対魔忍者と極道兵器   作:不屈闘志

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Weapon 16 異次元イカ野郎 現代編

焼け焦げた怪生物達の香ばしい匂いが狭い路地裏に漂うなか、将造、三太郎、拓三は、一人の女性と対峙していた。将造達が苦戦していた怪生物を十秒ほどで倒したその女性は、年齢は二十代後半、ショートカットで褐色の肌、そして対魔スーツを着ていたが、なにより驚くべきは顔がゆきかぜそっくりであったことだ。

 

「また会ったわね…将造…」

 

将造達に向けるその儚げな微笑みは、敵意というものが全く感じられないものであった。

 

しかし…

 

ガチャッ!!

 

「なにもんだ…てめぇ…」

 

対照的に将造は刺すような殺意を隠そうともせず、腹巻からコルトパイソンを早撃ちするような速さで取り出し、目の前の女性に向けた。これが本物のゆきかぜなら、助けが来たと思うだけだったろう。だが身の前にいるのはゆきかぜではなく、ゆきかぜに似た女なのだ。しかも、その女からは、初めてアサギと出会った時に感じたような実力者のオーラが溢れており、もし敵であれば一瞬で殺されてしまうと肌で感じていた。

 

ガチャ! ガチャ!

 

混乱する三太郎と拓三だったが、二人も将造に習い、先程まで怪生物を撃っていた銃を向ける。

 

「…………」

 

だが、三つの銃口を向けられたゆきかぜに似た女性は、少しもその笑みを崩さない。

 

「助けてくれたことにゃ感謝するが、後三秒以内に何か言わんかったら…容赦なく引鉄を引くぜ…さん…」

 

将造は、容赦なく死刑宣告をする。

 

将造は、傭兵時代にミラベル・ベルのような女軍人、女サイボーグ部隊、さらには微笑みかけながら自爆する少女などを限りなく間近に見てきた。故に横にいる三太郎と拓三には、将造が三秒経てば本気で目の前の女を銃殺するという気迫が、ビシビシ伝わってくる。

 

「にぃ…い…『リーアルは童貞野郎…』?!」

 

コルトパイソンから弾丸が放たれるより先に、女の口から下品で有り得ない言葉が放たれた。

 

さらに女は続ける。

 

「矢崎はヘニャチン野郎、ブラックは糞ボケ野郎、朧は厚化粧女郎、倉脇は裏切り野郎。」

 

「「「…」」」

 

女から放たれる言葉に、将造達は心底驚く。その驚き様は、ただ単に女性がノマドに対する下品な悪口を言っているからではない。

 

「てめぇ…何故その言葉を知っとる?!」

 

女が羅列した言葉は、すべて将造以外の者達が、フールに化けられた時に言うそれぞれの合言葉だった。それらの合言葉は、六人以外アサギや静流でさえも知らないはずである。

 

「それはね、時間がないから単刀直入に言うわ。私は十年以上未来から来たゆきかぜだからよ。」

 

「「?!」」

 

女のあまりにぶっ飛んだ言葉に三太郎、拓三の二人は、驚愕する。

 

「若? こいつ頭がおかしいんじゃ…いや、それよりもなんで俺達の合言葉を知っているんだ?」

 

「あれは念入りに秘密にするため、作戦の直前、しかも声に出さず紙で伝えてすぐに燃やしたはず…」

 

狼狽える二人を余所に、将造は余裕そうに微笑む。

 

「…ほう、今まで殺してきた中には、未来から来たって奴は流石にいなかったぜ。じゃが…」

 

将造は、女に向けた銃口をまだずらさない。

 

「わし等が合い言葉を伝えた場所に監視カメラが合って、メモを盗み見たかもしれんしのぉ…ぬしが未来から来たなら、もっと証拠見せい!!」

 

将造は、そう怒鳴ると笑顔から迫力じみた真剣な顔になり、さらに女に迫る。

 

「そう、じゃあ未来の技術を見せてあげる。」

 

そう言って女は、将造の気迫に少しも動じずにゆっくりと左腕を動かし始めた。

 

将造は女の動作を何も言わずに見ているだけだが、少しでも妙な動きをすれば脳天を撃ち抜くだろう。

 

そして、女が左腕を胸の前に止めた瞬間…

 

ヴンッ!!

