対魔忍者と極道兵器   作:不屈闘志

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Weapon 13 人間核野郎 後編

数分前まで豪華だった室内バーは、今は見る影もない程あちこちに炎が上がり、火の粉が舞い散っている。

 

そんな惨状の中、将造、三太郎、さくら、静流の四人は、いきなり現れた紅い対魔スーツを着た女と対峙していた。

 

彼女の名は、甲河朧。十数年前、対魔忍でありながら敵であるノマドに付き、さらにアサギの婚約者の体を乗っ取り、アサギ、さくらを嬲りものにした裏切りの対魔忍である。

 

(こ、この女…ヤベェ。海座やマッスルジョーのバカとは、比べ者にならねぇ程のオーラを感じる…)

 

三太郎は、アサギが話していた特徴と対魔忍の二人の反応で、目の前の女が将造の父である岩鬼組組長を殺害した朧であることが分かった。しかし、すぐにでも銃撃したい思いとは裏腹に、アサギや将造と同レベルの実力者であることを肌で感じ、動くことが出来ない。

 

(まずい。まさか、こんな大物が現れるとは…海座が言っていた一時間後に来る奴は、こいつのことだったのね…)

 

静流は、焦る表情を隠しながら、これからこの状況をどうやって打破するか考え始める。

 

(………朧!!!!!!!)

 

さくらは、いつものおちゃらけた表情が吹き飛び、憎しみの表情で朧を睨んでいた。さくらは、かつて朧により十五歳の身で無理矢理処女を失った。さらにアサギと同じ、感度が3000倍となる肉体改造を施され、魔科医である『桐生佐馬斗』から治療されるまで十数年間も苦しみ続けた。故にその恨みや憎しみは、常人には計り知れない。

 

だが、朧と対峙する多種多様な表情をする四人の中で、一人だけ満面の笑みを浮かべている者がいた。

 

将造だ。

 

「ぬしが朧か…会えて良かったぜ。なんせ昨日まで、わしの足のつま先の細胞から腕の細胞一つ一つが毎晩夜泣きをしとったんじゃ。ぬしに会いたい、会いたいとのぉ…」

 

将造は左手の義手を嵌めながら、殺意を込めた笑みを朧に向けた。

 

((((ウッ…!!!???))))

 

ブルッ…

 

朧の周りにいる傭兵達は、相手を上回る最新の軍事装備を身につけているのにもかかわらず、迫力ある将造の笑みに一瞬だけ身震いする。

 

「フフフ…」

 

しかし、朧だけはそれ以上の邪悪な笑みで、将造に微笑み返した。

 

「あんたがブラック様が言っていた岩鬼将造ね。この前殺した岩鬼組の会長とは、全く顔が似てないから分からなかったよ。」

 

朧の口から会長という言葉が出た瞬間、将造の眉がピクリと動いた。

 

「やはり、ぬしがわしのクソ親父を殺したんか。」

 

「そうよ。死ぬ間際のパパのこと教えてあげましょうか? 助けてー助けてーって、私の靴裏を必死にペロペロ舐めるものだから、可哀想になってこの鉤爪で喉を掻っ切って、一瞬で地獄ヘ送ってあげたのよ。私って優しいでしょう? アーハッハッハッハッハッハ!!」

 

朧は、将造を挑発するかのように腹を抱えて笑いだした。

 

ギリッ!!!

 

朧の大笑いを三太郎、さくら、静流は憎々しげに見る。

 

「アハハ『うわはははははは!!!』ハ…?」

 

しかし、朧の笑い声をかき消すような将造の大笑いが響く。

 

「わはははははは!! そうか、そうか、やはり、ぬしがわしの代わりに親父を殺してくれたんか。こりゃ手間が省けたわい。」

 

「手間が省けた?」

 

「わしのクソ親父はなぁ、仁義だ人情だとかを大事にしとる化石のような極道じゃった。じゃが、今の時代はそんな微温いモンは通用せん。じゃから、わしがぶち殺して組を乗っ取る予定だったんじゃが、ぬしが代わりに殺してくれたおかげで予定が早まったぜ。会ったら絶対にお礼をしようと思っとたんじゃが、そちらから来てくれて助かったわい!」

 

「へぇ、だったらどんなお礼をしてくれるのかしらぁ?」

 

「ちょっと待っとれ。今は持ち合わせが少なくてのぉ。」

 

そう言って将造は、両手で腹巻きの中を探り始めた。

 

朧は少し興味があるのか、意外にも将造の行動を見ているだけで手出しをしない。

 

「おお、見つけた、見つけた。心苦しいのぉ…渡せる物が生憎…」

 

数秒後、目当ての物を見つけたように朧へ笑いかけた次の瞬間…

 

「細けぇのしかねぇぜッ!!!」

 

いきなり二丁のコルトパイソンを取り出し、西武のガンマンの如く、朧の頭と心臓をそれぞれ銃撃した。

 

ズドン!ズドン!

