対魔忍者と極道兵器   作:不屈闘志

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Weapon 14 東京キングダム壊滅五分前!!

モニターを見た部下の言葉を聞いたすべての者の顔色が青ざめる。

 

「何で目標が変わっているのよ!!!」

 

朧はその部下の襟を掴み、絞め殺す勢いで問いただす。

 

「も、元々、ミサイルには、複数の候補地がインプットされており、お、恐らくは岩鬼将造が銃撃した際に発射直前のコンピュータが狂って、他の候補地に変えてしまったと思われます…」

 

「着弾まで後どれくらいだっ!」

 

「グ…ご、五分強…」

 

それを聞いた朧は、もう一人の部下に叫ぶ。

 

「カリヤとフュルストに連絡しろォォォ!!!!」

 

「は、はい。」

 

指示された部下は、急いで携帯で連絡を取り始めた。

 

「くそォォッッ!! 将造めぇぇっっ!!!」

 

苛ついた朧が髪を掻き毟ると同時に彼女の後方の空間が歪み、黒い靄が出始めた。ノマドの幹部連中が移動に使う魔の渦だ。朧は急いで他の部下と共に渦に入り、この場から去ろうとする。だがその時、発射場に怨みが籠もった鋭い声が響いた。

 

「朧オオォォォッッッッッ!」

 

破壊された扉から勢いよく現れたのは、怒りの形相をしたアサギだった。

 

「お姉ちゃん!?」

 

驚くさくらを無視し、アサギはそのまま十m以上ある発射口を飛び越え、忍者刀で朧に斬りかかる。

 

「アサギ…」

 

だが、朧はお前に構っている暇は無いという風にアサギを一睨みするだけで、一足早く渦の中に消えていった。

 

「くそォォォォッッッッ!!」

 

アサギは、珍しく悔しそうな顔で地団駄を踏む。

 

「お姉ちゃん、それどころじゃないよ!!」

 

さくらは構うことなく怒り狂うアサギに話しかけ、素早く状況を説明をした。

 

「な、何ですって?! 静流?!」

 

事情を聞いたアサギは、一気に熱くなった頭が冷えて静流に確認する。

 

「先程、潜伏している仲間には伝えましたが、恐らくは…もう…」

 

カラン…カラン…

 

アサギは、絶望した顔で忍者刀を落とし膝を付いた。

 

結果としては五車町は助かり、東京キングダムは、海上十キロに位置している離れ小島なので、東京も直接の核の被害からは免れた。しかし、東京キングダムにいる対魔忍や魔族どころか、すべての生物は、核ミサイルで死に絶えてしまうだろう。

 

「何てこと…私がいながら…」

 

アサギは、自分の指揮が原因で多くの犠牲が出たことにショックを受け、軽い放心状態で地面に手を付く。

 

だが、そんな絶望状態のアサギにゆっくりと近づく者がいた。

 

三太郎だ。

 

「いや、まだ分からねぇ。ミサイルには若がしがみついている。若は不死身だ。絶対になんとかしてくれるはずだ。」

 

三太郎は、本気で将造のことを信じているように自信満々にアサギに宣言した。

 

対象的にアサギは、三太郎を見もせずに俯いたままそれを否定する。

 

「三太郎くん…大陸弾道ミサイルは宇宙空間まで行くのよ…そんなの、いくら将造でも…」

 

「いや、若なら大丈夫だ!」

 

絶望感漂う空気の中、遅れて紫率いる核ミサイル解体班が到着した。紫は、放心状態のアサギを見つけ、驚きながらそばに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?! アサギ様?! おい、ヤクザ!! 一体どうなって…」

 

三太郎は怒りながら質問する紫を無視して、足を引き摺りながらも発射場から廊下に急ぐ。

 

「三太郎、どうした? 若はどこだ?」

 

途中で拓三とすれ違うが、説明する時間はないと言わんばかりに足を止めず、歩きながら答える。

 

「拓三! 一緒に若がいる東京キングダムに行くぜ! 多分、屋上にヘリがあるはずだ! 説明は歩きながらする!」

 

「待ちなさい! 三太郎くん!!」

 

そのまま行こうとする三太郎をアサギが呼び止めた。

 

