エデンズダンガンロンパ 希望の生徒と絶望の楽園 作:M.T.
許してクレメンス
まあでも他の作者さんもっと投稿期間長い人いるからこれくらい平気だよね(逃避
楽園生活22日目。
『おはようございます、オマエラ!!朝です!!7時になりました!!今日も元気に殺し合いましょう!!』
今日もまた、モノクマの耳障りなモーニングコールで起こされた。
俺は、朝の準備を済ませて8時に間に合うように食堂に向かった。
◇◇◇
食堂には既に安生と聞谷が来ていた。
「おはよう、二人とも。」
「おはよう、赤刎君。」
「ごきげんよう。」
俺が挨拶をすると、二人は挨拶を返してくれた。
すると、集合時間1分前に一が来た。
時間ちょうどに、枯罰と弦野が作った朝食を運んでくれた。
…ダメだ、やっぱり枯罰の格好にはまだ慣れん。
すると、だいぶ遅れて黒瀬も来た。
俺達は、黒瀬の相変わらずの空気の読めない言動に呆れさせられつつも朝食を摂った。
朝食の後は軽めのミーティングを済ませ、その後は各自自由行動の時間となった。
まずはどこに行こうか?
…そうだ、まだ探索中に手に入れたメダルが残ってるしガチャでも引こうかな。
◇◇◇
俺は、プレイルームに向かった。
拾ったメダルを使ってガチャを引くと、モノクマのぬいぐるみが出てきた。
うげっ。
モノクマの奴、マシーンに汚物なんか入れやがって。
こんなもん、焼却炉にブチ込んでやる。
俺がマシーンから出てきた汚物に腹を立てていた、その時だった。
「円くーん、何してるの-?」
突然、黒瀬の奴が話しかけてきた。
「…見てわからないか?ガチャを引いてたんだよ。」
「ふーん…あ、円くんクマちゃんのぬいぐるみ当てたんだねー。」
「えっ?」
「いいなー。ボク、それ欲しいなー。」
「…。」
…マジかよ。
こんな汚物を好き好んで欲しがる奴がいたとは。
「…良かったらやるけど?」
「え、いいのぉ?」
「俺はこんなもんいらねぇしな。お前が欲しいならやるよ。」
「わーい、ありがとー♪えへへー、嬉しいなぁ。」
「…。」
うわ…
コイツ、汚物を抱いて喜んでるよ。
「んぇ、円くんどーしたの?」
「…何でもない。」
「ふーん。…あ、そーだ円くん。一緒にお話しようよ。」
「話?」
「ん、プレゼントのお礼ー。何ならボクの過去とか秘密とか色々教えてあげてもいいよー。」
謎だらけだった黒瀬が、自分から話す気になった…
何考えてるのかわからんが、話をしてくれるって言うなら聞いてみてもいいかもしれないな。
俺は、黒瀬と過ごす事にした。
黒瀬が俺を研究室に案内してくれる事になったので、俺は黒瀬について行った。
◇◇◇
黒瀬は、研究室に着くとお気に入りのモノモノジュースを振る舞ってくれた。
このジュース、不味そうな見た目してるけど意外と美味いんだよな。
「ねー、何から聞く?」
「そうだな…じゃあ黒瀬、お前は何で【超高校級の脚本家】になったんだ?」
「んーっとねー、ボクは孤児院で育ったんだけどねー、ちっちゃい頃はお兄ちゃんとかお姉ちゃんに読み聞かせしてもらってたんだー。」
黒瀬も孤児院育ちだったのか。
何か急に親近感が湧いてきたぞ。
「読み聞かせしてもらってたらねー、ボクもこんな風に人を笑顔にするようなお話を作りたいって思うようになったんだぁ。それで、【超高校級の脚本家】になったってわけ。」
「…。」
相変わらずふわふわしてるなぁ。
…でも、殺人鬼が人を笑顔にする話を作るなんて、ちょっと矛盾してないか?