 

対魔スーツの小手が、空中にディスプレイを映した。それは立体映像の東京キングダムだった。

 

「「「………う…うぉぉぉぉぉっっ!!」」」

 

それを見た将造達は、興奮の余り声を上げる。

 

空中にディスプレイを映す技術は、最近研究されてはいるが、実用化には程遠い段階であると将造達も知っていたからだ。

 

「これで解った?」

 

ゆきかぜは、驚愕している将造達に問う。

 

「すげぇぜ…本当に空中に映写してる…」

 

「…こんなのは、米連の技術でも無理だ…」

 

「これ、AVも映せるのかのぉ?」

 

将造達は先程まで銃口を向けていたゆきかぜそっちのけで、興奮しながら空中に浮かぶディスプレイに触れようとしていた。

 

「………はぁっ…」

 

自分の話を聞いていない三人に少し呆れた顔になった女は、ため息をつく。

 

そして…

 

ヴンッ…

 

「「「あっ!!!」」」

 

ディスプレイを消した。

 

「あんた達、昔のまんまね、って昔か…とにかくそろそろ話を聞いて!」

 

将造達はやっと未来から来たゆきかぜにテンションそのままで向き合った。

 

「おお、すまねぇ! すまねぇ! しかし、未来はやっぱすげぇな! やっぱりマンガみたいな世界なんだろぉなぁ!」

 

「あの技術を見る限り、色々なところが発展して便利になってるっぽいな! プレステとか7くらい出てるんじゃないか?」

 

「未来なら岩鬼組はノマドをボコボコにして構成員も十万は超えて、世界に進出を…そうじゃ! 未来ならこれから上がる株券や万馬券を教えて…ん?」

 

将造達が興奮気味に希望溢れる未来の話をすると三人とは対象的に、ゆきかぜの表情に影が刺した。

 

「ごめんなさい。未来の話は…出来ないわ。過去にどんな影響を及ぼすかわからないもの…」

 

僅かな表情の変化を見逃さなかった三人は、何かを察っして未来への質問を止めた。

 

「くそう…残念だぜ。」

 

「SFのお約束だな…」

 

「解った…しかし、過去に遡ってまでこの極道兵器に頼みたいとはなんだ?」

 

ゆきかぜは、暗い表情を止め真剣な顔で三人に向き直った。

 

「貴方に頼みたいことは、一つだけ。未来の為に破壊して欲しい物があるの。」 

 

「破壊したい物か…まぁ、わしらに頼む案件は、荒事しかないからのぉ。じゃが、いくつか疑問点がある。」

 

「何、時間がないから手短にお願い。」

 

「何故、そんな大事な事なら他の未来の仲間を大勢連れてこない? そして過去に戻ってまでしたいことの手伝いを仲間である対魔忍ではなく、何故わしらに頼む? これも答えたらだめなことかいのぉ?」

 

将造は、今度は茶化すような雰囲気ではなく真剣な表情でゆきかぜに質問をした。

 

「それくらいなら答えられるわ。まず時間と空間のシステムは未来ではすでに解明されているけど、その制御は難しく、僅かな時間軸の歪みでも星雲を吹き飛ばす危険がある。本来少しでも科学的な知識を手にした知的生命体なら、決して触れたりしない悪魔の領域よ。私、一人しかここに来れないのは技術的要素もあるけど、あまりにも大勢だと宇宙が危険になるってこと。」

 

「なんかよく解らんが、気軽には来れんというわけか…」

 

「そして、対魔忍ではなくあんた達に頼んだのは、この時代に居られる時間が僅かしかないから、対魔忍相手なら説明に時間がかかってしまうこと、そして、過去の自分自身に会えば何が起こるかわからないから、達郎と凛子先輩には頼めないこと、それと…荒事だから、あんた達に頼んだほうが成功率が上がるということね。」

 

