Weapon 10 脳カラ筋肉野郎
東京キングダムと同じく、東京湾の海に囲まれたもう一つの都市『東京臨海新都心』。この都市は政府による開発が途中で頓挫し見放された東京キングダムと違い、他の都市と変わらぬ普通の都市である。
深夜、その臨海都市の中央に建つビルの地下に岩鬼組の将造と三太郎、そして、対魔忍の高坂静流はいた。そこはパイプがいくつも通っている工場のような広い地下で、将造達は何十人もの柄の悪そうなチンピラやオーク達に囲まれていた。
静流はそんな彼らの中で、一際目立つ金属の肌をした筋肉質な巨躯の男に様々なカプセルが入った瓶を渡していた。
「これが今回の件上品である米連最新のサプリですか?」
「はい、マッスルジョーさん♪こんなサプリを毎回献上するだけで、カイザーをご紹介頂けるなんて、怪我で来れなかった若頭の代わりに重ね重ねお礼申し上げます。」
「フフフ…感謝して下さいね。貴方達みたいな小さなヤクザが、私の口利きとはいえ、ノマドのカイザーに会えるなんて本当に奇跡なんですから。」
静流から『マッスルジョー』と呼ばれた男は、受け取ったカプセルを水で胃に流し込んだ。
「これはいい。全身に力がみなぎってくる。ますます健康になりそうです。」
そんな陽気にサプリを飲むマッスルジョーをイライラした目で見ていた将造は、腹巻きに手を入れながら、マッスルジョーに詰め寄った。
「マッスルジョーさんよぉ…。サプリを飲むのもええが、肝心のカイザーは一体どこなんじゃ?こっちもガキの使いや無いんで。」
「ちょっと?!貴方!」
失礼な将造の物言いに、静流は怒って注意をしようとした時、広い地下室に若い男の声が響いた。
『貴様が、神魔組のヤクザどもか。』
その場にいる全員が、声の方向に顔を向ける。するといつの間にか将造達から正面にあった大きな扉が開いており、まだ二十代前半らしい男がお付きの者と一緒に立っていた。
「貴様が海座か?」
「人は私のことを皇帝、カイザーと呼ぶ。」
静流と三太郎がいきなり現れた海座を見てわずかに驚くなか、将造だけがずいと一歩前に出て、持っていた分厚いアタッシュケースを次々と開いていった。それらの中には、ぎっしりと札束が詰まっている。
「物はどこだ?」
「「「「「オオオ…!!!」」」」」
札束を見た周りのチンピラ達が驚くなか、海座だけが冷静な顔で隣の部下に合図を送る。頷いた部下は、スマートフォンを取り出し操作をした次の瞬間…
ガシュ!ガシュ!ガシュ!…
地下室の壁や地面が次々とスライドしていき、その裏に収納されてある数々の物が姿を表した。それらを見た三太郎と静流が汗を一筋垂らして驚く。
「す、すげえ…」
「まさか、東京の目と鼻の先にこんなにも多くの兵器が…」
戦闘経験豊富なはずの静流と三太郎が驚くのも無理はなかった。そこには銃や爆弾だけではなく、戦闘機や軍用ヘリ、さらには戦車までもが収納されてあったからだ。
「ククク…どうしました?これだけの兵器を見て怖じ気づきましたか?」
マッスルジョーは、小馬鹿にしたように将造に笑いかける。しかし、将造はそれを無視して海座に喋りかけた。
「わしらが欲しいのは、こんな物じゃねえ…」
海座は、半笑いして将造の方を向く。
「ほぉ?では、何が望みだ?潜水艦か?原子力空母か?」
「ミサイル…ミサイルだ。核ミサイルが欲しい!!!」
将造は、周りの者すべてに聞こえるほどの大声で、はっきりと宣言した。
「「「「「?!」」」」」
ジャキッ!!!!!!!
周りのオークやチンピラは、将造の言葉を聞いたとたん、にやけた笑顔から殺気だった表情に変わり、将造達に一斉に銃口を向けた。
しかし、その場で将造の言葉に一番驚いたのは、意外にも静流であった。
(嘘でしょ?!予定では、適当な武器を見繕ってもらいながら、別動隊の連絡があるまで時間稼ぎをする予定じゃない!)
海座も半笑いを止め、将造に真剣な顔でゆっくりと近付いてくる。
「その話、誰から聞いた?」
「この世界に住む人間はみんな言ってるぜ!ノマドのカイザーは、小国の軍隊以上に武器を持ってるってな!!」
やがて海座が、将造の前に立った瞬間…
「貴様…何者だぁ!!」
ジャキ!ジャキ!
憤怒の顔で両袖から拳銃を取り出し、将造の顔面近くに銃口を向けた。
三太郎と静流は、冷や汗をかいて二人の様子を見守るが、銃を突きつけられている当の将造は、少しも表情を変えずにさらに海座に話し続ける。
「俺は、武器を買いに来た極道だよ。」
「それじゃその頭をぶっ飛ばし、脳みそに直接聞くか?どうして核ミサイルなどに興味を持つ?」
「それはな…」
将造はわずかに笑みを浮かべた後で、必死そうに海座に取り付いた。
「わしらが今、もめとる岩鬼組は、凄い極道でよう!組員もわしらの組の十倍もおって、さらに組長の岩鬼将造って奴は、女にも死ぬほどモテて男気や顔、戦闘力も日本一の男なんじゃ!」
いきなり敵である自らを誉めちぎる将造に、静流は表情には出さないが、呆れると同時にさらに冷や汗をかく。
(敵なのに誉めすぎよ…このバカ!要塞ビルを爆破して、矢崎とリーアルを殺した貴方の名前はノマドじゃ有名なのよ!海座が気付いちゃうでしょうが!)
