新世代アグネスママオン   作:かなわ

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あかん、長くなりそう……


外典ダイワスカーレット 中

3

 

 

 

 

 

 

「納得できません!!」

 

 まだHRすら始まっていない時間だというのにダイワスカーレットは激していた。日直の業務すらまだ手をつけていない。

 場所は生徒会室で相手はエアグルーヴだけだ。

 アグネスタキオン退学の件を本人から聞いたダイワスカーレットは撤回を求めてエアグルーヴに食ってかかっていた。シンボリルドルフは所用で席を外していたため今はいない。

 

 

「落ち着けスカーレット。お前の気持ちは理解するが、もう納得するしないの段階ではない」

「……じゃあこのまま黙ってろって言うんですか! そもそも、こうなる前に生徒会の皆さんがもっとーー」

「終わった話だと言っているっ!! ……はあ、いつもの冷静なお前はどうした。やけにらしくないな」

「っすいません。でもアタシ、どうしても納得できなくて……、何か方法はないんですか!?」

 

 

 ダイワスカーレットは退学に至る理由も経緯も全て知った。

 アグネスタキオンは彼女に対し、普段の飄々とした態度とは真逆に一切の誤魔化しなく事実を伝えていた。その態度が逆に手切を求めているように感じさせた。

 尊敬するアグネスタキオン先輩が意外とやんちゃしてたことには驚いたが、だからと言って退学はやりすぎではないか。確かに、ちょっとはっちゃけすぎじゃないかと思った部分もあったが……、いや退学は絶対にやり過ぎだ。ダイワスカーレットはそう思っている。

 そう思ったからこそ食堂を飛び出しここまでやってきたのだ。

 勿論食事は全て食べ、きれいに片付けた。尊敬する先輩の前で優等生の仮面を脱いだりはしない。

 

 

 

「我々だって手をこまねいたわけではない。教員会にも理事会にも何度も足を運んだ。だが、授業もろくに受けずトレーニングもせずスカウトも受けずレースにも出ない。やっているのは怪しげな研究と迷惑行為のみ。蜘蛛の糸であった選抜レースへの出場も、本人が時間の無駄と切り捨てたッ。この意味が分かるかスカーレット。終わったというのはそう言うことだ。もう学園に、彼女の居場所はない。奴自身がそうしたッ!!」

「ッ……」

 

 

 

 私にも何かできることがあるはずだ。そう思ってやってきたのに、帰ってきたのは無情な現実。

 エアグルーヴは突然やってきたダイワスカーレットに対し、突っぱねるでもなく落ち着いてを聞いていた。だが、事情も知らず、生徒会側の努力を無碍にするような言い方をし始めたことは流石に看破できなかった。

 だが、基本的にエアグルーヴは優しく諭すような口調だった。ダイワスカーレットはその分自分が余計に惨めに思えた。

 

 

 エアグルーヴは続ける。

「そもそもなぜお前はアグネスタキオンにこだわる」

「それは……」

「私は言ったな。経緯はあれど、この退学はあいつ自身が選んだことだと。だったらそれを尊重することも一つの選択肢だ。なのにお前は何故そこまで退学を拒む」

「退学は、やりすぎだからです……」

「理由はそれだけか? 私はどうやら貴様を買い被りすぎていた様だな。貴様がどのくらい奴と話したかは知らんが、少なくとも私と会長はそれ以上に奴と対話を試み意思確認を行なってきた。少しの間違いがあってはいけないのも勿論だが、心に秘めた想いがあるならそれを汲み取るのも生徒会の“使命“だからだ。それを踏まえて言おう。奴はこの学園以外でも活躍できる。居場所が絶対にここである必要はない。分かったか?」

 

 

 ダイワスカーレットはエアグルーヴに反論する術を持たなかった。

 確かに、何故ここまで自分はこだわるのか。エアグルーヴ先輩の言ってることは何一つ間違ってない。今日話を聞いただけの自分とは違って、もっと以前から何とかしようと動いてた。それと比べたら自分の理由なんてただの我儘でしかない。

 

 

 

 ダイワスカーレットは急に羞恥を覚えた。

 冷静になって考えてみれば、自分は今日たまたま本人から直接話を聞いて、何故かいてもたってもいられなくなったからこうしているだけ。これがもし退学してしまった後だったらどうだろうか。確かに残念がるかもしれないが、何日かちょっと落ち込んだら、どうせそのうち気にしなくなっていたに違いない。

 そう思うとますます自分が幼稚であったかがわかる。

 一時の感情に振り回されて、いつも皆んなのために動いてくれているエアグルーヴ先輩の貴重な時間を奪ってまで私は何がしたかったのか。

 

 

「(もういいや。疲れた。何無駄なことやってたんだろ。周りのこと何にも考えないで一人で盛り上がって、アホみたい。……でもーー)」

 

 

 アタシが間違ってました、すいません。それで終わらせようと考えた。

 そう思ったはずなのに。

 冷静な部分は間違いなくそうすることが正しいと告げているというのに、どうして自分は未だここで燻っているのか。どうしてまだ反論を続けようとしているのか。どうして自分の口は言うことを聞かないのか。

 そんなの決まってるじゃない。

 

 

 納得できない何かがあんのよ! 

