対魔忍者と極道兵器   作:不屈闘志

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Weapon 23 戦争終結

カンッ!! カラカラ‥‥‥‥

 

 サイエントは、驚きのあまりに携帯を落とした。

 

 「ば、馬鹿な…あのフュルストと四天王が…に、日本のヤクザごときに…」

 

 ショックを受け俯くサイエントと対象的に将造は満面の笑顔だ。

 

「ヒヒヒ…こん馬鹿タレがぁ。北斗の源二に爆裂拳の爆裂、極めつけは細胞具の叔父貴、あの狂人達にゃわしでも手を焼くわい。」

 

「……」

 

 サイエントは将造の言葉に俯いたまま答えない。

 

「さぁどうする? 骸骨野郎?」

 

「…………フフフ」

 

「ん?」

 

 サイエントは、急に顔を上げた。その表情は、剥き出しの機械故に解りにくいが、将造には笑みを浮かべているのが分かった。

 

「フフフフ…少し驚いたがまだ時間はある。沙無羅威はもう駄目だが、すぐに東京キングダムを脱出すれば私だけは助かる。これからはフリーの殺し屋でもやるよ。」

 

「わしとの殺し合いは、どうする?」

 

「私がしたいのは、一対一の素敵な殺し合いさ。集団での混戦は、好みでは『ガキィッ!!!』!?」

 

 鋭い音が響き、サイエントの顔がいきなり真上を向いた。将造が腹巻きからコルトパイソンを素早く取り出し額を銃撃したのだ。

 

「ほうか、なら主は偽もんじゃ。わしは一対百でも百対一でも殺し合いなら大好き……ムッ!?」

 

「フフフ……」

 

 銃撃された筈のサイエントの含み笑いが止んでいない。

 

 その場にいる者達が訝しむなか、仰け反ったサイエントの顔がゆっくりと正面に戻り始める。

 

 「な、なんだぁ!?」

 

 真っ先にサイエントの顔を確認した三太郎が驚きの声を上げた。

 

 マグナムで銃撃したはずのサイエントの額の傷が、ゆっくりとビデオの逆再生のように元に戻り始めていたからだ。

 

「驚いたかい。私のこのボディは米連の超高級特別製でね、軽い銃撃程度ならナノマシンですぐに再生してしまうのさ。」

 

「軽い銃撃って!? マグナムの弾丸だぜ!?」

 

 次に拓三が驚きの声を上げる。

 

「面白え。アスカや倉脇の馬鹿とは少し違うようじゃの。銃が効かねえなら倉脇と同じく、わしの素手でぐちゃぐちゃに解体……ん?」

 

 将造が倉脇の右腕と同じく、サイレントの体の部位を引きちぎろうと一歩を踏み出そうとした時、それを制すようにサイエントとの間に入る者がいた。

 

 「公天…」

 

 先程、弟に自ら炎を向けた黄公天であった。公天のサイエントを睨みつける瞳は、憤怒の感情に満ち満ちている。

 

 「地下の仲間達を焼き殺し、馬超や研究データを盗んだのはお前か?」

 

 「そうさ。まあ、盗んだのは海神と沙無羅威の部下達だけどね。けど、あまり気乗りしなかった仕事だったよ。だって君達の部下達、殺すのに張り合いがなくてさ。噂のハイグールもあまりの手応えの無さで……」

 

 時間が無いにも関わらず饒舌なサイエントの言葉を聞きながら、公天は怒りの表情を崩さずに胸元から両手で二丁のベレッタを取り出す。

 

 「そうか、わかった。ノマドと海神を血祭りに上げる前に、まず貴様を殺す。」

 

 そう言って、サイレントに2つの銃口を向けた。

 

 「それ、本音で言ってるのかい?」

 

 殺意と銃口を向けられているにも関らず、サイレントは何の狼狽えも見せず不思議そうに問う。それもそのはずであろう、先程、将造のマグナムを跳ね返し、なおかつその傷を再生する機能を見せたばかりだからだ。現に額の傷もサイレントが話す間に、痕跡が分からないほど回復している。

 

 「やめろ、公天!!」

 

 「そんなの若のマグナムに比べたら豆鉄砲じゃ!!」

 

 拓三と三太郎が公天に向かって大声で叫ぶ。

 

 二人には、二丁あるとはいえ公天のベレッタが、将造のコルトパイソンと比べてあまりにも貧弱に見えた。

 