静流の心中に気付かない将造は、さらに海座にまくし立てる。
「チャカなんぞでやりおうても埓あかんで、一思いに核ミサイルでカタをつけたろうと思ったんじゃ!!」
「は?」
「何?」
「……?」
将造の言葉に周りのチンピラやオーク、さらにマッスルジョーや海座までも、困惑の表情に変わっていく。
周りの者達の表情の変化に気付かないかのように将造は、さらに説得を続ける。
「どうじゃ、わしらの組、助けると思うて核一つ分けてくれんかのう?三太郎!静流!ぬしらも頭下げんかい!」
「え?!は、はい!お願いします。わしらを助けてやってください!」
「お、お願いします…カイザー…核をく、下さい…」
三太郎は潔く、静流は顔をひくつかせながら頭を下げた。
「プッ!」
そんな必死そうな将造達を見た周りの者達は、一人が吹き出した瞬間に
『ギャハハハハハハ!!!!』
と爆笑の渦に巻き込まれた。
「なんだそりゃ?!」
「こいつら、まだドスだけで喧嘩やっとるんじゃねえのか?」
「このかっぺヤクザ!」
マッスルジョーも腹を抱えて大笑いしている。
「ハハハ…!貴方は私のナニ程の力も無い弱々しい体だから、そんなものに頼らざるを得ないのですよ。」
「そらどうも…」
将造が珍しく、後頭部を掻きながら愛想笑いをしている。
「「?!」」
しかし、三太郎と静流は見た。周りのチンピラには帽子で隠れていて見えないが、将造の額に太い青筋が浮かんでいるのを。
(あの脳カラ筋肉達磨は、一番最初にぶち殺す!!)
部下達の笑いが地下に木霊すなか、先程の言動で将造のことをただの世間知らずのチンピラと判断した海座は無表情な顔に戻り銃をしまった。
「フン!誰か適当に選んでやれ!俺は一時間後に来るあいつの準備をする!」
そう言って部下に指示した後、現れた扉から側近と共に去っていった。
静流は笑顔でお辞儀をして、この場を去る海座の後ろ姿を見ていたが心中では少し焦っていた。
(しまった…てっきり、海座自らが武器を買うまで私達に付き添うと思っていたわ。これは少し苦労するわね。こうなったら作戦の成功は、岩鬼にかかっている。けれど、一時間後に来るあいつって何者なのかしら? )
そう考えながら静流は、今だに青筋を立てて愛想笑いを浮かべる将造を見た。
時は一週間前に遡る。
人身売買をしていた神魔組とドグル率いるオーク達を殲滅した将造達は、神魔組の若頭に止めをさすところで若頭の携帯に『kaiser』と登録された者から電話が掛かり、一旦、止めを刺すのを止める。
助けを呼べば、殺してくれと懇願するまで痛め付けると将造に脅された若頭は、将造達の目の前で会話をし始めた。
話した時間はわずか数分だが、会話を要約すると、マッスルジョーという者の紹介により、一週間後に武器の取引をしてやるということだった。
若頭の会話が終わった後、再度止めを刺そうとする将造を緊張した面持ちの達郎達が止めた。達郎達が説明しようとした 直後、後詰めの対魔忍達が合流し、若頭は生きたまま連れていかれ、達郎達とも別れてしまい処刑は有耶無耶になってしまう。
将造達は、数ヶ月後の西日本の極道達が集まる西日本極道総会議が行われるまで、五車町に留まる約束をしており、五車町から出るのは、アサギから紹介された任務や組員達を集めるために東京の岩鬼組の拠点に行く時のみであった。
故に他の対魔忍達と共に五車町に帰還した将造達が、アサギから与えられた家に帰宅した時は、もう深夜の二時を過ぎていた。しかし、若頭を殺せずにいた将造はフラストレーションが溜まっており、就寝している三太郎と拓三を置いたまま勝手に五車学園の地下訓練場に入り、立体映像相手にストレスをぶつけていた。
「ウォォォォッッッ!!!!」
ズガガガガガ!!!!
五車学園の地下には、まるで本物のような立体映像を映す機械がある。その機械には、ドローン、対魔忍、軍隊等の行動データが入っており、様々な相手と擬似的に対戦することができるのだ。
「これで止めじゃあっ!!!」
ドスッ!!!!!
将造は、チンピラ、オーク、米連の軍人、さらには対魔忍が混合した集団を左手の銃で銃撃し、最後に隠し持ったドスで貫いて、シミュレーション訓練を終えた。
「ふんっ!これで少しは安眠できるわい。」
将造は、若頭を殺せなかったストレスを少しは解消できたようで、幾分かスッキリとした顔になっていた。
「さぁて…シャワーでも浴びて帰るかのぉ!」
そして、シャワー室に向かおうとしたその瞬間…
シュッ!
