降り注ぐは希望が砕いた流星群。満たすは無垢なる絶望と星の記憶。滅びの魔女へ捧ぐ背反の歌。 作:ソプラノ
三人称を書くのははじめてで、普段は主人公の独白ばかりの一人称作品を書いていたので、地の文にペンを入れてくれる方がいたらメッセージにお願いします。
ヒルダの使い魔が撃破されたポイントにやって来た福音使徒たちは、地中からわき出てくる土の魔女の使い魔に襲撃を受けていた。
既に戦闘開始から十五分ほどは経過しており、五人が倒した使い魔の数は百を越えていた。
百の敵を倒したと聞けばその数は多いように聞こえるが、ヒルダを筆頭とした福音使徒の中核の五人が集まって十五分で撃破数百というのは、とても少ない。
その原因は、土の魔女の使い魔の再生能力だった。
「くそっ! キリがない!」
王国の騎士と酷似した土の魔女の使い魔の首に、息を切らせながら剣を突き刺したエールが、その胸板を蹴り飛ばして剣を抜くと、忌々しそうに呟いた。
「トドメはしっかりね☆」
エールに蹴られ、砂漠に転がった使い魔の胸に空から飛来したドロシーが鎖鋸を突き刺し、両断しながら注意する。
先のエールの攻撃では数十秒間行動不能にするのが関の山で、撃破にまでは至らない。
土の魔女の使い魔は人間なら致命傷であろう傷を負っても、砂漠の砂を利用して直ぐに復活を果たしてしまうのだ。
「エール。お前は下がれ」
「っ……。俺はまだ戦える!」
「余力を残しているうちに引いておけと言っておるのだ!」
只でさえ戦闘能力が劣るエールは、土の魔女の使い魔一体を撃破するのにも時間がかかった。
実力が不足しているために苦戦を強いられる訳ではなく、他のメンバーと違って卓越した戦闘能力を持つわけではないため、通常の敵よりも大規模な損壊が必要な土の魔女の使い魔を一撃で撃破出来なかったのだ。
元よりスタミナで劣るエールである。他のメンバーと肩を並べて戦おうとすれば、当然消耗は激しくなり、結果的に一人だけ疲労を蓄積させていくのは当然だった。
その結果、自分で敵を倒しきることができず、ドロシーの手を借りることになったエールを見て、ルドルフは戦闘から離脱するように指示した。
ルドルフに反発し、戦意に満ちた瞳で剣を強く握ったエールだったが、語気を強めるルドルフにそれ以上反発することが出来なかった。
「貴様の本来の役割は近接戦闘ではない。その能力を用いて我らのパフォーマンスを保つこと。疲労で能力を行使出来なくなっては意味がないどころか、ドロシーに尻拭いをされているようではドロシーの疲労が増すだけだ。分をわきまえろ」
「……わかったよ」
「何かしていないと気が済まないのなら、ヒルダの横で立っておけ。魔法を使えるようになれば奴も楽できるだろう」
ルドルフによって自分が戦闘に参加することは百害あって一利なしであることを理解させられたエールは、気落ちして語気を弱めた。
それを見てルドルフは役割、それもヒルダの助けになるものを与えてエールの意欲を刺激した。
完全に戦闘に参加できなかった新米の頃のエールは戦闘に直接参加できないことを歯痒く思いつつも無理に戦おうとはしなかったが、なまじ戦えるようになってしまったため、純粋な戦闘員であるダンテやドロシーたちと同じように振る舞おうとしてしまう。
これはエールの訓練を担当したルドルフが、最低限戦えるようにすること第一で鍛えていたため、戦士としての心構えの教育を怠っていたためであった。
それを痛感したルドルフは、今後は精神面の成長も促していかねばと今後の教育方針を改めることにした。
「ヒルダ」
「助かるわ。身の守りは任せたわよ」
鎌を巧みに扱い、一瞬の間で敵の両肩から交差するような斬撃を放ったヒルダの元にエールがたどり着くと、ヒルダは真面目な顔で返事をした。
その振る舞いは普段からエールに向ける過保護な姿とは乖離していて、まるで別人のようだった。
ヒルダは鎌を振るうためではなく、片手でも持ちやすいように後ろ手に持ち替えると、指先を数メートル先の土の魔女の使い魔に向ける。
その瞬間、土の魔女の使い魔の胸部に空間の歪みが発生した。
