それは狂わせた。   作:こよみ

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隠者の賢石

 わたしはハリー・ポッターが嫌いだ。何故なら憎い男の息子だから。母を壊した男の息子なんて視界にも入れたくない。きっとあちらはそんなことなんて知るはずもないんだろう。逆恨みなんだってことくらいも分かってる。

 でも、だからって、わたしが許すと思うか。母を壊した男の息子に慈悲なんてかけると思うか。母の人生を奪ったのだ。その罪は息子が償え。母の代わりにこのわたしが制裁してやろう。

「シャノン、シャノン! どこ!」

 ああ、呼んでいる。憎い母が呼んでいる。すぐに向かって磔の呪文。気が済むまでなぶられて、意識が飛びかけたところで服従の呪文。はい喜んで、お母様。何をさせていただきましょうかわが主。ヒステリックで傲慢で高慢ちきな母上様。人形娘はいつだってお付き合いしますよ。

 引き裂く。焼ける。汚物にまみれ、ぐちゃぐちゃに揉まれてはい完成。十数年前の『シャノン・ソーウェル』の出来上がり。誰も助けてなんてくれない惨めな惨めなスリザリンの穢れた血。ケラケラ笑う。笑うしかない。そこにいるのはもう自分でないと彼女は分かっているから。

 ひとしきり気が済めばはいおしまい。転がる汚物に興味がなくなった女は明るい地上へと戻っていって、わたしはここで飼い殺し。繰り返され続けたお陰で『スコージファイ』も『エバネスコ』も無言で繰り出せる。もちろん『エピスキー』も。そうでなければとうの昔に死んでいる。

 きっと父親とかいう存在はわたしのことなど知るよしもない。ここに『魔女シャノン・ソーウェル』という存在は全て埋め立てられている。気晴らしのための人形娘。知り得ることは本当に少ない痴呆娘。

 やれることは母がここに埋葬した書物を読み漁るだけ。死ねジェームズ・ポッター。シリウス・ブラック。ピーター・ペティグリューにリーマス・ルーピン。その四人とついでにリリー・エバンズは地獄に落ちろ。母の受け売りだが。

 ああ同志よ。同じ地獄を味わい、うまく抜け出した母の同志よ。穢れ過ぎている母を救ってはくれなかった同志よ。それであなたは報われたのか。もしそうでないのなら、闇の帝王も地獄に落ちてしまえ。

 投げ入れられるパンがまたカビている。異様な緑色でもふもふもしている。柔らかい。頻度も落ちている。死ねというか、母上様。構わない。死ぬための手段はいつでもあなたの手の中に。そら、振るってみるがいい。いつもの引き裂く呪文をどこにでも、好きなように。

 さあ目を閉じて。終わりの時を――

 

「止めろ! 止めるんだ、ミス・ソーウェル!」

 

 何だ。止めるのか、やたらごつごつした人間。あれが男とかいう存在か。わたしは母のために生きていた、人形だ。ならばいつ殺しても構わないはずではないか。何故止めるのだ。まさかお前が父親とかいう存在なのか。

 じ、と目を向けてやる。緑色の閃光が――自分の胸に杖を向けた母に、炸裂した。慌てる男は強引に目を閉じさせてきたがもう遅い。この目にしかと焼き付いた。あれはもう、助からない。何ということだ、なんて呟きながら母を横たえる男はひどく疲れて見えた。

 悪いがここからは動かない。ぴくりとも動く気力はないし、生きる意味も今奪われた。ならばこのまま母と同じように、緑色の閃光で終わりにしなくては。わたしは母のための生き人形。ならば、それに相応しく終わらねばなるまい。

「なっ……」

 何故か声が聞こえたが、もう遅い。このまま手を振るって――

 

 目が覚めた。

 

 嫌な夢だ。過去の夢。いつまで経っても纏わりついてくる、本当のこと。憎しみからは逃れられず、真実が奈辺にあろうとも変えられないこと。あの日わたしは『人形娘シャノン・ソーウェル』ではなくなった。そして、全く知らない人間に引き取られた。

 結局あの男は父親ではなかった。貴族の屋敷の使用人だったらしい。母のことはずっと気になっていて、それでやっと行方を探し出したらしい。それにかけた時間が約十年というのだから執念がおかしい。変態か。変態なんだろう。