 

しかし…

 

キィン!キィン!

 

「「「「?!」」」」

 

「フフフ、随分と手ぬるいお礼ね。あの要塞ビルを爆破したって聞いていたけどガッカリだわ。」

 

朧は紅い口唇で再度微笑む。機械化傭兵のファウストさえ防げなかった将造の早撃ちの弾道を一瞬で見切り、さらに両手の鈎爪の鉄甲で難なく弾いたのだ。

 

「う、嘘だ。若の早撃ちを避けるんじゃなく、弾を見切って弾くなんて人間じゃない…」

 

三太郎は、今まで一度も標的を外さなかった将造の早撃ち、しかも頭と心臓をバラバラに狙っていた弾道を見切った朧の実力に恐怖した。

 

銃撃された朧は、ゆっくりと防御した手甲を下ろし、余裕そうに将造を見る。

 

「礼には及ばないわ。あんた達のおかげで裏切り者が解ったんだから。」

 

「裏切り者?」

 

「海座のことよ。あいつはね、数年前、物理光学の天才としてノマド本社へ渡米した際に、ブラック様に直談判しに来たのよ。『核ミサイルも起爆装置が無ければただのガラクタ…装置が意思を持つことで核兵器は最強となる。私に装置を埋め込んでくれ、それで日本を制圧してみせます。』ってね。」

 

「ほぉ~それがこんな体たらくか…」

 

「そうよ。奴は…猿山のボスの座が欲しいだけだった。」

 

朧の顔が、話すうちに段々と怒りの色に染まっていくのが将造達にも解った。

 

「すべての商売の支援をしたノマドはいい面の皮だったわ!!! 飼い犬の牙がこっちにも向いてたんだから!!! 核という強力な牙が!!!」

 

「ヒヒヒ…なるほど、間抜けな話じゃ。」

 

「そして、何よりも許せなかったのが、私とあいつが……同格に数えられてたことよっ!!!」

 

「「「「?!」」」」

 

そう叫んだ朧は、隅で震えていた海座の側近二人に一瞬で距離を詰めた。その動きはあまりにも素早く、将造、さくら、静流も目で追うことしか出来ない。

 

「「た、助…」」

 

ザシュッ!!ザシュッ!!

 

そのまま朧は、許しを請う時間も与えずに、鉤爪で二人の首を一瞬で刎ねた。頭を失った二人の首からは、噴水のように血が噴き上がる。

 

「な、何てことを…あの二人はもう降参していたのに。」

 

「朧…やっぱりあんた最低な女ね。」

 

静流は信じられない物を見る目で、さくらは怒りの目で朧を見る。

 

だが、三太郎だけは、じっくりと見定めるように朧を見ていた。

 

(この女、アサギさんやさくらちゃんより、考え方が若に近い…今まで会ったことがないタイプだ。少しも油断出来ねぇ!)

 

やがて首から吹き出す血の勢いが収まると、側近達の体はバランスを失い地面に倒れた。

 

ドチャ…ドチャ…

 

「クフフ…」

 

二人の無惨な最後を満足気に見た朧は、幾分スッキリしたのか、また邪悪で妖艶な微笑に戻って将造に向き直った。

 

将造は、朧の一連の猟奇的な行動にも微動だにせず、笑顔を止めて朧を睨んでいる。

 

「あんたのおかげで子供の時間は終わったわ。」

 

「なら、地下にあるゴミ(核兵器)を持ってとっとと帰りやがれ!!」

 

「冗談! これからはお互いに大人の時間じゃない。岩鬼将造、今度は私からのお礼を受け取ってもらうわ。死ねぇ! 忍法・朧分身っ!」

 

叫んだ朧の身体が蜃気楼のように揺らぐと、そこから十数体の朧が飛び出た。朧の分身体は一瞬で将造を取り囲み上下左右から襲いかかる。

 

「「危ない将造!(岩鬼)!」」

 

さくらは影から分身体を、静流は床下から植物の蔓を出して将造を守ろうとする。

 

先程まではさくら、静流の忍法は、燃え盛る炎で発動させるのが難しかったが、側近達から吹き出た血液で将造の周りの炎が少なくなっており、偶然にも発動させることが出来た。

 

そして、朧の分身体が将造に到達するより早く影分身や植物は、将造を取り囲む。

 

だが、襲われている本人である将造は、ある違和感を感じていた。

 

