一般人から見れば異常な光景だらけの東京キングダム。だが今夜、東京キングダムでもさらに異常な光景が、元神魔組の支配地域で広がっていた。
五十人以上のオークの爆散した死体。刀傷や毒で苦しんでいるヤクザの組員。小刀を持った黒尽くめのアサシンの集団。空を飛ぶ梟の獣人。そして、一番目を引くのは、倒れている対魔忍を守るように力強く立っている、上半身に龍の彫り物がある、短髪で右目に切り傷がある男。
倒れている対魔忍『水城ゆきかぜ』が、覆い被さっている岩鬼組の組員を地面に寝かせながら、自分の目の前に立っている男に問いかける。
「あ、あんた、誰よ!?」
すると龍の彫り物をした男、『北斗の源ニ』は、顔だけを後ろのゆきかぜに向けるとニヤリと笑った。
「さっき名乗ったじゃろうが…関東異次元一家 代貸 北斗の源ニと。」
その笑顔を見た途端、ゆきかぜの背中に戦慄が走った。
(こ、こいつ、…顔や体格は全然似てないけど、この尋常じゃない殺気、将造の狂気めいた雰囲気とそっくり…)
そんなゆきかぜと源ニの会話に割り込むように、梟の獣人『シームルグ』が源ニに向かって叫ぶ。
「関東異次元一家だと? 聞いたことがあるぜ! ノマドの関東支配に最後まで抵抗していた極道の一つだな? 確か、組員も半死半生でボロボロにされて無理矢理、倉脇の傘下に入れられたカス共だろう!」
嘲笑するような口振りに、源ニは前に向き直りシームルグを睨みながら、電磁長ドスを構える。
「鳴くんじゃねぇ! 夜明けは、まだじゃチキン野郎! 岩鬼のに誘われて、俺ら異次元一家も立ち上がったのよ。倉脇のボケも丁度失脚したことじゃしな!」
「たかが、ヤクザ一匹増えただけじゃねえか! 殺れ! お前らっ!」
「「「「「!!」」」」」
シームルグの命令と同時に、黒尽くめのアサシン達が源ニに襲いかかる。
「ぬしゃー後ろの奴らを守っとれ…」
ゆきかぜが声をかける間もなく、源ニは、迫りくるアサシンの集団に自ら突っ込んだ。対魔忍でもあの数では、熟練の者でもない限り、討ち死に必至である。
しかし…
「あんた、一人じゃ無茶…『ズバッ!』え!?」
「外道共ォッ! 死ねぇ!」
「うぎゃっ!」
「あぎぃ!」
「ぎゃん!」
ゆきかぜの予想とは裏腹に、流派の欠片も無い我流の刀が、次々と熟練のアサシン達を仕留めていく。
源ニの持つ電磁長ドス、もとい電磁刀は普通の刀よりも切れ味は抜群であり、更に斬りつけた相手に大量の電流を流すため、一瞬で黒焦げにしてしまう。これにより、なまじ再生能力を持つ者も細胞自体を死滅させ、殺すことも出来るのだ。そして、何より源ニは、関東異次元一家の鉄砲玉として、一人でいくつもの敵対勢力を全滅させてきた。故に近接戦闘だけなら、将造をも上回る実力者なのだ。
「ただのヤクザ一匹に何手こずってんだ!」
シームルグは、今度はアサシン相手に大暴れをしている源ニに羽苦無を飛ばそうとする。
ズキュン!ズキュン!
「うっ!?」
「させるかぁ!」
しかし、ゆきかぜのライトニングシューターによって邪魔される。シームルグは、何度も羽苦無を飛ばそうとするが、その度にゆきかぜの雷撃に止められた。
「どりゃあ!」
ズバァっ!