 引き取られた先でわたしには名が与えられた。出生届すら出されていないくせに魔法が使えるものだから、魔法省からせっつかれていたらしい。シェイラ・スワン。それがわたしの新しい名前らしい。シャノンではないシェイラ。ソーウェルでないスワン。それがわたしだそうだ。

 正直に言って、実感が湧かない。『That's You』とか言われても信じられない。何故ならそう育ってはいないから。スワンというのもあの男の姓であって、父親のものですらないらしい。尚更実感が湧かない。

 それでも馴染まねばやっていけない。右も左も、言語すら怪しい状態でわたしは男の勤め先たる屋敷に仕えることになった。といっても屋敷で本格的に働くためには勉強しなくてはならないことが多く、また一年もしないうちに学校へと通わされることを考えれば実質詰め込み教育を施される日々であったというほうが正しい。

「スワン! 姿勢が悪い!」

「言葉遣いを使用人らしくしなさい!」

「何でもかんでもエバネスコで誤魔化さないの!」

 彼らにとって穢れた血たるわたしなど教育する価値などないはずなのだが、同い年の令嬢のために色々仕込まれた。使用人のスワン。お嬢様の友人に相応しい女となるべく仕込まれる人形。何も変わらない。されることが変わるだけ。ならばわたしに順応出来ないはずもない。

 一年。それだけの時間でゴミクズのようだったシャノン・ソーウェルはいなくなって、貴族令嬢に仕える使用人シェイラ・スワンの出来上がり。さようならシャノン。こんにちはシェイラ。全てはパーキンソンの令嬢のために。

 ああお嬢様。わたしの全てはあなたのためにある。単純明快。馬鹿の極み。あれほどまでに尽くしていたのにこんなに簡単に忠誠のありかはすり変わる。鏡を見なければもう母の顔なんて思い出せない。

「準備が整いました、お嬢様」

「ええ、行きましょう」

 ホグワーツ特急に乗ってがたりごとり。百味ビーンズなるゲテモノのゲテモノ味だけ選び取る。お嬢様の口に合うわけのないそれは、味覚を失って久しいわたしに与えられる。ええ、美味しいですお嬢様。口の中からエバネスコ。

「よく躾けられた犬みたいでしょう?」

 自慢げに話すお嬢様。お嬢様のためなら火の中水の中。クスクス笑う大柄なご友人はわたしの芸を楽しんでくださっている。種も仕掛けもありますが、どうぞ楽しんでいってくださいな、わんわん。こちらには普通のサンドイッチもご用意しております。

 おや、お気に召しませんかミス。趣味が悪い、ですか。ではすぐに片付けますね。え、違うのですか。どういうことですか。クスクス笑う。何がおかしいのか分からないけれどわたしも曖昧に笑みを浮かべる。笑顔爛漫。花満開。

 笑いの花が咲いている。そんなところに無粋な声が。

「ネビルの蛙を見なかった?」

 何だこの女は。無粋で無礼でお嬢様に相応しくない。せめてコンパートメントの扉くらいは叩いて欲しい。この蛙ならどうぞ、私物ですがと手から蛙チョコレートを投げつけてやれば、縮れ毛の女は悲鳴を上げて逃げていった。ざまあみろ。

「便利な番犬ね」

「恐縮です」

 浮かない顔の美人な友人がそう評してくれた。サンドイッチはお気に召さなくてもこういうのはお気に召すらしい。得意げな顔のお嬢様が誉めてくれる。何よりのご褒美。わたしはお嬢様の忠実な番犬です、わんわん。

 しばらくして今度は丁重に迎えねばならない少年がやってきた。魔法界の王族が実質いなくなった今、一番力を持つ貴族。プラチナブロンドのドラコ・マルフォイ。お嬢様の想い人。彼はハリー・ポッターがいかに愚かであったかをひとしきり語って去っていった。

 同意、同意。完全に同意。何故なら母の心はあの畜生どもに完全に壊されて、スリザリンどころかホグワーツの中でさえ最底辺の存在にされてしまった。何をしてもいい存在。いじめても、何をしても構わない穢れた血。それを作り出したのはあの畜生どもだ。その息子が愚かでないわけがない。