その歪みによって胸部を失った土の魔女の使い魔は活動を停止し、ただの土くれへと還る。
「やっぱり強い」
「当たり前じゃない。私を誰だと思っているの?」
三年前にルドルフが加入したことで、末端の福音使徒を戦力として育成できるようになり、堕歌を歌うという役割があるヒルダが直接戦う事は減っていた。
エールが戦っているヒルダを見るのは五回目になるかならないかと言ったところだろう。
相変わらずの強さにエールが驚くと、ヒルダは当然といった表情で次々に土の魔女の使い魔を撃ち抜いていく。
「最初からこうしていればもっと早かったんじゃ」
「そうしてもよかったけど……。あなたが先陣を切って飛び出して行ってしまったんだもの。それに、ダンテとドロシーにはガス抜きが必要だったわ」
エールの疑問はもっともだったが、そもそもこういう場では中衛としてヒルダを守りつつ、前衛のサポートをするべきエールが真っ先に突っ込んでいってしまったこと、代わり映えしない景色の砂漠をひたすら歩かされていたダンテとドロシーがストレスを発散する場として活用できることから今まで戦闘を続けていた。
各々が一流の戦闘者であるため、エールを除いた四人は目的の共有を言葉を必要とせずに行える。
この戦闘でいえば、ダンテとドロシーのガス抜き、そして——
「報告します。1キロ圏内及び最寄りの高台に人の姿はありませんでした」
「そう。威力偵察という訳でもなく、ただ単にこちらの戦力を削ごうという魂胆なのね」
——戦場に足を踏み入れていない戦闘員たちを総動員して、土の魔女の尻尾を掴むことも目的だったのだ。
ヒルダの使い魔がこの場所で倒された以上、近くに土の魔女かその関係者がこちらの戦力を探るために潜んでいるというのがヒルダやルドルフに共通した考えだったのだが、捜索ミスでなければこちらを伺っている存在はいないということになる。
ガス抜きこそ出来たが捜索は振り出しに。戦うことでスッキリしたダンテとドロシーはともかく、他のメンバーは戦い損であった。
「近くにいないにも関わらずこの量の使い魔を送り続けている。いったいどんなカラクリなのかしら。……引くわよ。手がかりがない以上、これ以上戦う必要もないわ」
ヒルダの言葉で戦いを切り上げたダンテたちが集合すると、ルドルフが大斧で地面をめくりあげ、土の魔女の使い魔たちを生き埋めにする。
その際に上がった砂埃が晴れると、そこにヒルダたち福音使徒の姿はなかった。
「雇用期間最後の敵は福音使徒か。全く、因果なものだ。このオレがこの地であやつらと戦うことになろうとは。しかし、見方を変えれば王たるオレに相応しい試練といえよう」
戦場から2キロ地点にあるオアシスの樹上。幹に寄りかかって遠くを眺める青年の姿がそこにあった。
青年はヒルダたちの正体を言い当てると、傍らに置いてあった弓を手に取り、対岸の樹めがけて続けざまに三本の矢を放った。
第一の矢は樹についていた果実のヘタに命中し、ヘタが千切れた果実は自由落下を始め、第二第三の矢は地面に吸い込まれていく果実の中心を貫いた。
「ふっ。今日も完璧だ。しかし、この技量を持ってしても奴らを退けられるとは限らない。狙うとするなら……あのフードを目深に被った奴だろうな」
樹から飛び降りた青年は、福音使徒への対抗策を考えながら対岸まで歩くと、矢が刺さったスオメアロシンの果実を回収した。
「これは雇い主に持って帰ってやろう」
まるで良いものが採れたかのように呟いた青年だったが、その実はまだ未熟で渋く小さい、とても食べれたものではない果実だった。
#♭♪
「おかしいわね……」
「三日ほど探しているが、使い魔が襲われるだけで土の魔女の尻尾ひとつ掴めておらん」
「どーなってんのー?」
「結界が偽物だったんじゃないか? 第九小隊の魔女どもが協力すればハリボテくらいは作れるだろ」
「いいえ。土の魔女はいるわ。結界に使われていた魔力は土の魔女のものだったし、使い魔の存在もそれを裏付けている」
