エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園 作:M.T.
楽園生活9日目、午後1時。
「ジョンくーん。ちょっといいかな?」
「マシロか。What up?」
「あのねー、お話があって来たの。」
「?」
「実はーーー」
ーーー
楽園生活18日目、階段前にて。
「あーあ、ジョンくんが急に襲ってくるからだよぉ。ボクは悪くないもんねー♪」
「ちょっと、何の騒ぎ…って、えっ!?ちょっ、ちょっと!!これ、どういう事…!?」
「ぐすっ、うえ〜ん、蘭華ちゃん!どうしよう!ボク、ジョンくんを殺しちゃったよぉ…」
「なっ…殺したって…それ本当!?」
「うん…いきなり襲われたから抵抗したら階段から転げ落ちて頭打っちゃったの…」
「え…」
「…ねえ、蘭華ちゃん。ボクのお願い、聞いてくれる?」
「お願い?何?」
「あのね…」
ーーー
VOTE
速水蘭華 7票
黒瀬ましろ 1票
『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の冒険家】ジョナサン・ウォーカークンを殺したのは【超高校級のランナー】速水蘭華サンでしたー!!オマエラ4連続正解なんてやるぅー!!』
「違う違う違う!!こんなつもりじゃなかった!!アタシはましろの隠蔽工作を手伝っただけだ!!」
「あーあ、まだ言うとんのか。ええ加減認めぇや。お前はそこのクソ女に騙されたんや。」
「うるせぇ!!アタシは犯人じゃない!!犯人はましろだ!!こんなの不正だ、間違ってる!!」
正直、犯人を特定できたのはいいものの全く状況を理解できない。
俺は、気になっている事をモノクマに聞く事にした。
「…なあ、モノクマ。」
『何ですか?』
「…ジョンは、どうして黒瀬に狙われなきゃいけなかったんだ?」
『それをボクに聞きますか。まあいいや、ご説明しましょう。まずね、オマエラの言う通りジョンクンは内通者だったんだよ。ちなみにジョンクンが内通者だったのは、オマエラが全員ホープステーションに集まる前から。探索中にジョンクンの家族と友達を人質に取ったってチャットと証拠写真を送ったらあっさり寝返ってくれたよ。3度目の殺人の時は、宝条サンを唆して大活躍してくれたっけ?』
「…。」
今更驚きはない。
むしろ、内通者と聞いてモノクマの手先だと想像していたが、ジョンは大切な人を守るために内通をしたんだと聞いて少し安心すらしている。
宝条と筆染が殺し合うように仕向けた事は許せない。
でも、それはジョンも望んでなかった事だったんだ。
やっぱりジョンは、根っからの裏切り者じゃなかった。
『えー、ここから先はボクの口から説明するのは色々とめんどくさいのでVTRを見ていただきます!それでは、VTRスタート!!』
モノクマがそう言ってリモコンのスイッチを押すと、ジョンと黒瀬の二人が映し出される。
「ジョンくーん。ちょっといいかな?」
「マシロか。What up?」
「あのねー、お話があって来たの。」
「?」
「実は、気付いちゃったんだ。キミが内通者だって事。」
黒瀬が首をクリンと傾げると、ジョンはとぼけたように笑う。
「Well…What are you saying?」
「ああ、別に無理して英語で話す事ないよ?キミの秘密を知ってるんだから。…キミさ、日本人でしょ?」
「!?」
「確かに人種的にはアメリカ人だけど、おとーさんとおかーさんが日本に滞在してた時に生まれたから日本国籍を持つ日本人として育てられたんだよね?ボクに送られた秘密にはそう書いてあるんだけど?内通者だってバレないようにするためにあえて国籍を隠して英語混じりの変な日本語使ってるんでしょ?」
黒瀬が見透かしたように言うと、ジョンは観念したかのようにため息をついた。
「…はぁ。モノクマの奴、よりによってコイツにオレの秘密を送りやがって…オマエ、オレの内通にはいつから気付いてたんだ?」
ジョンは、驚くほど流暢な日本語で話し始めた。
今までの喋り方も上手い方ではあったのだが、今のジョンの喋り方は完全に日本人のそれだった。
「疑い始めたのは1日目のミーティングが終わった後。今回の秘密で確信に変わったって感じかな。」
「…マジかよ。あーあ、うまくやってたと思ったんだがな。で?どうする気だ?みんなに言いふらすか?」