 きららもそれを理解しているしているため、公天に向かって叫ぶ。

 

 「黄公天、私がやるわ! そいつの火炎放射は、私の氷でしか防げない。それに貴方に伝えたいことが『きららぁ!』なによ!」

 

 前に出ようとするきららを今度は将造が止めた。

 

 「いい機会じゃからそこで見とかんかい……」

 

 「「若……」」

 

 拓三と三太郎が、少しだが目を見張った。 獲物を取られた筈の将造が、真剣な顔で公天からゆっくりと離れていったからだ。

 

 そんな周囲の反応を他所に、サイエントと公天は会話を続ける。

 

 「公天、君は魔族でも対魔忍でもなく、ましてや体を改造していない普通の人間なんだろ? しかもRPGやバズーカ砲ならともかく、そんな玩具で私を相手取るなんて……そうか、わかったぞ!!」

 

 サイエントが何かを理解したかのように手を叩いた。

 

 「弟のいる天国へ行きたいのか! そうか、わかったよ! ならこれは人助けだ! 時間が無いからハイグールも一瞬で骨まで焼き尽くす超高熱バーナーで送ってあげるよぉ!」

 

 「やってみろ……」

 

 サイエントは喜びの声を上げながら、べレッタを向けたまま未だ微動だにしない公天に両掌の発射口を素早く向けた。

 

 「まずいっ!!」

 

 それを見たきららが急いで飛び出そうとする。

 

 だが、両掌が炎を放つ瞬間、だれの目にも予想しえないことが起こった。

 

 ボンッ!!バキャァァンッッ!!!!

 

 「なにぃぃぃぃッッ!!!」 

 

 「「「「「「!?」」」」」」

 

 サイエントの両肘が、いきなり青い炎を上げて内部から爆発したのだ。

 

 その予想外の展開に将造でさえも驚きのあまり息を吞む。

 

 「な、なにが起こったんだ!? わ、私の両腕が!?」

 

 前腕が吹き飛び、未だ青い炎を噴き上げる肘先を見ながら、サイエントはこの場で一番の驚愕の声を上げた。そんな、サイエントに一人冷静な公天の言葉がかけられる。

 

 「どうした、サイエント? メンテナンス不足で何か発射口に詰まったのか?」

 

 「ま、まさか!?」

 

 サイエントは、公天の言葉を聞き、両手に持つベレッタを凝視する。すると銃口からわずかに硝煙らしきものが立ち上っているのが確認できた。

 

 公天の言葉に将造も真相に気づいた。

 

 「おどれぇたぜ。二丁撃ちで別々の発射口に弾丸をぶち込むたぁよぉ。」

 

 黄公天が、『黒龍』と呼ばれ、この東京キングダムでも他の組織から恐れられている所以は、将造をも超える超精密射撃能力にあった。公天は、左右の手から放つ別々の弾丸を、サイエントの火炎を放つ直前の直径1.5㎝の両射出口に発射し、内部で暴発させたのだ。それは、撃った弾丸を相手の銃身に綺麗に嵌め込むことに近い奇跡にも等しい技であった。

 

 一方、撃ち込まれたサイエントだが、再生が中々始まらない。何故ならサイレントの最高級ボディでも指が飛ぶ程度なら即座に再生が可能だが、左右前腕という大部分が吹き飛び、ましてや炎を噴いている状態は、再生が容易ではなくなるからだ。

 

 だが、自分に何が起こったか理解したサイレントは笑みを浮かべて叫んだ。

 

 「素晴らしいぃぃぃぃ!!」

 

 ウィイイイイイインン!!!!!!

 

 欠けた両腕を見て嬉しそうに叫んだ瞬間、脚からアスカのアンドロイドアームのような駆動音が響く。サイレントの持つ能力は、再生能力と火力だけではない、最高時速300キロで走る脚力をも保持しているのだ。

 

 サイエントは、公天の方向へと人間では不可能の速さで両足を動かす。様々な機能を備えていた両腕が無い今、公天の体に高速で体当たりを仕掛けるつもりなのだ。

 

 「はええ!?」

 

 気付いた三太郎が急いで銃を向けるが、もうそこにはサイエントは、おらず間に合わない。

 

 だが、サイエントが自慢の脚力で公天に向かって走り出した瞬間……

 

「グォッ……」

 

 ドガァァァァァッッ!!!!

