米連、中華連合、ロシアという強国が、互いにしのぎを削る混沌とした時代。そんな各国に影響されながらも長い間独立を保ってきた日本だったが、魔界という異世界から吸血鬼の真祖と呼ばれるエドウィン・ブラックが地上に進出。彼の人間界では考えられない危険な魔の力に政府、大企業、犯罪組織でさえも魅了され、時代はさらに暗黒へと凋落していく。
しかし、正道を歩まんとする人々も無力ではない。 時の日本政府は人の身で魔に対抗できる『忍のもの』たちからなる集団を組織し、人魔結託した外道達に対抗した。
人はその集団を『対魔忍』と呼ぶ。
だが、そんな対魔忍の一人が、とある金融ローン会社の玄関前で魔と戦闘しているわけでもなく、いやらしそうな目と手つきをした中年の男からゴルフの手解きを受けていた。
「もうちょっとこう…腰をいれるんじゃ、ぐへへ」
「もう、島田社長ったら真面目にショットの打ち方教えてくださいよぉ」
セクハラを受けているのは、金髪で眼鏡をかけている豊満な体つきをした美女『高坂静流』。彼女は単独の情報収集と他の対魔忍のサポートを主な任務としている通称『花の静流』と呼ばれるベテランの対魔忍である。
(このスケベ中年…手っ取り早く、もう薬で名簿のことを聞き出そうかしら?)
静流の後ろにあるビルは、ノマド系列の金融会社であった。対魔忍の調べによれば、この会社は一ヶ月前に設立したにも関わらず莫大な利益をあげており、その売り上げはノマドを支援している政財界の大物達に送金されているらしい。対魔忍は、送り先の名簿を手に入れるため、潜入捜査に長けている静流をこの会社に送り込んだのだ。
しかし、静流は怪しまれずに上手く会社に入り込めたのにも関わらず、心中では苛ついていた。
(こんな安全な任務より、凛子ちゃんやユキカゼちゃんを探索する班に入れて欲しかったわ。あの優秀な生徒である二人が連絡を絶つなんて、ヨミハラで何かよっぽどのことが起こったに違いないんだし。)
静流の苛つきに気付かない島田は、気分よくセクハラを続ける。
「それにしても、君を採用して良かったワイ。本当は身内の者だけで、会社を固めるつもりじゃったが、採用面接で一目惚れして、特別言って君を採用したんじゃよ。」
下卑た笑みを浮かべる島田が、さらに腰に手を回した時、いやらしいゴルフ講習を邪魔するかのように三人の男が近づいてきた。一人はモヒカンで丸いサングラスの男、もう一人は迷彩服で目や口に笑みを浮かべる男、最後にカンカン帽子に雪駄履き、腹巻にサングラスの男。
静流は、近づいてくる彼らに気付くと自分の腰にある手を離しながら島田の声をかける。
「あの、社長…お客様が……」
残念そうに手を引っ込める島田だが、男達が視界に入るとすぐに嫌らしい笑みから爽やかな営業スマイルに切り変わった。
「おお、すまん、すまん。高坂くん、さぁご案内してさしあげなさい。」
「いやいや。わしら、客と違うんじゃ。確か、ここにはでかい門構えの和風の家があったはずじゃが?」
モヒカンの男がやんわりと否定し、島田に問うた。
「…………君、受付に戻りなさい。このお客様はワシが案内するけぇ。」
「あ、はい。」
静流は、やや不思議そうな顔をしたが、島田の指示に従い店の中の受付台に向かって行った。
静流が店に戻るの確認した島田は、いきなりニコニコ顔から厳つい顔に表情を変え、ゴルフのドライバーをモヒカンの男に突き付ける。
「きさまらぁ、岩鬼組のもんかっっ~!?」
両手を振ってモヒカンの男は、否定する。
「いやいや、わしらは昔、岩鬼組にちょびっと世話になったもんで…確か、ここは、東京唯一の岩鬼の屋敷があったと思うんですけど、岩鬼組は、どうなっちまったんスか?」
「あの組は、親分がくたばってからは散り散りよ!今はここは、この島田が社長しとる大企業ノマド系列の金融ローン会社じゃ!わかったなら、早く帰れ!ここは、貴様らの来るところじゃねぇ!」
「ノマド………」
