それは狂わせた。 作:こよみ
イギリス魔法界は最早無事な箇所を探す方が難しくなっていた。オブスキュラスの暴走によってもたらされる破壊は、魔法族の精神すらも壊しにかかっていた。流石に闇祓い達もそろそろ学んだらしい。それに対処する方法が二つだけだと。どちらにせよ暴走するオブスキュリアルを救う方法はないのだと気付いてしまった。
一つ目の方法は簡単だ。一切の苦しみもなく死の呪文で殺してしまえば良い。量産型の『わたし』でさえあれば容姿も分かっているのだから、出会い次第エメラルドグリーンの閃光を叩き込んでやれば暴走すらせず死んでいく。そして二つ目の方法はあるにはあるが、とある人物の功績としてしか事例がない。ちなみにどちらもオブスキュリアルは救えない。
だから、魔法界には。殺伐とした空気が蔓延していた。たとえ敵の兵器だと分かっていたとしても、人間を殺すということは思いの外精神にダメージを受けるらしい。それに慣れてしまえば意図せぬ負荷がどこかにかかっていつか必ず痛い目を見る。
ダンブルドアが死んで、旗頭を失った彼らは英雄ハリー・ポッターにそれを求め。彼もまたそれに応じて躊躇うことなく『わたし』を殺していく。いつか彼にもしっぺ返しがくるだろう。しかし意外なのはそこにいるはずの人間がいないことだった。
ハリー・ポッターといえば隣にハーマイオニー・グレンジャーとロナルド・ウィーズリーがいるものだ。しかし、ロナルドとジニー・ウィーズリーはそこにいてもふわふわ茶髪の女性はいない。彼女は一体どこに行ったのか。
『わたし』の目を総動員して探す、探す。けれども気配は見当たらない。まさかマグル生まれだからと逃げさせられたのか。いや、いや――何百の意識を飛翔した末に最後の一人で引っ掛かった。何故そんなところにいるのだろう。
「……酷い、仕掛けね」
ぽつりと呟くグレンジャーの隣には、ふざけて作った『わたし』ベラトリックスがいた。グレンジャーの瞳に映る『わたし』は正気ではなさそうだ。わたしの擬装は魔法ではないようで、グリンゴッツの水も関係ないらしい。
悠々と金庫に侵入した彼女はうず高く積まれたガリオンを少々とその山の上にあった妖しい金色のカップを手に入れて、そのまま不審がられることなく抜け出した。そこから遠く離れた森まで入り込み、死んだ瞳で呪文を唱えた。それはカップを叫ぶ魂ごと焼き尽くして消える。
「……ハリーの情報が正しければ、あとはレイブンクローの髪飾りとスリザリンのロケット、あともう一つ、か」
何の話かは分からない。変わり果てた、と形容するにはあまりにわたしは彼女に関わらなかったけれど、これは流石にあんまりだ。憔悴しきった彼女は窃盗までやらねば生きていけぬらしい。
と、そこでグレンジャーは大きくため息をつくと杖を振るった。ぐにゃりと視界が変わる。いつしかグレンジャーの瞳に映るのはベラトリックスではない誰かになっていた。そういえば彼女は、マルフォイから言われて作った『わたし』トンクスとやらだ。七変化なんて出来るらしい。
「……貴女が知っていてくれたら楽だったのに。本当に誰なのよ、R.A.Bって……」
その言葉を聞いた瞬間、わたしは反射的に答えていた。
「――レギュラス・アークタルス・ブラック」
「……え? ちょっ、ちょっと、今なんて……!」
「グレンジャー、ブラックの家に向かってください。そこにハウスエルフがいるはずです。あなたの助けになれるかもしれない」
それに信じられないものを見るような顔をしたグレンジャーは杖をこちらに向けた。当然だろう。服従させているはずの人間からそんな言葉が吐き出されれば反抗される可能性があるに等しいのだから。
しかしグレンジャーは容赦なく呪文を放ちはしなかった。少なくとも見た目では。
「答えて。貴女は……何なの?」
ぞろりと内側をなぞられる感覚。けれどもそれはわたしまでは届かない。
「あなた方が殺してきたもの。スリザリンのホムンクルス。いずれオブスキュリアルとして破壊をもたらすだろう道具です」