訓練場の暗闇から、いきなり将造の死角目掛けて一つの苦無が飛んできた。そのスピードは一般人からすれば、真正面でも受け止められるか解らない程である。
しかし…
パシッ…
将造は迫る苦無を、首を動かさずに前を向いたまま難なく右手で受け止めた。そして、受け止めた苦無を目の前に持っていき、数秒程眺め、ニタリと笑った次の瞬間、飛んできた暗闇の方向へ思い切り投げ返した。
バシュ!
「意地悪じゃのう。本物を使って殺す気で投げてくれんと、逆に反応しずらいわい。」
苦無を投げ返した暗闇に将造が声をかけると、その暗闇から苦無を顔面近くで受け止めたアサギが、ゆっくりと姿を表した。その姿は、対魔スーツではなくいつもの五車学園の校長らしい服を着ている。
「相変わらず気を抜かないのね。次から練習用のゴム苦無じゃなくて本物を投げようかしら。それにしても、いつの間にトップクラスの難易度のシュミレーション訓練をクリアできるようになったの?」
顔面に武器を投げ返されたのにも関わらず、アサギは何事も無かったかのように苦無を胸元にしまいながら問う。
「極道は、世間から排斥される存在だぜ。じゃから常に気が抜けん。それにこの機械は、リアルな動きが売りらしいが、所詮作りもん。生きとる人間と比べたら天と地の差じゃ。それより、こんな深夜じゃ。わしに用があって来たんじゃろ?」
「ええ、そうよ。まぁ緊急の件ではないから、先にシャワーを浴びてきて。話はその後よ。私は一階のロビーで待ってるから。」
そう言ってアサギは、階段の方に向かおうとするが、将造はそんな彼女にふざけた声で喋りかける。
「井河のぉ!ドグルの脳みそをホームランして、シュミレーション訓練までしたらすっかり疲れてしまったわい。わしの体、洗うのを手伝ってくれんかの?」
アサギは振り向いて、下品な将造の言動にもう慣れたかのように微笑む。
「別にいいけど、なよ子さんにばらしちゃうわよ?」
将造は、予想された答えが返ってきたかのように軽く笑った。
「わはは!それだけは、勘弁じゃ。すぐ行くから待っとれ。」
そして、笑いながらシャワー室に向かっていった。
アサギと一旦別れて十分後、シャワーを浴びた将造は、五車学園の生徒達の憩いの場である一階のロビーに付いた。辺りを見回すとアサギは、中央のテーブルにいる。テーブルには、二つのコーヒーが用意してあり、将造はアサギの対面の席に勢いよく座った。そして、置いてあるコーヒーを一口飲んでアサギに話しかける。
「で、改めて聞くが、わしになんの用事じゃ?」
「貴方が殺そうとした神魔組の若頭を私達がなんで止めたかの釈明と、これからの大まかな作戦の説明よ。」
アサギも同じくコーヒーを飲みながら、少し真面目な顔で話し始めた。
「若頭の携帯電話に登録してあった『kaiser』とは、ノマド幹部の一人である『海座隆』……」
話の内容を要約すると、神魔組の若頭が電話していたのは、朧やイングリッド、フュルストと並ぶノマド幹部の一人である海座であること。海座は只の人間でありながら、ノマドの武器販売を担当しており、その商売相手は対魔忍でも手を出すのが難しい大物が多く、しかも、少人数しか取り引き場所に立ち会うことを許さないため、今まで居場所がわからなかったこと。しかし、小さい勢力である神魔組が関西侵攻のため、東京キングダムのギャングでありながら、よく海座の護衛をしていると噂されたマッスルジョーに海座との取り引きを要請していたこと。それにより、偶然にも取り引き場所がわかったことである。
「取り引き場所は、『東京臨海新都心』の中央ビルの地下。若頭の話では、海座はどんな取り引きでも必ず顔を出して相手を確認するそうよ。将造、貴方が神魔組に化けて奴を倒して。」
コーヒーをすすりながら話を聞いていた将造は、話が終わると同時にカップを置き、アサギを睨むように見つめ返した。
「井河の、何故そんな大物殺害をわしなんかに頼むんじゃ?居場所が解ったなら、今すぐにでもぬしが忍び込んで殺せばいいじゃろが?」
将造のもっともな質問にアサギは、少しため息をついて、残念そうな顔になった。
「それがそうもいかないのよ…。米連、中華連合、闇の住人達でさえ、暗黙の了解で奴に手を出さないことになってるの。特に日本政府からは、公式な命令で海座に手を出すなと通達されているわ。」
「何故だ?奴は、対魔忍でも魔界のモンでもない只の人間なんだろ?」
不思議そうな顔をする将造にアサギは、驚くべき一言を放った。
「奴は、核を持っている…」
「ブハッ?!」
将造は、驚きのあまり口に含んでいるコーヒーを吐き出した。
「核って、原子爆弾のことかぁ~?!」
「そうよ、核ミサイルよ。あいつが初めてその事を宣言したときは、誰もそれを信じなかった。けれどある時、海座の名で日本政府に本物の核ミサイルが送られてきたのよ。その一件が裏に広まり、誰も海座に手が出せなくなった。その核ミサイルが、日本のどの方向に向いているか解らないしね。」
ドンッ!
