持った人物は、男の言い分を聞き入れる事なく男の喉を掻っ捌いた。

男の喉を切ったのは、背丈的に10歳前後の子供だった。

後ろに映っていた新聞を目を凝らして見ると、日付が8年前になっていた。

…もしかして、これって俺達の中の誰かだったりしないよな?

こんな事をする心当たりがする奴は、1人しかいない。

 

 

 

…黒瀬?

まさか、黒瀬がこの男を殺したのか?

アイツが自分を殺人鬼だと言っていたのは、本当だったのか…?

 

「ッ…!?」

 

頭が痛い…

何だ、急に頭に映像がチラついて…

 

 

 

 

 

…あれ?

 

俺はモノクマが作った映像なので初めは捏造を疑っていたが、すぐに映像が本物だと確信した。

俺は、過去にこの場に居合わせた事がある。

俺は確かこの様子を見てて、その後…

 

…ッ!!

思い出した。

俺は、その後男をメッタ刺しにした犯人に見られたんだった。

 

俺は、引き続き映像を見る事にした。

何が何でも真実を確かめたかったからだ。

 

すると、物陰から人影が現れるのが見えた。

見たところ、犯人と同じくらいの年齢の子供だ。

…そうだ。俺は、この物陰から犯行の様子を見ていて、急いで通報しようとしたら犯人に見つかってしまったんだった。

それで、犯人に睨まれて何かを言われて…

その後どうやって犯人から逃げたのかは覚えていない。

今思い出してみれば、俺を睨んでいた瞳と俺に何かを言った声は黒瀬のものだった。

 

…あれ?

俺、何で今になってこんな事を思い出したんだ?

今まで、殺人現場を見たのを思い出した事なんてなかったのに…

というか、何でこんな重要な事を今まで思い出せなかったんだ?

 

 

 

…!

そういえば、何も思い出せないというのはここに閉じ込められた時の状況と同じだ。

それに、記憶をデータ化して書き換える技術を開発したというレポートも読んだ。

…まさか、俺は誰かに記憶を操作されていたのか?

 

「…。」

 

いや、決めつけるのはまだ早いな。

もしかしたら、たまたま思い出せなかっただけかもしれない。

本当はこういう時安生に相談するのが一番いいんだろうけど、実は俺が黒瀬の犯行現場を見てましたなんて言ったら混乱を招きかねないし、もし黒瀬がこの事を知ったら今まで温厚だったアイツも変な気を起こすかもしれない。

 

そんな事を考えると、いつの間にか映画が終わっていた。

席には、飲みかけのジュースとほとんど口をつけていないポップコーンが残っていた。

食欲は無いが残すのも勿体無いし何とかしたいけど、今から他の映画で口直しする気分じゃないしその気力も無い。

…素直に映画を楽しめなくなっちまったな。

俺は、残ったポップコーンとジュースを持ってとぼとぼとシアターを出た。

 

…はぁ。

これ、どうしよっかな。

 

 

 

「じー…」

 

「!!?」

 

左から視線を感じるので左を見ると、黒瀬が俺の目線の高さに合わせて少し屈み俺の顔を覗き込んでいた。

 

「ッ…く、黒…瀬…!?」

 

「円くん、どうしたの?元気ないよぉ?大丈夫?おっぱい揉む?」

 

「ッ…」

 

俺は、黒瀬に頬を撫でられて思わず全身を硬直させた。

もう春のはずなのに、冷や汗と震えが止まらない。

やばいやばいやばい、心音が煩い!!

何とかしないと、黒瀬に怪しまれる…!

 

「な…何でもないよ。」

 

「ふーん。でもポップコーン残ってるよ?円くんならこれくらいペロリだよね?」

 

「え、映画に集中してたら余っちゃって…そうだ、残り食うか?」

 

「やったー。円くんの食べかけと飲みかけー。恭悦至極なりー。」

 

黒瀬は、やると言っていないジュースまで引ったくって走っていった。

…黒瀬って何なんだ。

初めはちょっとマイペースで人懐っこい癒し系だと思ってたけど、まさか殺人鬼、ストーカー、サイコパスの3拍子揃ったトリックスターだったとは。

俺はヤバい奴に気に入られてしまったのかもしれない。

 

「…あ。」

 

黒瀬は、突然立ち止まって俺の方を振り向いた。

 

 

 

「円くん、()()()()()?」

 

「ッーーーーー!!?」

 

え?