「ぐぎゃあっ!」
ゆきかぜとシームルグが戦っているうちに、源ニは最後のアサシンを真っ二つにした。そして、電流で黒焦げになった死体が倒れるのを見届けると、不敵な笑顔で電磁刀を再びシームルグに向ける。
「へへへ…残りは、てめぇ一匹だぜ、チキン野郎。」
「ぐっ…」
シームルグの表情に初めて焦りが生まれる。いくら四天王といえども『雷撃の対魔忍』と熟練のアサシン達を一瞬で葬った極道相手では、こちらが負ける可能性のほうが高いからだ。しかし、任務を放棄してここから逃げれば、後にフュルストからどんな折檻を受けるか解らない。故にシームルグは、最後の賭けに出る。
「四天王を舐めんじゃねぇ!」
大声で叫んだ途端、いきなり高速で回転して、羽苦無をそこら中に撒き散らし始めた。
ガシャンッ! バリンッ! ガガガッ!…
「ふんっ! 苦し紛れの豆鉄砲ね。」
後ろの組員達を守りながら、ゆきかぜがシームルグの行動を笑う。
「…………」
しかし、源ニは、時折飛んでくる羽苦無を落としながらシームルグを油断なく睨んでいる。
(あのチキン野郎…逃げるために爆弾でも撒いてるのか? 『ガシャン!』クソッ灯りがまた消えて見づらく……ハッ!?)
しかし、何かに気付き、鬼気迫る顔でゆきかぜに叫んだ。
「いけねぇ!? 早くさっきのであの鳥を撃て!」
「え…どういうこと?」
「周りをよぉ見ぃ!」
シームルグは、一見すると無造作に羽苦無をバラ撒いているように見える。しかし、よく見れば、羽苦無が当たっている場所は、電線や街灯、建物の照明など、光を放つ光源であった。その証拠にどんどんゆきかぜ達がいる場所は、闇に包まれていく。
「しまった!?」
ゆきかぜが気付いた頃には、その場は、50m以上遠くのビル灯りしかない暗闇に近い状態になっていた。
月明りや星もない闇夜の上空から、シームルグの声だけが響く。
「苦無はもう無くなっちまったが、これなら楽に仕留められるぜ!」
「クソッ!」
ズキュン!
ゆきかぜが声の方向に雷撃を放つが、もうそこにはシームルグの姿は無く、雷撃は僅かに夜空を照らすのみであった。そして、そのまま無作為に雷撃を撃とうとするが…
「危ねえ!」
「きゃっ!」
源ニがいきなり、ゆきかぜを突き飛ばした。
その0.1秒後に凄い速さで、羽苦無と同じ毒が塗ってある小刀を足に掴んだシームルグが通り抜ける。
「どりゃあ!」
源ニは、電磁刀で素早く斬りつける。しかし、その頃には、シームルグはもう夜空に消えていた。
「遅いぜっ! ヤクザ野郎!」
「大人しく首を締めさせんかいっ! チキン野郎!」
源ニが空に向かって叫ぶが、シームルグの黒い体は夜空の闇に溶けて視界に捉えることが出来ない。このままでは、後数回でどちらかが仕留められてしまうだろう。
「どうする? ヤクザ?」
ゆきかぜも同じく焦った顔で、空を睨みながら源ニに問う。
「ちょっと耳貸せや……………」
すると源ニは、ゆきかぜに近付いて何かを囁き始めた。
「…………………わかったわ…」
ゆきかぜが何かを了解すると同時に、闇夜で鋭い風切り音がした。二人はシームルグが、自分達のどちらかを狙って迫っていることを肌で感じる。
(まずは対魔忍、遠距離技があるお前を先に仕留めてやるぜ!)
シームルグが、ゆきかぜに狙いを定めた瞬間…
「今じゃあっ!!!!」
源二が、電磁刀をゆきかぜに投げて寄越し、彼女は、ライトニングシューターを離してそれを受け取った。
(何をする気だ? 迎撃はもう間に合わないぜ?)
シームルグが、ゆきかぜの行動に怪しみながらも、そのまま彼女に突っ込んだ瞬間…
「ええええぃ!!!!!!」
ビカァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!!
ゆきかぜの持つ電磁刀から、太陽のような閃光が放たれて辺りを照らした。
(め、目がぁぁぁっっっっっ!!!!!????)
ドカァァァァァァッッッ!!!!