アサギの弱気な言動を聞いた将造は、コーヒーが倒れるほど強く机を叩いた。
「何を寝惚けたこといっとる!ぬしならそんな奴、発射ボタンを押す前に仕留められるはずじゃろうが?!」
怒鳴る将造に対して、アサギは落ち着いた表情を変えずに喋り続けるが…
「それができたら話は簡単なんだけど、核の起爆装置はね…」
いきなりカッと目を見開き、逆に将造を見返した。
「海座の体内に埋まっている!つまり、奴自身が人間核爆弾なのよ!!海座が死ねば核ミサイルは発射され、日本のどこかで核の炎が吹き上がる!」
「?!」
アサギの迫力ある言葉に再度、将造は驚く。
「標的は、もしかしたら東京キングダムやアミダハラかもしれない…だから、裏では絶対に海座に手を出してはいけないことになっている。対魔忍は秘密裏の存在だけど、一応は日本政府の公安部に所属しているから表向きは手が出せない。けれど、貴方みたいな極道なら…」
「ふふ…なるほどのう。」
アサギの意図が将造にも読めてきた。日本政府や裏の者達に縛られない将造なら、海座と自由に戦えるということである。
「日本政府には内緒で、私達もバックアップする。多分、核ミサイルは海座がいる臨海新都心の中央ビルのどこかにあるはず。貴方が取り引きしている間に、私達が核を無効化するから、海座はその後で煮るなり焼くなり好きにしたらいいわ。」
アサギの言葉を聞くと、将造は味方が絶対の信頼を置く凶悪な笑顔になった。しかし、数秒後、何かを思い出したかのように真顔に戻り再びアサギに問うた。
「そういえば、海座のことは解ったが、護衛のマッスルジョーってアホみたいな名前の奴は、何もんじゃ?」
「変な名前の奴だけど、油断は禁物よ。マッスルジョーは、最近力を付けてきている東京キングダムの闇の組織『マッスル団』のボス。健康をこよなく愛する健康マニアだけど、その健康維持方法は、女を孕ませてその胎児を引っ張り出して食べることらしいわ。神魔組の若頭はこいつに毎回、米連最新のサプリをプレゼントすることで海座を紹介してもらったらしい。」
胎児を食べているという言葉辺りで、将造は舌を出した嫌悪感丸出しの顔になった。
「オエッ!頭が悪そうな団体名のうえに気持ち悪いことをしとるのう…」
「まぁ、そこには同意だわ。とにかく、取り引き場所にはこいつもいるはずよ。だから、神魔組が献上するサプリに対魔忍特性の毒を混ぜるわ。弱ってきたところを…」
「任しとけ!!海座もマッスルジョーもこの『極道兵器』が皆殺しにしちゃるわい!がはは…!」
陽気に笑う将造を見て、アサギはわずかに笑みを浮かべる。
(極道兵器VS人間核野郎with健康馬鹿野郎…か。)
そして時は進み、海座と出会う十分前、将造、三太郎、静流は、臨海新都心のビル前で作戦内容の最後の確認をしていた。
「最後の確認よ。最初は私達が取り引きをしている最中にアサギさん達が、ビル内のコンピューター施設に忍び込み、核ミサイルの場所を調べる。場所が判明したら、こちらが大暴れをして、敵の人数、注意をこちらに集中させる。あちらが核ミサイルを無力化させれば、私達が遠慮なく海座を始末する。」
説明を続ける静流は、持っているバックからカプセルがいくつも入っている透明なビンを取り出した。
「マッスルジョーは、博士号を何個も持っている私が、毒遁の使い手である柳六穂ちゃんと協力して作ったこの遅効性の毒で何とかするわ。いつももらったサプリをその場で飲むマッスルジョーは、時間が経つごとに段々と弱っていき、やがては死に至る強力な効果を持つ毒で…」
「作戦内容はわかっとるが静流、わしからお願いがあるんじゃが。」
将造は、自慢気に説明する静流の話の腰を折る。
「何です…?作戦以外では下の名前で呼ばないで欲しいんだけど。」
静流は、訝しげな表情で将造を見る。
ノマド幹部の一人である海座殺害という最重要な作戦である。故にアサギは、将造にいつも同行しているまだ生徒である達郎達ではなく、理知的で将造の暴走を止められる実力を持つ高坂静流を組ませたのだ。
しかし、一ヶ月少し前、将造のマシンガンに殺されかけた静流は、アサギの命令とはいえ、目の前の男と仲良くなる気などさらさらなかった。
「サプリの中にこれも混ぜてくれんかの?」
静流の表情を全く気にしない将造は、笑顔で腹巻きから一つの錠剤を取り出した。
錠剤を受け取った静流は、益々訝しげな表情になり、それを眺める。
「これは?」
「あるツテで手に入れたよく効くサプリじゃ。」
「どんな効果があるの?即効性がある奴は駄目よ。」
「安心せい、ぬしの薬より遅効性じゃ。しかし、それを飲めばどんな奴でもぶっ飛ぶぜ!」
(アサギさんの話では、岩鬼はクスリ関係は嫌いって言ってたけど?まぁ、いいわ。私が配合した薬は、無効化するかとなんてできないし。)
「まぁ、いいわ。」