「まさかぁ。取り引きしに来たんだよ。」
「取り引きだと?」
「ボクはキミの秘密を誰にも言わないし、キミにボクの秘密を教えてあげる。キミの都合のいいようにうごいてあげるっていうオマケもつけていいよ。だから、クマちゃんからのメッセージを逐一ボクに報告してほしいの。」
「オレに二重スパイをやれと?」
「そういう事。」
「…それがバレたら、オレの人質はどうなると思う?」
「ふーん、乗り気じゃないっすか。…これを聞いても同じ事が言えるかな?」
黒瀬は、ジョンに何かを耳打ちした。
それを聞いた途端、ジョンの顔が青ざめていく。
「…わかった。オマエに協力する。」
「さすが、話が早くて助かるよ。あ、安心して?情報交換はクマちゃんにバレないように監視カメラが無いここでやるから。で、早速なんだけど、クマちゃんが送った全員の秘密と、それを誰に送ったのかを教えてもらえる?…知らされてるよね?」
『うぷぷぷぷ!ビックリだよね!まさかお調子者でおバカキャラのジョンクンが二重スパイだったなんてさ!』
「ああ、ちなみにボクが内通者だって自白したのは、本当は内通者を炙り出すためじゃなくてみんなの注意を逸らすためだったんだー。」
「そんな…協力者だったなら、何でジョンを殺したんだ!?」
「違うんだって。ボクは、初めからジョンくんを排除するつもりだったんだよ。だってボクはみんなの事が大好きなんだもん。みんなを裏切る子なんていらないよね?」
「ふざけんな…お前は、そんな理由でジョンを殺したのかよ!?」
「そんな理由って…円くんさぁ、ジョンくんがした事忘れちゃったの?ジョンくんは、ボク達を裏切ってボク達にコロシアイをさせようとしたんだよ?未来ちゃんも闘十郎くんも湊くんも帝くんもゆめちゃんも絵麻ちゃんも奉子ちゃんも、みーんなアイツのせいで死んだんだよ?現にボク、アイツに殺されかけたんだから。」
「えっ…?」
「ボクだって鬼じゃないからね。いきなり殺すなんて事はしないよ。ボクは、ジョンくんに言ったんだよ。せめて内通してる事だけでも正直に言えばって。それでジョンくんが心を入れ替えてみんなのために動いてくれるなら、ボクだって殺したりなんかしなかったよ。でもアイツはボクを殺そうとしてきたんだよ!?だから音響兵器で鼓膜を破って階段から突き落としたんだ!!むしろ感謝してほしいくらいだよ。ボクは、みんなのために身体を張って危険因子を排除したんだからさ。」
「そんな…待ってよ!!じゃあ、アタシに協力させたのは何だったんだよ!!?アタシは、アンタの言う事を聞けば絶対勝てるって言うから言う事聞いたんだ!!」
「えー、そんな事言ったっけ?」
「アンタ…まさかあの約束を忘れたとかいう気じゃないでしょうね!?」
「や、約束…?」
「何だ、どういう事だ?」
『うぷぷぷぷ、それについてもこちらの映像を見ていただきましょう!』
「あーあ、ジョンくんが急に襲ってくるからだよぉ。ボクは悪くないもんねー♪」
黒瀬は、鼓膜を破られて階段から突き落とされ気を失ったジョンを見下ろしてため息をついた。
すると、そこへ速水が駆けつける。
「ちょっと、何の騒ぎ…って、えっ!?ちょっ、ちょっと!!これ、どういう事…!?」
「ぐすっ、うえ〜ん、蘭華ちゃん!どうしよう!ボク、ジョンくんを殺しちゃったよぉ…」
「なっ…殺したって…それ本当!?」
「うん…いきなり襲われたから抵抗したら階段から転げ落ちて頭打っちゃったの…」
「え…」
「…ねえ、蘭華ちゃん。ボクのお願い、聞いてくれる?」
「お願い?何?」
「あのね…ジョンくんの頭をかち割ってほしいの。」
そう言って、黒瀬は消火器を速水に渡した。
「な…!?」
「ボクはジョンくんを殺しちゃったから、それがバレたらオシオキされちゃう。でもボクは死にたくない。だから、蘭華ちゃんに隠蔽工作を手伝ってほしいの。」
「ふ、ふざけんな!何でアタシがそんな事…」
「…キミさ。弟くんがいるんだよね?一番下の子はまだ幼稚園児なんだっけ?」
「な…何でそれを…!」
「内緒。でも、いいのかなぁ?颯くん、キミの帰りをずっと待ってるんじゃないの?お姉ちゃんと離れ離れになってかわいそうだよ。」
「うっ…」
「…お願い。ボクが勝ったら、一緒に脱出するもう一人にキミを選んであげるから。ね?」
「…くっ!!」
その言葉を聞いた速水は、躊躇なくジョンに消火器を振り下ろした。
