サイボーグ兵士を辛くも撃退した将造達だが、追撃の手から免れる為、他の病院に移る必要があった。しかし、都内の病院に移るだけでは、再度襲撃される可能性がある。故に襲われる可能性の低い組員を除いた将造、拓三、三太郎、そしてなよ子だけが、対魔忍の本部である五車町にある病院に緊急ヘリで搬送された。
そして、すぐに個室の病室に入れられた将造だが、左腕と右足を改造された興奮がまだ冷めずに三太郎達と話し込んでいた。その様子は、数時間前に大手術をしたと思えないほどの元気さであった。しかし、注目すべきは、その元気さではない。数時間前、マシンガンだった左腕が、まるで怪我をする前の無傷の腕に戻っていることだろう。
コン…コン…コン…
そんな騒がしい病室にノックの音が響く。
「入っても大丈夫だよ。」
なよ子が、ノックに答えた。
ガチャリ!
「気に入ってくれたみたいね、岩鬼将造。」
アサギ、さくら、紫の三人が病室内に入ってきた。彼女達の顔は、もう敵に襲われない味方陣地にいる為か、落ち着いた表情の上に安心感が見える。
「おお、ぬしらか!今これのことを話しとったんじゃっ。」
そう将造が喋ると無傷の左腕が肘先から外れ、中からマシンガンが現れた。病院の騒動のすぐ後で、アサギから本当の腕と変わらない見た目や動きをする義手を渡されていたのだ。
「この腕を取り外せるところが、またたまらんのう!」
満面の笑みで、義手を何回も取り外しては嵌める将造の様子を見て、アサギはわずかに笑みを浮かべる。
「アンドロイドアームの方が良かったとか、ゴネられるんじゃないかと思ってだけど、気に入ってくれたようね?」
「女からの贈り物は、平手打ちや鉛玉以外じゃったら、わしは何でもOKじゃっ!」
「フフフ、そうなのね。」
将造とアサギの穏やかな会話により、少し室内の雰囲気が和やかになる。しかし、アサギが、その雰囲気を壊すような低い声で将造に宣言した。
「早速だけど岩鬼将造、私達はなんの目的も無く貴方の命を助け、手術を施したわけではないわ。」
突然のアサギの言葉に、なよ子達の顔が一瞬で厳しくなる。将造も口元に笑みを浮かべているが、目元は少しも笑っていない。
「まぁ、そうじゃろうな。しかし、ポンを売買しとる集団の言うことは、あまり聞けんぜ。ましてや、達郎みたいな若いもんを巻き込んどる奴は、特にな…」
「「「え?」」」
将造の言葉を聞いたアサギ達は、?マークが付いた顔になる。
「ムッちゃん?ポンって何?稲毛屋で売ってるポン菓子のこと?」
「いや多分だが、この男は勘違いしている。岩鬼将造…もしかして私達を大麻を売買している集団だと思っていたのか?」
「ん、違うんか?」
将造が、不思議そうな顔で紫に答えた。
「えーーー!私達、大麻なんてやってないよっ!まぁ無理矢理クスリを射たれたことは、数え切れない程あるけどゴニョゴニョ……」
さくらが抗議する中、アサギは呆れた顔で溜め息をつき、指先を額に付け首を振る。
「ハァッ~私達って、貴方達にそういう風に見られていたのね…。まぁ、対魔忍は、公にはなってないからしょうがないけど。」
「なんじゃ違うんか…じゃったら、はよ言わんかい!」
紫は、将造の勝手な態度に青筋を立てる。
「貴様ぁ、偉そうに…アサギ様?!」
怒り顔の紫が、将造に口を出そうとするが、アサギはそれを手で制す。
「それはそうと意外ね…てっきり極道だから、覚醒剤や大麻には寛容だと思っていたけど。」
「ポンはいかんのじゃ。ポンは…」
将造は、少し遠い目をしながら呟いた。
アサギは、そんな将造を不思議そうな顔で見るが、話を進める。
「誤解も解けたことだし、本題の前に少し私達のことを話しましょうか。対魔忍が、どういった存在なのかを。」
そして、真剣な顔でアサギは、将造達にゆっくりと対魔忍のことを語り始めた。
大まかに説明したのは三つ。この世には、魔界という人間世界とは違うもう一つの世界があること。魔界には、魔族という人間と同じ知的生命体がおり、時おりゲートという門から人間世界に来て、人間に危害を与えてきたこと。そして、対魔忍は千年も前から、その魔族から人間を守るため、戦い続けてきたことである。