「アサギさん! 止めたって無駄だぜ!」

 

「私も行くわ…」

 

 

 

東京キングダムには、カオス・アリーナという女戦士達の格闘を見世物とした非合法ショービジネスを運営している地下闘技場がある。戦士は全て女で構成されており、負けた女は辱められ、その様子が闇社会の住人たちに放映され莫大な利益を挙げている。

 

そんな凄惨なカオス・アリーナのボスは、意外にもカリヤという女性である。カリヤは、ナーガ族という魔界の住人で通称『スネーク・レディ』と呼ばれており、実力はエドウィン・ブラックに匹敵し、インドでは『カーリヤ』と言われ神として祀られている。さらに自らも闘技場に立つ戦士であり、過去にアサギ、さくらと激闘を繰り広げたこともある。だが、そんな実力も威厳もある彼女が、今現在血相を変えて部下に必死に叫んでいた。

 

「逃げる奴隷共は捨てておけっ! 闘技場にできるだけ人を入れろぉ! モタモタするなぁ!」

 

数分前までは、悠々とVIP席で闘技場の戦いを観戦していたカリヤだったが、朧の部下からの連絡を受けて、急いで部下に指示を出し始めた。まず闘技場の戦いの中止、次に宣伝で使っている東京キングダム中に設置してある外部のスピーカーを使用して、核の着弾と核シェルター代わりにもなるアリーナに人の受け入れを宣言、そして、今は自らも現場に出て声を荒げながら人の整理をしていた。

 

「クソッ! 朧の奴…次に会ったら殺してやるっ!」

 

東京キングダムに居るのは、ほとんどが裏の住人達であり、海座の核ミサイルのことを知ってはいた。ゆえにカオス・アリーナの緊迫した呼びかけで、島の者達は状況を一瞬で理解し、一分程で島全域の者達に核ミサイルの情報が伝わった。だが、それでも東京キングダム全体は、混乱の極みに陥ってしまう。何故なら、住人達はあくまで海座の核を豆知識レベルで認識していただけであり、まさか本当に海座に手を出す者が存在し、そのうえ核が自分達がいる東京キングダムに向けられているとは夢にも思わなかったのだ。

 

「畜生! 誰だぁ! 海座に手を出したバカはぁ!」

「い、一体、どこに逃げれば…」

「どこでもいいから走れ!」

 

秩序がある組織の者達は冷静に行動をしているが、ほとんどは種族や職種関係なく、我先にと逃げ惑っている。中心部にいる者は、カオス・アリーナヘ、海岸部にいる者は、港には速度が出ない貨物船しかないゆえに海に次々と飛び込んで、泳いで少しでも島から離れようとし、本州に唯一繋がっている橋の近くにいる者は、車や走って逃げようとする。

 

しかし、カオス・アリーナに入る階段は、逃げる者達で殺到し、将棋倒しになるのはまだ良い方で、倒れた者を踏みつけて行こうとする者が続出し、血が飛び散る餅付きのようになっていた。海岸部の者達は海に入りはするが、走るより早く泳げる者などなく、そのうえ核ミサイルが来るという恐怖でパニックに陥り溺死する者が続出した。橋の近くにいる者は、スムーズに逃げられたのは先頭の車に乗っていた者だけであり、殆どは本州に向かって走って逃げる者達を同じく本州に急ぐ後続の車が容赦なく次々と轢き殺して、死体で渋滞が発生してしまい、立ち往生する羽目になった。さらにもう逃げられないと分かっている者はヤケクソになり、普段から気に食わなかった目上の者を殴ったり、娼館に突撃し、逃げようとする娼婦を犯そうとする者まで現れた。他にもこの惨状を見てケラケラと狂ったように笑う浮浪者、身を寄せ合いながら最後の時を迎えるストリートチルドレン、核の炎で苦しんで焼かれるくらいならと飛び降り自殺をする娼婦などもあちこちに発生した。

 

そんなこの世の地獄となった東京キングダムの一角で、四人の異形の者達に囲まれて怒り狂っている男がいた。その男の容姿は、頭頂部は薄く腹部はでっぷりとしており、江戸時代に来日した宣教師のような服装をしている。