ゆきかぜは、一つだけ嘘をついた。それは元々、この案件は、将造達や達郎、凛子よりも自由が効く遊撃隊に頼もうと思っていたことである。しかし、ゆきかぜは遊撃隊の一員である上原鹿之介という対魔忍の死を皮切りに、隊長を始め、ほとんどがブレインフレーヤーに殺されてしまう運命を知っている。故に運命の強制力を危惧し、五車町には寄ったが鹿之介を怪生物や機械生命体から、名を名乗らずに助けるだけに留めたことである。そこからすぐに東京キングダムに急いだのだ。

 

「じゃあ、あの魚達は?」

 

「あれは、破壊対象である『遺物』を狙う『ブレインフレーヤー』が遣わした怪生物よ。そいつらは遺物がある米連の倉庫から周りの目を逸らすため、施設近隣にあの生物を放ったのよ。」

 

そう言ってゆきかぜは、少し離れた米連の倉庫を指さした。

 

「ブレインフレーヤーってのも気になるが、破壊したい『遺物?』って米連倉庫にあるのかよ?! それって絶対に米連には内緒だよな?!」

 

拓三が、驚きと疑問点に溢れた顔になる。世界一の軍事力を誇る米連の施設に忍び込めばノマド以上にただでは済まないことは、裏表関係なく世界の常識だからだ。

 

「だから、あんた達に頼むの。それとブレインフレーヤーは、個人名じゃなくて異次元からこの世界を侵略してくる種族名よ。だから、あいつは次元を超えて難なく遺物がある場所に直接出現するわ。施設周辺の人払いは、念の為でしょうね。」

 

「ポンポン新しい単語や設定が出てきて頭が爆発しそうや…」

 

三太郎は、混乱したように頭のモヒカンを掻き毟る。

 

「どう、将造? やってくれる?」

 

ゆきかぜは、混乱する拓三と三太郎を置いて、将造に向き直る。

 

「何の報酬もなしにそんな面倒なことは、わしはしないぜ。ノマドどころか米連にまで目を付けられたら、極道連合設立が難しくなるからのぉ。」

 

将造は、ゆきかぜを見捨てるような言葉を放った。

 

「……」

 

ゆきかぜの表情が曇る。

 

しかし…

 

「じゃが、その遺物ってやつをブレインフレーヤーに奪われる前に破壊しなくては未来が危ないんじゃろ? 先程からのぬし…ゆきかぜの態度を見とると、世界はそいつらに無茶苦茶にされてしまったってことくらい、わしにはわかるぜ。それにわしに頼み事をするなら、未来の万馬券やこれからの株の動きの情報くらいは土産に持ってくるはずじゃ…それが無いってことは、もうそんなものは未来には存在しないんじゃろうな…」

 

「……」

 

ゆきかぜは沈黙していたが、その黙りが答えであると将造達は感じた。

 

「賭け事が無い世界になるなんてわしが許さねぇ! それにこの日本…いや、世界は俺のもんだっ!! 異次元野郎に好き勝手させねぇぜ!!」

 

「?!…じゃあ!!」

 

「道案内は任せたぜ、ゆきかぜ!! 遺物も異次元野郎もこの極道兵器がすべて破壊しちゃる!!」

 

将造は声高々に宣言した。

 

 

十分後…

 

将造達とゆきかぜは、倉庫を守る米連のドローンを難なく蹴散らして素早く中に入っていた。

 

「魚倒した時にも感じたけど、すげぇ、強くなったんだな!」

 

「俺達、手伝わなくてもよかったんじゃねぇか?」

 

「……」

 

軍用ドローンを圧倒的な力で蹴散らしたゆきかぜを見た三太郎と拓三は、彼女に興奮気味に話しかけるが、何も答えない。

 

そんな反応が無いゆきかぜを見て、二人は将造に小声で話しかけ始めた。

 

(若、未来のゆきかぜって、冷静っていうよりなんか冷めてますね…)

 

(やっぱり、ブレインフレーヤーの件以外にもなんかあって…例えば静流さん辺りに達郎を寝取られたとか?)