 

 くぐもった声を上げて、公天とは別方向であるコンクリートの柱に頭から突っ込んだ。柱は砕けないまでも、余りにも速いスピード故に頭が柱にめり込んでいる。将造達の目には、それはサイレントが、急に何かに躓いてつんのめったように見えた。

 

 「若、あいつ、何かに転んだように見えましたが……」

 

 驚く拓三の質問に将造は、額に汗を一筋流しながら答える。

 

「わしにも、よくは見えんかったが、恐らくはあの骸骨野郎の素早い足の関節部分を銃撃して、可動域を潰したんじゃろうな? すげぇ腕だ……」

 

 将造の言う通りであった。公天は、高速で動くサイエンが自分へと飛びかかろうとする一瞬の踏み込みを見切り、銃撃して弾丸を膝と足の関節の間を詰まらせたのだ。事実、サイエントは、思い切り下肢を屈曲し跳躍する直前のまま、別方向へと勢い良く転んでしまった。

 

 周囲が驚く中、上半身の力でようやく壁から頭を抜いたサイレントに公天はゆっくりと近づいていく。

 

「逃げようとしても無駄だ。お前は、傷は回復できるが、体の内部に異物を入れられれば、手動でしか取り出す方法は無いんだろう。」

 

「…………」

 

 公天の言う事が真実であるかのように、両腕がないサイレントは、動かせない下肢から弾丸を取り出すことができない。

 

「苦しんで死んだ部下には、申し訳ないがすぐにこいつも地獄へ送って復讐の機会を与えれば、許してくれるはずだ。」

 

 近づいてくる公天に四肢を動かせないサイレントがゆっくりと顔だけを向ける。

 

 その表情は、未だ笑みを浮かべていた。

 

「素晴らしい射撃の腕だ。 今、私はこんな状況であってもひどく楽しみを感じているよ。だが、殺し合いはある種のターン制のゲームだ。故に『バカッ!』」

 

 会話途中でサイエントの顎が思い切り開いた。閉じられている口内の奥には、両腕に仕込まれた火炎放射装置と同じような射出口があった。全身武器のサイエントの奥の手である。

 

 しかし、その発射先の公天は、少しも狼狽える様子もなく……

 

 「こちらのターン…… 『ボンッ!!バキャァァンッッ!!!!』」

 

 サイレントは、最後の台詞を言うことなく頭が吹き飛んだ。

 

 その爆発は隙を突いたにも関らず、公天の早撃ちで口内の射出口に弾丸を撃ち込まれたからであることが今度は、周囲の者にも理解できた。

 

 「やった! やっとぶっ殺したぜ!」

 「殺し合いとか言っていたけど、一方的だったな。」

 

 いくら、再生能力を持つサイボーグであっても生身の部分である脳髄が吹き飛べば生きてはいられない。

 

 拓三と三太郎が喜びの声を上げる中、首から青い炎を上げるサイエントを見ている公天に将造はゆっくりと近づく。

 

 「今度こそ、終わったようじゃのう。」

 

 笑みや喜びなどといった表情ではなく、真剣な面持ちで公天に声をかけた。

 

 「待て、極道まだ終わっていない。」

 

 部下の仇を打ったはずの公天の表情は、怒りの感情が消えていない。

 

 「今度は、俺を殺るか?」

 

 「お前を含めて俺達をこんな目にあわせた連中は絶対にゆるさん。」

 

 そう言って、今度はベレッタを将造に向けた。

 

 将造は、それに怯むことなく口を開けようとしたとき、拓三と三太郎よりも早く二人の間に割って入る者がいた。

 

 「公天、無駄な戦いは止めて!!」

 

 対魔忍の鬼崎きららだ。

 

 「どけ! 対魔忍、貴様らの因縁から先に清算してもいいんだぞ!」

 

 公天は怒りの声を上げて、今度は銃口をきららに向けた。

 

 だが、きららは一歩も引かず、逆に公天の予想しえない言葉を口から放った。

 

 「私を殺したら、今度こそ弟は死んじゃうわよ。」

 

 「なに!? どういうことだ!?」

 

 公天は、驚きの表情で思わず両手のベレッタを下す。

 

 「黄新紅は、さっき焼き殺したんじゃねぇのか?」

 

 将造もやや驚いた顔できららに問う。

 

 「見た方が早いわ。付いてきて。」

 

 きららは、驚く周囲の者に背を向けてどこかへ歩いていく。

 

 「「……」」

 

 将造と公天は、少し顔を見合わせると何も言わずにきららに付いていく。拓三と三太郎もそれに続いた。

 

 (あれ? なんか?)