シームルグは、ゆきかぜではなく地面に突っ込み、ゴロゴロと転がった。人間の十数倍、夜目が効く梟の獣人であるシームルグは、いきなりの閃光に目を回したのだ。丈夫な獣人故に骨折等はしていないが、目を抑えて悶え苦しんでいる。
苦しむシームルグを見て源ニは、ゆきかぜにニヤリと笑いかけた。
「すげぇ技持っとるのぉ。わけぇの。」
「当たり前よ。」
不機嫌そうにゆきかぜは、手に持つ電磁刀を源ニに投げ返した。
源ニが持つ電磁刀は、流れる電流の量によって威力と輝きが増す細胞具の伯父貴が作製した特別製である。故にゆきかぜの規格外の電流を流して辺りを照らし、シームルグの目を晦ますことが先程の作戦だった。
「クソぉぉッッッ!!!! 対魔忍めぇぇぇ!!!!」
シームルグは、目を閉じながらも空へ逃げようとする。が、それよりも早く、源ニは素早くシームルグの右羽根に取り付いた。
「は、離せっ!?」
「まぁまぁ、落ち着け……やっ!『ベキッ』」
そのまま腕ひしぎ十字固めの要領で、シームルグの右羽根をへし折った。
「ぐあああぁぁぁぁっっっってめぇぇぇぇ!!!!!」
シームルグは、今度は痛みのあまり転げ回るが、それを素早く立ち上がった源ニが足で踏みつけ止める。
「年貢の納め時だぜ。チキン野郎。」
ようやく目が慣れてきたシームルグか見上げると、源ニの殺気だった笑顔が目に入る。するとシームルグは、これから自分に起こることを予想し、ガタガタと震えだした。
「や、止めろ。俺を殺れば、沙無羅威どころかノマドを敵に回すことになるぞ。お前は、岩鬼将造と違ってノマドの恐ろしさは知っているだろう。いや、それよりもブラック様が出てくれば、日本の極道ごと一気に潰されるぞ!」
「うるせぇっ! ノマドが怖えーなら、鼻っからてめぇの命なんざ欲しがりやせんわい! ブラックがどれ程のもんじゃ!!」
そう言いながら源ニは、電磁刀を大きく振りかぶった。
「止めろォォォッッッ!!!!」
「殺れるもんなら、殺ったれやぁぁっ!!!!!」
ズバァァァァッッッッ!!!!! バリバリバリバリ!!!
源ニの電磁刀が、シームルグの右肩から左腰を切断した。それと同時に何万ボルトの電流が、シームルグの体を駆け巡る。いくら回復が早い獣人でも、上半身と下半身が切り離され、さらに高圧電流で細胞を破壊されれば、治癒は不可能である。
「ア、アニ…キ……トラ…ジ…ごめ…」
そして、シームルグは、か細い断末魔を上げながら、二つの黒焦げた物体に成り果て息絶えた。それは沙無羅威四天王の一人、『獣忍のシームルグ』の哀れな最後であった。
シームルグの最期を見届けた源ニは、ゆきかぜの方を向き直る。
「ここは終わったようじゃのぉ。ああ言ったが、なかなか骨が折れる鳥じゃったワイ。」
源ニと目が合ったゆきかぜは、そのまま彼に問いかけた。
「あんた、将造のいる岩鬼組じゃないでしょ? 関東異次元一家だっけ? 名前からして関東のヤクザなのに、どうして私達に協力してくれたの?」
「以前、ノマドが関東支配に乗り出したとき、素直に従う組もいれば、抵抗する組もおったんよ。そん時にやられた奴らは、一旦、倉脇の馬鹿に従うふりしてたが、ずっと反撃の隙を狙っとった。そいで、倉脇を倒した岩鬼のに極道連合設立を誘われて、一斉に決起したんじゃ。まぁ、今夜はいきなり頼まれて、慌てて来ただけじゃがな。」
「極道連合? へぇ~…あいつもやることはやってたんだ。」
ゆきかぜは、珍しく将造に感心した。
「わかったなら、俺は沙無羅威の本部へ直接カチコミに行く。ぬしは仲間を呼んで、怪我しとる組員達を病院へ運んでくれや。」
そう言って、源ニはその場を離れようとするが、ゆきかぜが慌ててそれを止める。