 

(………わからんが、あれだけ子供っぽい性格が変わるとは、重大な事が起きたんじゃろうな…それよりも)

 

「確か入口は…」

 

小声で話す三人を無視するゆきかぜは、何か扉を探しているらしい。

 

(こんな実力があるゆきかぜが、わしに助けを求めるとは…ブレインフレーヤーってのは一体…)

 

やがて、四人は倉庫の中央にある、巧妙に床に擬態している鉄の扉の前に着いた。

 

将造達は、ゆきかぜが地下に行くものと思い扉を開こうとする。

 

しかし…

 

ガラッ!

 

「せ〜か〜い〜は〜ふふふ、ふんふふんすべてぇうしな〜い〜〜♪♪」

 

倉庫の入口が開いたと同時に、四人の耳に場違いな歌声が聞こえてきた。

 

大きなトランクケースを持って入ってきた人物は、年齢は十代後半、茶色の髪を膝まで伸ばし、ピンクの対魔スーツを着た少女だった。少女の名は、『甲河アスカ』。DSO(米連防衛科学研究室)に所属している、里を抜けた対魔忍である。その実力は、裏の世界では『鋼鉄の死神』と恐れられる程だ。

 

「「「あん?…」」」

 

「え?…」

 

いきなりの登場に将造達どころか、入ってきたアスカでさえも唖然とする。

 

「時間通りね…」

 

しかし、ゆきかぜだけは、アスカがこの時間に倉庫へ入って来るのを知っていたかのように、少しも驚いた様子が無かった。

 

「あんたは、岩鬼将造!! 極道兵器が米連施設に何の用なのっ!」

 

アスカは、目の前の男が岩鬼将造だと解った瞬間に呆気にとられた顔から、すぐに険しい表情になり戦闘態勢になる。

 

その凄まじい剣幕に三太郎と拓三は、大慌てで言い訳をし始めた。

 

「い、いや、俺達は道に迷っただけで…」

 

「そうそう、公衆トイレを探していたらつい…」

 

(ゆきかぜ? ぬしは、この対魔忍が来ることを知っとったんか?)

 

将造は小声で、ゆきかぜに問う。

 

だが、ゆきかぜは何も答えずに言い訳を続ける二人とアスカの間に立った。

 

アスカは、将造達からゆきかぜに目線を変えてジロリと睨む。だが、その顔を見た途端に驚きの表情に変わった。

 

「貴方は…水城ゆきかぜ? いや、似てるけど違うわね。何者なの?」

 

「言えない。それよりもアスカ…その手に持ってる遺物を渡して。」

 

「遺物? あんたみたいな正体不明の女に名前で呼ばれる筋合いは無いんだけど?! ちなみに渡したらどうするつもり?!」

 

「破壊する。」

 

ゆきかぜの冷ややかな言葉を聞いたアスカは、一瞬で激昂した。

 

「この『鋼鉄の死神』相手に良い度胸ね……やってみろ! アンドロイドアーム・マッハパンチッ!!」

 

ビュオッ!!

 

アスカの何の予備動作も無い音速のパンチがゆきかぜを襲う。

 

しかし…

 

バシィッ!

 

「?!」

 

ゆきかぜに放たれた音速の拳を、将造は横から右腕を伸ばして、難なく受け止めた。

 

「アスカと言ったかの? 中々良いパンチ放つじゃねぇか! しかし、この極道兵器を差し置いて…ん? アンドロイドアームじゃと? この腕はまさか?!」

 

何かに気付いた将造は、受け止めた手でアスカの拳の感触を確かめるように握る。

 

一方、アスカは自慢のパンチを受け止められたのにも関わらず、不敵に笑っていた。

 

「へぇ、マッハパンチを受け止められたのは初めてよ。ただの武器を振り回す狂人かと思ったけどやるわね…けれど!!」

 

ジャキ! ジャキ!

 

両腕から鎌状の対魔ブレードが現れた。さらにその刃は、アスカの対魔粒子で薄く光っている。

 

「やはり、サイボーグかっ?!」

 

ゴォォォオォッッッ!!!!!!