(おかしいぜ…あんな性根の腐っとる奴が、トランプのババ抜きのように私の正体はどれでしょう?って素直な技を出すか? それに周囲の朧達からは、少しも殺気を感じねぇ…)

 

将造は朧の分身体から視線を外し、素早くさくら達を見る。さくらは術を発動させるため、こちらに集中しており、三太郎は朧の分身体の一体に銃を向けている。しかし、最後に静流を見た途端、将造の顔色が変わった。

 

「?!」

 

視線の先の静流自体には、何の変わりもない。しかし、注目すべきは静流背後の煙だ。その煙は何故か、何かを弾くように妙な形に曲がっており、それを見た将造はすぐに静流に向かって走り出す。

 

「え、何? 岩鬼?!」

 

襲いかかる朧の分身体を背にして、無防備にこちらに走って来る将造に、静流は驚き理解不能な顔をする。

 

「危ねえ! 静流っ!」

 

ドンッ!

 

そのまま将造は、呆気に取られる静流を体当たりでその場所から斜めに弾き飛ばした。

 

「きゃあっ!」

 

体当たりされた理由が分からなかった静流は、弾き飛ばされながらあるものを見た。それは数瞬前まで自分がいた場所の空中から現れた鈎爪だった。鈎爪は、自分に代わってそこにいる将造を狙って斬りかかろうとしていた。

 

その正体は、徐々に姿を現した朧だった。朧の得意技は、数ある分身体に本体を紛れ込ませて標的を仕留めるのではない。分身体の中に本物が紛れていると見せかけて、自分は光学迷彩で透明化し、分身体の中から本物を探す標的を仕留めるという凶悪な技である。しかも、今回は将造を狙うと見せかけて、後ろで支援する静流を狙う卑怯千万な作戦だった。

 

将造は、空中から襲いかかる朧に向かって背中からポン刀を取り出し斬りかかった。

 

「シャアァァァッッッ!!!!!」

 

「うおおおおおおッッッ!!!!」

 

ギィンッ!ザシュッ!

 

将造の黒い影と朧の紅い影が、互いの煌めく刃と共に交わった。

 

ドタッ!

 

「キャッ!」

 

静流は、受け身を取るために一瞬だけ戦闘する二人から目を外した。そして、地面に安全に着地した後、急いで再び将造を見る。

 

「大丈夫?! 岩鬼?!」

 

「………」

 

将造は、ポン刀を振り下ろしたままの体勢で静止していた。それ故に顔が俯き気味で表情が解らず、さらに朧と交差した時、帽子がずれてしまったのか、特に目は帽子の影に隠れている。続いて身体を見るが、どこにも出血が見えない。しかし、左手の義手だけは見当たらず、内部のマシンガンが露出していた。

 

静流は、次に視線を朧に移す。

 

朧は右の鉤爪に将造の義手を突き刺し、将造の方を向いたまま飛び上って術を仕掛けた位置に戻っている。

 

その様子を見た静流は、わずかだが胸を撫で下ろす。

 

(良かった。岩鬼は咄嗟に自分の左手を盾にしたのね。アサギ様と並ぶ達人である朧の不意打ちで、犠牲が義手一本だけなら安いものだわ。)

 

続いて静流は、安心した顔でさくらと三太郎に話しかけようとする。

 

「え?」

 

だが、予想に反して二人の顔は青冷め絶句していた。

 

静流は、再び将造に目線を戻す。すると…

 

タラリ…

 

帽子の影に隠れた右目の辺りから、液体が垂れ出たのが見えた。その色は赤く涙ではない。

 

「い、岩鬼?! 貴方、目がっ?!」

 

帽子の影に目を凝らした静流は、悲鳴にも似た叫び声を上げた。

 

将造の右目は無くなっており空洞化していた。

 

「アハハハハハハハ!!!!」

 

術を仕掛けた位置に戻った朧は、大声で笑いながら左手の鈎爪の先を将造達に向ける。鈎爪の先端には将造の目玉が刺さっていた。

 

「良く私の狙いが後ろの対魔忍って解ったね。けれど、ざんね~ん! 義手を上手く防御に使ったようだけど、私には通用しないわぁ。」

 

勝ち誇ったように両手の鈎爪に刺さっている将造の体のパーツをさくら達に見せびらかす。

 

「若ぁ!!!」

「将造!!!」

「岩鬼!!!」

 

三人は、将造を心配し必死に声をかける。

 

すると、今まで無言だった将造は、朧の方に向きなおり俯き気味だった顔を上げた。

 

「「「?!」」」

 

将造の表情は、痛み、絶望、怯え等の負の感情は微塵もなく、常人なら後退ること必死な狂ったような笑みだった。そして、一つしかなくなった目で朧をしっかりと捉えながら口を開く。