 

「くそっ! 朧のやつめ! 余計なことをしおってぇっ! 折角、私が築いていたここでの地位がすべて台無しだっ!」

 

男の名は、フュルスト。朧やイングリッド、海座と並ぶノマド幹部の一人。桐生に魔界医療技術を教えた師でもあり、古くからエドウィン・ブラックに従う魔術が得意な高位魔族である。フュルストは、東京キングダムを治める組織の一つである『沙無羅威』の後ろ盾をしており、本日は幸か不幸か偶然にもこの場所に来ていた。

 

周りの四人は、沙無羅威のトップであり、通称四天王と呼ばれている者達だ。梟の獣人である獣忍『シームルグ』。全身を甲冑のような金属で覆った半人半馬の怪物『オロバス』。体は普通の女性だが、頭は口しかない不明の魔女と呼ばれる『ヴィネア』。最後に沙無羅威のボスであり、フュルストの腹心でもある三度笠を被り日本刀を持った侍風の男『ニールセン』。

 

フュルストは、移動に使う魔の渦でこの四天王だけは、逃そうとしていた。元々、魔の渦は何十人も移動出来る代物ではなく、故にフュルストは他の配下は切り捨てる判断をしたのだ。

 

しかし、ニールセンは部下を置いて自分達だけ助かるのが居た堪れず、フュルストを説得しようとする。

 

「フュルスト様、我らだけ避難しても宜しいのですか? 御命令ならば、最後の時まで配下を逃がすためにこの命使いますが?」

 

だが、ニールセンの進言をフュルストは、やんわりと否定する。

 

「余計な心配をしなくていい。もう、私達の組織はこの位置では、どんなことをしようと助かりません。ならば、大事なお前達だけでも逃がすのが道理というものです。」

 

「グスッ、フュルスト様、有り難う。オレ、嬉しい。」

 

オロバスが、鼻をすすりながらお礼を言う。

 

「さぁ、もう時間がない。また一からやり直しです。」

 

やがて五人は黒い渦に飲まれ消えていった。

 

 

 

一方、敵味方のあらゆる者達が混乱を極めるなか、ミサイルにしがみついた将造は…

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ!!!!!!

 

「うぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!」

 

「ムググググググゥゥゥゥ……」

 

物凄いスピードで遥か上空へ海座と共に登っていた。

 

大陸弾道ミサイルは、超遠距離爆撃のため、高度数百キロの宇宙空間にまで上り、そこで移動して目的地のほぼ直上に落ちるのだ。

 

大量のGがかかる中、海座の口に挟まっているプラグを引っ張る将造は、ミサイルの爆音に負けないよう、彼の耳元で怒鳴るように話しかける。

 

「海座ッ! このミサイルを、はよ何とかせぇッ!」

 

「ムググッ…プハッ。そ、それよりもこのミサイルは後一分程で宇宙空間まで行ってしまうぞ!!!」

 

「宇宙じゃと?! じゃあ、わしらはお陀仏かぁ?!」

 

「いや、爆撃場所が東京から近い群馬だから空気がない熱気圏に居るのは三十秒程だ! そこを越えればまた空気のあるところに戻れるっ! その後で私の右胸にある導線を抜けっ!! そうすればすべての機能が…うぉぉ!!!」

 

そうこう二人が話しているうちにミサイルは、成層圏を超えて極寒の中間圏を過ぎ、遂に宇宙空間である熱気圏に到達した。

 

「「………」」

 

海座は身体をほぼ機械化しているので、三十秒程度なら宇宙空間にいても平気だが、将造は生身であり、気圧の変化で血管や内蔵が膨張していつ死んでもおかしくない。故に海座は将造の安否が気になり、薄目で様子を見た。

 

(な、何だ?! この光は?!)

 

海座は驚きのあまり息を飲んだ。それは将造がすでに死んでいたからではない。将造の体の周りを薄緑色に輝くオーラが、彼を守るように包んでいたのだ。将造自身は、目を閉じているので分かっていないようだが、その光は海座の理解を超えた、何か大いなる意志に祝福されているようだった。

 

だが、三十秒後、ミサイルが地上に向き熱気圏を抜けると緑色の光は消えて、それと同時に将造は目を開ける。

 

「うぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」

 

そして、将造は雄叫びを上げると逆さまで吹き飛ばされそうになりながらも、海座を台座から引き剥がすべく体を思い切り引っ張った。

 

「うぎぎきぎ………」

 

メキメキメキメキッ!!!

