対魔忍者と極道兵器   作:不屈闘志

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Weapon 4 寝取り兄弟野郎

東京の一般道路でノマドの高層ビルに猛スピードで向かう複数の車があった。車に乗っている者達は、皆一様に緊張した面持ちをしており、集団を先導しているリーダーらしき車には、一人の男性と二人の女性が乗っていた。

 

彼らは達郎やゆきかぜ、凛子と同じ対魔忍である。しかし、所属は同じであれど、実力や経験において先頭車に乗る三人は、他の対魔忍の追随を許さない程、上位の実力を持っている。彼らはノマドの難攻不落の要塞ビルを攻略し、ゆきかぜと凛子を救うために集められた選りすぐりのメンバーなのだ。

 

「うぅ~、もっとスピード出ないの九郎さん。ていうか、なんでヘリコプター途中で降りたの?」

 

運転席の男に愚痴っている後部座席に座る癖毛のオレンジ髪に人懐っこい顔の美女は、井河さくら。『影遁の術』という影に潜み、影の刃で敵を刺殺し、さらに影に武器を隠すことができる異能系忍法を持つ対魔忍である。

 

「・・・・・・・・」

 

さくらの問いかけに運転席のスキンヘッドでサングラスをかけている大男、八津九郎は何かを考えているかのように答えない。九郎は、さる国の元レンジャー部隊で、失明をきっかけに忍に覚醒した変わり種である。常人以上の感覚で他人の着こなしや髪の毛の寝癖、さらに色彩まで解る程の『超感覚』と脳と心臓を同時に破壊しなければ、どんな臓器でも再生できる『不死覚醒』という忍法を操る。

 

「無茶を言うな、さくら。ここは一般道路だぞ。スピード出すのにも限界があるんだ。それにここからの地区は、ノマド以外のヘリコプターで向かえば、要塞ビルのドローンで撃墜される恐れがある。我慢するしかない。」

 

運転席の九郎に代わり、助手席の長い髪を後ろに束ねた真面目そうな美女、八津紫が答える。紫は、九郎の妹で兄と同じ『不死覚醒』という異常回復忍法と常人には持てない程の大斧で、強化外骨格も一撃で破壊する剛力を持つ 。

 

「けど、ムッちゃん。早くしないと…ビルには、ユッキーや凛子ちゃん、後、多分、達郎だっているんだよ?」

 

「安心しろ、さくら。さっきも言ったが、今日は幸運にも山本部長に会いにアサギ様が、東京に出向いている。アサギ様も連絡を受けて、私達と同じくノマドの要塞ビルに向かっているはずだ。それに静流からの連絡では、岩鬼組とかいう極道達が、意趣返しで要塞ビルを攻めていると聞く。目眩ましといい時間稼ぎになっているだろう。」

 

さくらと紫が会話している間、普段なら二人の会話に口を挟む九郎が、いつもより少し青白い顔でずっと何も言わず運転していた。九郎は盲目だが、色彩までわかる超感覚を持っている。故に会話する余裕がない程、運転に集中することはない筈である。

 

「兄様?さっきから黙って、どうしたんですか?やはり、兄様も三人が心配なんですか?」

 

心配そうな紫の質問にずっと黙っていた九郎が、ようやく口を開く。

 

「心配は、心配なんだが…確か、ビルを攻めているのは、岩鬼組の岩鬼将造という男なんだな?」

 

「はい、報告では先日、海外から帰国した元傭兵の岩鬼将造という極道が、ノマドに組を潰された仕返しに組の残党を率いて、ビルを攻めているとか。」

 

「…レンジャー部隊に居た時の友人から、その岩鬼将造の噂を聞いたことがある。」

 

「どんな噂なんですか?」

 

「とにかく命知らずのハチャメチャな奴で『マッド・ドック』と呼ばれていたらしい。本人は、その呼び名より『極道兵器』と呼べと周囲に漏らしていたとか。もし、そいつ本人なら、今頃ノマドのビルは、ヤバいことになっているかもしれん。」

 

「ヤバいこととは?」

 

「…自らを犬ではなく、兵器と呼んでいる辺り、俺達の想像できないことをしでかす筈だ。多分、もうすぐ連絡があると思うぞ。」

 

「……」

 

九郎と紫の会話が途切れたその時、九郎が予想した通り、紫にビルの監視係から連絡が来た。紫はビルに何か異変が起こったのだと直感し、急いで携帯に出る。

 