「ちょっと待ちなさいよ。シームルグもなんか言ってたけど、ここが襲われたなら、他の東京キングダムの岩鬼組の支配地域も襲われてるはずよ。そこには、私の先輩達もいるから、敵の本部よりそこに行ってほしいんだけど?」
「安心せい。他んとこには、俺や岩鬼のも認める強力なヤツが行っとるわい。」
源ニは、再びゆきかぜの背筋が寒くなるほどの不敵な笑いを見せた。
◇
また同時刻
「「「「き、きららちゃん?」」」」
元マッスル団が所有していたビルの前、トロールやオーガの氷漬けの像がそこら中に立つ奇妙な場所で、岩鬼組の組員が砂煙に向かって叫んだ。そこは数秒前に対魔忍の『鬼崎きらら』に向かって、沙無羅威四天王の一人である全身鎧の半人半馬『オロバス』が、上空50mから降下した場所である。
オーク以上の巨体が、遥か上空から隕石のように直撃すれば、どんな人間でもただでは済まない。故に組員達は、砂煙が晴れれば見えるであろう、凄惨な光景を予想し、顔を歪ませた。
「畜生…あの馬野郎! よくも…………え゛!?」
しかし、そこには誰も予想し得ない光景が広がっていた。
オロバスの凄まじい落下のエネルギーにより、地面は半径五m程のクレーターが出来上がっている。しかし、そこには、組員が予想したきららの残酷な死体など無く、無傷のオロバスしかいなかった。
「ど、どこ、行った?」
クレーターの中央に立っているオロバスもこの状態は予想外らしく、顔をキョロキョロしてきららを探す。
すると、未だ砂煙が晴れない10m程先から、若い男の声が響いた。
「なかなか凄まじい跳躍と足腰の強さだ。」
「だ、誰だ!?」
オロバスが声の方向に怒鳴ると同時に徐々に砂煙が晴れて、ある人物が現れた。
身長は180cm以上、少林寺拳法の道着のような服、女か男か解らない恐ろしく整っている顔。そして、何より周囲が驚いたのは、髪型である。その者は、服装に似合わないトリートメントされてないザンバラ髪を二つ括ったツインテールをしていた。さらにその両手には、間一髪、あの落下から助けたであろうきららをお姫様抱っこしている。
抱っこをされている本人であるきららも、心底驚いた顔をしており、いきなり現れた性別不明の者へ不思議そうに問いかける。
「あ、あんた、誰? 女の人?」
「私は女ではありません。拙僧は、空蓮寺 少僧 爆烈、『空海坊爆烈』と申します。それよりもお怪我は、ありませんか?」
そう言いながら爆烈と名乗る男は、きららを優しく地面に立たせた。
(ば、爆烈!? 髪型も凄いけど、名前もまた…けど今はそんなことを聞いてる場合じゃない。)
きららは、名前と髪型に突っ込もうとする思いをグッと堪える。
「怪我は無いけど…貴方も極道なの? 助けてくれたのは感謝するけど、ただの人間があの化け物を相手にするのは…」
「組員ではありませんが、数週間前から岩鬼組の食客としてお世話になっています。後、私は多少の武術の心得がありますので、御心配なく。」
爆烈は、自分を心配するきららに笑いかけると、憤るオロバスにゆっくりと歩いて行く。
「へ、変な髪型、オトコ!? すぐ、殺す!」
自分の攻撃を避けられて苛立ったオロバスは、次は体当たりで吹き飛ばそうと、爆烈に向かって四本の足をフルに使い全速力で駆けて来る。硬い鎧を来たオロバスの全速力は、防弾装備した自動車が、猛スピードで突っ込んでくるに等しい。
「避けてっ!」
きららは、爆烈に向かって叫ぶが、爆烈はゆっくりと何かの武術の構えをしたままで動かない。
「死ねっ!」
「…………」
一秒後、二つの影が交差した瞬間…
ドガァァァァァァッッッッ!!!!!
「ぐおおおおおおっ!!!!????」
爆音とともに勢いよく一方の影が吹き飛ばされた。その巨大な影は、意外にも絶対に有利と思われたオロバスだ。爆烈の方を見れば、無傷で拳を突き出した構えで静止している。
ガラガラガラガラ!!!!!!