「…なあ、黒瀬。」
「なぁに?」
俺は、思い切って気になっている事を黒瀬に聞いてみる事にした。
「…お前は、どうして人を殺すんだ?」
すると、黒瀬はニンマリと笑って返した。
「人ってさぁ、何でも夢中になっちゃうものってあるよね?お酒とかタバコとかギャンブルとかゲームとか、最近じゃSNSとかもそうかな?生きていく上で必要ないものなのに、なんでみんなどっぷりハマっちゃうと思う?」
「…さあ?」
「刺激が欲しいからだよ。人ってさ、悪い事だってわかってても刺激を求めちゃう生き物なんだよね。ボクは、その究極は人が人を殺す事だと思うの。みんな法律や良心が邪魔してその欲求が表に出てこないけど、人って人を殺したら絶対ハマると思うんだよねぇ。ボクは、みんなを楽しませてあげるためにそういう脚本を書く事にしたんだけどね。やっぱり普通に書くだけじゃつまんないと思ってー、より現実味を出すために人を殺して研究するようになったってわけ。」
「…。」
話を聞いていてわかった。
やっぱり、コイツはヤバい奴だ。
何が一番ヤバいかって、本気でみんなのためにやっている事だって思っているところだ。
最初はただちょっと抜けててマイペースな所があるだけの普通の女の子だと思ってたのに、まさか殺人鬼でコロシアイを引っ掻き回すトリックスターだったとは思いもしなかったもんなぁ。
「…孤児院の兄弟達は、その事を知ってるのか?」
「知ってるわけないよー。ボクは8年くらい前に里親が見つかって出てったし、みんなの前ではいい子だったからねー。ちなみに、里親はボクが殺したんだー。殺人鬼だって知ったらビックリしてたよ。にゃはは。」
黒瀬はケラケラと笑いながら話しているが、全然笑い事じゃないと思うぞ。
…ん?
8年前、孤児院、連続殺人…
何かどこかで聞いたフレーズだな。
…いや、まさかな。
「円くーん、どぉしたの?」
「…いや、何でもない。そうだ、別の話をしよう。黒瀬、お前は外に出たらまず何がしたいんだ?」
「んー、色々あるけど…やっぱりまずは新しい脚本書かないとね。みんなボクの新作待ってるし。今回は、そうだなぁ…あ!ここで起こった事件を参考にミステリー書こーっと!あ、映画ができたらみんなで見にいこうねー。」
黒瀬は猫耳をピコピコさせて喜んでいるが、俺は怒りで震えている。
今まで死んでいったみんなへの冒涜のように感じられたからだ。
俺は、これ以上話を続けられるのも不愉快だったので、黒瀬の話を遮って質問した。
「…他には無いのか?」
「他ぁ?んー…そぉだなぁ、強いて言うならスタッフさんに会いたいかなー。」
「ああ、お前と仲がいいっていうスタッフさんか。確かお前のシチュー食って入院したとかいう…」
「そぉだよ?スタッフさんはねー、ボクと一緒に住んでるんだけどねー、ちょっとストーカーじみてるところはあるけどとってもいい人なんだよー。おなかすいたーって言ったらご飯作ってくれるし、遊びたいーって言ったらどんなに忙しくても休み取ってデートとか連れてってくれるんだよー。あとねー、何か面白い事してーって言ったら頑張ってボクを笑わせようとしてくれるのが可愛いんだよねー。」
「そ、そうなのか…」
面白い事しろって…それ、無茶振りって言うんだぞ黒瀬。
それを要求する黒瀬も鬼畜だけど、それに頑張って応えようとするスタッフさんすごいな…
話聞いてる限りだと流されやすい人っぽいし、【超高校級の脚本家】というだけあって黒瀬の方がバリバリ稼いでるだろうから逆らえないだけって線も考えられなくはないけど。
「そこまでお前に尽くしてくれる人がいたとはな。その人の事、好きなのか?」
「うん、大好きだよぉ〜。ボクと話が合うのってスタッフさんくらいだし、すっごく優しくしてくれるんだよー。」
「…えっ?」
「あれ、言ってなかったっけ?ボクね、スタッフさんと毎晩愛し合ってたんだよ?」
「はぁ!?んだよそれ!!聞いてねぇぞ!?」
「ここだけの話、愛し合いすぎてできちゃった事あるんだよね。…まあ、すぐ流れちゃったんだけど。」
いきなりそんな爆弾発言されても!!