静流は、渋々といった顔で受け取った錠剤を瓶に入れた。
そして、現在。
ギシッ…ギシッ…
「ああ~いい~!!最高!!」
「うぉぉっ!この戦車具合がええぞー!」
三太郎が、海座に任された部下と交渉している時、近くの戦車が激しく揺れ、将造と静流の嬌声が響いていた。
「オタクの上司、大丈夫かい?いくら、武器を大量に見て興奮したからって、こんなとこでおっぱじめるとはよう。ここの武器は全部、玉が入っているから発射しないように気を付けろよ。」
交渉相手のチンピラが、ニヤニヤと笑いながら三太郎に問う。
「ははは…どうもすいません。」
三太郎は、恥ずかしそうに頭を掻いた。
しかし、激しく揺れて艶やかな声が漏れる戦車の中では…
「せいやっ!せいやっ!」
『まだ、指示は来んのか?イライラで文字通り暴発しちまうぜ!』
「ああっ~激しいっ~!」
『もう少し、待ちなさい。今、コンピューターで解析しているところよ!』
外に響く嬌声とは真逆に将造と静流は、お互いにイライラした顔で座りながら、携帯の文字で会話をしていた。戦車の中にいるのは、随時来る秘密の連絡を見られない為であり、さらにそれを怪しまれないためにSEXをしている振りまでしていたのだ。戦車が揺れているのは、イライラしている将造の貧乏揺すりである。
「おら~!いつもみたいに『ブヒブヒ』豚みたいに鳴かんかい!」
『早うせいと伝えい!この乳尻でか豚!』
「ぶ、ぶひ…ぶひ…」
『なんていうこと言わすのよ!トリカブト飲ますわよ!』
ブルブルブル…
戦車の中で、将造と静流のフラストレーションが爆発しかけていたとき、静流の連絡用の携帯にまたアサギから連絡が入った。
その画面の文字を見た静流の表情が変わる。
「岩鬼!」
そして、急いで将造にも見せる。将造は、その内容を見た瞬間、イライラから解き放たれた凶悪な笑顔に変わった。
その数秒後…
ドゴォォォォン!!!!
「「ぎゃんッ!」」
嬌声が漏れる戦車の砲身から、いきなり砲弾が飛び出た。たまらず砲身の先にいるオークが二、三人ミンチと化す。
「な、なにをし…」
三太郎に武器を説明していたチンピラは、その様子に絶句するが…
ズドン!
驚いている隙に、自らが説明していた銃で三太郎に撃ち殺された。
「若ぁ!アサギさんから合図が来たんですかぁ?!」
三太郎が大声で戦車に声をかけると、笑顔の将造が顔を出した。
「ああ、ついさっきな!三太郎、お前も乗れ!この戦車、いい音出すぞ!そうじゃ!ついでにそのジェリ缶とポンプも積んでおけ。」
「こんなの何に使うんすか?」
「後のお楽しみじゃ!」
「な、何が起こったんだ?」
「今の爆音は?」
「武器庫からだ!早く扉を開けろ!」
突然の轟音に、オークやチンピラが武器庫の扉前に集まり扉を開けようとする。
しかし…
ドガァァァッッッ!!!
その前に戦車が扉を破壊して勢いよく飛び出してきた。
「「「ギャアアアァァァガガガガ……!」」」
ゴッットン!キュラキュラキュラ……
扉の近くにいた数人のチンピラやオークが、戦車の下敷きになる。
「「「ヒイィィィ!」」」
その惨状を間近で見た他の者達は、我先にと逃げ出すが…
ドゴォォォォン!!!!
「「「ギャアッッ!」」」
「すんません!いじっていたら動きだしおって、止め方がわからんのじゃ~!」
戦車から逃げるチンピラやオークに砲弾を炸裂させながら、顔を出したままの将造は棒読みで謝罪する。だが、戦車内の三太郎には…
「次は右じゃ、三太郎!全員!轢き殺せ!」
と容赦ない命令を下していた。
そんな将造達を静流は、ハラハラした様子で見守っている。
(アサギさん…早く核ミサイルを破壊して下さい。こいつらは多分、海座を見たら…)
静流の心中を余所に将造達が駆る戦車は、逃げるチンピラを追って廊下をそのまま進んで行く。
しかし…
「フフフ……やはり、貴方達は偽物でしたか?どうりで言動が田舎臭いわけですね。」
廊下の曲がり角から、メタリックの輝きを放つ巨体が現れた。一旦奥で休むと言っていたマッスルジョーだ。
将造と同じく顔を戦車の外に出している静流は、その姿を認めると驚きの顔に変わった。
「嘘…予想なら、昏睡状態で死の瀬戸際にいるはずなのに…ましてや動けるなんてありえない…もしかして、後で吐いた?いや、それでも…」
驚き顔の静流と対照的に、将造は凶悪な笑顔でマッスルジョーを睨む。
「ほう、随分と点数が高そうな射的のだるまじゃわい。三太郎!あの筋肉だるまに向けて、はよ発射せい!」
「わかりました。若!」
三太郎は、素早く砲身をマッスルジョーに向ける。
だが、マッスルジョーは戦車の砲身を前にしても微動だにしないどころか、面白そうに笑っていた。
「ククク……やってみなさい。」
三太郎はその笑顔を見て顔を少しひきつらせながらも、遠慮なく発射の引き金を引いた。
「食らえぇっ!」
ドゴォォォォン!!!!
