新世代アグネスママオン   作:かなわ

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上中下で終わらせるつもりだったのですが、長くなったので分割しました。


外典ダイワスカーレット 中ー2 ウオッカの思いやり

ダイワスカーレットは二つの理由から焦っていた。

 一つは日直の業務が何も終わってないこと。

 トレセン学園は学生の自主性を重んじるとともに、責任感やリーダーシップの教育にも力を入れている。その一環として日直にはそれなりの業務量が与えられていた。

 そのため今朝、ダイワスカーレットは各教科の担当教員の下に行って移動教室の有無や教務範囲の確認、クラス担任からの連絡事項の確認などを行う必要があった。クラス毎に割り振られたポストを確認し、学園からの配布物や連絡を受け取るのもこのタイミングだ。

 これらは中等部における日直の業務で、HRの際にクラス全員へ伝達及び受け渡しをしなければいけない内容である。

 日直の業務をサボったら自分以外が困る。

 普段通りの日であれば何も問題はなかった。しかし、今朝は事情が違う。生徒会室に時間を費やしてしまった。それに二つ目の理由の存在がある。

 

 

 

 ダイワスカーレットが焦る二つ目の理由。アグネスタキオンが見つからないのだ。

 生徒会室を出たダイワスカーレットは最初にアグネタキオンの下に行こうとした。その時点では日直の業務はまだ時間的に余裕があったし、何よりアグネスタキオンの居場所が割れていた。まだ食堂にいるはずだ、と。

 しかし予想に反してアグネスタキオンは既にいなかった。

 ダイワスカーレットは普段アグネスタキオンがどこに居るのか知らない。だからこそ早めに解決しようとしたのだが、間に合わなかった。

念のため高等部のクラスを覗いてみたが案の定居ない。居そうな場所である理科室には鍵がかかっていた。ノックし、声をかけてみても反応がないことから不在である可能性は高い。理科室でないなら一体どこだ。

 ダイワスカーレットは、今さらながら自分がタキオン先輩のことをあまり知らないのだと気づいた。与えられることばかりに目が向いていた。今後は改めよう。

 

 

 方々を探したが見つからない。結局、また食堂の前に戻ってきてしまった。

 探せば探すほど日直の業務がさし迫ってくる。

 ダイワスカーレットは、捜索を一旦中断し日直業務をしようと思った。

 まだ休み時間もある。期限も今日の18時までで、余裕がないわけではない。

 だが、廊下の向こうにマンハッタンカフェを見つけたことで、ダイワスカーレットはもう一踏ん張りすることを決めた。

 マンハッタンカフェはアグネスタキオンの友人(とダイワスカーレットは思っている)だ。彼女ならタキオン先輩の居場所を知っているかもしれない。

 マンハッタンカフェは一方向を向いて微動だにしていない。今がチャンス。

 

 

「すいません! カフェ先輩!」

 ダイワスカーレットは駆け寄った。

 

「カフェ先輩、タキオン先輩を見ませんでしたか!?」

 マンハッタンカフェはこちらを見向きもしない。

 あまりにも表情に変化がないものだったので、聞こえてないのでは? と怪しんだ。

 怪訝な顔をするダイワスカーレットを尻目に、マンハッタンカフェはゆっくりと腕をあげ、目線の方向を指さした。

 

「あの人なら……、第二グラウンド……、です……」

 なるほど、グラウンド。それは盲点だった。

 

「第2グラウンドですね、ありがとうございます!」

 ダイワスカーレットは頭を下げてお礼を言うと、明らかに小走り以上のスピードで駆けて行った。

 

 

 

 食堂の前ということもあって、人通りも多い。走り去っていくダイワスカーレットの姿を幾人かのウマ娘が見ていた。

 彼女たちは先程のダイワスカーレットの姿をひそひそと噂していた。

 

 

 

「さっきの娘なんだったんだろうね。一人で喋ったりペコペコしたり」

「さあ、よくいる不思議ちゃんじゃない? ちょっとアホっぽかったし」

「ああ〜、ぽいわ、確かに。あのティアラとかヤバくなかった?」

「わかる〜」

 