 (気のせいか?)

 ((…………?))

 

 数m程歩いたきらら以外の4人は、妙な違和感を感じていた、まだ周囲にチロチロと炎が残っているのにも関わらず、歩くうちにどんどんと涼しくなっているのだ。

 

 やがてきららは、数分前に公天が火を放ち、倉脇が爆発して大きく床に穴が開いた場所の前で止まった。

 

 「おい、対魔忍。まさか、弟はここで眠っているとでもいうつもりか?」

 

 愛する弟に火を放った場所に案内された公天は、怒りを孕んだ声できららに問う。

 

「…………そんな、ロマンチストじゃないわ。とにかく下を見て。」

 

 怒る公天をいなし、きららは爆発で空いた床穴の底をを指さした。

 

 殺意を帯び始めた公天だったが、きららの言う通りに指さす床下を覗く。

 

 すると……

 

 「し、新紅ッッ!?」

 

 と大声をあげ、階下に自ら飛び込んだ。

 

 血相を変えた公天を見て、将造達も急いで床下を覗き見る。

 

 するとそこには氷漬けになった新紅、いや、正確には人間の全身を楽に覆えるほどの巨大な氷の塊の中で、新紅は焼き殺す直前の表情で閉じ込められていた。

 

「こりゃ、どういうことだ? きらら? 公天の弟は、倉脇と一緒に炎を浴びてウィルスごと焼き尽くされたはずじゃ。」

 

 将造も凍った新紅を見ながら、きららに問う。

 

 「少し前にね。アサギ先生から連絡が来たのよ。新紅の時限式の細菌兵器は、絶対零度に近い氷漬けにすれば、時計の針を止めることがわかったって。 だから、爆裂さんに後を任せてあんたのところへ来て焼き殺される寸前で術をかけたのよ。けどほんッッとにギリギリで大変だったわ。なんせノマドは来てるわ。人質にされてるわ。ウィルスの時間は進んでるわ。焼却される寸前だわで……まぁ、ちょうど床下が崩れ落ちた瞬間に」

 

 「いや、聞きたいのはそこじゃ『そうだ!』!?」

 

 きららと将造の会話に先ほどまで、氷の前で声をかけ続けていた公天の声が間に入る。

 

 「対魔忍、これで新紅は生きていると言えるのか? 死体が保存してあるだけで、この状態ならまだ焼き尽くしてやったほうがましだ!」

 

 公天の言うことに将造も異を唱えない。

 

 確かに爆弾を止める方法は、焼き尽くす以外にもあった。しかし、それを何故か焼き尽くす寸前に実行したのか二人には理解出来なかったのだ。

 

 だが、きららはその問いに冷静に答える。

 

 「公天、私は氷を操ることが出来る。そして命じられたのは、彼をウイルスごと殺すことではなく、生きたまま爆弾を止めることなのよ。だから、今すぐにでも術を解除すれば、彼は再び動き出すわ。」

 

 その言葉に公天の表情が明るくなる。

 

「じゃあ、すぐに解け!」

 

「今は無理よ……」

 

「何故だ!?」

 

きららは、公天の必死な顔から悲しげに目をそらす。

 

「今、術を解けばまた彼も動き出すけど、同時に時計も動き出すの。本来なら二時間を切れば、焼き殺す予定を私の術で時計を止めて、移動時間を計算に入れずに処理が出来るようになった。けれど、時計はすでに五分を切っている。細菌爆弾を生きたまま取り外すことは、専門家でも最低一時間はかかるのよ。」

 

「じ、じゃあ……新紅はずっとこのままなのか?」

 

 公天は力なく項垂れる。だが、将造はそんな彼の肩に力強く手を置いた。

 

「公天、早とちりするなや。きららはさっき『今は』って言っとろうが。のう、きらら。」

 

「!?」

 

 将造の言葉で再び、公天はきららを見た。

 

 するときららは、今度は優しげな笑みを浮かべていた。

 

「そうよ。ノマドにはこのウイルスのデータがある。だとしたら十中八九ワクチンも研究してたはずよ。そうじゃなくとも、私達が今から必死に爆弾とウイルスを研究すれば、今すぐにとは言わないけど、近い未来きっと彼を助けることはできるわ。」

 

