魔導英傑伝   作:黒い玄米

2 / 3
旅立

(眠れない。)

 

今日は珍しく豪勢な食事だった。

…村の老人が皆祝福してくれた。

この山に囲まれた村から出れると思うと、…嬉しいはずなのに、どこか寂しいと感じる自分がいた。

………。

 

ドンドン!

「おい、起きてるか!?もう朝だぞ!」

「朝からウルセェ!ちょっとはノンビリさせろ!」

 

…意外にもすんなり寝れてしまった。

にしても旅立ちだってのにいつもどおりだなこいつは。

 

「おお、二人共、おはよう。昨日はよく眠れたかえ?」

「あ、チヨ婆今日も元気そうだな!」

「ホホッ。まだまだ生きるわい。」

 

「何だ、まだ出発してなかったのか」

「げ、頑固爺」

「ぬかせサボり魔。まぁ、街でも元気にやれよ?」

「言われるまでもないぞ!世界に俺の名を轟かせてやる!」

 

 

……。

色々貰ってしまった。

名残惜しいけどそろそろ行かなくちゃな。

このままだと永遠に行けなくなる。

「おい、アルゴス!」

「ああ!行こうぜ!もう挨拶も済んだことだ!」

 

生まれ育った故郷を背に、振り返る事なく前を進む。

「おーい!ちょっと待つんじゃあ!」

「なんだよソンチョ爺!」

「仕送りの話か?」

「いや、あれ冗談じゃ。まぁ偶に手紙を送ってこいよ。

…じゃないッ!あやうく忘れる所じゃった!ほい、ワシからの贈りモンじゃ!」

「これって、爺さんのへそくりじゃあ…」

「その一部じゃ!大事に使えよ!そんじゃあ達者でな!」

 

最後まで、忙しい人だ。

普通、出発直前に渡すかよ。

 

「うし。バラフト、行こうぜ!」

「おう。…行ってきます、皆。」

 

古き故郷に背を向けて、大海へと歩み出る。

この先に何が待つかを、俺たちはまだ知らない。

俺ができる事は、明るい未来を信じて足を動かすだけだ。

 

 

…。

「…行ったのぉ。」

「行っちまったな。」

「…今朝は、やけに静かじゃなぁ…。」

「ソンチョ、感傷に浸るのが早いぞ。まだあいつらが行ってから大して経ってないじゃないか」

 

感傷に浸るくらいイイじゃろ。

なんてったって赤子の頃から世話を見てたんじゃ。

バラフトの奴のためにわざわざ本を買い寄せたり。

アルゴスの奴はよく食べた。

食料が足りない時なんかもあったのぉ。

…ああ、もう全てが過ぎ去ってしまう。

ワシの青春も、何もかも。

ああ、あのバカ共がいなくなって清々する。

アルゴスの為に飯を減らす事もしなくていい。

バラフトの為に書庫を片付けなくていい。

ああ、楽じゃないか。

だから、この頬に落ちる水は違う。違うのじゃ。

…彼奴等、元気にやるかのう。

 

 

…何処かの夜にて。

「ハクショイッ!」

「げ、風邪かぁ?」

「珍しいな。お前が風邪だのなんだの言うなんて。」

「…そういやお前前に『馬鹿は風邪をひかない』なんて言ってたけど嘘っぱちじゃねぇか。」

「は?いきなり何の話だよ。」

「イヤ…唐突に思い出してな。

俺、その言葉を聞いた夜に滝行しながら寝たんだよ。ほら、身体冷えると風邪ひきやすいだろ?」

「あー、あの時か。確かあの時皆総出でお前の事探してたぜ。」

「でだ。俺あの後なぁ…。どうしたんだっけか?」

「俺含め全員で介護してたぜ。お前が風邪引くなんて珍しいからな。」

「ははは!あの時はまだ鍛え方がなってなかっただけだ!

昨日滝行したまま寝てみたけど現に今まで何ともないぜ!」

「馬鹿!お前さっきクシャミしてたろうが!引いてんだよ風邪!」

 

こうして、深い夜は過ぎ去って行く。

遅れないように、人々は大事な事を持ちながら進んでいく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。