 

「目ン玉抉ってくれてありがとうよ! 極道として、また泊が付いたぜ~!」

 

将造の狂った笑みと言動に、静流とさくらは味方でありながらも背中に震えが走った。目を無理矢理抉られれば、熟練の対魔忍でさえも痛みやショックで悲鳴を上げて転げ回る。だが将造は、そんな大怪我を感じさせないほどの狂気の笑顔を相手に向けているのだ。

 

((((ヒッ…))))

 

周りの傭兵達は、そんな将造の笑みを前にして対魔忍以上にプレッシャーで動けない。しかし、将造と同じく数々の修羅場を潜り抜けてきた朧だけは、面白そうに笑うのみで少しも引いた様子がなかった。

 

「アハハ…岩鬼将造! 今のセリフ、最高に極道らしいわね。けれど、もうお別れよ。短い付き合いだったけど、面白かったわ。」

 

さくら達は、改めて武器を持ち身構える。

 

しかし、そんな窮地に追い込まれた雰囲気のなか、将造だけは何故かいきなりポン刀を地面に下ろした。

 

「あら、もう戦意喪失かしら? だとしたら戦いもあんたの命もお終いね♪」

 

それを見た朧は、勝ち誇るような笑みを浮かべる。

 

将造はこちらを馬鹿にする朧の言動を無視して、腹巻きに手を入れて見えない何かを取り出した。

 

「おいおい待てよ。面白くなるのは…これからだぜ!!」

 

そう叫ぶと同時に、将造は残った右手でその何かを思い切り引っ張った。

 

ピン…

 

すると小さな金属音が、朧の右の鈎爪から響いた。

 

「え? 今何を…」

 

朧は、何か引っ張られたような不可思議な感覚を感じ、思わず右手の鈎爪を見た。鈎爪にはさっきと変わらず、将造の義手が刺さっている。

 

「ハッ?!」

 

朧は右の鈎爪に刺さる義手が手の甲で隠すように握っていた物にやっと気付いた。

 

「おまえァァッッ!!!!!」

 

それは一個の手榴弾だった。将造が引っ張ったのは、ピンにあらかじめ括り付けてあった細く透明なピアノ線だったのだ。

 

朧は急いで義手が握っている手榴弾を外そうとするが、義手は持ち主から離れているのにもかかわらず、将造の意思が残っているかのように離さない。

 

「みなっ! 伏せいっ!」

 

将造の指示に従い、焦る朧を余所に静流達は一斉に床に伏せる。

 

ズドドォォンッッ!!!

 

「「「朧様ッ!?」」」

 

手榴弾は容赦なく爆発し、それを見た配下の傭兵達が驚き叫んだ。

 

大量の煙が漂う中、床に伏せている静流が、同じ体制の将造に声をかける。

 

「さっきは有り難う岩鬼。このお礼は必ずするわ。けれど、凄いわね。あの搦め手が得意な朧に一杯食わすなんて…もしかして、わざと右目を犠牲にして義手を鈎爪に突き刺されるようにしたの?」

 

静流、さくら、三太郎は、将造が不敵な笑みで『当たり前じゃ! この極道兵器はすべて計算ずくだぜ!』といった自慢気な台詞を予想する。

 

しかし、静流の方を向いた将造の顔は、予想に反して真剣な表情だった。

 

「いや、そう言いたいのは山々じゃが、本当は首を掻っ切られてもおかしくは無かったぜ。義手を使った罠は予想通りに引っ掛かってくれたが、肝心のポン刀は捌かれて逆に斬りつけられちまった。一撃で殺さず、わざと痛ぶろうとする奴の嫌らしい性格に救われたわい。」

 

静流とさくらは、将造が五車学園地下の立体映像の最高難易度の戦闘訓練を突破し、銃撃戦だけでなく刀を使用した肉弾戦も得意であることを知っている。故にそんな実力者である将造の口から、一歩間違えれば死んでいたという事実を知り、改めて朧の実力に恐怖した。

 

「そ、そう。けれど、朧はあの手榴弾で…」

 

「将造ォォッッッ!!!!!!」

 

静流の言葉を遮るように、煙の中から怒りと怨みが籠もった朧の大声が響いた。

 

将造達は急いで立ち上がり、声の出所に注目する。

 

煙の中から現れたのは、右腕を失った朧だった。朧は手榴弾の被害を最小限に抑えるため、爆発する直前に自分の右腕を左の鈎爪で肩先から切り落とし、遠ざけたのだ。その表情は、数十秒前の余裕で邪悪な笑みから、憎々しげに将造を睨む凶悪な顔になっていた。