 

将造の馬鹿力により、海座を繋ぐ機械類が段々と引き剥がされてゆく。

 

「将造っ!」

 

「海座っ! ぬしがもし生きてノマドに復讐したいなら、関西の山林組へ行けぇぇ!!」

 

やがて、将造の目に目標である東京キングダムが見えてくる。

 

「あれは東京キングダム…朧の奴、ホラ吹きやがって! どりゃあ!」

 

バキャッッッ!!! ドカッ!!

 

将造は、海座を台座から引き剥がしたと同時に海の方に蹴り出した。

 

「うぉぉぉぉ! 将造ぉぉぉっっっ!!!!」

 

海座は、大声を上げながら暗い海に吸い込まれていった。

 

そして、将造を乗せたミサイルは、着弾までわずかというところまで来た。

 

 

 

 

 

「ミ、ミサイルだぁぁぁぁぁ?!」

 

混乱極める東京キングダムで、視力に優れている獣人が悲鳴を上げながら空を指差した。周りの者も逃げるのを止めて空を仰ぎ見る。すると暗闇の中、火を拭きながらこちらに迫る物体が見える。それは間違いなく核ミサイルであった。

 

「もう、終わりだ…」

「くそっ」

「お母さんっ…」

 

路上にいる避難し遅れた人、オーク、淫魔、獣人、鬼、そして対魔忍、ギャング、娼婦、傭兵、浮浪者など、種族、職種関係なく力尽きたようにその場で涙を流して足を止めた。

 

そして、何万という者が注目するなか、ミサイルのロケットブースターの炎がいきなり見えなくなった瞬間、何かが飛び出しパラシュートが開くのが見えた。

 

「な、何だ?! ミサイルから何か?」

 

それを見た者達は、あれはあらかじめ分離するミサイルの部品であり、爆発の前兆と捉えた。

 

「爆発するぞぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

殆どの者が諦めて地面に伏せ、最後の時を迎えようとする。だが、ミサイルは上空では爆発せず、そのまま沙無羅威が所有している廃ビルに着弾した。

 

ドガァァァァァッッッッッ!!!!!!!

 

ビルに突っ込んだミサイルは、大音量を響かせながら廃ビルを崩落させる。その音を聞いた東京キングダムすべての者が、これこそが核爆発の音だと思い悲鳴を上げた。

 

ガラガラガラガラ………

 

「ウワァァァァァァァァ………!!!!!! あれ?」

 

ひゅぅぅ〜〜………

 

しかし、最初こそはビルの崩落音が響いていたが、それが次第に聞こえなくなると、周囲は風の音のみになる。それ以降何秒経っても爆風も閃光も起こらない。やがて、地面に伏せていた者達が、様子を見るべく恐る恐る立ち上がると彼らが目にしたのは、大きいキノコ雲なのではなく、いつもと変わらない乱雑とした東京キングダムの町並みであった。

 

「い、一体? どうなったの?」

「不良品だったのか? あのミサイル?」

「もう、ここは天国か?」

 

ザワザワと騒ぎが広まる中、一人のオークが空を指差し騒ぎ始めた。

 

「あ、あれは何だ?」

 

周りの者がオークの声に反応し、再度空に注目すると、先程ミサイルから分離した部品と思われる物がゆっくりとパラシュートで広場の方に降りてくるのが見えた。よく見るとそれはミサイルの部品ではなく、何か人の形をしている。それを見た東京キングダム中にいる者は、急いで落下地点の広場へと走った。それは先程の核から逃げるような死にものぐるいではなく、純粋な好奇心に惹かれてだった。

 

一分後、あらゆる種族が広場に集まり、降りてくる者を出迎えると、それは右目に包帯を巻いて、左腕がパラシュートを付いた巨大なバルカンになっている男だった。

 