三太郎、拓三、なよ子は、最初は訝しげな顔で聞いていたが、段々と驚きの顔に変わっていく。一方将造は、意外にも終始真剣な顔で一言も茶々を入れずに、アサギの説明を聞いていた。
「・・・・ということよ。にわかには信じがたいことだと思うけどね。」
アサギの説明が終わると同時に真っ先に口を開いたのは、三太郎だった。
「じゃあ、倉脇のビルで極道に混じって銃撃していた頭に角があったり、不細工な面だった奴は、その魔族ってやつだったのか。」
「あのビルにいたのは、オーク族と鬼族という魔族よ。その二つの種族は、裏の世界で傭兵業を営んでいる奴が多いのよ。」
「なぁーんだ。確かにあいつの顔、パーティーに出るお面にしたら、やけに精巧で不細工過ぎると思ったぜ。」
三太郎は、ゾクトのことを思い出して笑い始めるが、それに構わず次に拓三が口を開く。
「あんたの話を聞いて納得したぜ。どうりで初めてあった時から、素振りや歩き方が、軍で見たことないほど特徴的なわけだ。」
拓三の言葉を聞き、アサギが、興味深そうな顔をする。
「へぇ、どう特徴的なのかしら。私達は、隠密行動が主だから、一般人に紛れるのが得意なのに。これからの参考の為に聞きたいわ。」
「そうそう、まあこんな美人は、そこらにはいないからねぇ。歩き方や仕草にも出ちゃったかぁ。」
さくらのおちゃらけた台詞に反して、拓三は血生臭い言葉を放つ。
「どこがどう違うと言われてと困るんだが…とにかくあんたら三人とも、物凄い数の人を殺してるだろ?俺には、それが解る。特にアサギさん…あんたは、百人や二百人では済まないほどだ。もしかしたら、若以上に殺っているんじゃないか?」
拓三の言葉を聞いた紫とさくらは、驚きの顔になり、アサギは、少しだけ目を細め笑みを浮かべた。
「そうよ、私達は、あらゆる任務で人を何十人と殺してきた。けれど、勘違いしないでね。私達は元々は、魔族だけを相手にして、人間を相手にしているわけではなかったのよ。それが変わってしまったのは、ノマドの総帥『エドウィン・ブラック』が、魔界から現れてから…」
「ノマド…」
ノマドの単語が出て、将造の顔の真剣さがさらに増した。
アサギは、次にノマドについて話し始めた。ノマドとは、ここ二十年の間に急成長を遂げた米連の企業だが、その実態は、魔界から出現した吸血鬼『エドウィン・ブラック』が支配していること。ブラックは、人間界ではあり得なかった魔界の技術を餌にノマドを大きくさせ、遂に米連で政治に口出しをできるくらいの権力を持ってしまったこと。そして、その影響で他の闇の権力を持つ者達も魔界の技術を欲しがり、人間と魔族が協力して悪事を働くことが多くなってしまったことである。
「魔界の技術で作られた物は、昨日戦ったドローン、強化外骨格、キャンサー、そしてアンドロイドアームと数え切れないわ。」
「そうか、あの生物型のドローンは、軍でも見たこたないと思っとったが、そんな事情があったのか。あんたの言うことは、荒唐無稽過ぎるが、昨日のあれを見せられたらなぁ。まぁ、兎に角あんたらは、今まで魔界の者と手を組んで悪さするやつを殺してきたってことか。」
拓三は、感心しながら呟く。
そんな中、真剣にアサギの説明を聞いていた将造がやっと口を開いた。
「それでわし達、岩鬼組に裏の掃除を手伝って欲しいっちゅうことか…」
「そうね、まだ説明し足りないところはあるけど、おおよそは貴方の言うとおりよ。」
「アサギさんよぉ…」
将造が、鋭い眼光を放ちながら重くドスの聞いた声でアサギに宣言する。
「あんたが、政府のお偉いさん直属の秘密組織の長かもしれんがな…わしゃ極道じゃ、あんたらの手足じゃないんで。わしは、わしのやりたいようにやるんじゃ。」
アサギと将造の視線がぶつかると病室内の雰囲気が、ピリピリと張りつめ始め、二人以外は冷や汗をかく。
そんな張り詰めた空気雰の中、先に口を開いたのはアサギの方だった。
「貴方が悪党を何人殺そうと構わないわ。私達が、後ろから手を回して後始末してあげる。それにノマドに復讐するには、情報も必要でしょ?」
喋りながら、今度はアサギの目が鋭くなる。