思い出したって…何の事だ?

もしかして、俺が殺人現場を見た事か?

だとしたら、俺が黒瀬の犯行を目撃していたのを思い出したのがバレたら相当ヤバい…!!

 

「…はぁ?何を?急に変な事言うなよ。」

 

俺は、ニヘラと笑って誤魔化した。

すると黒瀬は少し考えるそぶりをし、シアターへと走っていってしまった。

…とりあえず、何とか誤魔化せた…のか?

俺は不安を抱きつつも、残りの昼食までの時間はプレイルームで過ごす事にした。

拾ったメダルでガチャを引いたら、スポーツタオルが出てきた。

俺は使わないので、誰かにあげる事にした。

 

その後昼食の時間になり、全員が食堂に集まった。

当然黒瀬も来たので、俺は少し黒瀬を警戒していた。

しかし、あれから特に黒瀬が何かを仕掛けてくる事はなく、俺の心配は杞憂に終わった。

…でも、黒瀬は殺人鬼だし、内通者を自称してるからこれから何をしでかすかわかったもんじゃない。

相変わらず枯罰達が作ってくれた飯は美味かったが、それどころじゃなかったので正直箸は進まなかった。

俺は、昼食の後庭のベンチに座って外の空気を吸う事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「…はぁ。」

 

俺がベンチに座ってため息をつくと、ベンチに影が差した。

 

「あれ?円じゃん。どうしたの?そんな所でため息なんかついちゃってさ。」

 

「…速水か。実は、嫌な事を思い出しちまってな。」

 

「嫌な事?アタシで良かったら話聞くよー?とりま、アタシの研究室来る?」

 

速水は、俺を研究室に入れてくれた。

俺は、速水に相談する事にした。

もちろん、黒瀬の犯行現場を見た事は伏せて、『小さい頃に目の前で人が死んだ』とだけ伝えた。

正直、今は特に何も考えていない速水に相談するのが一番気が楽だった。

 

「ふーん、なるほどねー。アンタも色々悩んでたんだね。」

 

「…なあ、厚かましいお願いではあるんだが…この話は出来るだけ他の奴には言わないでおいてくれるか?心配かけたくないし…」

 

本当は黒瀬にこの事がバレたらマズいから、なんだがな。

 

「わかってるよ。誰にも言わないから。ってか、アタシバカだからさ。ちょっと筋トレしてここを出る頃には多分アンタが話してくれた事忘れちゃってるんじゃないかな?だから心配しないでよ。」

 

「ははは…」

 

速水が笑いながら自虐ネタを挟んできたので、俺は合わせるように苦笑いを浮かべた。

…誰にも言わないって約束の方を忘れたとかいうオチはやめてくれよ?

 

「…まあでも、うん。ちょっとスッキリした。話聞いてくれてありがとな、速水。」

 

「いいって事よ。」

 

「あ、そうだ。礼と言っちゃ何だが…」

 

「どったの?」

 

俺は、速水にタオルを渡した。

 

「はい、これ。」

 

「…え?これを、アタシに?」

 

「話聞いてもらったしな。良かったら受け取ってくれないか?」

 

「ありがと!!え、やった!!メッッッチャ嬉しい!!!」

 

速水は、俺のプレゼントをものすごく大袈裟に喜んでいた。

ここまでド直球で喜ばれるとこっちが恥ずかしくなっちまうな。

 

「気に入ってくれたみたいで良かったよ。…なあ、まだ時間あるしせっかくだからもう少し話さないか?」

 

「え、まだ何か悩んでるの?」

 

「いや、そうじゃなくて…今度はお前の話を聞いてみたいなって。」

 

「アタシの!?おっけ!!まず何から話す!?」

 

「そうだな…じゃあ、何で【超高校級のランナー】になったのか教えてくれるか?」

 

「走るの大好き!!以上!!」

 

短っ!!

え、まさかこれで終わり!?嘘だろ!?

他の奴は過去とか色々教えてくれたんだけどな…

コイツ悩みとか何も無さそうだし、もしかして壮絶な過去とか壁を乗り越えた経験とか何もないのかな?