 

「よくもォォ…私の右腕をぉ…」

 

対象的に将造は、心底楽しそうに朧と向き合う。

 

「ヒヒヒ、ちぃと火力が足りんかったか。しかし、ぬしも極道らしく泊が付いたのぉ。」

 

「殺してやる。」

 

鬼気迫る朧が笑う将造に向かって、一歩踏み出す。

 

「させないよ、朧。」

 

しかし、将造の前にさくら、静流、三太郎が立ち塞がった。

 

「くっ…」

 

いくら実力者の朧でも片腕を失った状態で、目の前の三人の相手は、傭兵達がいても苦戦必死である。

 

「もうすぐ、おねえちゃんが率いる別働隊が来る。終わりだよ。」

 

「アサギが…」

 

朧は、最強の対魔忍であるアサギが来ているというさくらの言葉を聞いた途端に数秒程、悔しそうな顔になる。しかし、ニタリと何か良いことを思いついたようにまた妖艶な笑みに戻った。

 

「いいこと考えたわぁ。お前達、こいつ等を足止めしろっ! 私は地下四階に向かう!」

 

そう言って朧はいきなり踵を返し、素早く廊下につながる扉から逃亡した。

 

「待ちやがれっ!」

 

将造達も、朧を追いかけようと急いで扉へと走る。

 

しかし、朧と入れ替わるように多くの傭兵達が扉から現れ、一斉に将造達へ銃口を向けた。

 

ジャキ!

 

「クソッ!」

 

一方、廊下へ逃げた朧は、右肩の傷口を押さえながら急いで地下四階の核施設へと向かっていた。

 

(右腕はすぐに再生するとしても、このまま逃亡するのは絶対に有り得ないわ! 必ず私の考えを実行して、奴等に絶望を…)

 

ドガァァァッッッッ!!!!

 

突然の後方から響く大きな爆発音に朧は思考を中断し、逃げながらもちらりと視線だけを後ろに向けた。

 

「?!」

 

朧は、予想外の光景に言葉を失う。先程まで扉に殺到していた傭兵達が、一人残らず吹き飛んでいたからだ。

 

「逃さんぞぉ!! 朧ぉぉ!!」

 

数秒後、扉から怒鳴り声とともに将造が飛び出して来る。

 

(あの極道?! さっきまであんな火力がある兵器を持っていなかったのに何故?!)

 

逃走する朧を見つけた将造は、左腕のマシンガンではなく、右膝を向けた。直後、膝が上下に割れ、内部にセットしてあったロケットランチャーが朧に向かって発射された。

 

「俺は極道兵器だっ!!」

 

シュゴォォッ!!

 

「左腕だけじゃなくて右脚まで…チィッ!」

 

舌打ちする朧は、迫るロケット砲を驚異的な体術で避ける。

 

ズガァァァッッッ!!!!!

 

そして、ロケット砲から発生した爆煙と光学迷彩を利用して、朧は廊下から消えた。

 

「待たんかいッ!」

 

流石に将造も虎の子であるロケットランチャーを、目視出来ない相手に乱発出来ず、そのまま追いかけようとする。

 

「将造っ! 一旦その目、消毒しなきゃ駄目だよっ! 三十秒待って!」

 

しかし、同じく廊下に出たさくらが、将造を呼び止める。そして、すぐに影から消毒薬と包帯を出し有無を言わさず将造の右目に巻き始めた。

 

「今回の朧は鈎爪に毒を塗ってないっぽいけど、消毒は必要よ。」

 

すぐにでも駆け出したい気持ちを抑え、イライラした顔で応急処置をされる将造だったが、さくらの忍法を見てあることを思い出した。

 

「のぉさくら、あれ持って来とるか?」

 

 

 

数分後、将造から上手く逃亡することが出来た朧は地下四階に到着した。この階は、連れてきた残りすべての傭兵達が守っており、例え将造達が来ても逆に撃退出来る可能性の方が高い。

 

「ハァハァ…少しは時間を稼いだかしら?」 

 

流石の朧も片腕を失った状態で後ろを警戒しながら全力で走れば、息も乱れ体もふらつく。

 

そんな実力者であるはずの朧が重傷を負っているのを見て、小隊長らしき傭兵が驚きながら声をかける。

 

「大丈夫ですか?! 朧様?!」

 

ピキッ…

 

その瞬間、朧は目の色が怒りに染まり、即座に心配する傭兵の首元に鈎爪を突きつけた。

 

「あなた目ざといわね…これ以上私に構えば殺すわよ。それよりももうすぐ対魔忍達が来る! 全力で足止めしろっ!」

 

「り、了解…」

 

鈎爪を突きつけられた小隊長は、怯えながら元の位置に戻る。二人の様子を見ていた傭兵達も、あわてて迎撃体制を取り始めた。

 

「よし、これならあいつらも…」

 

ドガァァァッッッ!!!!