 助けることができるという言葉を聞き、公天の顔に生気が戻って来る。そんな彼に将造は、肩に手を置いたまま語りかける。

 

「なら、わし達がすることは一つじゃな。公天、わしんとこへ来いや。お前なら東京キングダムの中華系のヤクザを束ねられるじゃろう」

 

「良いのか? 対魔忍は新紅がいる限り、手は出さんと誓うが、岩鬼組は違う。俺はノマドや海神よりも先に貴様を殺すかもしれんぞ。」

 

 公天は、肩の手を払い除けながら凄むが、将造は笑みを浮かべたままで会話を続ける。

 

「奴らのやっつけ方を教えたる。その方が俺の命も狙いやすかろうが。」

 

「…………………チッ! 分かった。ただし、ノマド、海神を皆殺しにするまでだ。」

 

 十秒程の沈黙の後、公天は、凄みのある顔を止め、しょうがないという風な顔で将造の誘いに了承した。

 

 公天の答えを聞いた拓三と三太郎は、大きく手を挙げて破顔する。

 

「じゃあ、これですべてが解決したんだな!」

「やった。紆余曲折のいざこざはあったが、ウイルスが爆発せんで良かったわい! のうきららちゃん!」

 

 二人の声を皮切りに、場が弛緩し始めたその時……

 

 「だから気安くきららって『ピピピピピピピピピピピピ』あ、しまった?! 爆弾を止めたって報告忘れてたわ! 多分、アサギ先生ね。」

 

 和やかな雰囲気を壊すようにきららの胸元から突然、携帯の鋭い着信音が鳴り響いた。きららは、アサギの安否確認の電話と思い急いで電話に出る。

 

「もしもし、何? 今すぐ止め方を教えろ? ってどういうこと? あんた今誰と戦ってるの? え……馬超が覚醒したっ!?」

 

 きららの馬超という言葉を聞き、電話先の状況を察した公天が焦った顔になる。

 

「くそ、海神の間抜けめっ!? 輸送中に鎮静剤を切らしたか!? 代われ対魔忍!!」

 

 きららの携帯を公天は、勢い良く奪い取ると電話先の少年の声に必死に話し始める。

 

「聞けっ! 本来は、不測の自体で目覚めた時は、特別な鎮静剤を撃ち込むが、常備していた研究施設は焼き尽くされた! だから、もう殺すしかないっ! お前が戦っているのか!? 角が生えた黒いサイボーグが代わりにだと!? 劣勢なのか……」

 

 角が生えた黒いサイボーグという言葉が出た途端、今度は将造が驚きで目を見開いた。

 

「信じられねぇ!? あの『左素利妖吉』が苦戦しとるのか!?」

 

 

 将造が受け取った電話から十分後、沙無羅威の本拠地近くの大通りで激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 本来は、大勢の者が通り活気があるその場所は、現在は地獄のような有り様だった。道のあちこちに巻き込まれたであろう手足が欠けた魔族や人間の死体が転がっており、周囲のビルにはおびただしい破壊跡がある。

 

 そして、注目すべきなのは、この惨状を作ったのは集団同士の戦闘ではなく、たった二人の肉弾戦だった。

 

 『アアアアァアアアアァ!!!!』

 

 一方は、かろうじて人間の女性の形をしているが、背中一杯ににカマキリの腕のような鋭い鉤爪を生やしている、魔族とも人間とも違う怪物。龍門がアサギとブラックの細胞を混ぜて作った生物『馬超』だ。

 

「うぉぉぉぉぉぉっっっっ!?」

 

 もう一方は、馬超の手足と背中の鉤爪すべてを使った凄まじい攻撃を一本の槍で辛うじて凌いでいる、全身が黒く頭からバッファローのような角を生やしているダース・◯イダーのようなサイボーグ。

 

 彼は、将造がフュルスト達はが岩鬼組を襲うカウンターとして、沙無羅威本部をたった一人で攻める役割を任された『左素利妖吉』という極道である。かつて将造も認める槍の使い手であった左素利は、新宿歌舞伎町を支配下に置いていた極陽組の若頭で武闘派で鳴らしていた。しかし、ノマドの関東支配に抵抗し、組長を殺害され自らも重傷を負ってしまう。だが、ノマドへの恨みを忘れず、組の残った資金をも注ぎ込み、裏の世界随一のサイボーグボディで復活したのだ。

 