こっちは心の準備ができてないんだっての!!
つーかスタッフ!!
お前しれっと何やってんだ!!
「ふふふ、驚いてますなぁ♪ボク、こう見えて色々と経験豊富なんだぞー?」
…マジで下手に聞き返すんじゃなかったよ。
俺が呆気に取られている中、黒瀬は平然とジュースを啜っていた。
「ボクねー、ここから出たらスタッフさんに会いに行くんだー。あの人寂しがり屋さんだから、今も多分24時間SNS監視したり知り合いに声かけて情報集めたりしてボクの事必死に探してると思うんだよね。この前なんかボクをストーカーしてる人の家に殴り込んで地の果てまで追いかけ回してたし、スタッフさんって普段大人しいけどボクの事になったら行動力の鬼だからねー。」
「…あのさ。こういう事聞くのはアレかもしれないけど、その人はその…お前の本性を知ってるのか?」
「知ってるよー。ってゆーかむしろ、ボクが人をいっぱい殺してるって知っててボクを好きになってくれたとこあるから。」
「…。」
類友ってヤツか。
大人しくていい人そうだと思ってたけど、犯罪者だし頭おかしいし、そもそも未成年に手を出してる時点でまともじゃないし、やっぱ黒瀬の彼氏ってだけあって相当ヤバい奴だよ。
「それじゃー、ボクの話は大体終わったしこれくらいでお開きにしますかー。」
「…そうだな。ありがとな、黒瀬。色々と話してくれて。」
「いえいえー。」
俺は、聞きたい事は聞き終わったので黒瀬の研究室から出て行く事にした。
「…あっ。」
すると、去り際に黒瀬が俺の腕を掴んで止めた。
「どうした?」
「これあげるー。」
そう言って、黒瀬は俺にUSBを渡してきた。
「?どうしたんだ、これ。」
「さぁね。中身は脱出してから見てね。」
「脱出してからって…だったら、今俺に渡す必要ないだろ。」
「いいから持っててよ。面白いもの見られるからさ。」
「…。」
俺は、黒瀬のわけのわからない行動に首を傾げつつUSBを受け取った。
これを後で見ろって…どういう事だ?
コイツ、一体何考えてるんだ?
俺は、黒瀬の発言にモヤモヤしつつも研究室を後にした。
《黒瀬ましろとの親密度が上がった!》
◇◇◇
黒瀬と話した後は、昼食の時間になった。
俺達は、枯罰と弦野が作ってくれた昼食を食べた。
昼食の後は自由時間になったので、何をしようかと考えていた、その時だった。
「なあ、ちょっとええか?」
「?」
突然、枯罰に声をかけられた。
正直、この格好の枯罰はまだ慣れていないので話しかけられただけでキョドってしまう。
「ど、どうしたんだ?」
「…昨日、プレゼントくれたやろ?その礼がまだ出来てへんやんか。」
「え、いや、別にいいよ。俺、別に見返りが欲しくてプレゼントしたわけじゃないし…」
「…ん。」
枯罰は、少し恥ずかしそうに俺に赤ペンを握らせてきた。
「…え?」
「お前、ペンとか使うやろ?」
「いや、でも…いいの?」
「ええから受け取りぃや。ガチャで手に入れてん。使い道に困っとったさかい、お前が使った方がええんとちゃうかな思っとんねん。」
「あ、ありがとう…」
まあ、使い道に困ってるなら受け取ろうかな。
ちょうど欲しかったところだし。
「いやー、でも何か悪いな。何か礼を…」
「別にええよ。ウチもこの前プレゼントもろたしな。お互い様や。」
「そ、そっか…」
まあ、言い出したらキリないしな。
「礼なら、お前の話聞くだけでええよ。お前もこの前ウチの話聞いてくれたやろ?」