「どうした何か…え"?!ビルが達磨落としだと!どういう意味だ?!」

 

紫の会話を聞く九郎の顔が、さらに青白くなった。

 

 

 

要塞ビルは、拓三達が柱に仕掛けた爆薬により、一階から三階が吹き飛び。瓦礫と化した下階の上に達磨落としのように四階から上の階が乗り、倒壊せずに奇妙なバランスを保っていた。

 

そのビル内の倉脇がいるパーティー会場は、爆発により混乱の極致に陥っていた。床は傾き、机や椅子は倒れ、窓ガラスもすべて割れている。何より、先程まで邪悪な笑みで歓談していた政財界や裏世界のVIP達は、流血して倒れている者、骨折して泣きわめいている者、屋上に止めてある送迎用のヘリコプターへ、我先に向かい将棋倒しになっている者など、一人として冷静で無事な者はいなかった。

 

しかし、混乱している舞台下と比べて、張り付けにされている三人は、幸運にも固定されているゆえに無傷であった。そして、先程まで、艶やかな吐息を漏らすのみだったゆきかぜと凛子が、たどたどしく会話をし始めた。

 

「り、凛子先輩…わ、私の声、聞こえますか?」

 

「あ、ああ、ゆきかぜ。あの爆発が気付けになって、お互い意識を取り戻したのか?」

 

ゆきかぜと凛子は、行方不明になった日から今日まで、魔界医療が生んだ洗脳装置に入れられ、何十万回と処女のまま、自分達が犯される擬似体験をさせられてきた。さらに地上に行く前に感覚神経そのものを作り替える改造系媚薬『カスタライザー』を打ち込まれ、今まで夢うつつな状態だった。しかし、先ほどの爆発の衝撃で、意識が鮮明さを取り戻し始める。

 

「ハァッ…凛子先輩…く、空遁の術は使えますか?」

 

「い、いや、ここに来る前に打ち込まれた薬の影響か、丹田へ気を送ることに集中できない。ハァッ…ハァッ…。それに気を送れたとしても、目隠しで跳躍先が見えない空間跳躍の法は危険だ。」

 

秋山凛子は、『空遁の術』という約1キロの範囲で、別の空間を見通しそこへ跳躍する忍術を使う。しかし、さすがに目隠しをしたままの空間跳躍の法は、失敗して壁や地面にめり込む可能性があるのだ。

 

「二人とも、目を覚ましたのかい?」

 

なよ子が、覚醒した二人に声をかけた。

 

凛子は、声がする方を向く。

 

「あ、あなたは…ここはどこですか?」

 

「ここは、東京ノマドのビルで私達は、最上階のパーティー会場にいる。私は、山鬼なよ子。簡単に言えば極道の姐さんさ。」

 

「今はどういった状況なんですか?」

 

なよ子は、自分がこのビルの主である倉脇に捕らえられたこと、自分達は、パーティーの肴換わりに犯される寸前だったこと、それを救いに達郎という名の少年と、自分の許婿がビルを攻略していること、そしてさっきの爆発は、許婿がこのビルの障害を一網打尽にするために起こした爆発であることを話した。

 

「た、達郎が…私達を助けに…グスッ…」

 

ゆきかぜの目から、目隠しで防ぎきれないほどの嬉しさの涙が溢れる。

 

そんな中、倉脇が狼狽しながら、携帯に大声で電話をする声が聞こえてきた。

 

 

 

偶然にも怪我がなく無事だった、倉脇とリーアルだが、目の前の惨状に唖然としていた。しかし、倉脇だけは、数秒で思考を無理矢理切り変えるかのように頭を振り、すでに将造との通話が切れている携帯を使い、強化外骨格の機械化部隊に連絡する。

 

「機械化部隊応答しろ!下で何があったんだ?」

 

意外にも機械化部隊は、あの爆発でも死んではおらず、すぐに返信が来た。

 

『一階から三階が吹き飛んだ…下は全滅…ビルが倒れないのが不思議なくらいです。』

 

「将造は、くたばったのか?」

 

『これから、4、5階が吹っ飛びまーす!生きていたかったら禁煙を守ってシートベルトをしっかり締めといてください!!』

 

機械化部隊の悲痛な声が、突然別人のお茶らけた明るい声に変わった、将造の声だ。

 

「将造!貴様何をした~~~!!」

 