「二十年前まで私たちは、魔族だけを相手にしていれば良かった。けれどエドウィン・ブラックが出現してから、世界はおかしくなってしまった。私達も只、魔族と人が仲良く研究室でフラスコ片手に実験しているのであれば、口出しも手出しもしない。しかし、現実はこの日本で数え切れないほどの残酷な人体実験が繰り返されている。魔界の技術はね、ほとんどが人体実験を得て作られているのよ。特にアンドロイドアームは、良い例ね。」
「本当か?それは?」
将造の額に青筋が浮かび始めた。
「本当よ。魔界の門は、何故か日本にしか開かない。故にブラックが出現してから日本では、魔族が関わった殺人、誘拐、強盗といった犯罪が右肩上がりで増えていて、その数倍は、闇に葬られている。なのにその犯罪の本拠地であるセンザキ、アミダハラ、そして東京キングダムは、政府ですら手が出せない。頼みの政治家でさえも、ノマドや中華連合に尻尾を振る始末よ。貴方がビルから蹴り落とした矢崎宗一は、その代表格ね。それに一般人だけじゃなく、私達三人もノマドや中華連合に言葉で説明できないほどの凌辱や人体実験を受けてきた。」
紫とさくらが、その話は本当だと言わんばかりに複雑そうな顔で目を伏せる。
「今も日本のどこかで何の罪もない人に対して、おぞましい人体実験や人身売買が行われている。私達は、ノマドに十年以上対抗してきたけど、日本政府が親米路線に切り替えてからは、表だった活動は出来なくなってきた。もし、米連と同じようにこの日本もノマドに屈したら、日本人はどうなるかわからない。だから…」
「ゆるさん…」
アサギの言葉を遮るように将造の怒りの言葉が病室に響いた。
「ゆるせねぇ!!俺の日本(シマ)でそんな勝手は許さねぇっ!!!」
「「若?!」」
三太郎と拓三が、驚きの声で問う。
「ああ、命令を聞く気はねぇが、ノマドっちゅうゴキブリを退治する手伝いはしてやってもええ!倉脇も生きとることじゃしな!ちなみに武器の支給は、してくれるんじゃろうな?」
将造は、怒った顔からいつもの不敵な笑みを浮かべる顔になる。
「そこは、山本部長に頼んで何とかするわ。」
「ヤッター!これから、よろしくね!」
「ふん。仲間になるなら、アサギ様への態度を改めることだな。」
サクラは喜びの声を揚げて、紫も不機嫌そうだが、安心した様子だ。
そこからは、ガラリと雰囲気が変わり、他愛もない雑談が始まった。内容は、今までどんな奴を殺してきたやどんな戦場で戦ってきたかという、一般人からしたら、殺伐とした物であったが…
そんな和気あいあいとした雰囲気の最中、拓三が不意にさくらに声をかける。
「そういえば、さくらちゃん?」
「おうおう拓三、もう下の名前呼びかよぉ?」
三太郎が、拓三を茶化す。
「うるせぇ三太郎!アサギさんとさくらちゃんは、姉妹だから下で呼んだ方が分かりやすいだろうが!」
ピンと張り積めた空気が無くなり、三太郎と拓三は、いつものおちゃらけた調子に戻り始めていた。それに元々アサギ達は、戦場で出会えないほどの美人なのだ。故に空気が弛緩した今、二人が鼻の下を伸ばすのも無理もない。
「私は、気にしないよぉ?拓三さんだよね。何か質問?ちなみに彼氏はいないよ♪」
「え、そうなの!いやいや、そうじゃなくて、俺が言いたいのは、結局『たいまにん』って字は、どう書くかってこと。魔族と戦うから、退ける魔の人って書くの?」
「ううん。よく勘違いされるけど、退ける『退』じゃなくて対決の『対』だよ。魔と対決する『忍者』で対魔忍って書くの。」
「忍者…じゃと?」
さくらの説明で出た『忍者』という単語に将造は、笑顔を止め真顔になった。
「ぬしらは、忍者なんか?」
真顔の将造の問いにアサギが不思議そうに答える。
「ええ、そうよ?マンガやアニメの忍者とは、大分違うから驚いた?」
「ああ、心底驚いたぜ。」
アサギの答えを聞いた瞬間、将造は、島田やゾクトを殺した時と同じく、殺意がこもった笑顔をアサギに向けた。
「?!」
一瞬で形相が変わったことに驚くアサギに将造は、再度質問をする。
「じゃあのう、鉤爪をした赤い女忍者って知っとるか?」
「なんですって…」
将造の『鉤爪をした赤い女忍者』という言葉を聞いた瞬間、今度はアサギが憤怒の表情になり、殺気を込めた視線で将造を見返した。
ピシッ…!