そのままオロバスは、錐揉みに回転しながら近くのビルに激突し、それにより破壊された壁の瓦礫に埋もれてしまった。
「す、凄い。素手で…しかも一撃であんなやつを…」
壁に激突し瓦礫に埋もれたオロバスを見たきららは、驚嘆しながら爆烈に近付こうとする。
しかし、爆烈は瓦礫の山を見ながら、手を向けてきららを制止させた。
「いえ、まだです。」
「え?」
爆烈の言葉とともに、積もっていた瓦礫の山が、ガラガラと崩れだした次の瞬間…
「よ、よくもォォォォ!!!!!」
山と積まれた瓦礫を勢いよく吹き飛ばして、無傷のオロバスが飛び出してきた。
「鉄やカーボン程度ならあれで一撃だったんですが、あの鎧、かなりの特別製ですね。噂の魔科医という者が作ったのか…」
冷静に爆烈が呟くと同時に当のオロバスは、巨大な二つのメイスを取り出した。
「ミンチにしてやるゥ!」
そして、メイスを両手で振り回しながら再度、爆烈に突撃する。
「来い…」
岩鬼組の組員達ときらりが、遠巻きに見守るなか、二人の激闘が始まった。
「死ネ!死ネ!死ネ!死ネェェッッ!」
オロバスは、人間の数倍以上の耐久力を持つオーガでさえも、一撃で葬り去るであろう巨大なメイスを両手で連続して撃ち込む。
「力だけは人間と比べ物にならないが、動きは素人に毛が生えたものだな。」
爆烈は冷静な顔で、オロバスの凄まじい攻撃を腕だけで柳のように受け流す。しかし、防御をするのみで、少しも攻めない。
「す、すげぇ戦いだ。」
「互角だな。」
「こりゃ長丁場になりそうだぜ。」
二人の戦いを見守る組員達は、興奮した面持ちでガヤガヤと、二人の実力は伯仲しているといったことを話し合っている。
だが、きららだけは…
「す、凄い、まるで相手になってない…」
と一筋の汗を流しながら、驚きの表情で一言呟いた。
「ぇ? きららちゃん、それはどういうことだ。どう見ても互角だろ?」
一人の組員が、不思議そうにきららに問う。
「少しも互角じゃないわよ。あの爆烈さんって人が、馬もどきの連続攻撃をずっと攻めもせずに受け流しているのは、防御に精一杯とかじゃなくて、単に相手の実力を見てるだけよ。」
きららは、二人の戦いから目を離さずに答えた。
「何でわかるんだ? そんなこと?」
「爆烈さんの足元を見て…」
「あっ!?」
組員が驚きの声を上げた。
オロバスが、四方八方からメイスで攻めているのにも関わらず、それを捌いている爆烈の足周りは、少しも動いたような足跡が無いのだ。それは、二人の戦闘力の間に圧倒的な差が在ることを物語っていた。
(あの動き、私の対魔殺法じゃ絶対に敵わない! いや…もしかしたら、アサギさんでも忍術なしじゃ…)
「クソ、クソ、クソォ!」
オロバスは、これ以上は無駄と判断したのか、攻めるのを止めて悔しそうに地団駄を踏み始めた。
「お前如きの腕では、私の影さえ捉えることは出来ない。」
そんな怒り狂うオロバスを、息一つ乱さない爆烈が煽る。
「な、舐めるなぁァァァ!」
地団駄を止めたオロバスは、大声で叫ぶと、きららを仕留めようとした時の様にまた大空へと飛び上がった。
「ブロロロォォォッッッ! もう、外サナイィッ!!」
そして、爆烈に向かって、また流星のように落下してくる。
「あれだけは、無理よっ!? 避けてぇっ!」
きららが爆烈に向かって、必死な声で叫ぶ。
だが、爆烈は上空から落ちてくるオロバスをひと睨みすると天に向かって構えを取った。それは、受け流したり、投げ飛ばしたりといった構えではなく、オロバスの落下を己の拳で迎撃しようとする構えであった。
「ま、まさか…」
「死ぬぞ…」
きららと組員達は、驚きの顔で爆烈を見る。
対照的に落下するオロバスは、自分を避けない爆烈を見て鎧の中でニヤリと笑う。この技は、今まで当たりさえすれば、100%敵を葬り去ってきた絶対的な必殺技だからだ。
「死ネェェェッッッ!!!!」
「「「「「避け『て』ろォォォォォ!!!!!」」」」
周囲の制止の声が響くなか、体重、怪力、落下に依る速さが合わさった、凄まじいインパクトを秘めたオロバスの前足が、爆烈に炸裂した…かと思われた瞬間。
「ムハッ…」
爆烈の拳が、音速を超えたそのとき、全ての物は…
ドォバァァァァッッッッン!!!!!!