二階も爆発による崩落があったが、将造がいるトイレ周辺は、将造の目論み通り被害が少なく、将造、三太郎、達郎の三名は無事であった。しかし、将造を追い詰めていたアレクサンドル達は、無敵の装甲でも何十階もあるビルには耐えきれず、二体は圧死。幸運にも一番トイレに近い一体は、無事であったが、崩落の混乱に乗じて将造に後ろを取られ、装甲が薄い後頭部にミニガンを突きつけられていた。

 

「なぁ~に、こっちから行くにゃビルが高すぎてしんどいんでな、そっちから少し降りてくれや!おっと、それともう一人、道連れができたぜ。」

 

「た、助けてくれ!こいつら狂ってる。自分達が中にいるビルを爆発させるなんて!」

 

「黙れ!矢崎っ!」

 

ボゴッ!

 

「グギャッ!」

 

爆発直後、矢崎は自分の悲鳴で隣の個室に隠れているのがばれ、憤怒の顔をした達郎に捕まえられていた。

 

「に、兄さん。」

 

兄の悲鳴を倉脇の携帯越しに聞くリーアルだが、怒ることを忘れた呆然とした顔のままだった。

 

「矢崎さん…貴様、何を考えとるんじゃ!その人は、民進党の幹事長やぞ!」

 

「ああ~~~~ん?」

 

いつの間にか煙草を加えた将造は、倉脇の警告をどこ吹く風といった顔で聞き、三太郎に火を貰い旨そうに煙を吸う。

 

スパスパ……ふわ~~~~♪

 

そして、気持ち良さそうに煙を吐いた直後に、いきなりアレクサンドルの後頭部を撃ち抜いた。

 

ダダダダダダ!ビチャ!

 

「くぅぅ~タバコがうまい~!」

 

脳味噌を撃ち抜かれる生々しい音に戦慄しながらも、倉脇は気丈にも会話を続ける。

 

「将造!こっちには、お前達の女共がいるんだぞ!」

 

「だから今からそっちに行く。大事に預かっといてくれや。」

 

倉脇との会話でおおまかな、状況を察したゆきかぜと凛子は、携帯に聞こえるよう声を張り上げた。

 

「た、達郎!私達なら大丈夫だ。こんな奴らの言うことを聞くくらいなら、ハァッもう一発爆発させろ。」

 

「た、達郎、私達は、ウッ……対魔忍だから覚悟はできてる!」

 

「お、お前ら意識が戻ったのか?」

 

リーアルが驚きの声をあげる。

 

「将造!二人の言う通りさ!派手にいきな!どうせ、吹っ飛ばすんなら、後腐れないようにきれいに!」

 

二人に続いて、なよ子も命知らずな声をあげた。

 

「よく言ったお前ら、さすが岩鬼組組員の女達だぜ!」

 

「ゆきかぜ、凛子姉、安心してくれ!俺は、絶対に死なない!」

 

通話が切れた。

 

将造は、達郎に最後の確認を取る。

 

「このビルにもう一発かますが、逃げんでええんじゃな達郎!上の女達より、わしらの方が、崩落でお陀仏かもしれんぞ!」

 

「俺達は、対魔忍なんです。死ぬことよりも、矢崎達のような外道を生かす方がもっと辛いんです。」

 

(こんな状態だ、俺が死んでも混乱に乗じて二人だけなら、逃げられるかもしれない。もし、三人とも死ぬとしても、あの二人とともになら悪くない。)

 

将造の狂気に当てられて、達郎は、普段なら絶対に考えられないような決断をした。

 

『若、仕掛け花火は、打ち上げの合図を待っとります。わしの計算に間違いなければきれいに落ちる筈です!』

 

新しい爆弾を設置し終えた拓三が、将造に電話をする。

 

「計算が間違っていても、文句言う奴は誰もいなくなるよ。」

 

『わかりました!では、後、三十秒程で爆破します!』

 

 

 

倉脇は焦っていた。もし、先程と同じく護衛達が集中する四、五階だけが潰され、岩鬼達だけが生き残れば、間違いなく自分達は、人質がいようと殺される。逃走のため、先程ノマドのヘリを呼んだが、到着するまでは時間がかかるだろう。

 

倉脇は、爆発まで猶予がない中、急いで誰かに電話を掛けた。

 

4、5階の配置も所属もバラバラの傭兵達に連絡して、全員をパーティー会場に呼び戻す時間はもうない。しかし、わずかに一人くらいなら連絡する時間はあった。故に倉脇は、傭兵達の中で一番の腕利きだけに電話を掛けたのだ。

 

「ファウスト!会場に戻ってこい!!」

 

『了解シタ…』

 

 

 

倉脇の電話が終わって三十秒後。

 

ドガァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!