 

将造が叫んだ瞬間にアスカの周りを豪風が包み込んだ。

 

「ぐぉ…?! こいつ、達郎と同じ…?!」

 

将造は、風に体を三m程吹き飛ばされ、アスカの拳を離してしまう。

 

「将造! 一旦離れて! アスカは私が相手を…」

 

ゆきかぜが将造の前に立とうとした時、アスカは豪風の中心で叫んだ。

 

「岩鬼将造!! あんたはアサギさんから最新の義肢を貰ったかもしれないけど、私の米連最強の戦闘用アンドロイドアーム&レッグに比べたら玩具に等しいわ!」

 

自らが愛用している義肢をばかにされた将造は、笑いながら青筋を立てる。

 

「言いやがるぜ…このクソガキャ! ゆきかぜ! ぬしが離れぇ!」

 

そう言って、将造は下がれと言うゆきかぜを無視し、背中からポン刀を取り出して、豪風の中へ勢いよく突っ込んだ。

 

しかし…

 

「風神・飛燕!!」

 

「何?!」

 

豪風の中心に向かう将造の目の前で、アスカがいきなり消えた。いや、消えたのではない。

 

ガキィッ!

 

「ウグッ!」

 

「「若?!」」

 

アスカは、風遁の風を利用し恐るべき速さで将造の背後に回り、対魔ブレードで切りかかったのだ。

 

「へぇっ…益々驚きだわ。並の魔族ならこれで一撃なのに…」

 

将造は、傭兵時代に培った洞察力で前を向いたまま刀を背に回し防御した。しかし、勢いを完全に殺せなかったらしく、前のめりになり地面に手を付く。

 

(今のはアンドロイドの動きじゃねぇ?! これは?)

 

不思議そうに振り返る将造の顔を見たアスカは、満足そうに話し出す。

 

「さらに私の手足は特別性よ。なんたって対魔粒子をチャージして、忍法を補助してくれるんだから♪

後、こんなこともできるわよ…風神・陣刃!!」

 

そう叫んだアスカが、空中を思い切り蹴る動作をした次の瞬間…

 

パキャンッ!

 

「「「?!」」」

 

倉庫内に転がっていた鉄骨が、いきなり裂けた。その切り口は、光が反射する程の鮮やかさである。

 

「い、いきなり鉄骨が大根みたいに切れやがった…」

 

「少しも触ってもいねぇのに…」

 

三太郎と拓三は、アスカの忍法に恐れおおのく。

 

「この一般人の反応…久し振りで気分良いわ。自慢じゃないけど五車にいた頃は、次期頭目って言われてたんだからね。さぁ、どうするの? 極道兵器さん?」

 

「将造、もう下がって…『ぐわはははははははは!!!!!!』」

 

ゆきかぜが前に出ようとしたとき、将造の笑い声が響いた。

 

「さすが、鋼鉄の死神さんだぜ! 同じ風遁使いの達郎とは比べモンにならんほどの凄さじゃ。」

 

「将造! もう時間が無いわ!」

 

「安心せい…ゆきかぜ。後十秒程でケリがつく。」

 

ガキッ!

 

そう言いながら将造は、地面に膝を付き前屈みのままゆっくりと口で左手を外し始めた。

 

アスカは、将造の義手を小馬鹿にしたような目で見ている。

 

(やっぱり、旧式ね。私の様に一瞬で変形するんじゃなくて腕を外してからだと、どうしてもワンテンポ遅れ…)

 

ズキュン!!!! ズキュン!!!!

 

バキャッ! バキャッ!

 

「きゃぁっ?!」

 

将造の左手のマシンガンが露わになる前に、アスカの両腕のアンドロイドアームが、いきなり銃撃された。

 

「何か勘違いしとるようじゃが、わしは左手と右足を改造される前から極道兵器だぜ…」

 

「い、一体どこから撃たれたの?」

 

バチバチと火花を上げる両腕から目を外し、アスカは銃撃した銃を探す。

 

数々の米連の任務をこなしているアスカは、油断せず、四人がすべて視界に入る位置におり、妙な動きを見せたら、素早く対応出来るようにしていた。しかし、眼鏡のグラサンと迷彩服は、ポカンとした顔で見ているし、ゆきかぜと名乗る女は驚いた顔で見ているだけで銃撃した様子は無い。