 

「あ、いや…あ、じゃあスカウトされるまではどんな生活してたんだ?」

 

「あー、そうね。アタシ、弟が3人いてさ。お父さんとお母さんは海外出張でなかなか帰ってこないからアタシが面倒みてたんだよね。」

 

なるほどな。

だから意外と面倒見がよくて家事スキルが高いのか。

 

「もしかして、コロシアイやオシオキでみんな心が折れそうな時も元気だったのは、今まで下の兄弟の面倒を見てたから…」

 

「ああ、いや。あれは頭がついていけなくて何に対して怖がったらいいのかもわかんなくなっちゃってただけ。」

 

理解が追いつけてなかっただけかい。

 

「それで男兄弟ばっかりだからってのもあんのかもしんないけど昔から身体を動かす機会が多くてさ。特に走るのが得意で、かけっこはずっと一番だったんだよね。走るのが大好きだから中学と高校は陸上部に入ったんだけど、それで【超高校級のランナー】としてスカウトされたんだ。アタシは趣味で走ってただけなのに、超高校級なんてビックリだよねー。」

 

「趣味でって…記録更新したりしてるんだから、努力して超高校級になったんじゃないのか?」

 

「んー…強いて言うなら速く走れたら嬉しいから速く走ろうと思っていっぱい走ったくらいかな。」

 

いや、くらいかなって…

そこで挫折する人間が何百人もいるんだぞ。

努力をする過程すらも楽しんで苦に思わないなんて、普通の人間ができる事じゃない。

それを平然とやってのけるというのは、ある意味超高校級なのかもな。

 

「ちなみにいっぱいって…どのくらい?」

 

「1日100kmくらい?休みの日はもっと走るけど。」

 

バケモンじゃねーか。

何がバケモンかって、走る量もそうだけどそれを苦に思わない事なんだよな。

そりゃ超高校級って呼ばれるわけですわ。

 

「んー…アタシが【超高校級のランナー】になった経緯はこれくらいかな。他に聞きたい事ある?」

 

「そうだな…じゃあ、速水はここを出たら何がしたい?」

 

「いっぱい走る!!」

 

「いや、それは楽園の中でもできるんじゃないか?」

 

「んもー、わかってないなぁ円は!!同じ所グルグル走ってたら飽きちゃうでしょ!!アタシは色んな場所を好きなだけ走りたいの!!グラウンドとかちゃんとした道とかを走るのと山道とかを走るのとじゃ全然違うんだから!!」

 

「お、おう…」

 

さすが、【超高校級のランナー】とだけあって走る事に対する情熱は並大抵のものじゃないな。

走れれば何でもいいんじゃないのかと思っていたが、速水なりのこだわりがあるんだな。

 

「円、アタシは絶対生き延びるよ。今まで殺された7人の分まで生きる。もちろん、アンタ達8人も一緒だよ。友達が死ぬなんてもう嫌だもんね!」

 

「おう。俺も気持ちは同じだぜ、速水。」

 

「円、絶対みんなで一緒にここから出ようね!!それで、外に出たらみんなで一緒にマラソンしよう!!」

 

「何でそうなる!?」

 

「みんなで走れば元気になるし、絆も深まるっしょ!」

 

「そ、そう…だな…あはは…」

 

絶対お前は逆に俺達の元気がなくなるまで走るだろ!!

…というツッコミは流石に出来なかったので、俺は無理矢理口角を釣り上げて苦笑いを浮かべた。

 

「よし、決まり!!ここから出たら、みんなでマラソンね!!」

 

「お、おう…」

 

押されてつい頷いてしまったが、速水の事だから絶対フルマラソンじゃ済まないだろうな。

俺とて運動は苦手ではないし、むしろ体格の割に高校生の中では運動ができる部類に入るのだが、それでも凡人の範疇に入る程度なので正直体育会系の速水には全くついていける気がしない。

 

「と、とにかくお前に話せて気が楽になったし、お前の話が聞けてよかったよ。」

 

「いいって事よ!それより、せっかくだから今度一緒にトレーニングしない?」

 

「へ?」

 

「アンタは鍛えないからちっちゃいままなんだよ!いっぱい走っていっぱい鍛えれば背も伸びるって!」

 

「いえ、お気持ちは大変嬉しいですが遠慮させていただきます!!」

 

「えー?」

 

思わず全力で断ってしまった。

仕方ない。

速水のペースでトレーニングをしようものならマジで命に関わるからな。

実際、この前だってジョンと速水に言われてクソ重いダンベル持ったら腕攣ったし。

 