素直に答えたのは、偽る意味をもう見出だせなかったから。いつ誰にどのようにどうやってどんな理由で殺されてもわたしは何も言えない。言う必要もない。わたしが生んだ全ての娘達は死ななければならないのだ。
目を細めたグレンジャーの手に力が入る。
「シャノン・ソーウェル?」
「そう。そしてあなた方が知るシェイラ・スワンも同じです」
どうなろうがどうだって構わない。けれど、だけど、彼女の言うR.A.Bは。きっと母が死なせてしまった人だから。だから彼が誰であるのかくらいは語っておきたい。死ぬ前に。
「……さっきのレギュラスって、確かシリウスの弟よね? 死喰い人の」
「そうですね。その血ゆえに前線に出ることは赦されなくて、シャノン・ソーウェルの監視に当たっていた死喰い人です」
思考を巡らす。何かの真実を釣り上げようとしている。
「ねえ、スワン。貴女達に毒って効くの?」
「いえ、呑んだことないんですが……? 確実に殺したいならやっぱり死の呪文が一番手っ取り早いですよ? 苦しませたいなら磔の呪文も効きますが」
自身の弱点になりかねないことをぺらぺら話すがグレンジャーが知りたかったのはそこではないらしい。
「ソーウェルの姿は愛の魔法で……じゃああれは……まさか」
釣れた真実は、彼女にとってもわたしにとっても実に意外なことだった。
「
「……はい?」
意味が分からなかった。けれども断片だけは理解できてしまった。そういうことか。ヴォルデモートがあれだけわたしと頑張っても何も成せなかったのは、既に母と子を成していたからか。確かにわたし達は何人でも産めるけれども、流石に母の相手とはつがえない。ヴォルデモートが母と産んでいれば、わたしとは子を成せないのだ。わたしの子とはその限りではないが。
「そうよ、そうなんだわ……! だから二人は生き延びたんだわ!」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいグレンジャー、レギュラス・ブラックは生きているんですか?」
思わずそう問うが、敵かもしれない人間に情報をくれるわけがなかった。グレンジャーは『わたし』にインペリオ。服従の呪文を躊躇わないあたりがもう末期だ。魔法界の英雄の友人がこうなってしまっては、他の仲間の程度も知れる。
とりあえず黙ってグレンジャーに従って、ブラックの家らしきところへ潜入する。そこにいたのはクリーチャー。七変化などしなくとも、彼はすっかり『わたし』を見抜いていた。
「ああ……貴女は! 貴女様は……! どうしてそのような穢れた血と同行されているのですか!」
「クリーチャー、ごめんなさい。きっとわたしは貴女の知る『わたし』ではないと思う。でも…わたし達は、あの人の最期の願いを叶えに来たんです」
ぎくん、と身体を跳ねさせて。クリーチャーはそれを手に乗せた。
「これを……いえ、こんな危険なものをお嬢様にお渡しするわけにはいきません!」
「わたしなら破壊できます。クリーチャー、あの人はそれのせいであなたに死んで欲しくないと思っているんです。分かってくれますか?」
会話の通じない人間よりも遥かに与しやすい。ハウスエルフは主に逆らわない。そして、きっと、彼は。わたしのことをもそう思うよう彼に言っていると思うのだ。
震える手でそれをそっと『わたし』に手渡して、『わたし』はすぐにそれを燃やした。悪霊の火――見て覚えた、あまりよろしくない魔法。グレンジャーも使っていたもので、そしてヴォルデモートの分かたれた魂をも焼き尽くせる魔法だ。
それを見届けクリーチャーの労を労って、グレンジャーとまた森の奥へと戻ってから。
「……っ、マーリンの髭よ、貴女服従の呪文も効かないの!?」
グレンジャーはそう叫んで頭をかきむしる。髪が痛むからやめた方が良いと思うのだが。
「慣れました。一体わたしがどれだけの頻度でそれに晒されていると思うんです?」
「……つまり! 私は貴女を信じるしかないってことね!?」
「信じたくなければここで死の呪文でも唱えて無害化しておきますが」
「極端すぎるわよ、それ……」
