(眠れない。)
今日は珍しく豪勢な食事だった。
…村の老人が皆祝福してくれた。
この山に囲まれた村から出れると思うと、…嬉しいはずなのに、どこか寂しいと感じる自分がいた。
………。
ドンドン!
「おい、起きてるか!?もう朝だぞ!」
「朝からウルセェ!ちょっとはノンビリさせろ!」
…意外にもすんなり寝れてしまった。
にしても旅立ちだってのにいつもどおりだなこいつは。
「おお、二人共、おはよう。昨日はよく眠れたかえ?」
「あ、チヨ婆今日も元気そうだな!」
「ホホッ。まだまだ生きるわい。」
「何だ、まだ出発してなかったのか」
「げ、頑固爺」
「ぬかせサボり魔。まぁ、街でも元気にやれよ?」
「言われるまでもないぞ!世界に俺の名を轟かせてやる!」
……。
色々貰ってしまった。
名残惜しいけどそろそろ行かなくちゃな。
このままだと永遠に行けなくなる。
「おい、アルゴス!」
「ああ!行こうぜ!もう挨拶も済んだことだ!」
生まれ育った故郷を背に、振り返る事なく前を進む。
「おーい!ちょっと待つんじゃあ!」
「なんだよソンチョ爺!」
「仕送りの話か?」
「いや、あれ冗談じゃ。まぁ偶に手紙を送ってこいよ。
…じゃないッ!あやうく忘れる所じゃった!ほい、ワシからの贈りモンじゃ!」
「これって、爺さんのへそくりじゃあ…」
「その一部じゃ!大事に使えよ!そんじゃあ達者でな!」
最後まで、忙しい人だ。
普通、出発直前に渡すかよ。
「うし。バラフト、行こうぜ!」
「おう。…行ってきます、皆。」
古き故郷に背を向けて、大海へと歩み出る。
この先に何が待つかを、俺たちはまだ知らない。
俺ができる事は、明るい未来を信じて足を動かすだけだ。
…。
「…行ったのぉ。」
「行っちまったな。」
「…今朝は、やけに静かじゃなぁ…。」
「ソンチョ、感傷に浸るのが早いぞ。まだあいつらが行ってから大して経ってないじゃないか」
感傷に浸るくらいイイじゃろ。
なんてったって赤子の頃から世話を見てたんじゃ。
バラフトの奴のためにわざわざ本を買い寄せたり。
アルゴスの奴はよく食べた。
食料が足りない時なんかもあったのぉ。
…ああ、もう全てが過ぎ去ってしまう。
ワシの青春も、何もかも。
ああ、あのバカ共がいなくなって清々する。
アルゴスの為に飯を減らす事もしなくていい。
バラフトの為に書庫を片付けなくていい。
ああ、楽じゃないか。
だから、この頬に落ちる水は違う。違うのじゃ。
…彼奴等、元気にやるかのう。
…何処かの夜にて。
「ハクショイッ!」
「げ、風邪かぁ?」
「珍しいな。お前が風邪だのなんだの言うなんて。」
「…そういやお前前に『馬鹿は風邪をひかない』なんて言ってたけど嘘っぱちじゃねぇか。」
「は?いきなり何の話だよ。」
「イヤ…唐突に思い出してな。
俺、その言葉を聞いた夜に滝行しながら寝たんだよ。ほら、身体冷えると風邪ひきやすいだろ?」
「あー、あの時か。確かあの時皆総出でお前の事探してたぜ。」
「でだ。俺あの後なぁ…。どうしたんだっけか?」
「俺含め全員で介護してたぜ。お前が風邪引くなんて珍しいからな。」
「ははは!あの時はまだ鍛え方がなってなかっただけだ!
昨日滝行したまま寝てみたけど現に今まで何ともないぜ!」
「馬鹿!お前さっきクシャミしてたろうが!引いてんだよ風邪!」
こうして、深い夜は過ぎ去って行く。
遅れないように、人々は大事な事を持ちながら進んでいく。