 

朧が言い終わらない内に階段に繋がる扉が吹き飛んだ。この爆発は、間違いなく将造のロケットランチャーだ。

 

「朧ォォォォッッッ!!!!!」

 

立ち込める煙の中から、将造の怒声が聞こえてくる。

 

「チィッ! もう追いついて来たか! お前達撃ち殺せぇ!!」

 

朧の命令で傭兵達が急いで銃口を声の方向に向ける。だが、それよりも早く爆煙の中から、銃弾が飛び出して来た。

 

「馬鹿めっ! マシンガン程度の豆鉄砲、効くはずが…」

 

朧は逃げながら鼻で笑うが…

 

ガガガガガガガガガ!!!!!!

 

「あがぁっ?!」

 

自分の背後にいた一人の傭兵が一瞬で蜂の巣になり吹き飛んだ。

 

「な、何?」

 

慌てて朧は壁の影に隠れ、爆煙に包まれた扉の方向を覗き見る。

 

「ぬぉぉぉぉっっっ!!!」

 

直後、雄叫びとともに煙の中から右目に包帯を巻いた憤怒の表情をした将造が現れた。

 

朧は将造のある部分を見て驚愕する。

 

「あ、あれは?!」

 

将造の左腕は、先程まで装着していたマシンガンから、全長一m半を超える巨大なガトリングガンのような物に変わっていた。

 

それは五車町で開発された将造専用武器『DSバルカン』。強化外骨格や軍用ヘリとも対等に戦える貫通力に重きをおいた巨大なバルカン砲である。しかし、威力はあるが、あまりの重量と大きさ故に常人はもちろん、並の対魔忍でも持つことも運ぶことも難しい代物だった。将造専用とされているのは、その重さ所以である。だが、さくらの影遁の術なら影の中に収納でき、運搬だけはで楽に出来るため、念の為アサギが持たせていたのだ。

 

ズガガガガガガガガ!!!!!!!

 

「ぎゃあ!」

「ぐぇ!」

「ガハッ!」

 

対魔忍達は火力が低い武器しか持っていないと聞いていた傭兵達は、判断が遅い者から次々とDSバルカンの餌食になる。

 

「な?! なんてやつ!」

 

壁の影から驚く朧を見つけた将造は、彼女に向かって叫ぶ。

 

「ゴタクを並べてないで、殺す時はきっちり殺さんかい!! 朧!! お前は海座と同じじゃ! 脅しや痛ぶるために力を見せつけおって!! 力量は相手をぶちのめして、なんぼのもんじゃあ!!」

 

「右目を失っているのに何でこんな動きが出来る?! チィッ! 相手は満身創痍よっ! 集中砲火で蜂の巣にしろ!」

 

今夜、何回目か分からない舌打ちをした朧は、残る傭兵達に激を飛ばして、自らは奥の頑丈そうな扉に素早く入った。

 

「待てっ! 朧!」

 

煙の中から将造に続いて、さくら、静流、三太郎も飛び出して来る。

 

さくらは、廊下の曲がり角や部屋の陰から銃撃している傭兵達を確認すると、静流に支えられている三太郎に指示を出す。

 

「三太郎くんっ! 電灯を狙って!」

 

「よし来たッ!」

 

三太郎は、マシンガンで的確に天井にある蛍光灯を次々と銃撃する。

 

ガシャッン! ガシャッン!

 

窓がない地下の廊下故に、撃ち落とされる電灯に比例して暗闇が容赦なく広がっていく。その暗闇の中こそ、サクラの忍術の独壇場だ。

 

「ヨシッ! これなら!」

 

暗闇が十分広がったのを確認したさくらは、影遁の術で廊下の壁や部屋で隠れながら銃撃している傭兵を後ろから蹴り出した。

 

「えい!」 ドカッ! 

 

「うわっ?!」

 

バランスを崩した傭兵は、廊下の真ん中に倒れてしまう。だが、そこは将造のDSバルカンの射線上故に…

 

ズガガガガガガガガ!!!!!

 

「ぎゃん!」

 

あっという間に傭兵は蜂の巣になった。

 

そのまま、さくらは次々と隠れている傭兵の背後にランダムに現れる。傭兵達は、将造の嵐のようなバルカン砲の対処に全力を注いでおり、さくらの奇襲を防ぎきれない。

 

「えいっ! もう一つえいっ!」

 

ドカ! ドカ! ドカ!