 

「撃ったのはわしだぜ。アスカちゃんよぉ…」

 

左手を嵌め直し、立ち上がった将造を見たアスカは、やっと銃の場所が解った。

 

「まさか、そんなとこから…狂いもなく私の腕を…」

 

将造が腰に嵌めている腹巻きに焦げた穴が空いている。

 

「わしは目線と銃口を合わせずに標的を撃つことが出来る。例え、腹巻きに入れた状態からでものぉ。」

 

そう言って将造は、右手で腹巻きからコルトパイソンを取り出した。将造は、左手のマシンガンで銃撃すると見せかけて、腹巻きの中のコルトパイソンで銃撃したのだ。さらにずっと前屈みだったのは、立ち上がれないのではなく、アスカから腹部を見えにくくする為だった。

 

「さぁ、もう観念せぇ!」

 

将造が、アスカにゆっくりと近づく。

 

「舐めんな! アンドロイドアームは、まだ完全に壊れたわけじゃ…『バチッ!』ギャッ!」

 

気丈に吠えるアスカが、いきなり体をビクリと震わした。

 

怒りのあまり将造だけに注意を向けたアスカの隙を付き、素早く背後に回ったゆきかぜが、首筋に電流を流したのだ。

 

グラッ…

 

倒れるアスカをゆきかぜは、ゆっくりと支える。

 

「ごめんね、アスカ…」

 

将造は、アスカを倒したゆきかぜに少し焦ったように駆け寄る。

 

「まさか殺したんか…ゆきかぜ?」

 

「いえ、気絶させただけよ。それよりも早くそのトランクを破壊しなくちゃ。」

 

ゆきかぜは、アスカをゆっくりと横たわらせ、トランクに向かおうとした。

 

その時…

 

ピクリ…

 

「「「「?!」」」」

 

トランクがいきなり動いた。

 

ゆきかぜの顔が再度険しくなる。

 

「極道兵器の戦い、見せてもらったわ。」

 

楽しげな声とともに光学迷彩を解いて姿を現したのは、年齢は少なくともニ十代後半で紫の髪のショートカット、さらに対魔スーツを着た仮面の対魔忍だった。

 

「仮面の対魔忍…」

 

「まさか、二人がかりとはいえ、うちのアスカを簡単に倒すなんてやるわね。」

 

いきなり現れた仮面の対魔忍は、将造とゆきかぜを褒めるが、楽しそうな口調と違い少しも油断した様子が無い。

 

「このガキを殺すかもしれなかったのに、ぬしは高見の見物か?」

 

「勿論、そっちがアスカを最初から殺すつもりだったなら、私も透明なまま容赦なく襲っていたわ。けれど、貴方達はなるべく傷付けずにあくまで無力化しようとしただけだった。だから、見学していたのよ。まぁ、アスカも気づいていたと思うけどね。」

 

毒づく将造の言葉を仮面の対魔忍は、余裕そうにいなす。

 

(やべぇなこの女、青臭いアスカよりも厄介そうだぜ。少なくとも、実力は伊河のくらい有りやがる。いや、それだけじゃなくどっかで会ったような? ん?)

 

将造が目の前に現れた仮面の対魔忍を分析している間に、ゆきかぜが前に一歩出る。

 

彼女が何かを言おうとするものと思い、気絶しているアスカ以外の者が彼女に注目する。

 

しかし、

 

ズギュン!

 

ゆきかぜが、いきなりガンマンのように人差し指を仮面の対魔忍に向けた瞬間、その指から電撃のようなビームが発射された。

 

バチッ!!!

 

仮面の対魔忍は、その有無を言わさぬビームに撃ち抜かれた…かに見えた。

 

「なにぃ?!」

 

将造が珍しく驚いた声を上げる。撃ち抜かれて崩れ落ちたのは、仮面の対魔忍ではなく、人型ドローンの兼光だったからだ。

 

「凄いわね。いままで出会った雷遁の使い手とは比べ者にならないわ。」

 

別の場所から、平気そうな仮面の対魔忍の声がする。急いで四人がそこに目を向けると無傷の仮面の対魔忍が立っていた。

 

ズギュン!