バサバサバサバサッ!
窓ガラスにヒビが入り、外の鳥達が一斉に飛びたった。
超一流同士の冗談ではない殺気のぶつけ合いである。病室内は、和やかな雰囲気から一転して、先程の張り積めた空気とは比べ物にならない程、危険さに満ちた空気になった。例えるなら、いつ爆発するかわからない大量のダイナマイトが目の前にあり、死と隣り合わせの雰囲気にアサギと将造以外の者達は陥っていた。
(若…何でアサギさんにこんな殺気を?!)
(お、お姉ちゃん…落ち着いて…)
(う、動けない!ア、アサギ様のこんな殺気は久しぶりだ。しかし、この岩鬼もそれと同じくらいの殺気を放つとは…)
一瞬即発の空気に三太郎達だけではなく、さくらや紫でさえ体を動かすどころか、声を出すことも出来ない。
将造の隠し持ったドスとアサギの忍者刀のどちらが先に煌めくか、予想がつかない状態になった時、先に行動を起こしたのはアサギだった。
しかし、将造に斬りかかったのではない。殺気を出す将造に対して、あろうことか眼を閉じて、ゆっくりと深呼吸をしたのだ。
(落ち着きましょう。もし、将造が奴の仲間なら、ノマドのビルの爆破や私達にわざわざ質問もしないはず。こんなところで私に殺気を出すのは、あいつと敵対している証拠だわ。)
ゆっくりと眼を開けたアサギは、憤怒の顔から、また落ち着いた顔に戻り、未だに殺気を出す将造に口を開いた。
「ごめんなさい。一瞬だけど、鉤爪の女と貴方が仲間じゃないかと疑ってしまったわ。」
「……どうやらその言い方じゃと、ぬしらもその女の仲間じゃないらしいのぉ」
アサギの謝罪の言葉を聞いた将造の殺気も、段々と小さくなっていった。それと同時に金縛りにあったように動けなかった他の五人も、安堵の溜め息をついて動き出す。
「普通だったら、情報も大切な取引の要素だけど、信頼の証にこちらから話すわ。」
落ち着いた雰囲気に戻った中、アサギは、またゆっくりと話し始めた。
「貴方が知りたい鉤爪の赤い女忍者は、十中八九、甲河朧という名の女忍者よ。」
「朧…」
「朧は、元々対魔忍、つまり我々の仲間だった。けれど十数年前、エドウィン・ブラックが、対魔忍の里に攻めてきた時に、私達を裏切り仲間達を大勢殺して、敵であるノマドに付いた。」
アサギ達が僅かだが、悔しそうな顔になったのが、将造達にもわかった。
「私達は、仲間達を殺害した朧を追撃して殺したつもりだった。けれど、エドウィン・ブラックの魔界の力によって、何度も朧は蘇ってきた。そして、大切な私の婚約者を…」
「お姉ちゃん!」
「アサギ様!何もそこまで話さずとも…」
アサギの言葉を遮るように、さくらと紫が叫ぶ。
「いいのよ。サクラ、紫、このことは里のほとんどの人が知ってることだもの。」
「・・・・・・・・」
今までにない真剣な顔の将造達に向かって、アサギは再度話し始めた。
アサギが話す朧との因縁は、壮絶なものだった。仲間を裏切りノマドに付いた朧を殺すも、ノマドの技術で魔族となって甦ったこと。婚約者の体に寄生し、自分に催眠刻印を打ち込み凌辱したこと。さくらの救助により、催眠を抜け出すも、朧に取り憑かれた婚約者ごと殺したこと。数年後、クローンとなって蘇った朧に再度、仲間を殺され凌辱されたこと。そして真の朧は、ブラックに力を与えられ、吸血鬼となって、より強力に蘇ったこと。
「日の光の下に出られない体になった朧だけど、今はノマドの幹部の一人よ。もうおいそれと戦うことさえ難しくなってきた。朧について知っているのは、これくらいかしら。」
アサギのあまりの壮絶な朧との因縁を聞かされた将造達の間に数秒間、沈黙が支配する。そして、それを破ったのは、意外にも複雑そうな顔をしたなよ子であった。
「アサギさん…あんたも辛い経験してきたんだね。」