 

 そこに近づく人影、ウオッカだ。

 やや遠くからダイワスカーレットを見かけた彼女は、今朝のことを心配して気にかけていたのだ。一声かけようと思って近づいたらどこかへ行ってしまった。

 そこへ口さがのない連中の発言が耳に入ってきたのだ。言っているのは恐らく先輩。だが、ウオッカは、それを無視できるような性格ではない。

 アイツが言っていた。あのティアラは海外に行ってなかなか会えない母親からの贈り物で大切な宝物だと。どれだけ大事にしているかも知っている。

 

 

 ウオッカは、レースで勝負を仕掛けるときのような威圧感を敢えて出しつつ声をかけた。

 

 

「すいません。今あいつのことバカにしてましたよね。あいつ俺のダチなんすわ。バカにすんの止めてもらっていっすか?」

 

 

 ウオッカの威圧感に対応するように、相手のウマ娘も攻撃的になる。

 

 

「は? 急に何アンタ? 喧嘩売ってるわけ?」

「別に売ってねっすけど、そっちが売るんなら買いますよ」

「へえ__つかアンタ後輩でしょ? 先輩にそんな口の利き方していいと思ってんのかよ、なあ」

「よくわかんねっすけど、先輩後輩とか、今関係なくねッスか」

 

 

 サツバツ!

 仮にも女子校であるトレセン学園は、一瞬にして壮絶なイクサの開始点に変貌を遂げようとしていた!

 

 

 ウオッカは年若くとも背が高く、体格も良い。

 それ故に凄めば大抵の相手は退くのだが、相手も幾千のトレーニングを乗り越えレースでその身を削ってきた猛者である。体育会系らしく気が強い。先輩らしきウマ娘は見るからに鍛えられたウオッカに対し一歩も引かない。両者はともに手をフリーにした。一種の威嚇だ。これからお前を殺すという意思表示。

 

 

 このトレセン学園において喧嘩は原因に関わらず関係者全員が厳罰を持って処罰される。尋常ならざるパワーを秘めたウマ娘同士が争えば一体どんな被害が発生するか容易に想像つくからだ。トレーナー試験の一つに逮捕術の項目が含まれているのはそのためである。

 その場の空気が緊張を孕んだものへと遷移する。事故が起きようとしている。

 気の弱い者達は異変を察知してすでに避難を開始していた。そのため周囲には即席のバトルフィールドが出来上がる。

 

 

「ちょっ、ちょっと止めようよ〜。喧嘩したらヤバいって〜、退学になっちゃうよお、レースも出れなくなるよお〜、ねえ〜!」

 

 

 そこに待ったをかけたのは向こうの連れだ。あちらはここでトラブルを起こすことの危険性を理解していた。

 友人の鶴の一声が効いたのか、睨み合いの末、先に引いたのは先輩のウマ娘だった。

 

 

「……チッ、アンタの面覚えたからね」

 

 

 決断すれば行動は速い。先輩のウマ娘は速やかに去っていった。

 だが、最後まで油断はしない。

 彼女達の姿が完全に消えたのを確認して、ウオッカは短く息を吐いた。

 あの先輩、かなり“出来る“感じだ。熱くなっていたが目だけは冷たく落ち着いていた。喧嘩になればウオッカはタダでは済まなかっただろう。

 トレセン学園には稀にいるのだ、あんな手合いが、レースがなかったら暴れて犯罪でも犯してそうな奴が。

 まあ、同居人への悪口を止めるという目的は達成したことだし、良しとするか。

 それにしても。

 

 

「何やってんだよスカーレット……」

 

 

 あの先輩達の言うことにも一理ある。

 虚空に向かって意味不明な一人芝居をしていたのはダイワスカーレットだ。

 ウオッカは今朝から様子のおかしいライバルを心配するのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 マンハッタンカフェが言っていたように、アグネスタキオンは第2グラウンドに居た。