共犯者になれば、裁判がどっちに転んでも生き残れる。
それは、速水にとっても魅力的な提案だった。
速水も、結局は外に出たかったんだ。
「さあ、頭を砕いたよ!!だからアタシを…」
「…ふふふふふっ。蘭華ちゃん。キミはホントに…」
「?」
「バカだよねぇ〜!!」
「………は?」
「共犯者は裁判がどっちに転んでも生き残れるんだよ?そんなおいしいポジションを易々譲るわけないじゃん。ボクね、ジョンくんを殺しちゃったって言ったけど、実はあの時ジョンくんは気を失ってるだけでまだ生きてたんだよね。要は、ジョンくんを殺したのは蘭華ちゃん、キミって事!」
「な…あ、アンタよくも騙したわね!?あ、アタシどうすりゃいいんだよ!?」
「心配しないで?ボクを選ぶって約束してくれるなら、裁判でキミが勝てるように動いてあげるから。」
「ふざけんな!!アンタだけは絶対選ばない!!」
「あっそ。じゃあ、この事をみんなに言いふらしちゃおっかな〜?」
「ッ…!!」
「そーそー、キミは頭が軽いんだから黙ってボクの言う事聞いてりゃいいの。とりあえず、ボクの指示した事は必ず実行する、それと裁判中はボロが出るから極力喋らない、この二つを守ってくれれば大丈夫だから。」
「…。」
「安心しなよ。ボクが必ずキミを勝たせてあげるから。」
「アタシは…ましろが絶対勝てるって言うから…!!」
「ふふふっ、何馬鹿な事言ってるの?キミを勝たせるわけないじゃん。ボクが100%生き残れる保証がないし、何より円くんが死んじゃうじゃない。」
「テメェ…!!元はと言えばテメェのせいじゃねぇか!!本来なら、アタシがアンタの立場にいるはずだったんだ!!アタシは、アンタの言う事を聞けば生き残れると思ったから言う事を聞いたんだ!!アタシは嵌められたんだよ!!」
「…まあ、これは速水に非があるなぁ。少なくともあの場で何もせぇへんかったら、ジョンが重傷負って終わりやったわけやろ?このクソ女が嘘吐きやとわかっとったのにホイホイ言うこと聞いたお前が悪い。」
「そういう事。蘭華ちゃ〜ん、キミみたいなおバカはね、利用されるためだけに存在してるんだよ。いい?一度しか言わないからよく聞いてね?騙される方が悪いんだよ。」
「テメェ…よくも…よくもよくもよくも!!ブッ殺してやる!!!」
速水は、血相を変えて黒瀬に襲いかかった。
「う゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「…。」
黒瀬は、涼しい顔で速水の拳を避けると、そのまま左足首を掴んで放り投げた。
「それっ」
「ぐぁっ…!!」
「キミ、足は速いけど瞬発力とか反射神経とかは大した事ないんだね。」
「くっ…!」
「ボク、可愛いからストーカーに付き纏われる事が多くてさ。その対策でちっちゃい頃から独学で身体鍛えてたんだよね。人は見かけによらないって言うでしょ?」
「おい、黒瀬…」
「ああ、心配しないで円くん。ボクだって流石にこの状況で殺すほどバカじゃないよ。…さ、クマちゃん。もう茶番にも飽きたし始めちゃってよ。」
『んあっ、やべっ。出番無さすぎて寝てた。それじゃあ、そろそろ景気良くヤっちゃいましょうか!』
モノクマの『ヤる』という言葉を聞いた瞬間、殺意で真っ赤になっていた速水の顔は一気に青ざめた。
「!?ま、待て!!アタシは犯人じゃない!!アタシは嵌められたんだよ、ましろに…このクソ女に騙されたんだ!!こんな裁判無効だ!!やり直せ!!」
「騙されたとかそういう問題じゃないよねぇ、実行犯さん?」
「うるせぇ黙れ!!クソッ、クソクソクソ!!何でこうなるんだよ!!アタシは悪くない!!全部このクソ女が悪いんだよ!!オシオキするならコイツをやれよ!!アタシは殺人なんてしてない!!コイツさえいなきゃ…コイツさえいなきゃ、ジョンは死ななかったんだぞ!!」
『えー、ちょっと何言ってんのかわかんないですね。』
「は!!?」
『だってキミさ、黒瀬サンに騙されてたとはいえ思いっきりジョンクンの頭かち割ったよね?形がなくなるまで、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も消火器を振り下ろしたよね?』
「っ…そ、それは…」
「うっ…!?」
「うげ…う、嘘でしょ!?どんな神経してたらそんな酷い事ができるの!?」