 

「ぎゃあ!」

「ヒィ!」

「ぐけっ!」

 

ズガガガガガガ!!!!

 

次々とさくらは傭兵達を廊下に蹴り出し、将造のバルカン砲の餌食にする。

 

数分後、将造とさくらのコンビネーションにより廊下にいた傭兵達は、呆気なく全滅した。

 

「よし、朧はこの扉の中ね!」

 

先行し傭兵達の全滅を確認しさくらが、朧が逃げ込んだ頑丈な扉の前に立つ。

 

ドンドン!

 

「うぅ…やっぱり閉ざされてる。」

 

だが、やはり扉は閉ざされておりサクラは悔しそうに扉を叩く。破壊力がないさくらの忍術は、扉に穴を開けることができない。故にどうしようかと考えあぐねている時、後ろからこちらに向かって来る将造の草履の足音が聞こえてきた。

 

「将造っ! バルカンでこの扉も…」

 

振り返ったさくらは、後ろから迫る将造を見ると声を失った。

 

「どけぇ! さくらっ!」

 

将造が右膝をこちらに向けているのが見えたからだ。

 

「これが最後の弾じゃあっ!」

 

将造は、さくらが扉の近くにいるのにも関わらず、容赦なくロケットランチャーを発射した。

 

シュゴォッッッッ!

 

「ちょっと待ってぇ!」

 

間近に迫るロケット砲を前に、さくらは急いで影に逃げる。

 

ドゴォォォォッッッッ!!!!

 

扉は大きな爆発音とともに粉々に吹き飛んだ。

 

すぐに将造は、後ろで非難するさくらを無視して、真っ先に扉の中に入るが、その先を見て歩みを止めた。

 

「こ、これは?」

 

そこは海座の部下が言っていた地下の核ミサイルの発射場だった。しかし、将造が驚いたのは、その広さである。ここにあるミサイルは、地下の階下をまた四階程ぶち抜く、全長が30mはある巨大なものだったからだ。

 

「大陸弾道ミサイル…こんなのがあれば、世界の誰も手が出せんのも…ん?!」

 

「若! あれを見てください!」

 

同じく施設内に入った三太郎が、静流に支えられながらもミサイルの先端を指差す。

 

「「「?!」」」

 

「ム~ム~!!」

 

そこには椅子が取り付けてあり、海座は体の機械の部分にミサイルの部品をケーブルで繋げられ、口を防がれ泣きながら座らされていた。

 

「どうかしらぁ? これが本当の人間核ミサイルよ!」

 

何処からか、朧の声が響く。

 

将造達が、急いで声の出処を探すとミサイルを挟んだ一つ階下に朧がいた。朧の周りには機械類を操作する部下らしき者達がいる。

 

将造は朧に向かって思い切り叫ぶ。

 

「てめぇの性格と一緒で吐き気のする趣味だぜ! 兵器は美しくなきゃいけねぇ! このゴミを東京の何処に飛ばすつもりだ!」

 

「安心しなっ! 標的は東京じゃないよ!」

 

「じゃあ、どこに飛ばす?! 大阪かっ?! 北海道かっ?!」

 

将造の質問を予想していたかのように朧の表情が嫌らしい笑顔に変わる。

 

「いいや、目標は取るに足らない群馬県の人里離れた小さな町さ!」

 

ミサイルの目標が、群馬県の小さな町と聞いたさくらと静流の顔がみるみると血の気を失っていく。

 

「ま、まさか?」

 

「そうよ! お前らの五車町にこれをぶち込んでやる!!」

 

「止めなさい、朧! いくらブラックでもそこまではやらないわ! むしろ、死ぬより酷い責任を取らされるわよっ!」

 

静流が朧に向かって叫ぶ。

 

しかし、朧はブラックの名前が出ても不敵な笑みを崩さない。

 

「あんたらは勘違いしてるけど、ブラック様が対魔忍をわざと生かしているのは、アサギがいるからよ! アサギがここにいる今、五車町と他の対魔忍にはなんの価値もないわ!」

 

「させねぇ…貴様の思い通りにはさせねぇぜ!」

 

将造はバルカンを朧に向けるが、さくらがあわてて砲身をずらす。

 

「将造! 悔しいけどミサイルが近すぎる! ここでそんな威力がある銃を使えば、跳弾でもミサイルに当たってしまうわ! 爆発すれば私達だけじゃない東京の人達も…」

 

ここが人里離れた山奥なら、さくらは自分を犠牲にしてでも核を爆発させ、五車町を守るだろう。しかし、今現在いる場所は東京の目と鼻の先の東京臨海新都心である。故にここで核が爆発すれば、なんの罪もない百万人以上の一般人が犠牲になってしまう。

 