男の周囲を囲む者達は、男の右目の傷や左腕のバルカン砲を見て、ざわめくうちに興奮しだし、彼を殺さんばかりに問い詰める。

 

「お前は誰だ?!」

「本当にミサイルに乗ってきたのか?!」

「誰が飛ばしたんだ?!」

「お前が海座に手を出したのか?!」

 

しかし、男は迫る群衆に狼狽えず、ゆっくりと息を吸い込んだ次の瞬間…

 

「わしの名は岩鬼将造ぉぉぉっっっっ!!!! 岩鬼組の組長じゃぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」

 

と、東京キングダム中に聞こえる大声を発した。

 

周囲の者は、あまりの大声に耳を塞ぐが、すぐに将造の名を聞いて再度騒ぎ出した。

 

「岩鬼将造って、あのノマドの要塞ビルを爆破した…」

「国会議員の矢崎をビルから蹴り落とした…」

「ヨミハラのリーアルを人間サーフボードにした…」

 

そして、ざわめく群衆を前に将造は先程より少し声の音量を落としてさらに続ける。

 

「皆の衆ッ!! 安心せいッ!! 核ミサイルはわしがなんとかしたわいっ!!」

 

それを聞いた一番近くにいる燕尾服の淫魔が、将造に恐る恐る質問をする。

 

「ミ、ミサイルを誰が発射した? いや、と言うより誰が海座を殺したんだ?」

 

その質問に周囲の者達が、一斉に将造の次の言葉に注目する。

 

「ノマドの朧じゃぁっ!!!! 全ては朧の企みじゃ!!!!」

 

『ええええええっっっっっっ!!!!!!!』

 

その後、将造は大声で事の顛末を語り始めた。

 

まず、朧が以前からムカついていた海座を、核が発射されるのを分かっていながらも殺そうとしたこと。ノマドと敵対していた岩鬼組が偶然にもその情報をキャッチして、核の発射を阻止しようとしたこと。その際、カチコミを邪魔するマッスルジョーというバカをボコボコにしたこと。ついでに同じくムカついているフュルストをノマドが未だ支配できない東京キングダムを巻き込んで殺害しようとしたこと。

 

「…と言うわけで、キ○ガ○朧に海座は呆気なく殺害されてのぉ。岩鬼組は、核ミサイル発射を止めることが出来んかった…しかし、この岩鬼将造は、何の罪もない東京キングダムにいるぬしらを見捨てられんかった。じゃから、核ミサイルにしがみついて、ギリギリですべての機能を止めることに成功して、今に至るわけじゃ…」

 

核ミサイルが東京キングダムに発射されたのは、ほぼ海座を襲撃した将造のせいなのだが、将造はすべての罪を朧に擦り付けた。元々、将造は、アサギからノマド幹部の仲の悪さを聞いており、それを上手く利用したのだ。

 

「マジかよ~! 確かにノマドの幹部連中って、仲が死ぬ程悪いって聞いたことあるぜ!!」

「要するに今回の事はノマドの仲間内のイザコザってことか…」

「何で俺達を巻き込むんだ!!」

 

以前から裏の住人達の間でも、イングリッド、朧、フュルスト、海座は同じノマドの幹部でありながらも、互いに殺したいほど仲が悪いことが知られていた。故に将造の説明に次々と納得し、ノマドの悪評が広まっていく。

 

しかし、それでも冷静に考える者も多数おり、その中でまだ納得出来ないチンピラの一人が再度、将造に質問する。

 

「そういって実はあんたが海座を殺そうとして、朧はそれに巻き込まれたんじゃねえの?」

 

その質問に周囲の者は再度、将造に注目した。

 

しかし、ほぼ図星を突かれた将造だが、少しも臆することなく逆にチンピラを大声で一喝した。

 

「馬鹿たれっ! 裏の世界では海座に手を出すことは禁止されとるはずじゃ! 核ミサイルは何処に飛ぶのかわからんのじゃぞ! 核が島内で爆発すれば、わしら極道の商売はあがったりじゃ! 仮にわしが海座を殺したとしても、何で殺した本人が核ミサイルに乗ってまで爆発を止めようとするんじゃ?!」

 

ここにさくらと静流が居れば、『今更何言ってんの? この人?』と呆れた顔をするに違いない。

 