時間だけがちくたく過ぎる。グレンジャーが考え込んでいる。理論立てて自分を納得させたいのか、それとも反論を探しているのか。んーんーうなりながら考え込む様はとてもじゃないが先程までの荒みようとは似つかわしい。
そしてしばらく考え込んだグレンジャーは結論を出した。
「信じるわ。知恵を貸して頂戴、
「はあ……あなたがそう言うのなら、グレンジャー。けれど、条件はつけさせてください」
ハシバミの視線がそれを促してくる。それはもう魂にまで染み付いた願い。最早呪いとでもいうべき呪縛をわたしはグレンジャーに伝えた。
「最後には、わたしを。終わらせてくれると約束してくれますか? 殺して欲しいというわけではないんです。それは自分でやるので、せめて邪魔しないで欲しいんです」
その答えを聞く前に、わたしは意識を屋敷へと戻さなくてはならなかった。何故なら激烈な痛みに襲われたからだ。この痛さはベラトリックスだろう。
「さっさと起きな!」
「おはようございます」
傷だらけだ。また教授に治してもらえるだろうか。それとももう見放されてしまっただろうか。分からない。ベラトリックスはわたしを連れて地下牢へ。何とそこには決死の表情を浮かべたルーナがいた。
「シェイラ!」
「よぉく見ておけよ、ガキ。お前の覚悟っていうのはこういうことをされても逆らわない覚悟だぞ」
ニタニタ笑う死喰い人。ベラトリックスは鼻を鳴らし、慌てて他の死喰い人達に地上に戻されている。母体に障ると思われたらしい。それはそれとして彼らはわたしの着ているようで意味のない服を引き裂いた。露になる傷だらけの身体。
「……流石に悪趣味では?」
「良いだろ? お前以外とやれることなんてないんだからさぁ」
視線の先には小鬼がいて、見知らぬ男性もいる。姿くらましなどは出来ないようだ。けれど、ならば、わたしがすべきことは。死んで欲しいとまでは思わない彼女らを、死んでも別に構わない奴らから救わねば。
何百回と使い慣れたその呪文を、わたしは躊躇うことなどしなかった。
「アバダ・ケダブラ、息絶えよ」
エメラルドグリーンが瞬いて、わたしに触れた男が死んだ。硬直する他の男達。続いて唱えて息絶えよ、息絶えよ。死ね、消えてしまえ、この世にお前達がいるよりは、彼女らが生き延びる方がまだましだ。
「何で……」
「さあ」
死んだ男から鍵を奪って牢を開け、囚われ人を外に出す。するとルーナがわたしの手までつかんでぱちりと姿くらましをした。着いた先はホグワーツの前。何故ここに彼女は連れてきたのだろうか。とん、と背中を押されて。一歩近付いたそこには――
「……ダフネ?」
信じられないものを見るような顔をしたダフネがそこにいた。杖が振るわれ視界の下が色づいて。そういえば服を着ていなかったな、などと場違いなことを考える。痛みが癒えて、張り付いた血と汗とそうでない何かが清められて。
そうしてようやく彼女は口を開いた。
「……生きてて、良かった……っ」
――衝撃だった。イギリス中の誰もがわたしの死を願っているものだと信じてやまなかったからだ。そんなことを言われるだなんて思いもしなかった。それも、わたしはアストリアとドラコにとてもとても悪いことをしたのに。
堪えるように歯が鳴っていて、心配をかけたのだとは何となく分かる。でも、それでも、だけど。わたしは良かったなどとは思えない。わたしはわたしの産み出したものでどれ程の殺戮を繰り返したかもう記憶できないほどに罪にまみれてしまっている。
「ダフネ、わたしは……」
「何も言わないで……ここにいて」
出来るわけがなかった。それは、きっとわたしをダメにする。決定的に、全てを壊してしまう。だからわたしはダフネから離れた。信じられないものを見るような顔をしたダフネは目に涙を浮かべている。
「どうして……?」
「ごめんなさい」
こういう時でさえ言葉がうまく見つからない。見様見真似で姿くらまし。激痛。何かを置き忘れたらしいが構うものか。手はある、足はある。動ける、戦える――殺せる。なら、それで構わない。