 芝の上で、何やら計測器らしき物を弄っている。

 

 

「タキオン先輩!」

 ある程度距離が詰まったところで声を上げるダイワスカーレット。

 アグネスタキオンは作業の手を一時止めて声の方向を見やる。

 

 

「おやスカーレット君じゃないか。こんな所で会うとは偶然……いや、実験に協力しにきたのかな!? クックック、なんと素晴らしい!!」

「違います!」

「あれー!?」

 

 なんだよ違うのかい、と残念そうに呟くアグネスタキオン。

 今まで見たことの無かった反応に、また一つアグネスタキオンのことを知れた気がした。

 

 

「先輩に聞きたいことがあって来たんです」

「聞きたいことね。実験の邪魔をしてまで何が知りたいんだい」

「学園を辞めるの、止めてください」

「……またその話か。意外と頑固だなキミは」

「会長から聞きました。先輩に専属トレーナーが付いたら退学は取り消されるって」

「ふぅン? もう期限は過ぎたと思っていたが、違うのか」

「今日の18時、それが本当のリミットだと仰っていました」

 

 

「で? 誰でもいいからトレーナーを見つけて充てがえと? 実験の邪魔だ、悪いがごめん蒙るよ」

「邪魔にならないトレーナーならどうなんですか」

「ン?」

「先輩にとって都合の良いトレーナーだったら契約してくれますか」

 

 

「……キミ、発言を理解した上で言っているのかい? 私の専属トレーナーになるということは、トレーニングもレースも碌に参加しないウマ娘の面倒を見た上で積極的に被験体になってもいいということだよ。実績を残さなければ淘汰される環境でトレーナーをやる人間がそんな狂ったことに手を出すかい? ましてや心当たりが有るとでも?」

「有ります。アタシは、先輩に見合ったトレーナーを必ず連れてきます。だから今日の放課後どこにいるのか教えてください。連れて来ますから」

「……クックック、アッハッハッハッハ!!」

 

 アグネスタキオンは心底おかしいといった様子で腹を抱えて笑い出した。

 

「キミも存外に狂った目の色をしているねえスカーレット君。そんな人物をわざわざ見つけ出して私に充てがうとは、どれほど無駄な労力を費やしたんだい!? しかも今日連れてくると!! アッハッハッハッハ!!」

 

 気分良く笑っていたかと思えば一転、急に落ち着いたアグネスタキオンは背を向け測定器の調整にかかり出した。

 これ以上話を続ける気は無いようだ。

 

 

「好きにしたまえ」

 突き放すような固い声音。

 

 

「連れてきたらその人と契約して下さい」

「それは私が決めることだ。せいぜいまともな人間を連れて来たまえよ。ああそれと、おそらくその時間私は生徒会室にいる。最後の手続きというやつだね」

 

 

 ダイワスカーレットは、すでに背を向けているアグネスタキオンに対して一礼すると全力で走り出した。言質は取った、居場所も割れた。とりあえずのやるべきことは終わったので、今からは全力で日直業務を遂行するのだ。

 ダイワスカーレットの足音が遠かった時点でアグネスタキオンは作業の手を止めた。

 止めたと言っても、ダイワスカーレットに背を向けた時点からほとんど意味のある動きをしていなかったので、実質的には何も変わっていなかった。

 はあ、前途有る後輩が、なぜ学園不適合な自分におせっかいを焼くのか。こんな無駄なことをするのなら自分のトレーニングに費やすべきだ。それをあの娘は……。

 

 測定器の調整が終わり実験に取り掛かったアグネスタキオンだったが、脳裏にはダイワスカーレットの狂熱的な視線が焼き付いていた。

 

 




ウオッカのくだりを書いてて思ったのが、ウマ娘を何も知らない人がこの文章を見たらトレセン学園が殺伐とした環境であると勘違いしまうのでは、ということです。

そんなことないよ!
友情あり、スポ根あり、女の子同士のウフフと温泉ありのパラダイスだよ!
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