しかし…

 

「た、確かに…核が発射されるのを知りながらも海座を殺して、それでわざわざ核にしがみついて止めるようとするなんて矛盾してるぜ。」

 

将造の性格を知りようがないチンピラや周囲の者は、将造の言葉に納得するしかなかった。

 

「じゃあ、あんたは正真正銘、俺達を助けるために発射された核ミサイルにしがみついて爆発を止めてくれたのか?」

 

「さっきから言っとろうが…ぬしらを助ける以外に誰がミサイルを止めるんじゃっ!!」

 

裏の世界には類を見ない程の将造の英雄的な自己犠牲を間近に見た東京キングダムの住人達は、興奮の坩堝に陥った。

 

「うぉぉぉ!!! 信じられねぇ!!!」

「すげぇぇぇぇ!!!!」

「え、英雄だ! 恩人だ!」

 

広場の興奮が最高潮に達するとノリがいい獣人やチンピラ、傭兵は、将造を担ぎ上げて胴上げし始める。

 

『わーしょい!!! わーしょい!!! わーしょい!!!  わーしょい!!!』

 

「うわはははは!!!! 核兵器がナンボのもんじゃあっ!!」

 

広場は、命が助かった喜びも相まってお祭りのような騒ぎとなり、その中心にいる将造は、右目の痛みを忘れて笑顔で胴上げされ続けた。

 

 

 

 

 

同時刻、丁度広場全体が見えるビルの屋上で、胴上げされる将造を観察する複数の影があった。

 

「すごいわね。要塞ビルを爆破して二ヶ月も経ってないのに、ノマド幹部とマッスル団のボスを退けるなんて。やっぱり、考え方が常人のそれとは違うからかしら?」

 

そう将造を褒めているのは、一ヶ月半前、要塞ビルが爆破された際に近くのビルの屋上で将造を観察していた仮面の女だった。女は通称『マダム』と呼ばれており、東京キングダムでクラブペルソナという店を経営している。しかし、裏の世界では、凄腕の情報屋で通っており、そのうえ米連と太いパイプも持ち、素顔を仮面で隠しているのも相まって謎大き人物である。

 

「確かに…あの狂犬のような瞳、岩鬼将造は俺達以上に獣の目をしてやがる。なぁ、トラジロー?」

 

「そうなのだ。あいつ、酒飲んだタローよりも常に目が逝っちゃてるのだ。」

 

仮面の女の問いに答えたのは、筋骨隆々の体に狼の頭をしたワーウルフという狼の獣人と年齢が小学生にしか見えない尻尾を生やした猫耳のワータイガーの少女だ。二人は、東京キングダムを支配する組織のひとつ、主に獣人達で構成された『獣王会』の若きリーダー『灰狼一郎太』と幹部の『トラジロー』である。

 

「例えどれだけ狂人だろうと体を少し改造した人間ごとき、俺達に比べればただの人間と変わらん。それに本当にあの朧とマッスルジョーのバカを退けたのかも解らんしな…」

 

将造の実力を否定したのは、アメリカのギャングのボスのような毛皮のコートを羽織っている白髪の若き男。彼は『獣王会』と同じく東京キングダムを支配する組織の一つで自らの名を冠した組織『弩竜』のボス『弩竜』。ドラゴニュートというドラゴンの力と人間の知能を持つ魔界でも希少な種族である。

 

「けけっーー♪ そうかな? 朧とマッスルジョーを倒したのかは解らないけど、実力はあると思うわ。あんたは、ミサイルにしがみついて宇宙空間に行けるのかい?」

 

笑いながら茶々を入れたのは、陣笠を被ったはち切れんばかりの体をサイズが合ってない和服で包んでいる女鬼『速疾鬼』。『獣王会』『弩竜』と並ぶ、主に鬼族で構成された『鬼武衆』という組織のボスである。高速の剣技を使う『不死身のラーヴァナ』と二つ名を持つ鬼族で、かつて対魔忍の中で五本の指に入る『八津九郎』と互角の戦いを繰り広げたこともある実力者である。

 

「フン…そんな馬鹿な真似が出来るか…」

 