『ノマド』という言葉が耳に入ったカンカン帽子の男は、誰にも気付かれず青筋を立てる。
「アノすいません……もうひとつ。岩鬼組が潰れたとは知らずにこちらに荷物を送ったンすけど?」
「あーん……あのいくつかの糞重い木箱か。ンなもンそこの粗大ゴミ置き場じゃ。はよ持ってけ!」
島田は、ドライバーで電柱近くのゴミ捨て場を指す。その方向にはポリバケツといくつかの大きな木箱が積んであった。
三人は、何も言わずに島田に背を向けゴミ捨て場に向かい、中身を確かめるようにバキバキと木の板を外していく。
「どうしたんですか、社長?受付の新人ねーちゃんビビってましたよ?」
社長である島田が気になったのか、どうみてもカタギには見えない社員が、何人か店から出てくる。
するとガラの悪そうな社員達に気付いたカンカン帽子の男は、板を外している手を休めずに背を向けたまま問うた。
「お前ら、岩鬼組に男前の一人息子がおったんじゃが知っとるか?」
「あん?」
「なんじゃそいつは?」
「知らんワイ!」
社員達が、ドスを効かせながら否定すると島田だけが、カンカン帽子の男を馬鹿にするかのように大声で答えた。
「ああ、そら将造のことじゃ。これがとんでもないバカでよ、生まれつき思慮が足りねえのよ!後先考えねぇ向こう見ずで、相手が誰じゃろうと噛みつきよった。」
「ケダモノみたいなやつですね。」
「馬鹿が祟って親に勘当されて外国に売り飛ばされおった、頭カラッポの大馬鹿野郎よ!!」
他の社員が合いの手を入れている時も、カンカン帽子の男は、荷物を取り出す手を止めない。島田は、その行動を気にも止めず、社員達に向かって鼻高々でさらにしゃべり続ける。
「わはは、じゃが、あのケダモノもわしの前では猫みてぇなもんじゃった。わしも若い頃は血の気が…?!」
………ジャキ!!!
気分良く部下に喋っていた島田は、やっと目の前の事態に気が付いた。カンカン帽子の男が、いつの間にか木箱からある物を取り出し、凶悪な笑顔でそれを自分達に向けているのを。その手に持つドライバーより凶悪な物を見て、島田は愕然としら、目の前に立つ男の顔をようやく思い出した。
「お前は、将造ッッ??!!!!」
「久し振りじゃのう!島田!!!」
将造は、『重機関銃』を容赦なく発射した。
一方受付台に戻った静流だったが、視線を他の場所に向けていたが、対魔忍の鍛えられた聴覚で島田達の会話をすべて聞いていた。
(あれは多分、単なるヤクザのイザコザね…やるなら、私のいないときにやりなさいよ…。はぁ~それにしても、早く名簿を見つけて、二人の探索班と合流…ん?会話が止ま…うそッッ!!)
島田達の会話が、急に止まったことを不思議に思い、ちらりと島田の方向を見た静流は、急いで受付台の下に身を隠した。
ドガカガガガガガ!!!!!
一秒遅れて重機関銃の弾が、静流の頭上を通過する。
「ひぃ!」「ぎゃお!」「ぐきゃ!」
頭を伏せた静流の耳に次々とヤクザ社員達がミンチと化していく声が入ってくる。任務遂行の為に何とかしたいが、いくらベテランの静流でも、こんな銃弾の嵐の中では、とても忍術は使えない。
(あの男、頭がおかしいの?米連や龍門、対魔忍ではない者がノマドに喧嘩を売るなんて自殺行為だわ。それもこんなに正面から堂々と!)
まだ建設して一ヶ月しか経っていない小綺麗な社内が、銃撃でみるみる廃墟と化していく。静流はそんな最中、弾に当たらないよう気を付けながら、受付台の横から少しだけ顔を出した。見えたのは、凶悪な笑顔で重機関銃を撃っている帽子の男と同じく楽しそうな笑顔でマシンガンを撃つモヒカンの男。
(さっきの会話を聞く限り、あの帽子を被っているのが、岩鬼組の二代目岩鬼将造。モヒカンの男は、舎弟頭ってとこかしら。え~と…もう一人は、え?!!)
静流が目線でもう一人の迷彩服の男を探すと、その男はまだ生き残っている者がいると思われる二階にバズーカ砲を発射していた。
ズガァァァン!