 ダイワスカーレットは気性難の自分が叫ぶのを自覚した。エゴは正論に叩かれた分だけ強く燃え上がった。

 この行いに意味があるのか? 

 そんなことは知ったことじゃない。余計なことは後で考える。今はただ突っ走りなさい、ダイワスカーレット!

 

 

 燃えたぎる熱情のまま、ダイワスカーレットが口を開こうとしたその時だった。

「だったらーー」

「やあ、おはよう二人とも。今日もいい天気だね」

「会長!? おはようございます」「おはようございます会長」

 

 

 

 予期せぬ存在の登場により、燃え上がり、暴走しかけていた思考は急速に冷静さを取り戻した。

 危ない危ない。いったい自分は今何をしようとしていたのか。

 

 

 

「話に水をさしてすまない。だが、君達の声が扉の向こうまで聞こえていたものでね。周りの生徒達が怯えていたよ、エアグルーヴ」

「失礼しました。少々盛り上がってしまっていた様です」

「分かってくれて助かるよ。それで、君はダイワスカーレットだったな」

「あ、はい! すいません。私が先に怒鳴っちゃって……、先輩は悪くないんです……」

「誰が悪いと言うわけでもないさ。だが声は落としたまえ。この話の内容は誰が聞いてもいいと言う訳ではない」

「すいません……」

 

 

 冷静さを取り戻すとともに優等生の仮面が戻ってきた。

 ダイワスカーレットは深く反省した。私情にかられてエアグルーヴに迷惑をかけたことを。それから、あのまま大声で話を続け、変な噂が立って困るのはアグネスタキオン先輩だということを理解した。

 

 

「さて、君たちの話の内容は理解しているつもりだ。ダイワスカーレット、君はアグネスタキオンの退学を阻止したいのだったな」

「はい。その通りです」

「状況はどこまで理解している?」

「もうどうにも出来ないと言うことまで……」

「そうか……。理解したなら、諦めるか?」

「会長!?」

 

 

 エアグルーヴはシンボリルドルフの発言の意図を察した。同時に怒りが込み上げてきた。アグネスタキオンへの怒りだ。

 この後に及んでまだ助けようと言うのか。あなたは彼女のためにどれほど身をすり減らすのですか。どれだけ心を痛めれば気が済むのですか。

 それを知るが故の怒りだ。

 

 

「ッ! 諦めません!!」

「そう言うと思った。実はまだ手があってだなーー」

「いけません会長! この件はもう終わったはずです!」

 

 

 エアグルーヴは止めようとした。この優しい人がこれ以上思い悩まずに済むために。相手を思いやるが故に。

 

 

「ありがとうエアグルーヴ。だが、私の目標はなんだったかな」

「全てのウマ娘が、幸せになることです……」

「そうだ。まだ打つ手があるのにここで我々が諦めてしまっては彼女が、ダイワスカーレットが不幸になってしまう。きっとアグネスタキオンも。そう思わないか」

「……あなたは、優しすぎる」

「どうだろう。でも、君ほどではないと思うよ」

 

 

 

 シンボリルドルフはダイワスカーレットに向き直った。

「それでだ。我々にできず、もしかしたら君にならできることがある」

「なんでしょうか」

「ようはこの問題はアグネスタキオンがやる気を見せれば解決するんだ。だが今更口だけでやる気がありますと言っても何も変わらない。何かで示す必要がある。選抜レースはその一つだった。だがそれは果たされなかった。その代わりにだ」

「はい」

「彼女に専属トレーナーがつけばいい。チームではダメだ」

「!」

「期限は今日の18時までに申請用紙を提出。理事会の決定だ。超えることは許されない。できるか?」

 

 

 エアグルーヴはシンボリルドルフの発言に違和感を覚えた。今日のだと?

 

 専属トレーナーがつく。それがどれだけ困難な壁であるか。ダイワスカーレットはトレセン学園に通うものとして重々理解していた。この学園内に、専属トレーナーがいないものが一体どれほどいることか。あのトウカイテイオーですらチームに所属しているのだ。専属トレーナーなど、知っている限りではマルゼンスキーに目の前のシンボリルドルフとエアグルーヴ。それから数えるほどしかいなかったはずだ。2000人を超える生徒に対してその割合はほとんど絶望的とも言っていい。

 

 だがダイワスカーレットには当てがあった。夢の中で父親だった男だ。トレセン学園でアグネスタキオンの専属トレーナーだったと言っていた。なら勝機はある!