 当初左素利は、海神と沙無羅威の配下達を苦戦もせずに一振りで五人両断する勢いで大暴れをしていた。しかし、そこに本部の守りを任されていた『オルトス』と言う触れれば腐らんとする冥界の魔氣を纏う右腕を武器にする沙無羅威の幹部が現れる。

 オルトスの四天王に匹敵する実力に苦戦必至かと思われたが、左素利の腐らせにくい性質のサイボーグボディと、突如現れた馬超を取り返す命を受けた対魔忍の『遊撃隊』の協力で、オルトスを倒すことに成功する。

 だが、海神の不手際が原因でその場に鎮静剤が切れた馬超が乱入。当初は、遊撃隊のリーダーの指揮で応戦していたものの八津紫以上の回復能力、無数の鉤爪、そしてすべてを破壊する重力波の攻撃に徐々に追いつめられる。このままでは殺られると考えた左素利は、自分が殿を務め、その隙に遊撃隊に助けを呼ぶことを頼んだのだ。

 

「極道モンが、どこもかしこも体を張らんと生物兵器かっ!?」

 

 左素利は、そう叫ぶと得意の槍で無数の突きを放ち、一瞬で馬超を蜂の巣にするが……

 

 『アアアアァアアアアァ!!!!』

 

 馬超は、獣のような叫びで一瞬で傷一つ無く回復する。これは、吸血鬼であるブラックの体質によるものであった。

 

「やはり、効かんか!? ぐっ!?」

 

 左素利は、自分の得意技を喰らって平気な馬超に意気消沈する暇もなく、両手をかざす馬超の正面から必死にずれる。

 

 ガオンッ゙ッ゙ッ゙!!!!!

 

 すると一秒にも満たない後、直径1m程の空気の塊のような物が通り、直線上のビル壁に大きな穴が出来た。これが馬超の無敵性の一つであるすべてを破壊する重力波である。周りの魔族や人間達は、これに巻き込まれ死んでいったのだ。

 

 何度も間近で掠った重力波に前に左素利は、サイボーグ故にかけない冷や汗を心の中で大量にかく。

 

「フフ、しんどいのう。こう疲れたのは、改造して久しぶりじゃ。まぁガキ達を逃がしたのは正解じゃったわ。」

 

 そうつぶやいた左素利は、片膝をついた。左素利は、サイエントと同等の戦闘力を持つサイボーグボディを持ち、痛みも疲れも感じない体である。しかし、二時間以上の激闘で精神だけは疲労し、ついに先程の重力波に片足が巻き込まれたのだ。

 

(片足で動けんわけじゃないが、次の一撃は完全には避けれん。コロナの姐さん、ブラックホールの政、後は頼んだ。しかし、最後に気になるのは、あの髪の長いガキの性別……)

 

 左素利が死の覚悟を超えて、下らないことを考え始めた時、ついに馬超が左素利を両手に捉えた……その瞬間だった。

 

 ズガァァァァァン!!!!

 

 馬超の左素利に狙いをつけて隙だらけであった背中にロケット弾が着弾し……

 

 ズババババッ゙!!!!

 

 爆発で仰け反った隙に真っ直ぐに伸ばした両手を肘先から、光り輝く刀にぶった斬られ……

 

 ズドォォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ンッ゙ッ゙ッ゙!!

 

 最後に切断された肘が地面に落ちる前に音速の拳が腹部に炸裂した。

 

『アアアアァアアアアァ!!!!????』

 

バゴゴゴゴォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ン!!!!! 

 

 馬超は、対面のビルに勢い良く吹き飛び、建物が崩壊する程の大穴が空けた。

 

 その数秒後、片膝を付く左素利に近づく三つの影が現れる。

  

「助けに来たで〜左素利!!」

「何じゃ、苦戦しとるのう! 昔、儂らとした新宿の抗争は、もっと激しかったはずじゃぜ!」

「あれが、噂のノマドの生物兵器か。放ってはおけんな……」

 

岩鬼将造、北斗の源二、空海坊爆裂であった。

 

「何じゃ、岩鬼の、異次元の、爆裂のか。後少しで倒せるところを邪魔しおってからに。」

 

 と言いながら左素利は、槍を杖代わりに立つ。

 

 死ぬ寸前であった左素利の強がりに将造達三人は、ニヤリと笑った。

 

 『アアアアァアアアアァッ゙ッ゙ッ゙ッ゙ッ゙!!!!!!』 

 

 だが、凄まじい声で彼らの会話は中断する。

 

 四人が砂煙漂うビル壁に注目すると、そこにはもうすでにすべての傷から回復した馬超がいた。目元は隠れて分かりにくいが、四人には馬超がこちらを睨み、怒りの雄叫びを上げていることが分かった。

 

 ピピピピピピピピピ!!!