「あ、あの…ち、違うのみんな!だって、アタシはジョンが生きてるなんて思わなかったから…」
「死体だったとしても原型なくなるまで人の頭を消火器で殴るとか、どう考えてもまともな神経してる奴がする事じゃねぇだろ。」
「ッ…!!」
「同感や。同情の余地なんざあるわけないやろ。」
「あ、ああああ…」
『はいはい、それじゃあ仲間に見捨てられちゃった可哀想な速水サンには、ボクからとっておきのオシオキをプレゼントするよ。』
「は!?い、嫌だ!!こんなしょうもない死に方するなんて絶対嫌!!アタシ、まだやりたい事いっぱいあるのに!!こんな所で死にたくない!!誰か…誰か助けて!!助けてよ!!」
「「「…。」」」
「あ、あの…」
「速水さん…」
速水は、その場で泣き言を言いながら暴れ回った。
誰も、救いの手を差し伸べようとはしなかった。
聞谷や安生はまだ同情の目を向けていたが、枯罰、弦野、一に至っては完全に速水を見限っていた。
「速水…」
「円くん、まさかコイツを助けようなんて思ってないよね?コイツはジョンくんの頭をかち割って殺したんだよ?」
「っ…」
『さてさて、茶番に尺を取りすぎたし巻きでいくよ!』
「まっ、待ってくれモノクマ!!何も殺さなくても…!!」
『待ちません待てません待ちたくありませーん!それじゃ、とびきりエクストリームなヤツいっちゃいますか!』
「いやっ!!嘘でしょ!?なんでアタシがオシオキされなきゃいけないんだよ!!アタシは悪くない!!誰も殺してない!!」
「モノクマ、俺からも頼む!!やめてくれ!!」
『今回は、【超高校級のランナー】速水蘭華サンのために!!スペシャルな!!オシオキを!!ご用意しました!!!』
「クソッ、速水…!!」
「やだやだやだ!!死にたくない死にたくない死にたくないぃいいいいいい!!!」
『ではでは、オシオキターイム!!!』
「いやあぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
罪人の処刑を宣言するモノクマの声が響き渡ったかと思うと、今度は速水の悲痛な叫び声が裁判所全体に響いた。
モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。
ボタンに付いている画面に、ドット絵の速水をモノクマが連れ去る様子が映っていた。
ーーー
GAME OVER
ハヤミさんがクロにきまりました。
オシオキをかいしします。
ーーー
速水は、背後から伸びたアームのようなものに首を掴まれそのまま裁判所の外へと引きずっていった。
速水が連れて来られたのは、古代ギリシャをモチーフにした街だった。
速水はロープで身体を縛られ、その様子を王の格好をしたモノクマが高みの見物をしていた。
そこで画面上に文字が現れる。
ーーー
走れランナー
【超高校級のランナー】速水蘭華 処刑執行
ーーー
モノクマの横には速水の弟と思われる幼い少年3人がおり、家臣モノクマは3人の首に剣を突きつけていた。
その上には『時間内に走り切れなければ即処刑!!』と書かれていた。
顔を真っ青にし、ようやく状況を理解した速水はスタートラインに立たされる。
するとその直後ロープを解かれて靴を脱がされ、国王モノクマがマラソン開始の合図としてゴングを鳴らした。
ゴングの音と同時に、速水は走り出す。
速水は普通の選手ならすぐに体力切れになるであろう速度で走ったが、全く息を切らす様子はなかった。
舗装されていない砂利道を裸足で走っているので尖った砂利で足の裏に傷がつくが、それでも速水は懸命に走った。
スタート地点から数km走ったところで、少し寂れた村が見えて来た。
すると、村から村人モノクマと白いドレスに身を包んだモノクマが飛び出し、一斉に弓矢を構えた。
速水は無数の矢の雨を避けながら走るが、避けきれずに何本か矢を喰らってしまう。
太腿に矢を喰らった速水が倒れ込むと、今度は白いタキシードに身を包んだモノクマが指笛を鳴らした。
するとコース内に大量の羊が押し寄せ、羊の群れが速水を撥ね飛ばした。
吹っ飛ばされた速水の頭を牧師の格好をしたモノクマが聖書の角で殴り、白ドレスモノクマがバケツに入った汚水を速水に浴びせた。
汚水に塗れ満身創痍になった速水だが、弟達のために再び走り出した。
さらに数百m走ると、再び村が見えてきた。