 

拓三が仕掛けた爆発が、再度要塞ビルを襲った。爆発は4、5階を崩壊させ、またビルが、成功した達磨落としのように、その上に乗るものと思われた。

 

しかし、

 

「傾いている!!」

「倒れるぞー!!」

 

「やばい、計算が違ったかな……」

 

拓三は、焦った笑顔を浮かべる。ビルは、一回目の爆発と違い傾斜していた。さらにそのバランスは、安定せず、下の階からも不穏な音がしており、素人目からみても崩壊するのは、時間の問題だった。

 

4、5階に元々配置されていたオークや鬼族といった傭兵達は、爆発と崩落に巻き込まれ全員死亡。屋上に逃げたVIPは、爆発の衝撃で空中に投げ出され、地面の染みと化した。パーティー会場にいたVIPは、壁や机に強く頭を打ったり、天井が崩れて下敷きなったりと、一人として生きてはいない。生存しているのは、檀上に上がっていた倉脇とリーアル、張り付けにされていたゆきかぜ、凛子、なよ子、そして爆発の直前に戻ったファウストと呼ばれる黒いフードを着ている傭兵だけだった。

 

「や、やりやがった…やりやがった。あの野郎!!!」

 

倉脇は、憤怒の顔でなよ子に拳銃を向ける。矢崎は、今日のパーティーで政財界やノマド連中に顔を売り、さらに太い人脈を作りたかった。しかし、その人脈先がすべてなくなり、自分が任されているビルも倒壊寸前ときている。故に頭の中は、怒りの感情で混乱状態だった。そして、引き金を引こうとした瞬間。

 

「た、助けてくれ」

 

まだ土煙収まらぬ廊下の向こうから、声が聞こえてきた。倉脇とリーアルが、声の方向を向くと誰かがフラフラと近付いて来る。

 

「良かった!兄さん!」

 

それは爆発に巻き込まれて死んだと思われた国会議員の矢崎であった。リーアルが、喜んで駆け寄ろうとする。

 

しかし…

 

矢崎の背後の土煙からM60を突きつけた将造、三太郎、達郎が現れ、将造は矢崎の顔面が地面にぶつかるほど蹴飛ばした。

 

ドガッ!

 

「グエッ!」

 

 

「ようやく会えたの倉脇、そしてぬしは、このアホの弟リーアルだったかの?スケベ顔とメタボ腹がよう似とるわい。」

 

「将造、なんでこんなに早くこの階に。」

 

それは達郎の忍法のお陰であった。風遁の術の熟練者は、空を飛ぶ『飛翔の術』というものが使えるが、達郎は、未熟故に激しい風しか起こせない。しかし、広い外と違いビル内の逃げ場がない狭い階段ホールでは、達郎の未熟な飛翔の術でも何倍かの威力となり、空を飛べないまでも将造達の体重を三分の一以下にして、一瞬で最上階まで移動することができたのだ。

 

「ハァッハァッ、ゆきかぜ、凛子姉!」

 

忍術の源である対魔粒子を使い果たし、達郎は息も絶え絶えであった。しかし、目の中の二人を思う炎は、少しも衰えていない。

 

「ほれ、鳴かんかい!このボケッ!」

 

「ぎゃん!」

 

将造は、銃を突きつけながら矢崎のネクタイを首輪がわりにして、犬の散歩のように歩かせる。

 

矢崎が生き残っていたことで幾分冷静になった倉脇が、将造に聞こえない程の声でファウストに囁く。

 

(この女と矢崎を交換する。矢崎がこちらに来たら、容赦なく全員撃ち殺せ……)

 

(了解…)

 

ファウストとの内緒話を終えた倉脇が、愛想笑いを浮かべながら将造に交渉を持ちかける。

 

「わかった、お前もこれだけ暴れりゃ気も済んだじゃろ。人質交換で今日は、痛み分けといこうや。」

 

俺の言うことは真実だと言わんばかりに倉脇は、なよ子の拘束を素早く解き、将造に渡そうとした。

 

(国会議員の矢崎とヨミハラの主リーアルさえいたら、わしのノマドの地位は、まだ何とかなる。)