 お嬢様の顔を立てるために何も言わなかったけれど、本当ならそれを大声でわめき散らしたい気分だった。ハリー・ポッターは愚かな父と母を持った愚かな少年だ。同級生をいじめ壊すような男の息子がそうならないだなんて保証はどこにもない。

 列車を降りて、運ぶべき荷物がなくて。おろおろしてしまったらお前さんも生徒だろう、と言われてやっと思い出した。そういえばわたしも従者としてでなく生徒として入学したのであった。さもありなん。ボートに乗って、大広間の前で待機して。組分け帽子なる汚い帽子が歌って。

 そうして組分けが始まった。大柄な友人ブルストロードがスリザリン。あの浮かない美人のグリーングラスもスリザリン。いけ好かない縮れ毛グレンジャーがグリフィンドール。マルフォイはスリザリン、お嬢様もスリザリンで、ポッターはグリフィンドール。

 さて次だ。

「スワン・シェイラ!」

 厳格そうな老婆が読み上げた名前。嘘だらけのわたしの名前。汚い帽子をつまみ上げ、頭に乗せてさあ脅迫。スリザリンにしなさいな。でないと刻んで燃やして汚物まみれにしてあげる。

『おお怖い……しかし、それで良いのかね? 君ならばレイブンクローでもグリフィンドールでもやっていけるだろうに』

 うるさいボロ雑巾め。わたしの存在意義はお嬢様にしかない。スリザリンでなければわたしの存在意義は果たせない。グリフィンドール? ポッターを殺して良いならグリフィンドールでも。レイブンクロー? マーリンの髭でもむしっていなさい。学びはわたしを救わない。

『やれやれ……スリザリン!』

 歓声など湧かない。こんなみすぼらしい使用人が祝福などされるはずもない。当然のことのように椅子が用意されるが、座るはずもない。わたしは使用人。使用人は使用人らしく弁えている。生徒でもあるらしいがこの場で優先されるべきは当然お嬢様だ。

「座らんのかね、ミス」

「わたしはお嬢様の使用人です、ゴースト様。使用人が座る必要が?」

 血みどろなゴーストに諭されても座るつもりはない。もちろん寮監に睨まれてもだ。しかしお嬢様は違ったようで、焦ったようにわたしを座らせた。組分けが終わっても食事が始まってもわたしは給仕すらさせてもらえない。何のためにわたしはここに来たのか。お嬢様のためだろうに。

 食事はしておけとお嬢様に命じられたので生命維持に必要なだけ食べて、あとはぼうっとしていた。わたしの存在意義は? どうしてここに? 何のために? ぐるぐるぐるぐる思考が回る。

 謎の校歌を聞き終えて、寮に案内されて。荷物が置かれたその部屋に、もちろんお嬢様はいらした。他にもグリーングラス様とブルストロード様がいらして、わたしはこのお三方のお世話のためにここにいるのだと存在意義を新たにする。

「片付けておいて」

「かしこまりました、お嬢様」

 命令がわたしを突き動かす。移動で疲れていても、何があってもわたしがやるべきことは決まっている。自分のことなどかなぐり捨ててお三方の荷物を片付けて。時間割りを見ながら明日の用意を済ませて軽く眠る。

 目が覚めたらスコージファイ。ゴミが見えたらエバネスコ。いつもと同じルーティンを、いつもと違う場所でも繰り返す。授業の準備は完璧だ。スリザリン贔屓の寮監スネイプ教授の魔法薬学の授業へさあ出陣。

 蓋を開けてみれば何のこともない。ポッターが蔑まれ、スリザリンが尊ばれてウスノロが失敗しただけ。調合も二鍋分完璧に終わらせた。わたしとお嬢様の分。それからブルストロード様とグリーングラス様の分だ。

 だと、いうのに。

「……スワン、残りたまえ」

 居残りを命じられてしまった。クスクス笑うグリフィンドール。ああ、ゲラゲラ笑う赤毛とポッターが憎い。笑うならば完璧に調合したまえ、グリフィンドール五点減点! などと教授が言わなければどうなっていたかすら分からない。出来るだけ早く戻るとお嬢様に誓って、わたしは教授とお話をすることになってしまった。