使い魔による捜索が大部分を占めるが、砂漠を一通り捜索した福音使徒たちは、土の魔女の手掛かりを掴めずにいたが体調の管理のため一度砂漠を出て一晩の休憩を行っていた。
ヒルダは自分が召喚した使い魔と意思疎通できるわけではないため、集落、人、土の魔女の使い魔といったものを発見したら戻ってくるように指示していた。
その結果が何も発見しない使い魔が一切の痕跡もなく撃破されるという状況だった。
痕跡ひとつ掴めない状況に、連日の暑さで思考能力が鈍ったダンテが土の魔女不在説を提唱するが、ヒルダによる魔女だからわかる感覚的なものと、事実に基づいた答えによってそれは否定された。
「これからどう捜索する? チームを分けるか?」
「ヒルダと一緒ならドロシーはどーでもいいよ」
「エールがいなくて暑いのは勘弁だぜ」
「なにいってんの? ヒルダとエール、ヒルダとドロシーはセットに決まってんじゃん」
ルドルフの提案に、砂漠での捜索の負荷を和らげるエールの争奪戦が始まった。
争われている当のエールはといえば、三日間の捜索で疲労しているのか、寝転がったまま一言も話していなかった。
目も閉じているため、起きているのかすら不明である。
「……二日前に第九小隊が王都を立ったようだ。どうやら、結界の破壊は知られていないらしい」
「二日前ってーと、翌朝には砂漠入りか? この状況で情報の伝達が遅いのは致命的だな」
「鳩を飛ばせない以上、時間がかかるのは仕方ないわ。ギリギリ間に合ったことに感謝しましょう」
王都に潜ませている信者からの情報で第九小隊が砂漠に入ることがわかった以上、土の魔女の捜索を急ぐ必要があった。
そのため、ルドルフが提案したようにチーム分けが
行われるが、ヒルダ主導のそこでもエールの扱いが問題になった。
「こいつはどうする? 第九小隊がいないってんなら無理して出すこともアリだったが」
「そうね。エールの力は便利だけど、第九小隊との戦闘を考えるとお荷物になるわ。砂漠の外に残している補給部隊に匿ってもらいましょうか」
「えー、ドロシーあついのやだよ。エールも明日になったら元気になるでしょ?」
「エールが第九小隊の手に落ちたらファーレンハイトでの生活が酷いことになるわよ」
「うっ……。エールは休んでていいよ」
「決まりね。ルドルフ、補給部隊に冷却材の準備を——」
「明日になれば回復する……。回復は俺の特技だからな……」
一度は休ませることに決まり、エールの代替となるものを寄越すように通達する直前で、今まで黙っていたエールがついに口を開いた。
どう考えても強がりでしかない言葉だが、エールが回復に秀でているというのもまた事実であった。
外傷には効果が薄いが、体力の回復という意味では、堕歌のサイクルを早めるという実績がある以上、疑う余地はないのだ。
「どうすんだ?」
「仕方ないわね。エールが参加するにしても、チームを分ける以上物資は必要だわ。ルドルフ、手配を」
「了解した」
エールに対して過保護なヒルダならエールを休ませるだろうという考えの元、自身でエールを説得するのではなくヒルダに決断を任せたダンテだったが、その思惑通りに事は進まなかった。
しかし、悩むことなくエールが参加することを許し、その上で物資の手配をしたヒルダを見て、その考えを察したダンテは口角を吊り上げた。
ヒルダは元々エールを参加させるつもりなど無かったのだ。
しかし、ここで説得するのは時間の無駄であるため受け入れたように見せかけて、翌朝は疲労で一番最後に目覚めるエールを置いていく算段だろう。
そう思い、自分が過度に反対してはヒルダの計画に狂いが生じるとダンテが反対の言葉を飲み込んだことで、翌日の予定は速やかに決まった。
チームの組み合わせはヒルダ、ダンテ、エールの三人と、ドロシー、ルドルフの二人である。
この組み合わせを見て、自分の考えが間違っていないと確信を深めたダンテであった。
一周目時点でこの作品でやろうと思っていた展開を真エンドがやってました。
センスデータに唆されて二週目をやったものの、思ったより救われきってないな?
さて、レナパパをどうやって助けよう?
彼だけ筋道が思い浮かばない。