二階にいた社員が吹き飛び、建物全体が崩れるかと思う程の轟音が響いた。
将造の銃撃で数分前まで立派な新築二階建ての建物が、戦地の建物が如くボロボロになっていた。恐らく中にいるヤクザ社員達は、全員死んでいることだろう。だが、社長の島田だけは、銃撃の最中ずっと伏せており、わざとか偶然か、無傷であった。
「偉くなったもんじゃのう!島田!昔は、シャブ島って言われて、鼻つまみものじゃったよの!!」
将造は、重機関銃を生き残った島田の鼻先に近づける。
「ヒィ!待ってくれ将造…いや、ショーちゃん!!」
怯える島田を前に将造は、重機関銃を迷彩服の拓三に持たせ、換わりに先程まで島田が握っていたゴルフのドライバーを手に取った。
「ゴルフなんぞけっこう行ったりして、上手いもんなんじゃろう?」
「おやっさんを殺したのはわしやない!!」
将造は、次にかっ飛ばしの素振りを始めた。
「わしは命令されて、ここの会社任されとるだけじゃ!」
「島田、このホールはパーいくつじゃ?」
「へ?」
ブンッッ!!!
ベギャ!!
将造の『伐折羅光臨』が島田の肩に炸裂した。
「ぐわぁぁ!!!」
その容赦ない打撃に島田は、店内まで吹きとぶ。
「ナイスショッッーーー!」
「一打目は、まぁまぁ飛んだな……」
「若、二打目でオンさせて下さいよ♪」
(あいつ、いくら怨みがあるとはいえ無茶苦茶ね……)
運良く銃弾を免れた静流は、人間をゴルフボール代わりにゴルフをしている将造を陰で観察していた。
(もう少し、近づけば私の木遁で全員なんとかできる。)
静流は、隙を見て自分の得意技である『忍法・花散る乱』を使おうとする。この忍法は、毒を含んだ花びらを嵐のよう舞い散らせ周囲の者を昏倒させる技である。静流は、その忍法を使用し、自分以外全員を昏倒させるつもりだった。
「ショーちゃん、おやっさんを殺ったのは倉脇じゃ…ノマドの殺し屋集団を雇って殺ったんじゃ!倉脇には、その殺し屋集団がついとる!」
ブンッッ!!!!
ベキャ!!!
今度は、右足にドライバーが炸裂する。
「ぎゃあああっっ!!!!」
「おっとスライスしとるぞ。」
二打目で島田は、玄関から受付台まで吹きとんだ。その生きているゴルフボールを凶悪な笑顔でゆっくりと追う三人。
(あと少し……)
静流は、忍法の準備に入る。
(よし!忍法花散る……「そ、そうじゃ、この金融会社の売上の送金先を書いた名簿をやる!」え?)
ピタッ!
静流の忍法が止まった。
「政財界の大物じゃ!名簿を使ってそいつらを揺すれば、いいしのぎになる!名簿はこの建物の・・・・・・にある!」
「ンなもンいらん!そうじゃ!代わりに倉脇に電話せいっ。」
時を同じくして、東京ノマド系列の高層ビルで目が鋭いメガネの男が、沢山の客をもてなしていた。来客者は、東の極道達やノマドを悪と知っていながらその甘い汁を吸っている政財界の者達である。そして、このパーティーの主催者であるメガネの男こそ、岩鬼組を裏切った幹部の一人、倉脇であった。倉脇は、このノマドの巨大ビルを任され、裏世界の者達と人脈を築くためこのパーティーを開いたのだ。
数分後、裏世界のVIP達と歓談を楽しんでいた倉脇は、少しだけ席を外してある部屋へと急いでいた。
(くくく、このパーティーでノマドでのわしの地位は安泰よ。)
倉脇が、目的の部屋にたどり着き扉を開ける。その部屋にいたのは、裸で拘束され目隠しをされている三人の女性とそれを眺める肥満体で中年の二人の男性。裸の女性三人の内、一人は十代後半、栗色の髪を赤いリボンでツインテールにした凹凸のない体の褐色の美少女。もう一人は、同じく十代後半で長髪を後ろに縛り、メリハリに富んだ肢体をしている美女。最後は、二十代前半でセミロングの髪を緩やかにウェーブをかけている美女。
にやつくでっぷりとした腹の二人の中年男性が倉脇に近づいてくる。
「お招き頂いて有り難うございます。倉脇さん。」
太った二人の男の内、最初に口を開いたのは、黒髪でスーツを着ている矢崎宗一。日本の政権与党民新党の幹事長でありながら、人魔の取引を繋ぐフィクサーである。
「ヨミハラを出るのは、久し振りですな。私に調教して欲しい女はこちらですか?」
ウェーブがかかった美女を見ている白髪で赤い服を着ている男は、リーアル。地下都市ヨミハラで、奴隷娼婦だけの娼館アンダーエデンを経営しており、ノマドと太いパイプを持つ町の有力者である。そして、様々な女性の調教を得意としている調教師でもある。
「お二人とも、こんなところまで御足労頂いて光栄です。特にリーアルさんは、私のパーティーの為に調教中の対魔忍までお貸しくださるとは……」
倉脇は、そう言いながら拘束されている十代の二人の少女にねっとりとした視線を向ける。赤いリボンの少女は『水城ユキカゼ』。長い髪を後ろにまとめているのは『秋山凛子』。二人は、時おり「たつろぉ…たつろぉ…」と言いながら、苦痛か快楽かも解らない呻き声を上げていた。
「いえいえ、こちらこそ調教を完了させるためにはこういう大々的なイベントも必要なんですよ。それに地上なら、特別ゲストも呼びやすいですし。」
ピリリリリリ!