砲弾は、狙いを違えることなくマッスルジョーに着弾し、周りは砂煙に包まれた。しかし、砲弾によって生まれた煙の中から、生き生きとした声が聞こえてくる。
「初めて戦車の砲弾を受けましたが、どうってことないですねぇ!」
その言葉が終わると同時に煙から現れたのは、体に傷一つないマッスルジョーであった。逆に砕けたのは、砲弾の方だ。
「ば、化け物だ…」
三太郎は、人をミンチにする戦車の砲弾を受けながらも大笑いをするマッスルジョーを見て顔が青ざめる。
「三太郎くん!少し後ろに下がって。」
いち早く頭を切り替えた静流は、呆ける三太郎に激を飛ばしながら戦車から飛び出し、マッスルジョーの前に降りたった。そして、愛用の植物の鞭を出現させ、目の前の化け物に臆することなく問いかける。
「どうやら、私の愛を込めたサプリは、すぐに吐き出したようね?残念だわ。」
気丈な静流の言葉にマッスルジョーは、わざとらしく首を捻る。
「ああ、あのサプリに手作りの毒でも入っていたのですか?残念ですね。言ってくれれば、水で流し込まずに味わって食べてあげたのに。」
マッスルジョーのふざけた口振りに苛ついた静流は、忍法の準備に入る。
「減らず口を!じゃあこれはどう?忍法花散る乱!」
静流が鞭を振り回した瞬間、空気中に花が咲き、そこから生まれる毒粉がマッスルジョーを包み込んだ。一息吸えばどんな者でも昏倒する静流の得意技『忍法花散る乱』だ。
しかし、マッスルジョーは、自分を囲む毒粉に慌てずゆっくりと息を吐き出した次の瞬間…
シュゴォォォッッ!!
常人にはあり得ないほどの肺活量で花から生まれた毒粉をすべて吸い込んだ。
「?!」
静流は、その常人を越えた肺活量と毒粉を自ら吸い込む行為に心底驚愕する。
そして、数秒で静流の出した毒粉をすべて吸い込み終わったマッスルジョーは、渋い顔をしながらも何事もないように毒粉を痰として吐き出した。
クチャクチャ…ぺっ!
「これは…香りは良いですが、味覚の方は食べられないほど苦いですね。」
「う、嘘…」
その一連の様子を見た静流は、自慢の忍法を破られてショックを受けると同時に、先程言っていたサプリをすべて飲んだと言うマッスルジョーの言葉が真実であると理解した。
「私の完全健康ボディに毒なんて効きませんよ。絶望しているようですが、殺しはしません。貴方も私の子を孕む権利を差し上げましょう。」
メタリックに輝く巨体がまた笑い、三太郎、静流がその人外さに声を失う。しかし、その笑い声を馬鹿にするかのような陽気な声が響いた。将造の声だ。
「わぁーはっはっはっ!さすが自分の子供を食っとる○○ガイ野郎じゃわい。馬鹿じゃから風邪どころか毒も効かんらしいのう。」
将造の言葉を聞いたマッスルジョーは、視線を静流から将造に変えて少しため息をついた。
「ふぅ…またそのデマですか?私は胎児なんか食べたりはしませんよ。奴隷を孕ましているのは本当ですけどね。」
「ほぉ……じゃあ、全員育てとるんか?」
「いえいえ、ただその命を悪魔に捧げているだけです。この完全無欠の健康ボディは、悪魔と契約して得たのですよ。」
そういってマッスルジョーは、自分の体を見せびらかすようにポーズを決めた。
「イカれてる…」
「ひどい…」
健康の為だけに自分の子供を悪魔に捧げているという鬼畜な言葉を聞いた三太郎と静流が、怒りと嫌悪の表情を見せる。そんな中、将造だけは矢崎やドグルを殺した時のような殺気が籠った笑顔になっていた。
「ほぉ、じゃあその健康さをもっと見せてもらおうかい!轢き殺せ!三太郎!」
素早く戦車の中に入った将造は、三太郎に命令する。
「了解!こいつは絶対許しちゃおけねぇぜ!静流さん、どいてくれ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
三太郎が操る戦車が凄いスピードでマッスルジョーに突撃した。
「くっ?!」
静流は転がって戦車を避けるが、マッスルジョーは少しも動かない。
そして、戦車はそのまま、マッスルジョーに激突した…かに見えた。
ドシィッ!!!
「ハハハ…全然駄目ですね。」
激突したのでない。何十トンとある戦車の突撃をマッスルジョーは、楽々と受け止めたのだ。
「くそ!」
ギュルルルルルル!!!!!!