すると今度は火炎放射器を持った村人モノクマが現れ、速水目掛けて炎を浴びせる。
速水は炎を避けながら走り続けるが、負傷し灼熱に晒され体力を奪われていく。
ようやく灼熱地獄を走り切ったかと思うと、今度は目の前に氾濫した川が見えた。
あまりの激しい水流に速水の足が竦むが、コースの続きは川の向こうにあるためどうあがいても川を渡らなければならなかった。
速水は、意を決して川に飛び込み必死に泳ぐ。
途中何度も激流に流されそうになるが、何とか川を渡り切り再び走り出した。
すると今度は前方から盗賊の格好をしたモノクマ3匹が現れ、持っていた武器で容赦なく速水を襲った。
速水は一発ずつ重い打撃を受けつつも力を振り絞ってモノクマを払い除け走り続けた。
すると今度は睡眠薬入りのスプレーをモノクマに浴びせられ、速水は眠くなってその場に膝をつく。
だが、速水は弟達のために無理矢理目を覚まし再び走り始めた。
コースの途中にあった岩の割れ目からは汚水が流れ出ており、速水は体力を回復させるために覚悟を決めて水を両手で掬って飲んだ。
吐き気を我慢し汚水で喉を潤すと、速水は再び走り始めた。
残り時間も少なくなり、速水は弟達を救うためにボロボロになった身体に鞭打ち必死に走った。
途中村人モノクマに鞭で叩かれたり野犬に噛まれたりしたが、それでも速水は走り続けた。
そして制限時間まで残り数分のところで、ようやくゴールの門の前に辿り着く。
速水は、フラフラになりつつも最期の力を振り絞ってゴールの門を開けた。
だがその直後、速水は絶望で顔をグシャグシャに歪めた。
コースはまだ走った距離の倍以上続いており、地面には大量の剣が敷き詰められ無数の罠が設置されていた。
地面に敷き詰められた剣を見て速水は完全に走る気力が失せ後退りしてしまう。
するとその直後タイムオーバーになり、後ろからモノクマが現れて勢いよく速水の背中を蹴飛ばした。
速水は蹴飛ばされた拍子に足元にあったワイヤーに足を引っ掻けてしまう。
すると巨大な錨が速水の身体めがけて振り下ろされ、速水の身体は真っ二つに切り裂かれた。
国王モノクマは、高笑いしながら席に設置されていたドクロマークが描かれたボタンを押した。
すると勢いよく速水の弟3人の頭が飛び、ビヨンビヨンと首に仕込まれたバネが跳ねた。
国王モノクマに人質に取られていた3人は、速水の弟そっくりの人形だった。
会場には、ただ国王モノクマの不気味な笑い声だけが鳴り響いていた。
『エクスクリーーーーーーート!!!』
「うわあああああああああああああ!!!」
「いやっ…いやっ!!もう嫌ですわこんなの!!」
「そんな…速水さんが…!」
「コイツ…どこまで腐ってんだ…!!」
「ホンマ毎回キッショい事しよって。」
「あーあ、蘭華ちゃん死んじゃったー。まあ、ボクがこうなるように仕向けたんだけどね。」
一と聞谷が泣き叫び、安生は顔を真っ青にして慄き弦野は怒りに打ち震えていた。
冷静だったのは枯罰と黒瀬だけだった。
『いやー、いいもの見れた。これだけ刺激的に散れば視聴率はバッチリだよね!あ、オマエラには正解のご褒美にメダルあげるからジャンジャン使っちゃってよね。』
「お前…よくも速水を!!絶対許さねぇ!!」
『ん?悪いのは速水サンだよね?』
「…確かに、速水さんはウォーカー君を殺してしまった。それはとっても悲しい事だよ。でも、何も殺す事はなかったんじゃないのかい?」
「そうだよ…アイツには、生きて罪を償ってほしかった!!何が視聴率だ、人の命を弄んで笑ってんじゃねぇよ変態野郎!!」
『えー、変態はオマエの方でしょ?これだけ裏切られてまだ全員を信じるとか、ドMなの?本当は欲求不満なんじゃないの?赤刎クンてばもしかしていじめられて興奮するタイプ?』
「黙れ!!」
「お前ホンマええ加減にせぇよ。ウチらを見せモンにして何がしたいんじゃボケ。」
『絶望だよ。』
「…は?」
『オマエラみたいな希望溢れる超高校級がコロシアイをするという絶望的シチュエーション!世界は今絶望を求めてるんだよ!!』
「意味がわかんないよ!!絶望!?ボク達はそんな事のためだけにコロシアイをさせられてるわけ!?」
すると、枯罰がモノクマを睨みつけて言った。
「お前…まさか【超高校級の絶望】か?」
「…え?」
そういえば、枯罰は俺に【超高校級の絶望】に気をつけろと言ってきた。
【超高校級の絶望】って何だ…?