あんな狂人と比べるなと言わんばかりに弩竜が鼻を鳴らす。

 

「それにあいつのグルグル目を見てるとなんか不思議な感覚になるんだよね? デジャヴュっていうのかな? 会ったことなんかないけど、前世とか別世界の自分があんな奴と戦ったような…」

 

速疾鬼が、不思議そうに首を曲げて腕を組んだ時…

 

ガチャリ… 

 

「貴様ら…俺のビルで何をしている…」

 

階段に通じるドアが開いて、低い男の声がその場に響く。五人が声の方向に目を向けると、そこには黒いスーツを着た厳つい表情の男がいた。

 

「ああ、そういえばここは、龍門のビルだったね。久しぶり、黄。」

 

男の名は、『黄広天』。中華連合を後ろ盾に持つ組織『龍門』のボスで『黒龍』という二つ名を持つ。龍門は、かつてクローン朧が率いた東京キングダムすべてを支配した組織だったが、六年前に対魔忍と米連に滅ぼされ、黄広天はその数年後にやって来た新しいボスである。以前のクローン朧と違い、組織の者を全て家族として見ており、他の組織よりも強い信頼と繋がりを持つ。

 

黄は、勝手に自分の領地であるビルに侵入しているのにも関わらず、少しも悪びれない五人をジロリと睨む。

 

「そんなに睨まないでくれよ、黄の旦那。あんたもあいつを見てみろよ?」

 

一朗太が、黄に目で将造を見るように促す。

 

「今俺は核のイザコザの後処理で忙しい。ファミリーに多大な被害が出たんでな。それに英雄だとか騒いではいるが、おおよそ、あいつが海座を殺してミサイルを発射させてしまったんだろう。ム…?」

 

黄は、将造を見もせずにその場で誰かを探すように見回した。

 

「沙無羅威の奴らは来てないのか?」

 

「さぁ? どうせ、フュルストが部下を見捨てて、四天王だけ連れて逃げたんでしょ。」

 

仮面の女が吐き捨てるように言った。

 

それを聞いた黄は、一瞬だけ軽蔑したような顔になる。

 

「そうか…相変わらず、最悪な奴だ。それはそうと貴様等、そろそろ俺のビルから出ていけ。お付きの者を連れて来ていないのは、忙しい中こっそりあの男を見に来たんだろう。貴様らの縄張りも被害が大きい筈だ。もう自分の仕事に戻れ。」

 

「わかったわ。また、話し合いの機会を設けるからその時に…」

「俺達も戻ろう。今日は徹夜だな。」

「わかったのだ!」

「……」

「じゃあね♪」

 

五人は黄に従って、屋上にも関わらずに一瞬で消えていった。

 

ようやく五人を追い出して一人になった黄は、階段に戻ろうとした時、偶然にも胴上げしている将造が見えた。

 

「………フン!」

 

しかし、何の興味も抱かずにそのまま救助に尽力している部下のところに戻って行った。

 

ここにいた彼らは知らない。現在、胴上げされている岩鬼将造に一ヶ月後、東京キングダムの有数の組織の内一つが潰され、さらにもう一つは吸収されてしまうことを。

 

 

 

そして、東京キングダムトップの者達が解散してすぐに、空中で将造の胴上げを観察する者が現れた。

 

「ほら、俺の言った通りでしょ? アサギさん?」

 

「……信じられない。」

 

それはヘリコプターで急行したアサギ達だった。アサギは、核ミサイルの生き残りの救助の為と言いはって無理矢理、三太郎と拓三に付いてきたのだ。

 

「左手と右足を改造しただけの人間が、ミサイルにしがみついて宇宙空間を超えて生き残るとは…」

 

核の現場に行こうとするアサギを止めようとした紫は、結局は押し切られるも彼女を心配して一緒に付いて来ていた。

 

「そうね、まさに極道兵器だわ…」

 

対魔忍の二人の表情は、将造が生き残っている嬉しさよりも驚きの方が遥かに大きかった。

 

「若は、やっぱり不死身なんすよ!」

 

そんな二人を見て三太郎が、自分の事のように誇らしげに胸を張った。

 