三太郎、拓三もなよ子に続く。
「許せねぇぜ…仲間を裏切って恋人まで殺すとはよぉ。」
「俺達の世界じゃ。確実に産業廃棄物捨て場行きだな。」
最後に将造が、口を開く。
「そうか、とんでもなくしぶといやつじゃのう。朧っちゅうやつは。」
「そうよ。今度こそ、私達は朧の息の根を止めたいの。岩鬼将造…今度は、貴方が話してくれない?」
「ぬしらと比べたら、他愛のない話よ。わしのくそ親父が朧に殺されたってだけじゃ。」
将造は、実の父親が殺された事実をさも陽気に話した。
「貴方の父親っていうと、西日本極道連盟の会長ね。そうか、暗殺に朧が絡んでいたのか。貴方も朧に大切な人を奪われたのね…」
「なぁに、極道は畳の上で死ぬことのほうが恥ずかしいワイ。…じゃがな」
将造の表情が、再度笑いながら殺気を帯びる。
「わしらの世界には、ケジメっちゅう言葉があるでよぉ。倉脇と朧には、わしがキッチリと落とし前つけさせたる。無論、わしの日本(シマ)を無茶苦茶にしたブラックのアホは、特に念入りにな。」
「じゃあ岩鬼組と対魔忍の同盟は…」
アサギの言葉が終わる前に不敵な笑みを浮かべた将造が、右腕を差し出した。
「ああ、異存なしじゃ!!」
アサギもそんな将造に微笑み返し、右腕を出した。
「じゃあ改めて、これからよろしくお願いするわ。」
ガシッ!
将造とアサギの硬い握手が交わされた。
その様子を見た他の五人は、深い安心の溜め息をついた。
「はぁ~まったく、寿命が縮んだよ。」
「一時はどうなるかと思ったぜ。なぁ、拓三?」
「ああ、三太郎。戦場でもこんなに緊張したこた無かったぜ。」
「まぁ兎に角、良かった♪良かった♪ねぇムッちゃん?」
「そうだな…下手をしたら、病室が血に染まっていたがな。」
再び病室内の雰囲気が、和やかになりはじめた。そんな中、将造が何気なくアサギに質問する。
「なぁ井河の。もし、わしが同盟を断っていたら、どうしたんじゃ?」
「貴方の左腕と右足は、アンドロイドアームと同じく、定期的にメンテナンスをしなければすぐに動かなくなるわ。かなりの高性能の物を用意したから、そこらの施設じゃ解体も出来ない。」
薄く微笑むアサギに将造も不敵な笑みで応える。
「流石じゃ。わしの同盟相手は、只の正義の味方の善人には、務まらんからのぉ!おお、そうじゃ!早速、同盟相手の対魔忍にお願いしたいことがあるんじゃ!」
「貴様、同盟を組んだ後で条件を付きつけるとは…」
紫が、将造を睨む。
「なぁに、約束といっても軽い二つのことじゃ。まず一つ目、アホのブラックを含めたノマドの奴等を皆殺しにする直前に金を貸して欲しい!」
「何?暗殺の報酬ってこと?」
将造がニヤリと笑う。
「ノマド株券は、株価がほぼ下がらん超優良株じゃ。しかし、わしらがブラックや幹部連中を皆殺しにすれば、もうノマドはガタガタになる。金にがめつい裏の連中は、それに気付いて必ず株券を売りに出す。そうなれば、ノマドの株価は、天文学的に値崩れを起こすはずじゃわい。」
アサギは、将造の考えを察して額に指を当て溜め息をつく。
「呆れた…株の空売りで金儲けする気なのね。インサイダー取引きの極致だわ。まぁ、金銭面の関係は、山本部長に頼んでおく。また、頭を抱えることになりそうだけど。二つ目はなに?」
「二つ目は…何かえろい忍法を操る女忍者をわしらに紹介してくれ!!」
「「「は?!」」」
「よくあるじゃろうが、えろい女忍者が敵を籠絡するために、自慰が死ぬまで止まらなくなる忍法や男の精を搾り取る忍法を掛けるやつが!」
アサギ達の将造を見る目が、段々とジト目になる。
「将造ォォッッ!!!!あんた、婚約者が隣にいるっていうのになんていうこと言うんだいッ!!」
バシィッ!!!