三太郎は、エンジンを全開にして再度轢き殺そうとするが、履帯は地面を削るのみで全く動かない。
その必死な様子にマッスルジョーは、再度溜め息をついた。
「ふぅ~もう飽きてきましたよ。噂の対魔忍も期待外れでしたしね。どおれ、このまま亀のようにひっくり返してあげましょう…ふん!」
「うわぁ!」
戦車の前部がゆっくりと浮いて行き、三太郎が悲鳴を上げる。
「ちょっと待たんかい!」
すると将造が、浮いていく戦車から顔を出した。
「何です?命ごいならききませんよ。私に失礼な言葉を吐いた貴方は、直々に私が踏み馴らして、永遠に地面とSEXさせてあげますよ。ハハハハハハ…」
将造は、戦車を持ち上げながら大笑いをするマッスルジョーの口内と体を見た瞬間、ニタリと勝ち誇った笑みになった。
「やはり、ぬしは筋肉だけの大馬鹿じゃ。自分の体の異常さに気づかんとはのぉ。肩と太ももをよぉ見ぃ!!」
「え?!」
マッスルジョーは、将造の言われるままに自分の肩と大腿部を確認する。すると元々常人より太いそれらが、両側ともさらに膨れ上がっていた。
「な、何だ?」
自分の体の異常さに気付いたマッスルジョーは、持ち上げていた戦車を離して、再度全身を見る。
「な、何が起こっているの?岩鬼!貴方何を飲ませたの?!」
床に伏せたままの静流もマッスルジョーの体の変化に気付き、驚愕した顔でニヤけた将造に問う。
「驚いたじゃろ?実は…」
「うがァァァァッッッ!!!」
ボコボコボコ…
将造と静流が話している間にもマッスルジョーの両肩と両大腿部の付け根が段々と膨らんで行く。
「わしがぬしに渡した錠剤はなぁ… キメラ微生体じゃあ!!!」
「ぐぎゃああああっっっ!!!!!」
ドォッバァァァン!!!!
将造がネタばらしをした瞬間に、マッスルジョーの四肢は、根元から爆発した。
ボト…ボト…ボト…ボト…
「あがぁぁっっ!!!な、何で?私に毒はすべて効かないはずなのにぃ?!」
四肢が勢いよく弾け飛んだマッスルジョーは、奴隷刻印が刻まれた舌で悲鳴を上げながら、熱いアスファルトをうねる芋虫の如く転げ回った。
将造は、そんなマッスルジョーの惨状を見て大笑いをする。
「わぁーはっはっはっ!見ぃ静流!筋肉達磨が、ただの芋虫になったわい!」
床に伏せていた静流は立ち上がり、勢いよく戦車に飛び乗って、笑う将造に問うた。
「岩鬼、貴方どこであんなもの手にいれたの?」
「じつはな…」
将造は、一ヶ月以上前の要塞ビルの攻防のことを素早く話し始めた。
その話の内容とは、リーアルをクッションにして地面に激突した時、将造は死んでいたリーアルから錠剤が入ったビニールパックが飛び出したのを見つけた。そして、それを達郎を助ける前に腹巻きに隠したことである。
「ゆきかぜと凛子の話じゃキメラ微生体の爆発条件は、リーアルのバカに逆らうことと、ヨミハラを離れることらしいぜ。じゃからこの前、ミスターSっちゅう拷問好きに内緒で飲ませて確かめたんじゃ。そうしたら、一時間程で爆発してのぉ。」
「なるほど、リーアルはヨミハラに戻ったら素早くキメラ微生体をゆきかぜちゃん達に再投与するため、自分でいくつか所持していたのね。それにキメラ微生体は、厳密にいえば毒ではなくナノマシンだから、マッスルジョーにも効いたのか。」
「その通りじゃ。よし!静流、次はあの芋虫を拘束せい!」
「わかったわ。けれど、絶対この任務が終わったらすべて提出しなさいよ。」
いまだに転げ回るマッスルジョーを静流は、将造の言うとおりに植物を地面から生やし仰向けで拘束した。
シュルシュルシュル…
「ウガァァッッ……」
十全な状態なら数秒で引きちぎれる植物だが、さすがのマッスルジョーも四肢がない状態では大人しく縛られるしかない。
拘束されたマッスルジョーを確認した将造は、三太郎に命令する。
「よし、三太郎!次はあいつの股間目掛けて、『パンツァーフォー』じゃ!」
「了解♪」
三太郎は、にこやかに返事をした。
「や、やめろぉぉっっ!」
逃げようとするマッスルジョーだが、四肢がなく、さらに静流の植物で縛られているため逃げることも転がることもできない。
そして、戦車の片側の履帯がゆっくりとマッスルジョーの股間に乗り上げた。
ゴッットンッ!プチッ♪プチッ♪
「ぐぎゃあがががが!!!!」
いくら悪魔が与えた健康な睾丸でも、何十トンとある戦車には耐えられない。故に今まで悪業を重ねてきた精子を量産してきた二つの睾丸は、プチトマトのように簡単に潰れてしまった。そして、皮肉にも胴体自体は完全健康ボディ故に戦車の重さでも簡単に落命できず、マッスルジョーは徐々にプレス機に潰されるような生き地獄を味わっていた。
「ヒュッヒュッヒュッ…」
肺が押し出されて、わずかな空気しか吸うことができないマッスルジョーは、浅い呼吸を繰り返す。
戦車はそのまま頭部まで進んでいくと思われたが…
「三太郎、一旦停止せい!」
「え?はい!」
胸元で一時停止した。
「どうしたの?岩鬼?」
静流が不思議そうに問うなか、将造は勢いよく外に飛び出した。そして、苦悶のマッスルジョーの頭の前に仁王立ちし、凶悪な笑顔で見下ろす。
「さっきは、よくも大口開けて笑ってくれたのう!芋虫野郎!この岩鬼将造が直々に落とし前をつけさせてやるぜ!」
「き、貴様が、要塞ビルを爆破した岩鬼将造だったのか…。」
マッスルジョーは、悪魔も恐れるであろう凶悪な笑顔の男が岩鬼将造だと分かり、ガタガタと震えだした。
「ほうじゃ!じゃが、わしはぬしみたいに趣味が悪くなくてのう。そんなにガタガタ震えているんじゃ、なぶり殺す気もなくなってきたわい。」
「え?!」
マッスルジョーの顔にわずかながら生気が甦り始める。
(もしかして、命だけは助けてくれるのか?この四肢は叔父さんに頼んで魔界の技術で再生して…)
「そうじゃ!散々動いて喉が渇いたじゃろう?三太郎!」
「はい!元気が出るこれですね!」
三太郎は、ある二つの物を将造に手渡した。それを見たマッスルジョーは、自らの考えはサッカリンより甘いことに気が付く。
「ま、まさか?」
将造に手渡されたもの物は、ガソリンが満タンに入ったジェリ缶と灯油ポンプであった。
「歓喜に震えとるのぉ。わしからの水分補給じゃあ!!ありがたく飲みやがれぇ!」
ズボっ!