…まあでも、速水と一緒にいる事自体は楽しいし、今度また話でもしようかな。

そんな事を考えながら、俺は速水の研究室を後にした。

 

《速水蘭華との親密度が上がった!》

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

速水と話をしたのはいいが、まだ夕食まで時間があるな。

そうだ、もう少しタワーの探索をしておこうかな。

 

「あ、あの…赤刎君…」

 

「ん?どうした一?」

 

俺がタワーに行こうとすると、一がオドオドした様子で話しかけてきた。

 

「これからタワーに行くの…?」

 

「おう。それがどうした?」

 

「あの…だったら一緒に行ってもいいかな?」

 

「それは全然いいけど、何で急に?」

 

「えっと、その…ボク、安生君からタワー内の設備を調べるように頼まれてるんだけど、一人じゃ怖くて登れないから…」

 

あー…

確かにタワー内の機械は一に調べてもらった方が心強いけど、当の本人がこれだもんな。

まあ怖いものは誰にだってあるし、機械を調べるのは一が適任だし手伝ってやるとしますか。

俺もちょうど探索しようと思ってた所だし、よく考えれば一が調べてる間見張ってやるくらい全然負担じゃないしな。

 

「わかった。じゃあ俺も手伝うよ。大丈夫、俺から離れなければ怖くないから。」

 

「あ、ありがとう…」

 

俺達は、タワー内の設備を調べるために早速中に入っていった。

 

 

 

「相変わらず小綺麗なエントランスだな…」

 

「ホテルもこんな感じだったよね。…うわぁ、シャンデリアがモノクマ型だよ。気色悪いなぁ。」

 

「同感。アイツ、見てるだけで吐き気催すモン置きやがって。」

 

つくづくモノクマって人を不愉快にする天才だよな。

そんな事を考えつつ、俺達はエレベーターで5階に上った。

 

「そういや、一はここ来るの初めてだっけ?」

 

「あ、うん…怖くて近寄れなかったから…」

 

マジか。今までタワーに近寄りもしなかったのかよ。

どれだけ高い所が怖いんだよ。

 

「よし、着いたぞ。」

 

「うん…」

 

5階に着いたので、早速主調整室に向かう。

一は、早速機械を調べ始めた。

 

「うぅううう…何でボクがこんな事を…大体さぁ、ボクの才能はソフトウェア開発者だから。別にエンジニアとかメカニックとかじゃないから。こんなコンピュータが絡まない機械の点検をしろって言われてもねぇ…」

 

前々から思ってたけど、一って何かと文句が多いんだよな。

まあやってくれるだけありがたいけど。

でも流石に文句が多すぎて聞いてるこっちの気分が悪くなりそうだったので、一言物申した。

 

「そんなに嫌なら引き受けなきゃよかったんじゃないのか?」

 

「だ、だって!!ここから生きて出られる手がかりがあるかもしれないなんて言われたら断れないじゃないか!!」

 

「お、おう…」

 

「…そ、それに…みんなに迷惑かけた分、ボクも何かしなきゃいけないし…」

 

「一…」

 

一の奴、一昨日の事まだ気にしてたのか…

そりゃあ、包丁を振り回して暴れたって聞いた時は流石にビビったけどさ。

それくらい、一は仕田原の事で思い悩んでたんだろうな。

 

「ボク、その…仕田原さんの事、すごくいいなって思ってたんだ。真面目で、美人で、家事もできて…仕田原さんの事をいつの間にか目で追いかけるようになってた。だからだと思うけど、仕田原さんが爆弾魔だって自白した時、ボクは頭が真っ白になって何も考えられなかったんだ。ボクは、信じたくなかった。今までの仕田原さんが全部嘘だったなんて。君の言っていた事がデタラメだと思いたかった。…本当はわかってたんだ。君の推理が核心を突いてて、あの時笑ってたのが仕田原さんの本性なんだって。でも、ボクは仕田原さんを見殺しにできなかった。それでみんなを巻き込む事になったとしてもね。」

 

「…え?」

 

「3回目の裁判の投票結果、覚えてる?あの時だけ、満場一致じゃなかったよね。」

 

「ああ、確かお前に一票入ってたな。仕田原がスケープゴートにしたかったのは黒瀬と速水だったはずなのに、何でお前に一票入ってるのかが少し引っかかってたんだよな。まさか…」

