降り注ぐは希望が砕いた流星群。満たすは無垢なる絶望と星の記憶。滅びの魔女へ捧ぐ背反の歌。 作:ソプラノ
「王国の方たちが助けてくれるといいのだけど」
「しら、ない。どうせ、人殺し……」
カシミスタンで福音使徒、第九小隊、雇われ傭兵のキースが三つ巴の戦いをしている頃。
カシミスタンに付近まで第九小隊を案内したニキは、これ以上カシミスタンに近づきたくないとダダをこねるモルディモルトに折れ、途中で案内を打ち切ってキャラバンまでの帰路についていた。
案内を打ち切ったとはいえ、最低限の方角は伝えたため、無事に到着した第九小隊が敵と戦っているだろうキースを助ける事を願うようにニキが呟くと、モルディモルトは第九小隊を人殺しであるとして、期待薄だと投げやりに答えた。
モルディモルトにとって、王国の騎士は故郷であるカシミスタンを滅ぼした要因なのである。姉のように友好的に接することは無理だった。
当時の王国の騎士団長と今の騎士団長は違うし、騎士団そのものは悪くないとニキが言うが、モルディモルトはそっぽを向いてそれを聞き入れずに黙りこむ。
「モルディ。あっちから人の気配がしない? 倒れてるのか、動いてないわ」
「どうせ……福音使徒。わるいのは、放っておく」
「もしかしたら三年間の生き残りがいたのかもしれないじゃない。いってみましょう」
「いるわけ、ない。みんな……砂漠に還った」
第九小隊を案内した鎧を纏っていても歩きやすい安定した道ではなく、日差しが弱い道を選んで歩いていたニキが、人の気配を察知した。
ポジティブに考えるニキと、ネガティブに考えるモルディモルトでは意見が割れたが、ニキはまたしてもモルディモルトの腕を引っ張って気配の元へと移動した。
「きたなくない。福音使徒……」
「でも、武器も何も持ってないわよ? もしかしたら砂漠の外からやって来た人なのかも」
モルディモルトは自身の暮らすキャラバン以外に砂漠に集落があることを知らなかった。
そのため、仮にカシミスタンの生き残りが居たとしてもそれは三年間を一人で生き抜いた生命力が高い人物であるはずだ。
しかし、モルディモルトの前に横たわるのはほとんど汚れていない服装の少年である。
体つきも細く、とても砂漠で一人生きていられるとは思えない。
最近砂漠に入ってきた人間と言えば、第九小隊以外にはキースの報告にあった福音使徒のみである。
モルディモルトにとって、福音使徒は肉親を殺害し、故郷を滅ぼした集団であるため、今目の前に倒れている人物を助けようとは思えなかった。
しかし、モルディモルトとは違う視点で考えるニキは、目の前の人物がキースの報告にあった福音使徒の中心人物五人の特徴に当てはまらず、そして構成員の制服ともいえる服装とも一致せず、また武器も持っていないことから、魔女の結界が破られた事で最寄りの村から様子見にきた人なのかもしれないと考えた。
実際、目の前の人物は最低限の装備をしているが、砂漠を歩くには少しばかり頼りない格好である。
ちょっと様子見にきて暑さにやられたという可能性はあった。
「火がくる……」
「安心して。火は来ないわ」
意識の無い少年が、魘されるように呟いた。僅かな身じろぎでターバンが外れ、空色の髪が見えると、ニキは少年の頭を胸に抱え、安心させるように優しく頭を撫でた。
少年の髪色はモルディモルトのものに近く、その姿がモルディモルトに被ったための行動だった。
「おねえちゃん……」
「モルディ。この子は連れて帰りましょう。きっと、私たちとおなじ生き残りだもの」
ニキに撫でられて落ち着いた少年を見て、モルディモルトが思わず呼び掛けると、ニキは姉らしくモルディモルトが何を言いたいかはわかっていると優しい笑顔で結論を口にしたのだった。
「きっと、あなたが成長するには彼の助けが必要だわ。一人の世界ではなく、同じ過去を持つ他人と心を通わせる必要があるの。そして、三年経って尚あの日を夢見る彼にもきっとあなたが必要。モルディ、頑張るのよ」
飛ばしたカシミスタン戦は原作と戦力比が違いますが、その結果は別シーン冒頭か会話の中で書こうと思います。