………………爆烈!!!
「「「「「「……え!?」」」」」」
爆烈の音速を超えた拳により、オロバスは、断末魔を上げることなく、体が花火のように爆発した。
「「「「「「「……………」」」」」」」
爆烈の音速を超えた拳を目で認識出来なかったきららと組員達は、オロバスがいきなり爆発したかに見え、状況が理解できずにその場でポカンと立っている。
しかし…
ボトボトボト…
「キャッ!」
「うわぁ!」
オロバスの肉片や鎧の一部が雨のように降ってくると、爆烈がオロバスを一撃で倒した、いや、爆烈させたことが解った。
「「「「「「う、う…うォォォォッッッッ!!!!! スゲェェェェェェェッッッッッ!!!」」」」」」
岩鬼組の組員達が、喜びの声を上げて爆烈の元へと駆け寄って来る。その集団の中でいち早く駆け寄ったきららは、自分が苦戦したオロバスを一撃で倒した爆烈に興奮気味に話しかけた。
「貴方凄いわね! あの沙無羅威の四天王を素手で、何の術も使わずに倒すなんて! なんて言う拳法を使うの! あんなのどこで習ったの?」
「私は、山梨の山奥にある空蓮寺という寺の坊主です。先程見せた爆烈拳は、そこで習いました。」
「え、爆烈拳!?」
(爆烈拳って、少し前、あいつが鹿之助とこの世で最強の拳法は何かっていう、下らないことで盛り上がっていたときに推してた拳法じゃない! 確か…今は古文書でしか確認出来ない、敵を一撃で爆発させる日本古来から伝わっているとされる幻の拳法…)
爆烈拳という単語を聞いたきららは、心の中で驚愕しながらも平静を装う。
「そんなお寺のお坊さんが、何で東京キングダムでヤクザの味方になってるの?」
「私は、千住院弁慶と万住院南瓜という出奔してしまった弟弟子達を探すために関東へと向かったのです。そこで岩鬼組と知り合い、人探しの代わりに将造に用心棒を頼まれました。何でも『わしのバックは日本政府じゃからすぐ見つかる』と言ってましたね。」
一ヶ月ほど前、東京キングダムに流れ着いた爆烈は、チンピラ相手に騒ぎを起こしかけ、偶然岩鬼組に仲裁された。そこで組長である岩鬼将造に事情を話し、弁慶と南瓜が見つかるまで組の食客となる約束を交わしたのだ。
「そうなんだ。確か、ちょっと前、そんな二人を対魔忍全体で情報収集せよってお触れが出たわね。けど、みんな核ミサイルの事後処理に追われて、本格的にまだ探せないでいたわ。」
「理解できたなら、私はこれから、沙無羅威の本部へと向かいます。貴方は、すぐに龍門の支配地域にいる岩鬼将造のところへ行き、他の四天王やフュルストを、もう倒したってことを伝えてくれませんか。将造の携帯は、何故か壊れているらしいのです。」
フュルストを倒したという言葉を聞いたきららは、遂に冷静な顔を崩し、心底驚いた顔になる。
「噓、あのフュルストを倒したのっ!?」
「はい。私が、ここに来る直前に電話があったのです。臨海副都心と他の岩鬼の支配地域を襲った奴らは、全て倒したと。」
「まだ聞きたいこと(髪型とか…)はあるけど、そう言うことならわかったわ。龍門の支配地域は、ここから近いし、それくらいならすぐに行ってあげる。」
「お願いします。」
その後、怪我をした組員の治療は、他の者に任せ、爆烈は沙無羅威本部へ、きららは龍門の支配地域へと駆け出して行った。
その一分後…
ピピピピピピ!!!!
きららの携帯に連絡が入る。
「もしもし? え……わかりました!? 急ぎます!」
その連絡内容を聞いたきららは、足を早めて将造の元へとさらに急いだ。
空海坊爆烈という登場人物は、『邪鬼王爆烈』という作品の主人公です。元の作品では、エドウィン・ブラックでさえも一撃で倒せるキャラですが、本作では、対魔忍でよく出てくる、武を極めた者の一人です。
今作品を書いてる時に、ふと思いましたが、対魔忍RPGの世界では、武を極めた者の闇落ち率は異常ですね。