 

 その時、将造の胸元の携帯が鳴り、将造は即座に電話に出る。

 

「おう、公天か。ナビゲーターご苦労さん。お陰で楽に沙無羅威本部に着いたぜ。ン? 馬超の弱点じゃと?」

 

 怒り狂う馬超を無視し、携帯片手に将造は三人に振り返り確認する。

 

 「皆の衆、やつには弱点があるんじゃが聞きたい奴はおるかぁ?」

 

 みな、無言であった。無論、三人共将造の声が聞こえていないはずはない。彼らは、四対一の上にさらに弱点を聞くことをプライドが許さなかった。

 

 一方、すぐ近くで群衆に混ざってこの戦いを見守る者達がいた。彼らは、絶対に手出しは無用と将造からきつく命じられていた新紅を探索していた対魔忍達である。彼らは、馬超よりも将造達を理解を超えた生物を見る目で見ていた。対魔忍は戦闘狂な者も中にはいるが、無敵に近い生物相手の確かな弱点をわざわざ無視するという考えの者はこの場にはいなかった。彼らの中には、左素利が逃がした遊撃隊もいたが、彼らも『何やってんだよこの人達!?』と驚愕の視線で将造達を見ている。

 

 「『馬鹿っ! 聞け!プッ……』それでこそわしが認めた極道連合!! じゃあ、岩鬼組、関東異次元一家、極陽組の始めての協働作業じゃ。あんバケモンにドス入刀と行くぜぇ!!」

 

 公天との電話を切った将造の一声で四人は、恐れもなく笑顔で馬超に向かって行った。

 

「「「「ウォォォォォォッッッ!!!!」」」」

 

 ◇

 

数日後、

 

 東京キングダムで随一をの豪華さを誇る仮面の対魔忍が経営するクラブペルソナ、この店のさらなるVIPルームでとある集まりがあった。

 

 普段ならVIPを複数のホステスが持て成しているであろう豪華な室内にいるのは、たった四人。

 

 一人は、先日、将造に情報を提供した仮面の対魔忍。彼女は米連の一組織の責任者という身分を隠しており、このクラブを経営している通称仮面のマダムと言われている。

 

「ごめんなさいね。みんな忙しいこの時に急な会合で呼び出したりして。」

 

「いや、気にしないでくれ。逆に東京キングダムのこれからを決めるのに好い機会だぜ。しかし、マダム。本当にあの将造って奴は来るのかよ? というか、人の言葉は話は通じるか? 噂では頭がかなり逝ってるやつだと聞いてるぜ。」

 

 やや申し訳なさそうに話す仮面の対魔忍に革ジャンを肩にかけ、破れたジーンズを履いているギャングのような格好の若い男が、やや不安気に問う。

 

 彼は、東京キングダムを支配する組織の一角を支配する『獣王会』の若きリーダー、灰狼一郎太である。

 

 だが、仮面の対魔忍が口を開く前に、机の上に積まれている酒瓶の山の向こうから若い女性の声が響いた。

 

「話が通じなくても私は、どっちでもいいよ! あのブラック配下のフュルストをボコボコにしたってだけで酒が進んでいい気分さ! しかも只と来てるからね! あんたらも龍門が将造の配下に降ったって聞いて気分が良いんじゃないのかい?」 

 

 酒瓶の向こうには二本の角を生やし、腰まで生やしたピンクの髪、そしてはち切れんばかりのバスト、ヒップを着物で無理やり覆っている侍風の女がいた。東京キングダムの一角、鬼族を統一する『鬼武衆』の頭目速疾鬼もといラーヴァナである。彼女は、ブラックを目の敵にしており、彼の配下であるフュルストがボコボコにされたと聞いて気分が良く、昼間から大酒を飲んでいた。

 

 ラーヴァナの言葉に対して、やや凄みがある声が響く。

 

「俺達、弩竜と獣王会が龍門配下だったのは、朧のクズがボスだった時だ。今は龍門がどこに降ろうと消滅しようと知ったことじゃない。」

 