「…わかった。じゃあ、俺の研究室に来いよ。」
俺は、枯罰を研究室へ連れて行った。
この時間は、枯罰と過ごす事にした。
◇◇◇
俺は、枯罰を席に座らせた。
この前、人から出されたものを飲み食いするのは抵抗があると言っていたので、今回は何も出さなかった。
「散らかってる所で悪いな。まあ適当に座ってくれよ。」
「別に気にしてへんよ。」
枯罰は、全く気にしない様子だった。
…しかし、実際話そうと思うと話題に困るな。
今の姿の枯罰の前だと緊張しちまって会話が見つからねぇ…
「えっと…何から話そうか?」
「ほな聞くけど、お前は何で【超高校級の講師】になったん?」
何で、か…
改めて聞かれると、考えた事なかったな。
何て答えよっかな…
とりあえず、俺は才能に関わる経歴を事細かに話す事にした。
「えっと…俺、孤児院で育ったんだけどさ、孤児院では年長者が年少者の面倒を見るルールになってたから、俺も小さい兄弟達の世話とかやってたんだ。俺はたまたま孤児院の中では一番勉強ができたから、みんなに勉強を教えてたんだよな。小学生の時は名門大学の入試問題集を絵本代わりにしてたくらいだから、上の兄弟達にも勉強面で頼られてさ。それで勉強を教えてるうちにいつの間にか楽しくなっちまって、孤児院の兄弟達だけじゃなくてクラスのみんなにも勉強教えたりするようになったんだ。」
「ほーん。」
「それで、俺の噂を聞いたっていう小さい塾の先生がさ、俺に講師のアルバイトに来てくれないかって頼んできたんだよな。話を聞いてるとその先生、塾の経営が難しい状況で家族に十分食べさせるだけのお金も入ってこないらしくてさ。俺が力になれるならって思ってアルバイトに行く事にしたんだよ。そしたらその日から入塾希望の学生が続出して、いつの間にか県内でも有名な名門塾になったんだ。その功績が認められて【超高校級の講師】としてスカウトされる事になったんだよ。」
「なるほどなぁ。」
「えっと…他に何か聞きたい事あるか?」
「せやなぁ…ほな聞くけど、お前札木と仲良かったやろ?どこでどうやって知り合ったん?」
「…。」
札木の事を聞かれた俺は、一瞬固まった。
札木は、こんな状況でもいつも俺の事を第一に考えてくれてた。
それなのに、俺はアイツに何もしてやれなかった。
アイツが本当に苦しんでる時、寄り添ってやれなかった。
…アイツは最期、どんな気持ちで死んでいったのかな。
俺は、話すのを躊躇いつつもゆっくりと話し始めた。
「………札木とは、高校のクラスメイトだったんだ。高校の入学式当日、アイツと一緒に学校に向かってたアイツの姉さんが体調不良で倒れちまってよ。俺は入学式そっちのけで救急車を呼んで一緒に病院までついて行ったんだ。そんなわけで結局入学式には参加できなかったけど、アイツとはそんな事があって仲良くなったんだよな。でもそれ以外はあんまり接点無かったし、こんな所で一緒になるとは思わなかったけどな。…でも、何で急に札木の話を?」
「…いや、お前と仲ええ言うてたからちぃと気になっとっただけや。」
「…。」
そっか、そういや枯罰は一緒に飯作ったり一緒に倉庫の点検してたりしてたから案外アイツとは接点多いんだよな。
二人とも普段は物静かだし頭良いし、案外気が合ってたのかもしれないな。
枯罰も、札木が殺された事は悔しかったのかな。
だからアイツを殺した武本にあんなに激昂してたのか?