五車町に慌てて連絡する静流と死ぬ程憎んでいる自分を守るさくらの様子を、朧は愉快そうに眺める。

 

「あんたらが悪いのよ! 最初の予定じゃ核で日本政府を強請るだけだったに! 私を怒らせるから!  ア〜ハッハッハッ…『ズガガガガガガ!!!!』

ハ?」

 

朧の隣にいた部下が、将造のバルカン砲で悲鳴も上げずに吹き飛んだ。

 

「核が怖くて極道がやってられるかぁ!」

 

「止めて! 将造ッ!」

 

将造は、いつの間にかさくらを振りほどいており、容赦なく朧の部下と操作している機械を銃撃する。

 

このままでは、ミサイルの発射装置が破壊されてしまうと考えた朧は、遂に最後の命令を下す。

 

「チィッ! 狂人め! 発射しろぉ!」

 

「は、はい!『ズガガガガガガガ!!!!!!』ぎゃん!」

 

将造は、ミサイルの発射ボタンを押そうとする傭兵を発射装置ごと銃撃したが…

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「くそッ!」

 

静止するのには一歩遅かったらしく、ミサイルのロケットブースターが勢いよく火を吹き始めた。

 

「極道! ミサイルはもう止められないわ!」

 

点火されたミサイルを愉快そうに眺めた朧は、将造に勝利宣言すると、ブースターの炎に巻き込まれないようすぐ近くの扉から避難した。

 

「クソッタレ!!」

 

将造は今まで避けていたミサイルに砲身を向けるが…

 

キュイイーーン…

 

運悪く弾切れになったらしく、バルカン砲は砲身が虚しく回転するのみだった。将造は、もうコルトパイソンも手榴弾も使い切り、ミサイルを破壊する手段がない。

 

「若ぁっ!」

 

「三太郎くん! 早く奥に!」

 

静流は、将造の名を呼ぶ三太郎を引き摺りながら廊下に避難する。さくらもそれに続こうとするが、将造だけは飛び上がろうとするミサイルを睨んだままで動かない。

 

「将造、早く廊下に避難して! 発射に巻き込まれちゃう! さっき静流さんが五車町に連絡したから、後はもう里の者に任せるしかない!」

 

「わしはこいつを止める!」

 

「もう、無理だよ!!!」

 

「いいか、さくら! わしだって自分の島内で大量の人間を殺すわきゃいけねぇ! 命をはってでもさせねぇ! なぜなら…」

 

「将造! 何を…」

 

将造は、さくらに語りながら手すりに足をかけた。

 

「それが日本国を預かる首領(ドン)の務めだからだぁー!!!」

 

そう大声で宣言しながら、目の前を通り過ぎようとするミサイルの先端にいる海座に飛び移った。

 

「うぉぉぉぉぉ…!!!!」

 

「ぐぇぇぇ〜!!!!!!」

 

そして海座と共にそのまま開いた天井に向かって勢いよく登ってた。

 

「将『ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!』ォォォッッッ!!!!」

 

さくらは廊下の奥に避難しながらも将造の名を叫ぶが、その声は無情にもミサイルの発射音に掻き消された。

 

数秒後、廊下に大量の煙が充満する中、ミサイルが過ぎ去ったのを確認したさくら達は、将造がもしかしたらミサイルから振り落とされた可能性を考え、再び発射口に戻る。

 

「若ぁぁっっ!」

「岩鬼っ!」

「将造っ」

 

三人は大声で将造を呼ぶ。しかし、返ってきたのは愉快そうな朧の笑い声だった。

 

「アハハハハハハハハ!!!! もう対魔忍はお終いね!」

 

朧は対魔忍達の絶望した顔を眺めるためだけに発射場に戻ったのだ。

 

「朧ォォォッッ!!!」

 

さくらは、自分の住んでいる町や仲間、そして大切な生徒を殺したであろう朧に憎しみの声を上げる。

 

しかし…

 

「た、大変です、朧様!!! 」

 

さくらの声を遮るかのように、大きい悲鳴のような叫び声が響いた。その声の主は、半分程破壊された発射装置の残ったモニターを調べていた部下だ。その表情は、驚きと焦りに満ちている。

 

「何があったっ?!」

 

「ミ、ミサイルの目標が、も、目標がっ!!!」

 

「早く言え!!」

 

「ハァハァ…五車町から…東京キングダムに変わっています!!!!」

 

「「「「「?!」」」」」

 

発射場にいるすべての者の表情が変わった。




次回『東京キングダム壊滅五分前!!』は三日以内に上げるので、もう少々お待ち下さい。

本当は後編なので一話に纏めたかったんですが、二万字を優に超えてしまったので…
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