 一狼太の代わりに答えたのは、派手なスーツの上に灰色毛皮を纏ったやや怒り気味な白髪の男。東京キングダムの一角『弩竜』のボス、弩竜だ。

 

「まぁまぁ、弩竜の兄貴。俺は気にしてないぜ。しかし、ムカつくよなぁ、フュルストの奴。ブラックに忠誠を誓っときながら、裏では東京キングダム支配の為に対魔忍と自分のご主人様の細胞を混ぜて生物兵器を作ってたなんてよぉ。」

 

 将造は、先日一般人や他の組織の者も多数巻き込んだ馬超の一件をこう説明した。

 

 馬超とはフュルスト率いる沙無羅威が東京キングダム支配のため裏で開発していた生物兵器であり、沙無羅威本部が襲撃された際に未完成のまま開放し、それを極道連合が率先して鎮圧したと。

 

 将造の言動を疑った者もいたが、東京キングダムの一角である『龍門』の黄公天と『クラブペルソナ』のオーナー仮面のマダムがそれは真実であると後押しし、他の組織の者もそれを事実と認識した。

 

 真実を話せば少なからずの批判が龍門に殺到するだろう。将造はそれを見越して、核ミサイルの件と同じく、すべての罪をフュルストに擦り付けたのだ。それにより、東京キングダムでのノマドの勢力は完全に消滅し、さらなる悪評が広まるようになってしまった。

 

「本当に最低な奴ね。けど今頃は、ブラックの厳しい折檻を受けて……『ジャリ…ジャリ…』…あら?」

 

 彼らの会話を聞いて、仮面のマダムは心の中で笑みを浮かべるが、耳に草履の音が聞こえ会話を中断する。

 

「ん? 何だ? この草履の音?」

「もうこのまま宴会をしようよ~ヒック!」

「お前…まぁ良い。やっと来たようだな……」

 

 数秒後、草履の音が扉の前で止まった瞬間…

 

バタンッ゙!!

 

 扉は自ら勢い良く開き、一人の男が室内に入ってきた。

 

 右腕にポン刀を持ち、カンカン帽子に雪駄履き、腹巻にサングラス、口にマッチ棒を咥え、目つきが死ぬ程鋭い男。

 

 その男は、その鋭い目でギロリと室内にいる四人を睨みつけるように見回すとゆっくりと口を開いた。

 

「マダムを除いてお初にお目にかかりますの〜皆の衆…『岩鬼組』組長岩鬼将造じゃ。」

 

 

 同時刻、ある繁華街の路地裏で一人の長髪の男が、鈍器で殴られたかのように頭に血を流し倒れている。

 

「馬鹿がっ! 自分から魔薬に溺れて組を潰しよってからに今頃ノコノコ舞い戻って来やがって、薬で頭がイカれたか?」

「今度、見つけたらぶっ殺してやる。」

「放っとけ、何もできやしねえよ。同じ薬中でも、袁鹿角の方がマシだな」

 

 怪我を負っている男を尻目にし、複数の柄の悪いオークが救急車も呼ばずにその場を去って行った。

 

 一人になった男は、死んだかのように眠りながらも「将造……将造……」とブツブツと寝言を呟いている。

 

 数分後、そんな危険な雰囲気を放ち、誰からも麻薬や覚醒剤の中毒者にしか見えない男に不思議にも近づく女がいた。その者は、赤い髪をボブカットに切った妙齢の女性。

 

「やっと見つけたわ。岡村鉄男。」

 

 朧は、ようやく見つけた獲物を前に舌舐めずりをした。

 




左素利妖吉は、北斗の源二と同じく『5001年ヤクザウォーズ』から拝借したキャラクターで一応、ラスボスキャラです。
黄公天が射撃が上手いのは、この二次創作には出てこない原作の赤尾寅彦の能力を拝借したからです。

少し纏まった時間が出来たので、必死に続きを書きました。二年も音沙汰無しですいません。
続きをお楽しみにと言いたいところですが、このペースでは最終話を書くのに何年かかるか解らないので、最終話のタイトルだけをここに書いときます。今すぐに知りたい方は、クリックして下さい。多分、今までの話の展開と石川賢先生の作品を良く知っている方は、このタイトルだけで大まかな展開は読めると思います。

最終話 神・極道兵器

もちろん、最後の戦いにはちょっと前に流行ったあの主題歌が流れる感じです。展開が解った方は、感想欄に書いてもOKです。
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