 

「人質交換?」

 

人質交換という単語を聞いた将造は、矢崎に突き付けていたM60を地面に落とした。

 

その将造の様子を見た矢崎とリーアルは、将造が人質交換に応じるものと考え、安堵の笑みを浮かべる。

 

一方、半人前だが、対魔忍である達郎は、こんな悪党が素直に人質交換に応じるわけがないと考えており、矢崎達に反して不安げに将造に声をかける。

 

「将造さん、こんな奴らと人質交換に応じるんですか?」

 

すると将造は、達郎含めたこの場にいる者達を『何を言ってるんだこいつら?』といった不思議そうな顔で見渡し、矢崎をネクタイでグイと引き寄せた。

 

「達郎にも言っとくがな、わしはこいつを人質のつもりで連れてきたんじゃねぇぜ。倉脇…リーアル…お前らの驚く顔が見たくて…連れてきたんじゃぁぁッッッ!!!!!!」

 

ドガァァッッ!!

 

そう叫んだ瞬間、将造は矢崎をビルの割れた窓から、思い切り蹴り落とした。

 

「ぎゃあああああァァァァッッッ!!!!!!」

 

断末魔の叫び声を上げながら、矢崎は、何十階とある超高層のビルの窓から、絶望の顔をして地面に吸い込まれていった。

 

「将造ぉぉっーーーっ!!!」

 

倉脇は、将造の狂った行動に遂にぶちギレ、胸元から銃を取り出し銃口を向けた。

 

ズドドドン!

 

………………グチャ!

 

「ウグッ」

 

一瞬の膠着の後、矢崎が地面に激突した音と同時に膝を着いたのは、倉脇の方だった。腹部からは、血が流れている。将造は、倉脇が引き金を引く前に、西武のガンマンのように腹巻きから出した二丁のコルトパイソンで、倉脇を銃撃したのだ。

 

「倉脇、ハジキは実戦じゃ。お前みたいな自分の手を汚さんやつは一目でわかる。だが、いい護衛は連れとるようじゃの。」

 

将造は、あの一瞬で何発もの弾丸を倉脇に撃ち込んだはずであった。しかし、黒いフードのファウストが、銃撃した倉脇の前に立ち塞がり残りの弾を受けきったのだ。

 

ファウストは、穴だらけになったフードを脱ぎ捨てる。すると中から、ヘルメット型の仮面、柄に刀が付いた二丁拳銃、そして鋼鉄の機械化された体が現れた。

 

「おどれぇたぜ!時計仕掛けの傭兵かよ……」

 

「コチラモ驚イタ。アノヨウナ状態ナラ普通、人質交換ニ応ジルモノヲ。今落トシタ奴ヲ知ッテルノカ?日本ノ与党、民新党幹事長の矢崎宗一ダゾ。オ前ハ、ノマドダケデナク、コノ国ノ政界ノ奴ラモ敵ニマワシタノダ。モウ取リ返シガツカナイ。」

 

女性の声で、機械のように抑揚なくしゃべるファウストに将造は、満面の笑顔で答える。

 

「わしは、取り返しがつかんことは、大好きなんだ。」

 

「こいつ狂って…狂ッテルナ。」

 

「そうじゃ。じゃから、ぬしらも矢崎と一緒に…取り返しがつかん所に送ったるわい!!」

 

「パワーリミッター解除!」

 

将造とファウストが、お互いに銃口を向けた瞬間だった。

 

バババババババ……!!!!

 

割れた窓から、急にけたたましい音が聞こえてくる。思わず将造とファウストが音の方向に目を向けると謎のヘリコプターがこちらに向かって来るのが見えた。それは、先程倉脇が呼びよせたノマドの軍用ヘリであった。ヘリは、将造を確認したらしく、有無を言わさず回転機銃をこちらに発射してきた。

 

ズガガカガガガガガ!!!!

 

さすがの将造も、軍用ヘリのガドリングガンは避けるしかなく、後ろに飛び退く。

 

(今ダ!)

 

その様子を見たファウストは、飛び退く将造の隙を突き、煙幕用の手榴弾を地面にばら蒔いた。一秒と経たずに煙幕が会場を覆う。

 

「くそ、何も見えんぜ?!」

 

ズドン!ズドン!

