父親視点です。
ダイワスカーレット(7歳 ツインテールは少し伸びた)の誕生日から季節が一つ変わる頃だった。
朝起きて、ご飯を食べてから弟のベビーベッドの前に陣取り、寝顔を観察していたダイワスカーレット(7歳)だったが、寝顔を見ているうちにいつの間にか自分も寝てしまっていた。
そこへ父親がやってきた。
父親は、娘がウマキュアの時間になってもやってこないのを不審に思い呼びにきたのだ。父親はちゃんと、娘がウマキュアの時間を寝過ごしたときのことを覚えていた。「なんで起こしてくれないの! パパ! しっかりしてよね!」と言われている。
ちなみに「なんで一緒に見ないの!」や「なんで起きてこないの!」バージョンもある。そういう時、パパは疲れているので寝かせて欲しい。
その時は寝姿が可愛かったので起こさなかったのだ。それで怒られてしまい、プリプリ怒る娘の姿に思わず頬を緩ませていたら更に怒られてしまった。可愛いが、あまり娘からの信頼を損ねるのは避けたい。いつも尊敬できる父親でいたいのだ。(このことを妻に伝えたところ、笑いながら“諦めたまえ“と告げられている)
それで娘を探して呼びに来たのだが、起こす直前になって躊躇いが生じた。邪念。寝姿が可愛かったのである。
とはいえ起こさない訳にもいかないし、さりとて起こすのも勿体無い。同じ歴史の過ちを繰り返すか悩んだ末に、父親はとりあえず一緒に寝てる二人の写真を撮ってから起こすことにした。子供の寝顔を盗撮するのは世の父親の慣いである。
結局、起こしたのは2階の研究室から降りてきた妻に「起こさないなら毛布でもかけてあげたらどうだい」と言われてからだった。
そして起こされるのが遅れたダイワスカーレット(7歳)はウマキュア(2期 マックスダート)のオープニングを見逃すこととなり、父親は娘から怒られるのだった。もー! パパったらしっかりしてよね!
怒る娘を宥めすかして一緒にウマキュアを視聴した後だ。
いつものように視聴後の感想を娘から聞いて、それがひと段落ついたタイミングで父親がわざとらしく話を切り出した。今日は娘にちょっとした用件があったのだ。ちなみにダイワスカーレット(7歳)は横に座っている。集中してる時に抱っこすると嫌がるためだ。
「あっそうだ(唐突)、スカーレットはレースに興味あるかな?」
「レース? レースなら小学校でやったことあるわ。あのね、わたしいつも1番なんだからね」
「勿論パパも知ってるよ可愛いスカーレット。でもパパの言うレースはこっち」
父親はそう言うと一枚のチラシを取り出した。
チラシには“〇〇市レース開催のお知らせ“と書かれている。どうやら市が開催する草レースで、小学生のウマ娘を集めた部門があるらしい。今まで学校の友達としか走ったことのないスカーレットにとって、全く知らないウマ娘とレースするのは初めての経験になる。
これはウマ娘を子供に持つ家庭にとってはありがちな、公園デビューの次に来るデビュー戦。レースデビューであった。勿論、幼稚園でも小学校でも走っているがそれとは別である。
「……」
ダイワスカーレット(7歳)はチラシを見つめたまま固まっている。
食いついてくるかな、と予想した父親の目論見は外れた形だ。妻と結託してレースへ出る方向に持ってこうとしていたのだが、出鼻を挫かれてしまった。
すると突然ダイワスカーレット(7歳)が弾かれるように動き出した。速い。あと振り向くときに尻尾が顔に当たったので痛い。行き先は何やらむずかしそうな本を読んでいる母親の下だ。うちの娘はママっ子だなあ、と父親は思った。
娘の接近に気づいたアグネスタキオンは椅子から降りて中腰になろうとした。そこにダイワスカーレット(7歳 ミサイルです)が直撃する。ちょうど位置的に娘の頭部が母親の腹部と一致するタイミングだったので人身事故が発生した。光速の貴公子は不運と踊った。ドムっという音と思わず呻いた妻の様子を見て、アレは痛いと父親は悟った。
ダイワスカーレット(7歳)は短い手を母親の後ろに回してギュッとしたあと、拳一個分だけ離れてひったくったチラシを見せた。ぶんぶんと振っている。これでは見えないよ、とアグネスタキオン。
「ママ! これ見て! レースだって!」
「そうだねえ、これはレースだ。スカーレットは出るのかな?」
「どうしよっかな〜、どうしよっかな〜。ママはスカーレットがレースに出たらうれしい?」微笑ましい思わせぶりだった。
母親の前では時折一人称が“スカーレット“になる癖がある。弟が生まれた時から「わたし」になった。ダイワスカーレットはお姉さんだからだ。
「勿論嬉しいよスカーレット。ママはスカーレットの走ってるところが見たいなあ」
「ほんと!? じゃあ見せてあげる! それとね、1番をママにプレゼントしてあげる!」
「えー! 本当かいスカーレット! ママは嬉しくて泣いてしまいそうだよ」
「えへへ。きたいしててね。絶対1番になるんだから!」
「じゃあパパに出走登録してもらおうか」
「うん!」
母親の所から戻ってきた娘が膝の上に乗って来た。どうやら今朝のことは許してくれたらしい。
計画は成功だ。父親は娘に隠れて妻にサムズアップする。
「はい、パパこれ。ちゃんと“しゅっそうとうろく“しておいてね。忘れたらゆるさないんだから」
すまし顔で言ってきたがソワソワしているらしく、耳が忙しなく動いて父親の顔にペチペチと当たっていた。父親はだらしなく顔を緩ませていた。うちの娘可愛すぎんか。あとツンデレはまだ早くないか。父親的には、まだデレデレしていて欲しい。
とにかく、こうしてダイワスカーレット(7歳)はレースデビューすることになるのだった。
「そういえばキミ、聞いているかどうか知らないがこのレースにはビワハヤヒデ君のとこの娘も出走するらしいよ」
「え!?」
次回の構想
「始まりました「ちびっこダービー」東京芝600m。本日は良バ場の発表となりました」
「良い天気ですね。みんな気合い十分、良好な走りが期待できそうですよ」
「各バゲートイン……おや? どうやらゲートで泣き出した子がいますね。狭いですからね、怖かったのでしょうか。釣られて他の子も泣き出しました。無事スタートできるか怪しくなってきましたよ」
「ここで観客席から保護者たちが一斉にスタート。ゲートへと向かっていきます」
「これも御馴染みの光景ですね。おおっと……ここで誰かがゲート前へ。保護者ではなさそうですがどなたでしょうか」
「アグネスデジタル記者ですね。好調な出だしで無駄なく子供達の泣顔を撮っていきます」
「子供達にとっては泣きっ面に蜂のような感じでしょうか」