その時、倉脇の携帯が鳴った。倉脇が、イラついた顔で画面を見ると島田の文字が映っている。
(おかしいのう、今日は大事なパーティーと伝えてあるんじゃが……)
矢崎とリーアルは、気にせずその場で携帯を出るよう倉脇にうながした。
「お二人ともすみません…どうした島田?今日は、大切なパーティーと言って……」
『倉脇、ゴルフでもやらんか?』
「その声は……まさか将造!!」
電話先の将造の人間ゴルフは、最後の一打を迎えていた。受付台には、スピーカー状態で音声最大にしたスマホが置いてある。
「これから、最後のショットを打つところじゃ。いい音出すぜ。」
「た、助けて。会長…」
散々、ボール代わりに打ち込まれた島田は足や手があらぬ方向に曲がって、息も絶え絶えであった。倉脇は、携帯越しの島田の声を聞くだけで、その現状が目に浮かぶ。
「島田、お前…」
将造は、そんなボロボロの島田に笑顔で近づき、今度は容赦なく頭を狙って、大きくドライバーを振り上げた。
「前下がりのショットは、腰を落としてヘッドアップせんように打つべし!!うぉぉぉぉ!!!」
グワゴワガキィィィィィィン!!!!
脳や頭蓋骨を天井まで飛び散らせ、島田の命は、見事あの世にインした。
「ナイスショットじゃ。」
倉脇は、島田の悲痛な最後を聞いても、感情を乱さず非情な言葉で返した。
「ゴルフは、上手い奴と回らんとスコアがまとまらん。おまえとやりたいのう!」
血のしたたるドライバーを持ちながら、将造は、携帯越しに倉脇を挑発した。しかし、返ってきたのは、意外な言葉であった。
「将造…わしも今日のパーティーでは、対魔忍やお前の許嫁のなよ子でホールインワンよ。」
「あん?」
ゆきかぜと凛子とともに拘束されていたウェーブの髪の美女は、山鬼なよ子。岩鬼組と馴染み深い山鬼組の女組長で将造の許嫁である。なよ子は、倉脇に岩鬼会長の死を問いただすため、ノマドのビルに乗り込んだが、従者を皆殺しにされ捕まってしまったのだ。
倉脇がなよ子に携帯を寄せるとなよ子は、口を開けて大きく息を吸い込み大声で叫ぶ。
「将造!このボケ!カス!スカタン!」
その大声に思わず耳を塞ぐ矢崎とリーアル。
「今頃、ノコノコどの面下げて戻ってきた!極道なら極道らしく野垂れ死にせんかい!いつまでも許嫁面するなよ。テメーと一緒になるなら、犬に噛まれたほうがましじゃ!グズ!」
しかし、気丈に将造を貶すなよ子の目に段々と涙が溢れてくる。そして、
「う、うぅぅ、将造…助けて……」
倉脇は、携帯をなよ子から、自分に戻した。
「すみませんね。矢崎さん、リーアルさん。どうする将造?わしはノマドの東京支社におる。取り返しに来るかぁ?」
「これから、そっちに行く。大事に預かっといてくれや!」
ブツッッ!
「倉脇さん?電話の相手は?」
矢崎が、心配そうな顔をする。
「なぁに、この前潰した岩鬼組の残党ですわ。多分、手下をかき集めても二十もいきません。それにこのビルは、何人もの対魔忍達を返り討ちにした要塞ビルです。逆にこのパーティーを盛り上げるいい材料ですわ。それより、矢崎さん?そろそろゲストが来るのでは?一階は、百人以上武装した組員がおりますけぇ安心して下さい。」
「おおう。忘れるところでした。それでは、一旦失礼。」
矢崎は、少し早足で部屋を出ていった。
「くくく、将造め。このノマドの要塞ビルを墓標にしちゃる。」
電話を切った将造は、拓三と三太郎を連れて急いでノマドの要塞ビルに向かうべく玄関から出ようとする。しかし……
ウー!ウー!ウー!