 

将造は、気配を便りに煙の中を銃撃をする。窓が割れた最上階故に大量の風が吹き、煙幕はすぐに晴れたが、すでに倉脇とファウストは、そこには居なかった。ファウストは、倉脇を片手に持ってすでに軍用ヘリに飛び移っていたのだ。

 

「スマンナ!決着ヲツケル前ニコノ雇イ主ガ死んでは元も子もないのだ。ちなみに私が雇われているのは、今日だけなのだから、明日からどこかで会っても襲ってくるなよ!」

 

抑揚のないしゃべり方が、途中で生の人間らしいしゃべり方になるが、将造は、その変化に気付ぬように怒り狂う。

 

「逃がさんぞぉぉ!倉脇!一度狙った獲物は、確実にぶっ殺す!」

 

ズドン!ズドン!

 

ガキィン!ガキィン!

 

将造が、銃をヘリコプターに撃つが軍用ヘリの装甲に跳ね返される。

 

「お、置いていかないでくれぇ!」

 

リーアルは、両手を前に突きだしてヘリコプターを追いかけるが、無情にもノマドのヘリコプターはそれを無視し、東京キングダムの方向に飛び去っていった。

 

「哀れだな、リーアル。」

 

ノマドに見捨てられたリーアルを見て、達郎が、憐憫の情など一切含まない無表情な顔で呟いた。

 

 

 

一方、ヘリコプターの中で倉脇は、『将造殺す、将造殺す。』とうわ言のように同じ台詞を繰り返していた。ファウストは、この調子なら東京キングダムの闇医者まで持つだろうと安心した時、

 

ギャリ!ギャリ!ギャリ!

 

と体の中から、釣竿のレールを巻くような音が聞こえてくる。ファウストは、煙に乗じて逃げる際に将造に撃ち込まれた弾丸によって、機械の体の重要機関を傷付けられていた。

 

(危なかった。あのまま倉脇を庇いながらでは、殺られていたかもしれない。だが、将造と言ったか?あの男でもビルの崩落からは、逃れられないだろう。)

 

 

 

ズズズズズズ!!!!ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

倉脇に逃げられてすぐにビルが、再び揺れだした。もう、完全倒壊するまで時間がない。

 

「三太郎!なよ子を連れて、はよ階段を降りぃ!わしは、達郎の女達を助けてから行く!」

 

「わかりました!若!どうか御無事で!」

 

「将造!絶対二人を助けるんだよ!」

 

先に三太郎となよ子を脱出させた将造は、次に達郎と共にゆきかぜと凛子の前にいるリーアルに向かっていく。

 

「よし、達郎。倉脇は残念じゃったが、チャッチャッとこの爺を殺して、女共と脱出するぜ。」

 

「はいっ!将造さんっ!」

 

銃口を向けながら笑顔で迫る将造にリーアルは、焦りながらも、必死に笑顔を作り将造に喋り始めた。

 

「ちょっと待ってください!将造さんと言いましたか、どうです私と手を組みませんか?地下のヨミハラを支配する私なら、どんな女でも用意しますよ。私は、どんな女でも従わせる技術を持っていますからね。そうだ、私がノマドに話を付けてあげましょう。あんな倉脇より貴方の方がノマドのビジネスパートナーに相応しい!どうでしょう?」

 

ついさっき、実の兄を殺した者に保身のため、媚びを売るリーアル。そんな男に将造は、銃口をずらし、意外な言葉を放った。

 

「ぬし、童貞じゃろ?」

 

「え、ど、どういう意味ですか…」

 

突拍子もない言葉にリーアルの笑顔が固まる。

 

「軍に入っていた時、お前みたいな奴をよう見たよ。童貞が嫌で、大金を叩いて風俗で童貞を捨てたら、いきなり気が大きくなる素人童貞野郎。見ていて笑いのネタに成らんほど、痛々しかったわい。」

 

リーアルの笑顔が、将造の言葉を聞く内に怒り顔に変わってゆく。

 

「わ、私は、娼館を経営していて…今まで、何千人と女を喜ばして…貴様より女を抱いて……」

 

「ぬしの容姿と後ろの二人を見ていたらよう解るわい。どうせ、金、ポン(クスリ)、人質、地位を利用して、散々泣いてる女を無理矢理犯してきたんじゃろ。それでSEXの腕は得意と自慢しとる辺り、只の童貞より始末におけんぜ!のぉ達郎!」

 

「ぐがぁぁっっ!!!」

 