「ドワォ?!」
なよ子は、般若のような顔になり、将造を壁まで張り飛ばした。
「怪我人になにするんじゃ、なよ子!男は、エロい女忍者にエロい忍法をかけてもらうのが夢なんじゃ!なぁ、三太郎!」
「えっ?!そっそうすね!」
いきなり話をふられた三太郎は、吃りながらも了承する。
「拓三くんもそうなの?」
さくらが、他の二人と同じくジト目で拓三を見る。
「あ、いや…まぁ…そうかも…」
拓三もタジタジだが、本音を語った。
アサギは、そんな三人を氷のような冷たい微笑みを浮かべながら、机の上に置いてあるメモ帳に地図を書き始めた。
「わかったわ。五車の里で一番の房中術の使い手を紹介する。どうする?今から行く?私からそこに連絡しておくわ。」
「ウォォォォ!!話がわかるのう!井河のぉ!これで忍者と極道連盟は、幸先がいい始まりを迎えたわい!わしのことは、これから将造と呼び捨てで構わんぜ!」
「ありがと。将造…」
氷の微笑を浮かべたまま素っ気ない返事をしたアサギは、書いた地図を将造に渡した。
「ここは普通のお店だけと、遠慮せず中に入って声をかけてちょうだい。術の使い手の女主人が座って待ってるから。」
「ヨッシャ!三太郎、拓三!突撃じゃ!」
「「わかりました、若!」」
地図を受け取った将造達は、怪我人にも関わらず、凄い速さで病室を出て行った。
「ちょっとあんた達!アサギさん!困るんだけど!」
なよ子はプリプリ怒りながら、アサギに抗議する。
「アサギ様、誰を紹介したのですか?葛黒百合ですか?」
葛黒百合とは、異性同性関わらず強制的に発情させてしまう淫遁の術を操るベテランの対魔忍である。
紫の質問にゆっくりと首を横に振ったアサギは、なよ子に向き合う。
「安心して下さい、山鬼さん。将造さん達が向かったところは…」
病院を出て十分後、太陽が昇りかける早朝の中、地図の目的地である『稲毛屋』と看板が出ている駄菓子屋に着いた将造は、勢いよく店に入った。
「井河アサギの紹介で来たもんじゃ…が…?!」
将造達の目の前に座っていたのは、年齢が将造の何十年上と思われる高齢の女性であった。
「も、もしかして、ば、婆さんがここの女主人で里一番の房中術の使い手か?」
三太郎が、震える声で声を掛けると婆さんは、ゆっくりと頷いた。
「…………じゃわい」
婆さんを見た将造は、うつむきぶつぶつと呟き始めた。
「「わ、若?」」
三太郎と拓三は、将造が怒り狂って、左腕の銃を乱射するのではないかと心配する。
しかし、
「わあ~はっはっはっ!一本取られたわい。わしらの同盟相手はこうじゃなくちゃ面白くないぜ!婆さん!この店でオススメの食いもんを幾つかくれや!」
その後、五車学園に戻ったアサギ達は、稲毛屋の前を通り登校する生徒達と将造を監視している連絡係から、報告を受ける。それは『稲毛屋でソフトクリームや煎餅、アイスを満面の笑みで食べている変なヤクザがいる』や『岩鬼将造は、部下の金で駄菓子を大量に買いしめ、背の低い髪の長い男子生徒が、泣きそうな顔でその様子を見ている』といった内容だった。
徹夜で疲れた顔をしたアサギは、校長室で将造達の報告をまとめながら、心の中で溜め息をつく。
(はぁ~将造達がこの里に受け入れられるのは、時間がかかりそうね。けれど…)
アサギの表情が、覚悟を決めた鋭いものに変わる。
(将造は、私達対魔忍の為に必要な存在だわ。今度こそ、あらゆる手を使ってもお前を倒す!待っていなさい…ブラック!)
今回は会話だけですが、次はしっかりと大暴れシーンを書きます。
七月に岩鬼将造が表紙の真ん中にいる、石川賢マンガ大全が発売されますね。これを機に石川賢先生の作品が、再版されますように。極道兵器とか虚無戦記、プレミア付き過ぎですよ…