 

「…その一票はボクが入れたんだ。ボクは、たとえ爆弾魔でも仕田原さんには死んでほしくなかった。…変だよね。何の罪もない人をたくさん殺して、筆染さんを殺して、弦野君の大切な人を奪った殺人鬼なのに、それでもボクは仕田原さんを嫌いにはなれなかった。」

 

「…。」

 

俺は、床を睨みつけて静かに拳を握った。

一のやった事は、軽率、無責任なんて生温いものじゃない。

枯罰は、たとえどんな結果であろうと生を勝ち取るために命懸けで戦い、生きるためなら非情にもなる覚悟を示した。

なのに、一は私情に流されて俺達9人の命を危険に晒した。

実質、俺達を巻き込んだ自殺未遂だ。

許される事じゃない。

 

…でも、俺は一を責められるのだろうか?

俺も、自分が助かりたいから仕田原を糾弾し見殺しにした。

アイツは、俺達が殺したようなものだ。

 

『ウチらも自分が生き残るために武本を見殺しにした立派な殺人犯。ここで人を糾弾するんやったらそれ相応の覚悟はせぇよ。その覚悟が持てへん奴は、金輪際この場で発言させへん。』

 

…ふと、枯罰に言われた言葉が頭の中で何度も響いた。

その通りだ。俺は、俺達は、既に4人の命を助けられず、3人を見殺しにしてるんだ。

札木が死んだ時点で、俺達は重い十字架を背負わされていた。

それを、一生背負って生きていかなきゃいけないんだ。

 

「一。いくら過去を嘆いたって仕方がない。俺達は、自分達の力で未来を勝ち取らなきゃいけないんだ。そのためにはお前の協力が必要なんだ。だから頼む、力を貸してくれないか?」

 

「…。」

 

俺がそう言うと、一は無言で頷いた。

一は、引き続き放送室の機械を調べてくれた。

放送室の探索が終わると、前回は階段を使わなかったので今回は階段で展望エリアへ向かう事にした。

 

「この階段、音がよく響くんだな。」

 

「近くにスピーカーがあるし、ここから放送が聴こえたらかなりうるさいだろうね。…ところで赤刎君。肩凝ってない?」

 

「あーもう、肩でも腕でも好きな所掴めよ。」

 

俺は、顔を真っ青にしてビクビクと怯える一にガッチリホールドされながら展望エリアに足を踏み入れた。

管理室はどうせ入れないし、展望エリアの探索をするとしますか。

俺が展望エリアを調べようとした、その時だった。

 

「ひぎゃああああああああああっ!!!!」

 

「うわっ!?」

 

突然一が叫び出すので、俺はついカッコ悪い声を出してしまった。

 

「ビックリしたぁ…え、急にどうした?」

 

「た、高い所怖いよぉおおおお!!!やっぱ無理無理無理!!もうタワー降りようよ!!」

 

「いや、まだ展望エリアを調べてないだろ。俺がついててやるから一緒に調べようぜ。見ろよ。壁はガラス張りだけど、ちゃんと足は地についてるだろ?」

 

「う、うぅううう…」

 

俺がそう言って前に進むと、一は渋々展望エリアの機械を調べた。

 

「これが窓を開閉する機械ね。で、こっちが…」

 

一は、タワー内の機械を一通り調べて点検をしてくれた。

流石、機械に強いってだけあって頼りになるなぁ。

 

「あ、あの…もう調べ終わったし…お、降りようよ…」

 

「そうだな。そろそろ夕食の時間も近いし、ホテルに戻るか。」

 

探索を終えた俺達は、エレベーターで1階まで降りた。

ちなみに一はというと、始終ひっつき虫のように俺にべったりくっついて離れようとしなかった。

…こういう所が無ければホント頼もしいんだけどな。

 

その後俺達はホテルの食堂に行き、枯罰達が用意してくれた夕食を食べた。

夕食の後は適当に時間を潰してから部屋に戻った。

こうして、楽園生活の17日目が終わったのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ー生存者ー

 

【超高校級の講師】赤刎円

 

【超高校級のカウンセラー】安生心

 

【超高校級の香道家】聞谷香織

 

【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ

 

【超高校級の傭兵】枯罰環

 

【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカー

 

【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律

 

【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳

 

【超高校級のランナー】速水蘭華

 

ー以上9名ー

 

 

 

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