枯罰は何を知ってるんだ?
『うぷぷぷぷ、さぁね。オマエラは知らなくていい事だよ。それじゃ、ボクはこの辺で。じゃ〜ね〜!』
「逃げんなコラァ!!!」
「無駄だよ、弦野君。」
「クソッ…!!アイツ、好き勝手言いやがって…」
「みんなー、早く戻ろうよ。ボクもう喉乾いちゃった。」
黒瀬が空気の読めない発言をすると、弦野は黒瀬を睨みつけた。
「ふざけんな、何でテメェは生きてんだよ!!」
「だってボクは実行犯じゃないからねぇ。この裁判で裁かれるのは実行犯だけ。残念ながらボクは犯人じゃないのでオシオキされませーん。」
「チッ…!!」
「てゆーかさ、ボクが吊られそうになった時、律君ドヤ顔で『やっぱりテメェだったか』的な事言ってたよね?間違えてるのに自信満々に言うもんだから笑い堪えるの必死だったよ。滑りまくりの迷推理ご苦労様♪」
「コイツ…!!」
そうだ。
俺は、俺達は、ずっと黒瀬に騙されていた。
俺も、時計を狂わせたトリックを見破った時は完全に黒瀬が犯人だと思い込んでいた。
枯罰が特別ルールの事を言ってくれなければ、今頃処刑されていたのは俺達の方だったんだ。
「そんなことよりさ、ボクはみんなのために内通者を消したんだよ?偉いでしょ?」
「その内通者に加担してただろが!!」
「だからそれは内通者を消すためにわざとやったんだって。ジョンくんてば、ちょっと秘密をチラつかせただけでみんなの秘密とかクマちゃんからの指示とか全部話しちゃうんだもん。ホント、扱いやすくて可愛いカモだったよ。」
「…。」
俺は、コイツを許さない。
でも、それ以上に引っかかっている事があった。
俺は、黒瀬への怒りを抑えつつ尋ねた。
「…黒瀬。お前は一体何が目的なんだ?内通者を排除して、俺達を騙して、お前は一体何がしたいんだ?」
「目的?目的、ねぇ…強いて言うなら、みんなと仲良くここで暮らす事、かな?」
「…は?」
「言ったでしょ?ボクにとって、嘘は愛なんだよ?ボクが嘘をつくのは、みんなの事が大好きだからなんだよ。」
「イカれてやがる…」
「爆弾魔と内通者が死んだかと思えば、まさか一番ヤバいのがまだ残っとったとはなぁ。」
「いやいや、お金を積まれれば何百人でも殺す環ちゃんには敵わないって♪」
「…。」
枯罰は、それを聞いて静かに黒瀬を睨んだ。
「はぁ、わかったよ。今回はボクが悪者っぽいし、大人しく退いてあげるよ。じゃあね。」
黒瀬は、そう言って一人でエレベーターに乗り込んで部屋に戻って行ってしまった。
裁判所に取り残された俺は、黒瀬の背中を黙って見る事しか出来なかった。
…俺が甘かった。
黒瀬は、殺人鬼で嘘つきというだけで特に俺達に危害を加えるような事はしないと思っていた。
でも今回は、明らかに悪意を持ってジョンを排除した。
黒瀬は、俺が何とかしないと…
Chapter4.後ろの正面だあれ? ー完ー
《アイテムを入手した!》
『ランニングシューズ』
Chapter4クリアの証。
速水の遺品。
走る時は必ずお気に入りのランニングシューズを履いていた。
純粋な少女が大地を駆け抜けた証。
ー生存者ー
【超高校級の講師】赤刎円
【超高校級のカウンセラー】安生心
【超高校級の香道家】聞谷香織
【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ
【超高校級の傭兵】枯罰環
【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律
【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳
ー以上7名ー
4章はこれにて終了。