いつしかホグワーツには死喰い人どもが攻め込んできていて、何人もの『わたし』で強引に結界を破壊しようとしていて。わたしはそれを利用して、死喰い人どもを鏖殺せしめた。溢れ出すオブスキュラスを死喰い人どもに向けて。死体、死体、死体の群れ。生き残ったものはほとんどいない。
ただしそれを代償に、ホグワーツの結界をも破壊してしまった。ヴォルデモートは心を壊して容貌も分からぬほど顔をかきむしった無惨な少女と見目麗しき黒髪赤目の幼女を従えて。足元には蛇が従って。悠々と宣言してみせた。
「ハリー・ポッターを差し出すが良い。そうすればホグワーツには手を出さんと誓ってやろう」
響き渡る声。しかしポッターは出てこない。今出ていけば無駄死にするかもしれないが、他の誰をも救えるやも知れないのに。彼は、彼らは、この恐ろしい闇の魔法使いと戦うと誓ったのだ。
全身全霊で生徒達が、教師達がヴォルデモートに挑む。それらは幼女の杖の一振でなぎ払われて、戦う力のない生徒達は後方へ。それを狙って蛇が地面を滑っていく。
たった一人の幼女に生徒も教師もかかりきり。ポッターは出てこない。無駄に人が死んでいく。指を咥えてみているだけなど赦されるものか。わたしはその場から飛び出した。
目の前に現れる憎きならず者ども。ネズミと狼と犬がそこにいる。少しやつれたベラトリックスも遅れて現れて、全員が全員杖を向けあって。
「アバダ・ケダブラ!」
先陣を切ったのはベラトリックス。その呪文が向けられたのはシリウスで、彼はそれを瓦礫を盾にいなして叫んだ。
「このっ、ワームテール! 戻ってこい!」
「むっ、無理に決まってるだろう!? どれだけ僕が殺したと思ってるんだ、パッドフッド! 僕がグリフィンドールなんて、やっぱり間違いだったんだよお!」
「今ここで生きているんだ、ワームテール! 死喰い人の中にいながらあの惨劇を生き延びたんだ、君は充分グリフィンドールじゃないか!」
身内同士の殺し合い。あちらではポッターとヴォルデモートの決闘が始まっていて、そちらでは蛇と少女と教師達が、更に奥では幼女が教授と戦っていた。
わたしはそんな中で――悪夢を見ているようだった。決意を秘めたその美しい瞳に縛られてしまう。ならず者どもの目の前に立ちふさがる美しい人が。ダフネが、そこに、いた。
「ダフネ……逃げてください」
「貴女が来てくれるならね、シェイラ」
「無理です。わたしは……人を、殺しすぎました。ここでヴォルデモートもろとも滅ぶべきです。誰も赦してなんてくれないし、わたしはそれを望んでない……!」
杖を、向けあった。わたしは今からヴォルデモートを殺しきるために動きたい。ダフネは何故だか全く分からないけれど、わたしを止めたい。双方の欲望がぶつかり合う。唐突に飛んでくる女を利用して、ダフネの視界から消えたわたしは一気に少女の後ろへ姿現し。
「ミス・スワン!」
「アバダ・ケダブラ、息絶えよ!」
蛇が邪魔をして一撃では仕留めきれなかったようで、瓦礫を撒き散らしながら少女は身を翻す。蛇が襲い掛かってくるが、躊躇わなかった筋肉質の少年が剣で止めを刺していた。
「スワン、君は……」
「誰だか知りませんが、早く退避しなさい。ヴォルデモートとポッターの巻き添えになりたくないならね」
「ええ……誰か知らないって、それはちょっと酷くない? ダンスパーティー、一緒に行ったじゃないか」
は? ちょっと心当たりが……いや待て、擦りきれた記憶の遥か遠くに、そういえばそんな顔があったような気がしないでもない。けれども今はそんなことを言っている場合でもないのだ。いつ流れ呪文が飛んでくるかも分からない中、悠長に話している時間が惜しい。
「覚えていませんね。それより先生方、早く皆さんを避難させた方が良いかと」
「……避難するなら貴女もですよ、ミス・スワン。貴女も大切なホグワーツの生徒ですから」
誰だったかもう忘れてしまった厳格そうな老女はそう言うが、生憎わたしはもう避難などということを考える権利すら残されてはいない。死なねばならない。死なねばならない。死なねばならないのだ。だってそうしなければ、何人の屍の上で生きなくてはならないのだ?
