メジロの名に相応しいウマ娘にするということ 作:akatsuki4612
「疲れた」
自分の机でうつ伏せになりながらひっそりと呟く。
この間まで専属のウマ娘を心身ともに必死で育成をし、念願のうまぴょいを達成することができた。
その時はすごく嬉しかったし何ならその場で彼女と一緒に泣いてしまった。後から思い返すと人前で泣いてしまったことに少し羞恥心を覚えたが。
いやまあ、それは置いといて。それで彼女と一緒に残した戦績のおかげで僕は優秀なトレーナーとメディアには書かれてしまったため、プレッシャーというか、正直辛い
そして次に担当するウマ娘を決めないといけないため、彼女たちの特徴や性格がまとめてある志望書を見ている
ぶっちゃけトレーナー辞めたい。彼女だけでも相当心身に来たのにこれ以上増やされたら大変なことになってしまう。
でも理事長やたづなさんに話してもやめさせてくれなさそうだし、トレーナーってやっぱつれぇわ……
気分転換のために部屋から出て、自販機でコーヒーを買って椅子に座る
コーヒーの苦みが心を落ち着かせてくれる。
「トレーナーさん、お隣よろしいですか?」
うなだれていると、自分に声がかかるので顔を上げると自身の担当ウマ娘であるメジロマックイーンが立っていた
「あぁ、いいよ」
僕がそう言うとマックイーンはちょこんと隣に座る
「別に許可なんかとらなくてもいいのに」
「どんな時でも礼儀はしっかりとしませんと」
「さすがメジロ家の令嬢だね。僕には到底無理だよ」
「もし必要になったら私が教えてあげますので心配いりませんわ」
自虐気味に呟くとマックイーンがフォローしてくれる。やっぱいいウマ娘だわ……心に沁みる
「それにしてもトレーナーさん、貴方ちゃんとご飯は食べてますの?」
「しっかり食べてるよ。栄養ゼリーを毎日三食」
「それは食べたとは言いませんわ! ゼリーだけではダメですのよ!いいですか、食事というのは……」
僕がそういうとマックイーンが形相を変えて僕に食事について説いていく。しまったな、こんなことになるんだったら嘘つけばよかった。
話し始めて何分経ったのだろうか。気付けば休憩しにきたウマ娘たちがいなくなっていた。
「---------というわけで食事がいかに大切か分かりましたか?」
「あ、あぁ……よくわかったよ」
まさかマックイーンがここまで食事にうるさいとは……あれか?普段食べたいものを我慢しているからこそなのか?
「ほんとですの?……まあいいですわ、次はないですから気を付けてくださいまし」
疑うような目で見られるも、諦めてくれたのか注意するだけで終わる。このままいると次は何を言われるかわからないから退散しよう
「そ、そろそろ僕は仕事に戻らないとな」
「あら、なら私もトレーナーさんの部屋についていきましょうか。そのほうが練習の打合せもしやすいでしょうし」
「そ、そうかな? あっでもマックイーンは課題があるんじゃないの?」
「貴方の部屋でやればいいじゃありませんの」
うぐ……確かにそうだが、今部屋を見られると机の上にたくさんのエナジードリンクが……
「もしかして……貴方、また寝てませんの?」
「そ、そそそそんなことないよ」
冷や汗を流しながらそう言って誤魔化す
「そうですか……目元に隈がありますわよ?」
「嘘っ!?今朝確認したのに!」
「嘘ですわ。私は次はないとさっき言ったばかりだというのに……」
マックイーンは笑みを浮かべながらこちらを見ている
「は、謀ったなマックイーン!?」
「騙されるあなたが悪いんですの」
そんなやり取りをしている内に仕事部屋まで戻ってくる
マックイーンは扉を開けて中を確認すると、こちらへと振り向いた
「何日目ですの? 2日? 3日?」
「よ、4日目……」
マックイーンの言葉に圧を感じ思わず口を滑らせてしまう
「ふふ、4日も睡眠をとっていないんですのね」
マックイーンはソファに座るとこっちにこいと手招きをする。逆らうのも怖いのでおとなしくマックイーンのもとへ向かう
「1、2時間程度仮眠を取りましょう。さ、頭をこちらに」
そういってぽんぽんと膝をたたくマックイーン。いやいやちょっと待って、それは流石に恥ずかしいというかまずいというか……
「あの、マックイーンさん……仮眠はするにしてもなんで膝枕?」
「それは勿論、貴方がちゃんと寝るように確認するためですわ」
「それに次はないと言ったではありませんか。なので私も手段を選びませんわ」
「くっ……」
僕が悪いから何も言い返せない。そんな悔しさを胸に秘めていると
「早くしてくださいまし」
痺れを切らしたのか僕の肩に手を置いて無理やり寝かされ、膝枕をされる
「……っ やっぱり恥ずかしいんだけど」
吐き捨てるかのように小さく呟く
「案外可愛らしいところもありますのね」
聞こえていたのかそれを聞いてクスリと笑うマックイーン。さっきよりも顔が熱くなってきた
「もういい寝る」
不貞腐れながらも目を瞑ると、数日寝てない為かすぐに意識が薄れていった。
◇◆◇
「あらあら、ぐっすりと寝ていますわね」
すやすやと寝息を立てるトレーナーの顔を見る。大人の割には若干幼さが残っていて世間で言う童顔、というものでしょうか。
「寝顔も愛らしいですわ」
起こさないようにじっとしながら彼の寝顔を眺める。
「私としてはこの顔も好きですけどやはり目元の隈は取りませんと。結婚するとなって早死にされても困りますから」
病気で早く死なれてもそれは取り残された悲しみが残るだけです。だったら今のうちに生活習慣を改善させませんといけませんわ
「そうとなれば明日から一緒に食事でも誘いましょうか。そうすれば彼もしっかりとしたものを食べてくれますし……ほかのウマ娘たちが彼に引っ付いてないか確認できますもの」
彼が私を指導してから少し人気になりすぎたせいで浮ついた話が聞こえてきますわ。もし彼がほかの子を指導するとなったら……耐えれる気がしませんわね
「そのためにも私がしっかりとしなくてはなりません」
彼の頭を優しく撫でる。少しくせ毛でさらっとはしてないものの、彼のこの触り心地が好きなのだ。
もし起きているときにしたら彼はどんな反応をするだろう。恥ずかしがるのか、それともやり返してくるか。
「恐らく恥ずかしがって顔を真っ赤にするでしょうね」
彼のそういう姿が思い浮かびクスリと笑う
でも彼は決して拒みはしないのだ。そこも好きなところの一つ
「貴方はあの時約束してくれました。私をメジロの名に相応しいウマ娘にしてくれると」
今でも思い浮かんでくる。誰もいないレース場で誓ったあの光景を
「貴方のおかげで見事天皇賞を制することができました。しかし私はまだまだ未熟なのです」
「トレーナーさんと一緒にいることで私はやっと一人前になれる」
「ですからトレーナー……絶対に私の傍から離れないでくださいまし?」
聞いてるわけではないが、言い聞かせるようにはっきりと言葉にするのだった。