 

 

 

「出来ます!!」

 ダイワスカーレットは自信を持ってそう答えた。自分が見た夢に意味があるなら、ここしか無い。

 

 

 

「そうか……。ならこの件は君に任せた。提出先ついてはまた連絡する。ああそうだ、探しに行く前にアグネスタキオンにきちんと意思確認をしたほうがいい。見つけられても本人が拒んだらそれで終わりだからね」

「はい! ありがとうございます!」

「よし。では早速始めようじゃないか」

「はい! ……エアグルーヴ先輩、あの、失礼なこと言ってすいませんでした」

「……いや。こちらこそ言いすぎた。済まなかったな」

 

 

 

 ダイワスカーレットは全身に力が漲るのを感じた。道は示された。あとは突っ走るのみ。

 ダイワスカーレットが扉の前で一礼して部屋を去って行ったあと、生徒会室にはシンボリルドルフとエアグルーヴが残された。

 

 

 

「会長。あなたは何がしたいのですか。希望を持たせたと思いきや、専属トレーナーを見つけるのがどれほど困難なことか分からないあなたではないはずだ。私には諦めさせようとしているとしか思えません」

「……そうだな、確かに困難だ。だが、もし見つかったとしたらそれが運命だと思わないか?」

「……」

「あの娘の目を見て私は運命を信じてみたくなったのだよ。君と私が、それぞれのトレーナーと出会った時のように」

 

 

 

 そこまで心を決めているのなら、とエアグルーヴは何も言わなかった。

 運命なんてものがあるのなら、食い破って進むのが女帝だと決めていた。

 初耳ではあるが。会長が言うには今日の18時で全てが決まる。終わるも続くも、全ては結果のみが語ることだ。

 

 

 

「さて、帰ってきて早々だがまた席を外す。あとを頼む」

「どちらへ?」

「理事会だ。さっきまでアグネスタキオンの件で呼ばれていてな。18時と言ったことを本当のことにしなくてはならなくなった。今から行って頭を下げればまだ間に合うだろう」

 

 本気で覆すのなら、先ず理事会から説得しなければならない。それ故の発言だった。

 

「ハッタリだったのですか!?」

「いやー、ドキドキしたよ。では行ってくる」

 

 理事会室に行こうとするエアグルーヴは反射的に呼び止めていた。

 こちらの我儘で過ぎた期限を延命しに行くのだ。ならば、下げる頭は多い方がいい。

 

 

 

「待ってください……、私も行きます。あなたを一人にはしません」

「やはり君は優しいよ。エアグルーヴ」

 

 

 

 

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廊下にて

 

 

 

 

 

 

「心に秘めた想いがあるならそれを汲み取るのが生徒会の“使命“か……」

「会長?」

「ままならないものだな。汲み取れたとしても、動かせるかどうかは別なのだから」

「……だとしても我々のやることは変わりません。歩みを止めれば汲み取ることさえできなくなる」

「君はいつだって正しいな。そうだ、我々は我々で()()を尽くし続けよう。常に()()線で」

「………………」

 

 

 

 唐突すぎて一瞬理解が遅れた。今そんな雰囲気じゃなかっただろ。

 エアグルーヴはほんの直前までの真剣な空気が恋しくなった。

 苦虫を噛み潰したような顔という言葉がある。エアグルーヴは、虫は苦手だし食べるなど悍ましいが苦味だけなら今は余裕で耐えられそうだと、考えていた。

 そんなエアグルーヴの気持ちを知ってか知らずか、シンボリルドルフはむしろ気遣うような視線を向けていた。

 その瞳があまりにも澄んでいたのでエアグルーヴは腹がたった。

 

 

「………………」

「エアグルーヴ? ああすまない、分かりにくかったかな。今のはーー」

 

 

 

 真面目な雰囲気から一転。エアグルーヴにはクソつまらないギャグ(ギャグですらない)の解説を聞かされるという拷問が執行されていた。敬愛している相手だからこそなお辛い。朝から頑張っていたのに哀れなことこの上なかった。お労しやエアグルーヴ上。

 

 

ーーあ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ブライアン貴様一人だけなぜ居らんクソ私は負けんぞこの程度で今さら私の忠誠が揺らぐと思ったかクソがマジでつまらんだがそんな会長が私は大好きだあ“あ“あ“あ“。ーー

 

 

 理事会の扉は目の前だ! いけるか? 大丈夫か? 頑張れエアグルーヴ! 女帝の道は険しいぞ!




アグネスママオン ダイワスカーレット編の冒頭でダイワスカーレット(6歳)がアグネスタキオンの昔の写真を見つけるシーンがありますが、最初の構想ではエアグルーヴの写真でした。
何故なら彼女もまた非常に高い母親力を秘めているからです。
て言うか女帝ってどう考えて良妻賢母でしょ。
この世全てのママたるスーパークリークとはまた異なった地に足のついた感じがいいですね。


子「父さーん。見てこれほら母さんめっちゃ若くない? これ学生?の時だよね? ていうかこの時から化粧濃かったんだwwwウケるwww」
父「お、こりゃまた懐かしいな。お父さんこの頃の母さんにめっちゃしばかれてたんだよ」
子「ヤバwwwウチと同レベじゃんwww」
父「お揃いだなー」
女帝「貴様ら、掃除くらい真面目にやらんか……!」


そうだったら子供の性格は母親の母親、すなわち祖母よりかなと考えてました。
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