無言のままに姿くらまし。老女は消えて、わたしは次に幼女に襲い掛かる。失神呪文が無言のままに飛んできて、それを猫から老女に変わった先生が撃ち落とす。
「えっ……」
「セブルス! この頑固娘を何としてでも止めますよ!」
「へっ!?」
途端に攻撃が三人分になった。幼女に教授と先生だ。何故そこが共闘し合うのかわたしには分からない。けれども、それでも、ここで殺すべきは一人だけ。黒髪赤目の幼女である。先ほどの少女。『わたし』アストリアの娘。名前は――
「今だけは共闘してやる、アンタレス!」
「助かりますわ、おじ様!」
「いや、何でそうなるんです!?」
突っ込みどころは満載。けれどもどうすることも出来やしない。三人分の呪文に圧倒されそうで、何とかその場を脱出する。
けれども、ああ、わたしは失敗してしまった。姿現しをした先でそれを悟る。倒れ伏すルーピン。鬼のような形相で転がっているシリウス。何故か義手のようなもので首を絞められているペティグリュー。こいつらだけは、生かしていつまでも苦しんでもらいたかったのに。
高笑いするベラトリックスに杖を突きつけ短く告げる。
「アバダ・ケダブラ、息絶えよ」
ついでにエバネスコでペティグリューの銀の腕は消してやる。これは慈悲でも何でもない。ただの感傷だ。ギリギリ彼は死なずに済んだようで、呆然としてわたしを見つめている。
「何で……」
「ブラックにも言いましたが。生きて苦しんでください。母を壊したあなた達をわたしは決して赦さない。けれど、この手で仇を討つなんて意味がないことはしません。生きて、苦しんでください」
そこで幼女に教授と先生だ。姿くらましで逃走しようとすれば、今度はダフネに追い付かれた。
「何で逃げるの! このっ……このっ、弱虫!」
ああ、泣かせてしまった。けれどもこれだけは譲れない。
「弱虫結構。わたしは、死ななければならないんです。ダフネ、わたしは赦されてはならないんです。誰にも赦されるわけがない。ヴォルデモートに利用されたのは事実でしょう。けれども、だけど、現状に甘んじたのはわたしです。わたしが、全部、悪いんです。だから、死ななくては」
それに全方向から怒鳴り声が返された。
「やった奴が悪いに決まってるでしょ! バカなの!?」
「あの暴走を自発的にやったというのならそう言うのも構わんがね、スワン。君にそんな度胸があったとは思えませんな?」
「悪人がペティグリューを助けようとしますか! 貴女のようなお人好しに全ての責任を背負わせるような人間こそ裁かれるべきです!」
「だからといって私を殺そうとしなくても良いでしょう!? 私だって死にたくありませんわ!」
「お母様の言う通りですわ、馬鹿なんですのねお婆様!」
沈黙。流れ呪文が飛んでいく。
「……え?」
今なんと言った、『わたし』アストリアの娘? 聞き間違いでさえなければ彼女は『お婆様』などと宣わなかっただろうか。確かに間違いではないのだが、いや、流石にそれは……何かちょっと嫌かもしれない。いや、うん、そのくらい産んではいるけれどもだ。考えてはならないことを考えようとしてしまった。だって
そしてその停滞が全てを決した。人一人を失神させるにはオーバーすぎる五本の失神呪文をわたしは避けられない。倒れ伏し、拘束されて全てが終わるのを見ていることすら出来なかった。ただ終わって、ヴォルデモートが死んでポッターが生き残るのをあとで知っただけ。
わたしは、死ななければならないと思っていたのに。出来なかった。どうしても、出来なかった。