 

ゆきかぜが再び、仮面の対魔忍に向かって指から雷撃を放つ。

 

しかし…

 

ガシャン…

 

崩れ落ちたのは、また兼光であった。

 

「けれど、余裕がなさ過ぎよ。」

 

今度はゆきかぜの背後に現れた仮面の対魔忍は、ナックルブレードという大きいメリケンサックにジャックナイフが付いたような武器を持って、ゆきかぜに斬りつける。

 

ガキィッ!!

 

「グッ?!」

 

ゆきかぜは、仮面の対魔忍のブレードを両腕から雷撃の刃を出してギリギリで受け止めた。

 

そこから、ゆきかぜと仮面の対魔忍との剣戟が数分間続くが、笑みを浮かべる仮面の対魔忍と違い、ゆきかぜは時計を気にしながら戦っているためか、いまいち攻めきれていない。しかも、斬りつけたと思ったら、変わり身であったりするために増々ゆきかぜは戦いにくそうだ。

 

「す、すげぇ動きだ…」

 

「これは間に入れませんね…若?」

 

「そうじゃのう…悔しいが、速すぎて仮面を銃撃できねぇ。」

 

将造達は、ゆきかぜに加勢をしようと何度も銃撃を試みたが、二人の動きが余りにも速過ぎて、ずっと撃てずにいた。下手に銃撃したら、ゆきかぜに当たる可能性もあるからだ。

 

(しかし、身代わりの術は見事じゃが、ああいうのは本体が何処かに潜んでいるのがお約束だぜ。あんなに細けぇ動きだ。かなり近くに…)

 

将造は、十年以上も戦乱の局地で戦ってきた歴戦の傭兵でもある。夜の密林のジャングル、砂嵐吹きすさぶ砂漠、爆音が耳元で響く繁華街など目、耳、鼻が役に立たない戦闘などしょっちゅうであった。だが、それ故に元々持っていた敵を感知する獣の様な感覚は、さらに研ぎ澄まされていった。その将造が、目を閉じて本気で気配を探り始めた。

 

(あっちも殺すつもりじゃねぇから、殺気が掴みづれぇ…じゃが、技を強く撃ち出す時は、チカチカと点滅しとるように気配が何処かから漏れとる…)

 

仮面の対魔忍も達人なため、将造はわずかな気配を感じとれはするが、場所が特定できない。

 

「対魔殺法・鬼斬離!!」 

 

しかし、仮面の対魔忍が大技を出した瞬間、ある場所から大きな気配を感じた。

 

「そこじゃあっ!!!」

 

将造は、すでに倒れている兼光に銃を向ける。

 

「ちぃっ!」

 

ズドン!

 

するとゆきかぜと戦っている仮面対魔忍は兼光になり、逆に横たわっている兼光は、仮面の対魔忍に変わり、銃撃を避けた。

 

「逃さないっ! 雷蜘蛛(ライトニングウェブ)!!」

 

ゆきかぜは、銃撃を避けて隙ができた仮面の対魔忍に蜘蛛の巣状の雷撃を放った。

 

「くっ?!」

 

必中のタイミングである。さすがの仮面の対魔忍も避けられないかと思われた。

 

しかし…

 

「風神・陣刃!!」

 

鎌鼬の様な空気の斬撃が、捕らえよええとする蜘蛛の巣を切り裂いた。いつの間にか、気絶から目覚めたアスカの忍法だ。

 

そして、蜘蛛の巣を切り裂いた鎌鼬は、そのままゆきかぜを狙う。

 

「「「ゆきかぜっ?!」」」

 

将造達がゆきかぜに向かって叫ぶ。

 

「くっ?!」

 

ゆきかぜは、空中で器用に体を反らしてギリギリで鎌鼬を避けた。

 

「ふぅ………?!」

 

将造が鎌鼬を避けるゆきかぜを見て、安心し軽いため息をついた瞬間…

 

「今度は手加減なしよっ! 風神・スパイラルキックッ!!」

 

風神・飛燕で高速移動し、いつの間にか将造の目の前に立ったアスカの蹴りが炸裂した。

 

ズガァッ!!!