そう言って、いきなりポンプをマッスルジョーの口に無理矢理差し込み、素早くガソリンを直接胃に送り始める。
ギュポ…ギュポ…ギュポ…!
「な、何を…オゴ!ゴポ…ゴポ…ゴポォ!」
咽頭に直接差し込まれているために嚥下反射が起こり、異物を喉に突っ込まれている犬や熊と同じく口で噛みきることができない。そのうえ戦車の重さで肺が圧迫されて、空気を吐いてガソリンを口内から出すこともできない。
だが、その最中に武器を取ってきたチンピラやオークが集まって来る。
「居たぞォ!こっちだ!」
集まって来る敵を確認した静流は、将造を急かす。
「岩鬼、早く!他の奴等が来る!」
「わかった!すぐ戻る。よし、最後の仕上げじゃ!」
バシャバシャ!
ジェリ缶に入っていたガソリンの四分の一程をマッスルジョーの胃に流し込んだ将造は、自分にはかからないように気を付けながら、残りを戦車に挟まった体に振りかける。
「マッスルジョー!後は自分のガキの命を糧にした自慢の筋肉でなんとかせぇ!」
すべてのガソリンを振りかけてジェリ缶を捨てた将造は、ニヤリと笑って戦車の中に戻った。
「三太郎!今度こそ発進じゃっ!」
「了解!」
そして、将造達が乗った戦車は、ガソリンまみれで苦悶の表情のマッスルジョーを頭部をゆっくりと引いていく。
「オゴゴゴ………」
マッスルジョーは、顔面にも地獄の苦しみを味わいながらまだ生きていた。このまま何事も無ければ、ガソリンが体に入っていたとしても、完全健康ボディ故に命だけは助かるだろう。
しかし…
「わぁ~♪誰かとめてくれ~♪」
「ふざけんなこの野郎!撃て!撃てぇ!」
集まってきたチンピラとオークが、戦車から顔を出して挑発する将造に弾丸を発射しだした。
それを見たマッスルジョーの青白い金属色の顔面がさらに青ざめる。
「やめろぉぉっっ!撃つなぁァッ!!」
口の中のガソリンを辺りに飛び散らせながら怒鳴る。
しかし、一つの跳弾からわずかな火花が飛び散った瞬間…
ボボボボボ!!!!!!
その火花が周りに散乱するガソリンに引火した。小さな火花は、大きな炎に変わりマッスルジョーに勢いよく迫る。そして…
「あづぁっっっががが!!!!」
一瞬で体に燃え移り、炎は体を縛る植物を燃やして体を包みこんだ。それだけではなく、炎は無理矢理ガソリンを入れられた胃まで到達したらしく、ギャグマンガで激辛の食べ物を食べた時のように口から勢いよく炎が吹き上った。
「ボボボボボォォォ????!!!!」
だが、これだけ悲惨な状態になってもマッスルジョーは、完全健康ボディ故に中々死ぬことができず、苦しみのあまり火だるまのまま転げ回る。
ゴロゴロゴロゴロ!!!
「く、来るなぁ!」
「おごふっ!」
「うわぁ!服に燃え移ったっ!」
ガソリンまみれで転がるマッスルジョーは、四肢なき体でもその巨大さ故に将造達を追っている味方を偶然にも巻き込んで行く。
「くそっ!まずはこいつを殺せぇ!」
ズドン!ズドン!ズドン!
後ろの追っ手達は、将造の戦車よりも火だるまで転げ回るマッスルジョーを相手に銃撃し始めた。だが、戦車の砲弾をも弾き返す体故に殺すことも止めることもできない。
「あがががぁぁっっ!!!」
一方、マッスルジョーも拳銃程度では死にたくても死ぬことができないため、悲鳴を上げながらも元気に味方を巻き込み続ける。
戦車の中にいる静流は、外を見ずとも廊下中に響くマッスルジョーの断末魔の叫びで外の様子が手に取るように解っていた。
(自分の欲望の為に、子供を殺し続けた悪党にふさわしい末路ね。まぁ、時間がかかっても一時間後くらいに死ねるでしょ。それまで頑張って敵を足止めしてちょうだいね。)
戦車から上半身を出した将造は、炎に包まれた地獄のような惨状をバックに、大笑いしながら前進していく。
「うわぁっ~はっはっは!極道兵器のお通りじゃっ~!!!」
マッスルジョーさん、本編よりグロく殺してすいません。