しかし、盛り上がる雰囲気の中、運転席にいる拓三が嬉しさと困惑が入り混じった声で呟いた。

 

「若が生きていて申し分ないが、ちょっと困ったことになったぜ。」

 

「どうしたの? 拓三くん?」

 

「あれじゃ、どのタイミングで迎えに行ったらいいのか解らない。重傷だから一刻も速く病院に行きたいんですけど…」

 

「そういえば、何であんな状態になっているのかしら?」

 

アサギは、少し苦笑いをして呆れながら言った。

 

 

 

また同時刻、海に落とされた海座は何百mもの高度から着水するが命に別状はなく、本州に向かって必死に泳いでいた。体の中にあった発信機や盗聴器は、すでに外している。これで海座は、ノマドから死亡扱いになるだろう。

 

「くそっ! ノマドめ! 朧め! 絶対に復讐してやる!」

 

海座は、ノマドと朧に対する恨み節を呟きながら、本州の光を目指して泳ぐ。

 

だが、その最中にふと宇宙空間に突入した際、将造の体が薄緑色の光に包まれたことと、それに引っ張られるように昔聞いたある話を思い出した。

 

(確か、長年生きている魔族から聞いたことがある。魔界の言い伝えに寄れば、真祖や神話級すらも関係ない大昔、地球上は魔族が人類の祖先を支配していた。しかしある時、空から魔族だけに有害な光が降り注ぎ、魔族はそれに耐えきれず魔界に逃げ、そこから人類は急激に進化して文明を築いたという。確か、その光は若葉のような色をしていたとか? いや、まさかな…)

 

海座は、馬鹿な考えを振り切るように顔を振る。

 

(とにかく、今は岩鬼将造が言うとおりに、関西の山林組という所に行くしかない。関西ならノマドの支配も緩いはずだ。)

 

それから、海座は何も喋らずに一心不乱に本州へと急いだ。

 

 

その後、胴上げされていた将造は、三太郎と拓三が広場に直接行き胴上げを止めさせ、大歓声の中、ヘリコプターで飛び去り、病院に直行した。

 

核ミサイルの破片は、翌日に急行した政府の特別チームにより回収された。流石に放射能まみれの部品回収を止める者はおらず、作業はスムーズに行われた。

 

そして、核ミサイルを切っ掛けにノマドは一方的に様々な魔族達から目の敵にされ、特に東京キングダムを中心とした裏の世界では、フュルスト率いる沙無羅威と共に求心力や支配力を急激に失ってしまう。それはノマドが、今回の事件の全貌を発表せず、さらに元凶とされた朧が、事件後一切姿を現していないために被害者の怨みが晴らせないのも関係していた

 

対照的に岩鬼将造率いる岩鬼組は、その後急激に力を付けていった。その原因は、東京キングダムの神魔組とマッスル団の支配地域、そして、臨海新都心の土地と兵器をすべて奪ったからである。さらにリーアルが管理していたブログに、今まで嬲り殺した外道達の映像を上げると、将造に救われた東京キングダムの住人達は、英雄だった将造の死ぬ程恐ろしい一面も理解し、さらに恐れ敬うようになった。

 

 

 

裏の世界の実力者には、二つ名が付くことがある。それは称号に近く、実力ある対魔忍のアサギには、『最強の対魔忍』、静流には『花の静流』、凛子には『斬鬼』、敵であるノマドのイングリッドには『魔界騎士』、フュルストには『侯爵』とそれらは、本名以上にあらゆる種族に伝わり恐れられる。

 

そして、核ミサイルの事件後、裏の世界の住人達が恐れ震える新たなる二つ名が生まれた。核兵器よりも強力で残酷な男に付いた称号、その名は…

 

 

   

         『 極道兵器 』

 

 

 




何か…対魔忍RPG的な終わりになりました。
海座を生かしたのは、後々重要な役目があるからです。後は、対魔忍の頭がおかしい敵と比べて殺す要素が薄いかなと思ったからです。
この話を書くに当たって、核ミサイルの範囲とか、宇宙空間でどれだけ人が生きられるかとか少し調べました。まぁ、最終的に将造は、○ッター線に選ばれているので何とかなるでしょう的なノリに落ち着きました。
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