「他に何か聞きたい事あるか?」
「…最後にひとつええか?」
「何だ?」
「…孤児院はどうなん?」
「え?」
枯罰は、突然変な質問をしてきた。
俺に質問してくる枯罰の目つきは、明らかにおかしかった。
まるで、何かを疑っているかのような目つきだったのだ。
「孤児院での生活はどうなん?お前、18にもなってまだ里親が見つかってへんねやろ?」
「…ああ。他の奴等は大体10歳になる前に里親が見つかるのに、俺だけは何故かまだ里親が見つからないんだよな。…まあ高校卒業するまでに里親が見つからなかったら出て行く決まりだし、俺もそろそろ出て行って一人暮らし始めなきゃならねぇんだけどな。でも、孤児院での生活も楽しいぞ?弟妹達は俺に懐いてくるし、シスターも優しいしな。」
すると、枯罰はさらに変な質問をしてきた。
「何でお前だけ里親が見つからへんのか、ホンマに心当たりあらへんのか?」
「わかんないなぁ。もう10歳過ぎちまったし、単純に引き取りたい人がいないんじゃないのか?やっぱり、小さい子の方がいいって人は多いみたいだし。でも、シスターは俺の事を頼りにしてるって言ってるし、正直俺は別に引き取られなくてもいいと思ってるんだよな。親がいなくても一人で食っていけるアテはあるし。」
「…お前、貰われていった奴等とは今でも連絡取り合ったりしとるんか?」
「いや、向こうには向こうの事情があるだろうし、みんな連絡取ってないぞ?でも定期的に出て行ったみんなからお土産が贈られてくるし、多分みんな元気にやってるとは思う。別にそこまでおかしな事じゃないだろ?」
枯罰の奴、何でさっきから変な事を聞いてくるんだ?
普通の家庭で生まれ育った奴からしてみれば孤児院育ちは珍しいのかもしれないけど、俺にとって孤児院での暮らしは当たり前の事だし、枯罰も里親に育てられた身なら少なからず共感できる部分とかあると思ったんだがな。
すると、枯罰は少し考え込んだ後ふぅとため息をついて立ち上がった。
「…まあ、確かになぁ。人の家庭事情に首突っ込むんはちぃと野暮やったかもなぁ。悪い、変な事聞いてもうた。」
「いや、別にそれはいいけどよ。」
「ほな、もう話は済んだしウチは行くわ。色々話聞かせてもろたな。」
「おう。またいつでも話そうぜ。」
枯罰は、軽く手を振って研究室を後にした。
…俺の話をした事で、何だかまたアイツと仲良くなれた気がする。
俺は、俺達は、絶望になんか負けない。
そう強く心に誓った。
◇◇◇
枯罰との話が終わった後、俺は適当に時間を潰した。
散策をしたり、図書館の本や研究室の参考書などを読み漁ったりしていた。
その後、ちょうど18時になったので俺は食堂に向かった。
枯罰と弦野が作ってくれた夕食を摂った。
食事中、たまには男子4人で一緒に温泉に入らないかという話になったので、俺も行く事にした。
その後は軽めのミーティングを済ませ再び自由時間になったので、俺は温泉に向かった。
「なんか、黒瀬や枯罰と一緒に話したから楽しかったけどちょっと疲れたな。温泉でまったりするか。」
俺が男湯に入ると、安生と弦野と一がいた。
「あ、赤刎君。来てくれたんだね。」
「当たり前だろ。せっかくみんなで行こうって話になってたんだし、行くに決まってんじゃねーか。…あれ?安生は入らないのか?」
「あ、うん。僕、こんな身体だから無理に入ったらみんなに気を遣わせちゃうかなって思って。僕は雰囲気を楽しめれば十分だよ。」
何だよ、少なくとも俺は全然そんな事気にしないんだけどな。
そういえばこの前の温泉も同じような理由で断られたし、プールも何だかんだで見学だったっけか。
…まあ、本人がいいって言うなら無理して入らせる事もないかな。
「そっか。…ところで、お前風呂にもその眼鏡していくのか?」