やはり、あれだけの爆発音が一般人に聞こえていない訳はなく、パトカーが何台も建物を取り囲んでいた。一人の警官が、将造達がいる建物にスピーカーで叫ぶ。
『君たちは、囲まれている。おとなしく出てきな……!』
「うるせぇっ!!!!」
将造は、拓三が持つバズーカを引ったくると、取り囲むパトカーに迷わず発射した。
ドガァァァァァッッッッ!!!!
「ヒェッ~~~~!!」
三、四台のパトカーと数人の警官が吹き飛ぶ。さらにその時、パトカーが吹きとんだ間から、トラックが突っ込んできた。
「若~~~~!」
「おお、お前ら!」
突っ込んできたトラックには、元岩鬼組の組員達が乗っていた。組員達は、素早く武器が詰まった木箱をトラックに積む。
「若、こんなに多くの武器、どうしたんですか?」
「傭兵の頃にゲリラやテロ組織、米連からもちょくちょく武器をチョロまかしといたんじゃ!」
「さすが若!」
わずかな時間で、すべての木箱を積み終えた組員達は、トラックに乗り始める。そして、最後に助手席に乗った将造は、廃墟と化した金融会社の受付台に向かって叫んだ。
「就職先を物理的に潰してすまんのう、ねぇちゃん!文句はノマドに頼むぜぇ!!」
将造達を乗せたトラックは、勢い良く発進した。加速するトラックの助手席で将造は、組員達に指示を出す。
「早速だが、倉脇がいるノマドのビルに殴り込む!」
「「「ええ!そりゃ無茶だ~!!」」」
拓三と三太郎以外の組員は、将造の無茶ぶりに悲鳴をあげた。
「うるせーーーー!倉脇の野郎をビルごとぶっ潰してやるんじゃ!!!」
「この人変わってない…昔のまんまだ。」
「ちなみに若。倉脇が言っていた『たいまにん』ってなんですかね?」
「恐らく大麻を売買しとる奴のあだ名じゃろう!!ほれ、もっと飛ばさんかい!!」
元岩鬼組を乗せたトラックは、ノマド東京支部の要塞ビルに向かって行った。
トラックが見えなくなると同時に受付台の下から、静流が這い出してきた。そして、一分と掛からずに島田が隠していた名簿を手に入れる。幸いにも名簿は、弾丸から外れ、無事であった。静流は、自分の任務を達成すると次に対魔忍達の本部である五車町に連絡を取りはじめた。
(あの将造ってやつ、私が隠れていることに気付いていたのね。完璧に気配を消していたと思ったのに。それよりも、あの電話先にいたのは、国会議員の矢崎とあのヨミハラの主、リーアルに違いないわ。そして、捕らえている対魔忍は、恐らくユキカゼちゃんに凛子ちゃん。けれど私だけでは、あのノマドの要塞ビルを攻めても返り討ちにされるだけ。ここは一旦、五車町に連絡を取って援軍を連れて行くしかない。それにあの極道達が、囮になれば少しは時間が稼げる。)
静流は、確かにベテランの対魔忍ではあるが、直接戦闘を得意とする対魔忍と比べると戦闘では一歩劣ってしまう。故に要塞ビルに攻めこむには、早く助けたいという気持ちとは裏腹に援軍を呼ぶしかなかった。そして、連絡を終えた静流は、音もなくその場から消えた。
同時刻、東京の誰も通らない裏通りで、将造と同じくノマドの要塞ビルに向かう二つの影があった。
「本当だな…ゾクトさ…いや、ゾクト。俺一人だけなら、ユキカゼや凛子姉に会わせてくれるんだな。」
「ククク、大人しくしていたらな。」
(ユキカゼ、凛子姉、待っていてくれ。俺一人だろうが命に換えてでも救いだす。)
石川賢先生独自の狂気に満ちた笑顔が、文章で表現できない。悔しい。アニメのゲッターロボ・アークでは、世界最後の日みたいに表現されるといいですね。
後、対魔忍シリーズの小説や公式設定集を資料として集めてますが、ユキカゼ2だけ小説版が出版されてないんですよね。なんででしょう?