 ねっとりと絡み付くような声で教授は問う。

「君はどこで魔法薬学を学んだのだね」

 もちろんすぐには答えられなかった。いつどこでこの知識を得たのか思い出せなかったからだ。考え込むこと数分、ようやく思い出す。そうだ、あの地下室のノートだ。地下室のことは広言してはならぬと言い含められていたので多少言い方は考えたが。

「……ふむ、あの独特の方法……色こそ違えどその瞳。お前はソーウェルの娘か」

 目をぱちぱち。教授がそう断じる理由が分からぬ。この教授が一体母の何を知っているのか。いや、もしや彼は見た目どおりの年齢でなくもっと若いのか。母と在籍期間が近かったのかも知れない。

「先生は、母をご存じでいらっしゃるのですね」

「……余計なお節介がそっくりだ。他人の調合には二度と手を出すな、困るのは当人ですからな」

 苦々しく絞り出したような言葉に驚いて、母という存在がまた分からなくなった。他人にお節介を焼ける程余裕のある人間には見えなかったのだが。いや、違う。彼はまさか、このねっとり蝙蝠はまさか、彼なのではあるまいか。名前は焼き切れてしまって覚えていないけれど。

 ならば従わねばなるまい。母の願いはあのならず者どもに復讐することで、この同志を守ることなのだから。セブルス・スネイプ。心に刻もうその名前。その意思を。母上様、人形娘はいつだってお付き合いしますよ。

 いつしか日々は過ぎていって、スリザリンの道化師と呼ばれるようになって。わたしはお嬢様方の顔を立てながら着実に点数を稼いでいた。お嬢様方が失った点数はわたしが全て挽回していた。そんなことをしていたら縮れ毛から敵視されるようになっていたが、どうでも良いことだ。

 ハロウィンにトロールだとか、四階の廊下に三頭犬だとか、与太話が蔓延っていたがわたしは知っている。当然だ、お嬢様に危険が及ぶのならそを排除するのが使用人の勤め。どちらも笑えるぐらい真実で、未だにその危険物は排除出来てはいない。

 そんなことをしていたら何故か今度はポッターに睨まれた。帝王殺しの英雄様。ならず者どもの息子。そして二代目ならず者どもの身内の赤毛にも。何故だ。あの三頭犬を排除するのがそんなに悪いことか。危険は排除せねばならないだろうに。

 ポッターに睨まれたということはグリフィンドールから睨まれたということ。二代目ならず者どもが目を付けて、非常に衛生的でない悪戯が始まった。仮にも女にすることではない。ゲラゲラ笑うグリフィンドール。そこにレイブンクローも混ざっていて、パーキンソンが怖くないスリザリンも混ざっている。

 スコージファイ、スコージファイ。エバネスコ、エバネスコ。未だにエピスキーを使っていないあたりは生ぬるい攻撃しかされていない。面白がる周囲も次第に興味を失ったように消えていく。わたしが泣かないからだろう。叫ばないからだろう。助けてと言わないからだろう。ただ淡々と痕跡を消し去るから、面白味を感じなくなっていくだけ。

 ある日には老婆に呼び出された。

「ミス・スワン。その……」

「なにかご用ですか、先生」

 グリフィンドールの寮監として謝罪された。しかしそんなことに意味はない。何故なら彼らに止めるつもりはないから。マクゴナガルが彼らを止めても抑止力にすらならないから。だから何の意味もないことで、わたしはそれを聞き流した。

 休暇に入っても状況が変わるはずもなし。ああいうことに耐性があるらしいと悟ったお嬢様は苛立ちがたまるとわたしで解消するようになった。ああ、何も変わらない。いつまで経っても人形娘。シェイラ・スワンという皮を被ったシャノン・ソーウェルのまま。『That's Me』。

 早く解決策を練らなくては。お嬢様が安全に過ごせるようにしなくては。わたしがホグワーツに通う意味がない。サンドバッグになっていても学べることは多い。その学びはわたしを救わないけれど。

 殺せるほど強いとは思い上がらない。けれど殺さなければお嬢様が殺されるかもしれない。二律背反。教授に報告してもあれはあれでよいのだ、などと耳を貸してくれる様子はなし。強くならなくては、強く。