「ああ、実は物理室からこの一度拭けば24時間汚れず曇らないレンズクロスを拝借してきたんだ。これで曇るのを気にせずに入れるよ。」
「お、おう…」
さすが安生…
こういう時も抜かりないな。
「それじゃ、行こっか。」
俺達は、みんなで温泉に入った。
「へー、こういうとこ初めて来るけどこんな風になってたのか。」
「「「えっ?」」」
「えっ?」
弦野がサラッと放った言葉に、俺達3人は固まる。
「弦野君…もしかして、温泉とか行った事無いの?」
「ねぇな。つーか行く機会が無かった。ずっと親に縛られっぱなしだったし。」
「あれ、ここの大浴場にも今まで行った事なかったのかい?結構前に開放されてたと思うんだけど…」
「何か、一人だと行きづらくてずっと行ってなかったんだよ。行ったのは捜査で脱衣所を調べた時くらいだし。」
「そ、そっか…」
マジかよ…
そこまでお坊っちゃまだったとは。
恐れ入ったわ。
「…何だよ。」
「ああ、いや…何だお前、こういう所初めてだったのか。よし、じゃあ露天風呂行こうぜ!」
「赤刎君、まずは身体洗わないと…」
「あ、そうだった。すまん。」
やっぱりマナーは忘れちゃいけないよな。
いかんいかん…
これでよしっと。
「よし、それじゃ行こうぜ!」
「お、おう…」
俺達は、慣れていない様子の弦野を連れて露天風呂に向かった。
露天風呂は相変わらず温泉の香りがする湯気が立っていて、満天の星が輝く夜空を一望できるようになっていた。
「どうだ弦野、たまにはこういうのもいいだろ?」
「…実家の風呂と同じくらいの広さだな。」
「「「…。」」」
弦野が何気なく呟いた一言で、場の空気が一気に冷めた。
それを本人もすぐに察したのか、気まずそうに謝ってきた。
「…あ。悪い…」
「え、何この全部台無しにされた感…」
「いや、多分弦野君悪気は無いんだと思うよ?うん。」
「と、とりあえず入ろうぜ。このまま突っ立ってるのも何だしさ。」
安生を除く俺達3人は、ゆっくりと湯に浸かった。
「はぁ〜…」
やっぱり露天風呂は気持ちいいな。
ここ最近殺伐とした空気が続いててあんまり気軽にみんなを誘える感じじゃなかったし、こうしてみんなと一緒に入るのは久しぶりだ。
すると、唐突に弦野が一に声をかけた。
「…なあ、一。」
「何?」
「………あのさ、今更だけど…その、ごめん…仕田原の事…」
「…仕方ないよ。筆染さんがあんな事になっちゃったんだもん。もしあの二人の立場が逆だったら、ボクも君と同じように怒ってたと思うから…」
「…。」
「ボクの方こそ、色々ごめん…」
あの二人、まだ気にしてたんだな。
…いや、それが普通なのかもしれないな。
二人とも好きだった子が殺されたんだ、その傷はそんな簡単に癒えるもんじゃない。
それでも二人共、筆染や仕田原の死を乗り越えて前に進もうとしているんだ。
俺も、みんなの死を乗り越えて前に進んでいかないと。
「…弦野、一、安生。俺、ここでお前らと会えて良かったよ。聞谷も枯罰も黒瀬も、今度こそみんなで一緒に脱出しような。」
「何言ってんだよ、んなの当たり前じゃねぇか。」
「うん。僕達は、モノクマに負けたりしない。」
「…あ、でも黒瀬も一緒に連れてくのはなー…」
「同感。黒瀬さんは…ちょっとね。」
「二人とも、黒瀬さんだって僕達の大事な仲間なんだよ。」
「そうだ。確かにアイツがやってきた事は到底許される事じゃないけど、アイツだけ仲間外れにするなんてダメだ。」
「「…。」」
あー、二人とも黙っちゃったよ。
そりゃ、二人とも黒瀬の事嫌いだから仕方ないのか…
「チッ、お前らが言うなら…それでいい。」
「うん…黒瀬さんも、大人しくしてる分にはちょっとふわふわしてる子ってだけだもんね。」
あれっ?