「わぁ~はっはっはっっ!!!爺の年齢した童貞野郎が、図星突かれて怒りおったわい。」

 

満面の笑顔で馬鹿にする将造に、遂に笑顔から完全に怒り顔になったリーアルは、胸元からスイッチを取り出した。

 

「こいつらの体には、このボタンを押せば、四肢が爆発するキメラ微生体という爆弾を埋めている。そして、このスイッチの電波は100M以上効くぞ。私を見逃さないとこのボタンを押す!」

 

「ゆきかぜ、凛子姉…本当なのか。」

 

達郎が、信じられないといった顔でゆきかぜと凛子を見る。彼女達は、リーアルが言っていることが真実であるかのように、目隠しをされていても解る悔しそうな顔になった。

 

「そうだ、この達人である二人を難なく手に入れたのは、これを騙して埋め込んでいたからだ。さぁどうする?」

 

「達郎、私達に構うな!リーアルを殺せ!」

 

「そうよ達郎!私達は、対魔忍よ!むしろ、私達のためにこんな外道を逃がしたら、逆に許さないから!」

 

下手をしたら二人を目の前で見殺しにするという、二回目のビル爆破とあからさまに違う状況のため、二人の言葉に反して達郎は思いきった判断ができない。

 

「くそっ!リーアルッ!!」

 

「ガキィッ!さっさとそこをどけ!」

 

リーアルは、スイッチをこれ見よがしに突きつけ、階段に向かおうとする。しかし、その前に将造が立ち塞がった。

 

「聞こえなかったのかお前!どけっ!」

 

「押さんかい…」

 

「え?!」

 

将造の憤怒の顔にリーアルの表情が固まる。

 

「押せっちゅうとるんじゃ!」

 

「は、話を聞いてなかったのか?押せば二人は……」

 

「こぉんのくそ爺がぁぁっっ!!!極道に下手な脅しをかけおってぇぇっっ!お前が押さんかったらわしが押したるっ!」

 

震える手で、ボタンを持ち脅すリーアル。だが、将造は、躊躇せずに飛びかかった。

 

「や、止めろ、本当に押す…」

 

「ふんっ!」

 

ベキャ!!

 

将造は、渾身の右ストレートをリーアルの顔面に炸裂させた。

 

「ブホァッ?!」

 

たまらずリーアルは、ボタンを落とし、鼻血を噴出させながら吹き飛んだ。

 

「やった!」

 

急いで、達郎はリーアルが落としたスイッチを回収しようとする。しかし、先に将造に拾われた。

 

「将造さん、俺達の住む町の医者にスイッチを持っていけば……」

 

ポチッ

 

将造は、達郎の言葉が聞こえないかのように地面に落としたスイッチをゆきかぜと凛子に向けて、迷わずボタンを押した。

 

「ちょっ!将造さんっ!!!!ゆきかぜっ!凛子姉ぇっ!」

 

達郎が、二人に必死に叫ぶ。

 

……しかし、何秒経っても何も起きない。

 

「やっぱりのぉ。わしがぬしなら、人質が二人いる場合、わしらが少しでも反抗心を見せたら、容赦なく一人を見せしめにぶち殺すわい。それが中々できんちゅうことは、まぁ言わずもがなじゃな。わはは……!」

 

リーアルを殴ってスッキリした将造は、再度リーアルを馬鹿にするように大笑いをし始めた。

 

キメラ微生体の爆発条件は、リーアルの言うことに逆らうこととヨミハラを出ることの二つである。この二つの条件で二人を縛って調教していたリーアルは、倉脇の凌辱パーティーに呼ばれるが、二人を連れてヨミハラを出れば、二人の四肢は爆発してしまう。キメラ微生体は、一方の機能だけを無効化することはできない。故に媚薬に解除薬を混ぜ、それを二人に内緒で飲ませ、一時的にキメラ微生体を取り払っていたのだ。さらに目隠しをさせていたのは、キメラ微生体が、投与されると浮き出る、舌の奴隷刻印が消えたことを悟られぬためであった。

 

「ハァッッ~…将造さん。さっきの行動、もしかしてリーアルの態度に腹が立ったから、当て付けでやったんじゃないでしょうね…。」

 

落ち着き始めた達郎が、少しジト目で陽気に笑う将造を見る。

 

「…バ、馬鹿たれ、達郎!そんなことはないわい!そ、そんなことよりも、縛られとる、ゆきかぜと凛子だったか?早く助けるんじゃ!」

 