 だと、いうのに。次々と厄介事を持ち込む輩というものはもう本当に死んで欲しい。何だあの醜い半巨人は。ならず者どもでも流石に弁えていたはずだ。校内で危険な魔法生物を飼うな。ノルウェー・リッジバッグ種のちっちゃなちっちゃなノーバートちゃん。控えめに言って死ね。

 もちろんすぐに報告した。グリフィンドールは減点されて、スリザリンは加点されて減点された。解せぬ。しかも理由がおかしい。ドラゴンの存在はなかったことにされている。意味不明だ。マルフォイ様が理事に報告する様子もない。そして森番のあの男にはおとがめなしだ。意味不明だ。

 ホグワーツが危険すぎる。危機管理がガバガバだ。確かに母の時代もそういうものは働いてはいなかったようだが、これは流石に酷すぎるのではないか。ダンブルドアの目は節穴過ぎるのでは。危険物を持ち込む危険人物を放置してどうするというのだ。

 いかにルビウス・ハグリッドが危険であるのか、認識できていないというのなら。これまでの罪状を並べ立ててやる。過去を掘り返し、退学の事実を掘り起こし。憐れな女生徒が怪物に殺されたことも、その怪物が禁じられた森にまだ生息しているどころかコロニーを作っていることまで。正式に書類にしてダンブルドアに叩きつけてやった。

「ふぉっふぉ、一年生にしてはよく調べてあるのう。それを学業に生かしなさい、ミス・スワン」

 するとどうだ。目の前であのファッキン校長は燃やしやがったではないか。グルか、グルなのか。あの憐れなマートル・エリザベス・ウォーレンはダンブルドアとあの醜悪な半巨人に謀殺されたのか。穢れた血であるからという、ただそれだけで!

 そうやって、母も見殺しにした。偉大な校長? 知ったことか。その偉大な校長が救わなかったものは多い。母も、教授も、グリフィンドールに逆らうものは全て救われない運命にある。何がスリザリンの怪物だ。グリフィンドールの怪物ではないか。とんだ風評被害である。

 憎悪に身を焦がし、少しずつ使える呪文を増やしていって。学年末試験を終えて、寮杯の獲得の発表があって。そこでもまたわたしはダンブルドアに憎悪を抱くことになった。スリザリンは本当に頑張ったのだ。少しずつ着実に、他者から目をこちらに向けさせる卑怯さも発揮して。スリザリンはトップだった。そう、だった、なのだ。

「よしよし、しかし、最近のことも加算しなくてはのう」

 そこから始まる怒涛のグリフィンドール推し。意味不明な露骨なまでの贔屓と強引な加点にスリザリンは葬式のような雰囲気まで醸し出している。何だ、マクゴナガルのチェスに勝ったから加点とは。見事な推理力に加点とは。勇気に加点とは。その髭もげてしまえ。

 ダンブルドアのせいですっかり意気消沈したスリザリンのテーブルはすすり泣くことしか出来ない。今までの頑張りは何だったのか。得意げに蔑むグリフィンドールの何と醜いことか。狡猾なスリザリンと呼ぶ彼らは分かっていない。本当に狡猾なのはグリフィンドールではないか。誰も反論も出来ない場での強制加点。

「……寮杯……が、せっかくの、寮杯が……頑張ったのに、こんなのないよ……ないよぉ……」

 泣き崩れる優等生。クィディッチの選手達も愕然として、足を引っ張るまいと全力を出していた劣等生達も皆涙を流している。それをグリフィンドールは嘲笑するのだ。悪辣な、本当に悪辣で卑怯で傲慢なグリフィンドールどもが。

 卒業生が一番憐れだ。七年連続で寮杯を獲得出来たという栄誉を得られたはずの彼らが。こんな馬鹿げた加点によって侮辱されたのだから。こうして醸成されるのだろう。スリザリンとグリフィンドールの対立は、社会人になったとしても永劫に続く。

 わたしは別に悔しくはない。わたしが頑張ったのはスリザリンのためではなく、お嬢様のためだから。だが、お嬢様を悲しませたのだから相応の報いは受けて貰わねばなるまい。さて、どうしてくれようか。

 そんな憤懣やる方なし、といった一年目だった。

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