二人とも、もっと色々言うと思ってたんだけどな。
弦野は黒瀬に対する風当たり強かったし、一も黒瀬にビビりまくってたしな。
二人とも成長したって事なのかな?
4人で話をしていて少し上せてきたので上がろうとした、その時だった。
「環ちゃーん、見て見てー。泡でもこもこにしてみたのー。」
「はぁ!?何しとんねんお前コラァ!!次使う奴の事考えんかいド阿呆!!」
「えー、じゃあおっぱい揉み合いっこしよーよぉ。」
「じゃあって何やねん!お前ホンマにしばくぞ!?」
「うふふ、お二人とも仲がよろしいんですのね。」
「えへへー。そぉだよ?ボクと環ちゃんは仲よ…
「仲良うないわ!!どこをどう見たらそうなんねん!!」
「…。」
うん、やっぱり何度聞いても女子の声が聞こえる。
仕切りで仕切られてるだけだから、結構こっち側にも声響くんだよなぁ。
俺は、安生に聞こえないように二人に話しかけた。
安生はこういうの絶対許さない奴だから、聞かれたらマズい…
「…なぁ、二人とも。」
「ん?どうした赤刎。」
「何か聞こえないか?」
「ああ、女子の声が聞こえるけど…」
「女子のみんなも一緒に入ってたんだね。…それがどうしたんだよ?」
俺は、ニヤニヤしながら仕切りを指差し、指で作った輪を除いた。
「…は?お前、何考えてんの?」
「赤刎君、最低…」
「は!?え、ちょっ…おい弦野!お前、興味ねぇの!?」
「いや…普通そんな事しないだろ。人として。」
ぐ…
この野郎、こういう時だけ常識人ぶりやがって…
「一、一は一緒に行くよな?」
「え、えーっと僕は…し、仕田原さん一筋なんで…」
「ふーん、いいんだな?女子みんなのあんな所やこんな所が見られなくて…」
「う、ううう…」
俺が一を仲間に引き込もうとしていた、その時だった。
「…赤刎君。何をしようとしていたのかな?」
うおっ!!?
あ、安生!?
おまっ…そんなゴミを見るような目で見る事ないだろ!!
「あ、いや…ちょっとお話を…」
「ふーん………」
いや怖い怖い怖い!!
頼むから無言の圧力かけるのやめてくれ!!
もうしないから!!
「おいドチビ、お前何考えとんねん。しばくぞコラ。」
「へー、円くんってばボク達の事覗こうとしてたんだぁ〜。」
ギクッ…
まさか女子達にもバレてたとは…
「…赤刎さん、最低ですわね。」
うわ、聞谷が一番怒ってるよ!!
何か仕切り越しでもヤバいオーラ感じるんですけど!!
え、聞谷って怒るとこんな怖かったっけ!?
…ヤベェ、よりによって安生と聞谷と枯罰を怒らせちまったよ。
コイツら怒るとメチャクチャ怖えんだよな…
俺は、その後安生と枯罰に説教され聞谷に至っては目も合わせてくれなかった。
どうやら本気で怒ってるらしい。
…まあ、100%俺が悪いんだけどさ。
その後は流れ解散となったので、俺は絞られて憂鬱な気分で部屋に戻っていった。
こうして、楽園生活の22日目が終わったのだった。
ー生存者ー
【超高校級の講師】赤刎円
【超高校級のカウンセラー】安生心
【超高校級の香道家】聞谷香織
【超高校級の脚本家】黒瀬ましろ
【超高校級の傭兵】枯罰環
【超高校級のヴァイオリニスト】弦野律
【超高校級のソフトウェア開発者】一千歳
ー以上7名ー