将造は笑うのを止め、少し図星を突かれたかのように言葉を濁した。

 

「こ、こいつ…狂ってる…」

 

奇っ怪な魔界の生物を知るリーアルが、只の人間の将造を理解不能な生物を見る目をして、鼻血を流しながら呟いた。

 

リーアルを制圧した将造は、すぐに縛っている鎖を銃で撃ち抜き、二人を解放した。何週間も歩かず、筋力が衰えた二人は、縛られていた鎖が破壊された瞬間、同時に地面に倒れかける。が、達郎が二人を優しく支えた。

 

「遅れてごめん、二人とも。」

 

「いや、気にするな…敵の罠に嵌まった私達が悪いんだ。」

 

「有り難う、達郎。大好き…」

 

達郎が、二人の目隠しを取り、三人がお互いを強く抱き締めあったその時、

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

一際大きい揺れが、ビルを襲った。それと同時に唯一の出口である階段の扉の前に天井の瓦礫が降り注いだ。

 

ガラガラガラガラ!!!!

 

「しまった!階段の入り口が!」

 

達郎が急いで階段の入り口を調べるが、段々と曇った表情になる。どうやら完全に入り口は瓦礫に塞がってしまったらしい。

 

「凛子姉、空遁の術はっ?」

 

「す、すまない…、リーアルに薬を射たれて、上手く丹田に気を遅れないんだ。」

 

「くそ、どうしたら…」

 

焦る達郎達を見て、リーアルは楽しそうに笑う。

 

「ククク、お前らも一緒に地獄行きだ!!」

 

 

 

 

同時刻、地面に接している六階ビルの階段出口から出た、なよ子と三太郎は、ビルから急いで避難していた。二人から見ても、ビル崩壊まで時間がないことが解っていたからだ。

 

「将造!」

 

「姐さん、もうイカン!今から降りてきても間に合わん!」

 

 

 

ビルの崩壊が、段々とひどくなってゆき、完全崩壊まで後一分もないなか、安全に降りる方法を模索し駆け回る達郎。一方、焦る達郎に対して将造は、落ち着いて辺りを見回していた。

 

「無駄だ、貴様らは助からん!折角、奴隷共を取り戻したのに残念だったな!」

 

自分が死ぬと解って、やけくそになっているリーアルは、鼻血を吹き出し笑いながら四人をなじる。その不遜な態度に憎しみの表情を向ける達郎、ゆきかぜ、凛子。しかし、将造だけは、無表情でじっとリーアルを見つめており、落ち着いた口調で話しかけた。

 

「ぬし、よく見ると脂ぎってて、滑りやすそうな体しとるのう…よし!」

 

将造は、リーアルから目を外し、崩落した天井の瓦礫の中から、銅線がはみ出している瓦礫に注目する。そして、その銅線を引っ張り、リーアルの足に鬱血するほど、しっかりと縛り付けた。

 

「お、お前何を?」

 

「さあて、最後の料理に取りかかろうかの!」

 

銅線が出ている100キロ以上ありそうな瓦礫を思い切り持ち上げた将造は、そのまま割れた窓に向かっていく。

 

「ヌオオオオオ!!!!!」

 

「ま、まさか!止めろぉっ!」

 

将造達を地獄の道連れにすると覚悟を決めたリーアルの顔が、恐怖に染まりどんどん青白くなっていく。

 

「地獄に行きさらせぇぇっっ!!」

 

将造は、割れた窓の向こうにリーアルをつないだ瓦礫を思い切り放り投げた。

 

「ぎゃあああああっっ!!!」

 

銅線に繋がれたリーアルは、床を必死にかきむしるも勢いよく窓際に引っ張られて行く。

 

「達郎、ゆきかぜ、凛子!波に乗り遅れるぜぇっ!」

 

「し、将造さんっ?!」

「うわっ?!」

「き、貴様何をする?!」

 

将造は、タックルするように左肩に達郎、右肩にゆきかぜと凛子を担ぎ上げ、銅線に引っ張られて、ビルの壁面に飛び出すリーアルの体の上に飛び乗った。

 

「この夏、一番の波が来るぜ~~!!」




物語を考えていると、将造は別に改造しなくても大丈夫なんじゃないかなと思えてくる。

後、対魔忍シリーズで物語に出すキャラクターを考え中です。沢山、極道兵器と絡ませたい。
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