 

「うぐっ?!」

 

ゆきかぜの方に注意が向き油断した将造は、アンドロイドレッグのパワーに風遁の力を上乗せした凄まじい鋼鉄の蹴りで、壁まで吹き飛ばされる。

 

ドガァ!

 

「「若!」」

 

血相を変えて三太郎と拓三が、将造に駆け寄る。

 

「がはッ! へへへ、やるじゃねぇか…」

 

背中がコンクリの壁に激突し、わずかに吐血した将造だが、蹴り自体は辛うじて左手で防御していたらしく、体に怪我などは見当たらない。しかし、弾丸をも弾く硬度を持つ義手は、粉々に砕け散っていた。

 

一方、蹴りを放ったアスカは、急いで仮面の対魔忍と合流する。

 

「大丈夫? マダム?」

 

「ちょっと危なかったわ。けれどさすが、噂の極道兵器ね。気配を上手く消していたと思ったのに感づかれるなんて…それにそっちの水城さんに似た人も凄い腕だわ。」

 

「こっちもおどれぇたぜ〜まさか、日に二回も変わり身使う奴をボコる羽目になるとはのぉ…」

 

そう言って将造はゆきかぜの隣に立ち、今度は笑いながらも殺気を込めた視線で、アスカと仮面の対魔忍を睨む。

 

達人同士である二人対二人の気のぶつかり合いで息が詰まる雰囲気の中、その間に割って入る者がいた。

 

三太郎と拓三である。

 

「ち、ちょっと待った。考えたらなんで戦う必要があるんすか? ゆきかぜ、まずは未来から来た事情をこの米連の二人に話そうや!」

 

「そうだぜ。そのピチピチのスーツを見る限り、この二人も同じ対魔忍なんだろう?! 話くらいは聞いてくれるはずだぜ!」

 

「ピチピチのスーツじゃなくて対魔スーツよっ! 対魔忍かどうかをそこで判断するな!っていうか、それよりも未来から来たってどういうことよ?!」

 

二人の言葉を聞いたアスカは、不思議そうにゆきかぜに顔を向ける。

 

しかし、ゆきかぜはその問いを無視するかの様に手元の手甲を見ている。

 

そして、悲しげな顔で一言呟いた。

 

「残念、時間切れ…」

 

次の瞬間…

 

ググググググググ……

 

すぐ近くの空間が渦状に歪んでゆく。

 

「「「「「?!」」」」」

 

ゆきかぜ以外の五人は、驚愕した顔でそれを見る。

 

そんな中、渦から声が聞こえてきた。

 

『やっとこの次元に来ることが出来ました。随分と時間がかかってしまいました。施設周辺の虫も追っ払いましたし、早くテセラックの回収を…』

 

ズンっ!

 

渦の中から降り立ったのは、顔は烏賊に似ているが、長い尻尾を持ち黒光りする棘を生やした、まるで映画のエイリ○ンの様な生物だった。

 

その生物が不気味な緑色の目を六人に向ける。

 

『おやおや、何匹か虫が残っているようですねぇ…』

 

その異様さにゆきかぜ以外の五人は、一瞬で身構える。

 

「あれがブレインフレーヤーの一人、『アルサール』よ…」

 

ゆきかぜだけが、その生物を憎々しげに見ながら宣言した。




色々、この話や会話も必要と思い書いていたら、いつの間にか一万字を超えてしまいました。すいません…次で完結いたします。

疑問なんですが、対魔忍RPG本編で、鹿之介が未来ゆきかぜのディスプレイに驚いていましたが、学園の地下にはもっと凄い立体映像を映す装置があったような気がします…

最後にもう何ヶ月も前のことなんですが、私の小説よりも早く人間核爆弾が五車で爆発するネタが、対魔忍RPG本編で使用されていることに驚きました。その時のアサギ様は、私の小説よりもかなり冷静に対処していて凄いとも感じました。

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